-最終話-
ジュポ国政府がトビウオ型ゲカアウタレス生息海域警戒を再開してから2日後の3月4日火曜日、警戒に当たっていた湾岸警備隊の巡視船がソナーで何かを捉えた。反応は巡視船に高速で接近し、数は次第に増えていった。やがてその反応はトビウオ型ゲカアウタレスと判明した。トビウオ型の群れの進路上にはイツツシマ市があり、巡視船は直ぐ様本部に緊急連絡を入れた。情報を受けた湾岸警備隊、海軍、PMCや賞金稼ぎ達は急いで準備し、現場海域に向けて出発した。イツツシマ市沿岸に避難勧告が流れ、市内に緊張が走った。
トビウオ型と遭遇した巡視船は撤退を続けていたが、トビウオ型は船に追い付き、巡視船は包囲されつつあった。
-最終話~トビウオ型ゲカアウタレスとの決戦~
トビウオ型に狙われた巡視船を援護するため、カイとサオはフライトパワードアーマーで出撃し、現場に急行した。更なる改造を加えたカスタムフライトPAに搭乗していたカイはトビウオ型に包囲され、攻撃を受けている巡視船を確認し、戦闘に入った。
現場に駆けつけた湾岸警備隊、海軍、PMC等の混合部隊はトビウオ型の自爆に気を付けながら、地道に敵の数を減らしていくしかなかった。ゲカの爆発能力を抑制できるヒカ内蔵弾の限られた混合部隊にとって、現状は不利だった。
トビウオ型との全面対決が行われる中、海軍の対潜機が海中に巨大な反応を捉えた。その巨大な何かは海中から徐々に浮上し、やがて海面に巨大な影が映った。それは波を立てながら海面より姿を現した。非常に大きなトビウオ型ゲカアウタレスだった。
体長30メートル程ある巨大なトビウオ型は他の個体同様に空中へと飛行を開始した。サオは恐る恐る巨大トビウオ型の測定を始め、カイが彼女を先導した。測定の結果、体長約30m、体重約350t、飛行速度約250km/h、危険度5(軍事対応)、脅威度4(小隊規模)、濃度6(90%)と推測された。巨大トビウオ型ゲカアウタレスも体内に液化ガスを持ち、その容量は膨大だった。もし巨大トビウオ型が標準個体のように自爆すれば、周囲への被害は計り知れない。巨大トビウオ型に対し、下手に手を出せない混合部隊は為す術が無かった。それでも巨大トビウオ型は群れと共に、イツツシマ市方面に撤退する巡視船を追撃し続けた。
混合部隊のぎりぎりな戦闘が続く中、イツツシマ市にいた増援の護衛艦から通信が入った。対トビウオ型ゲカアウタレス爆発抑制剤が完成し、薬剤を内蔵したミサイルの積み込みが完了したのだ。危機的状況を打開できると多くの者が期待を寄せたが、護衛艦は出航できずにいた。海軍の動きを察知した市民団体がメディアの前で騒ぎ出し、政府はトビウオ型迎撃への増援を見送っていたのだ。
激戦の真っ只中にいる巡視船の速力は落ち、総員の退避も困難であった。良くなるどころか悪化の一途を辿る状況を目の当たりにし、巡視船は退避を諦め、味方に撤退するよう申し出た。彼等は味方の被害拡大を危惧したのだ。巡視船の通信を聞いていたカイは憤りで胸が張り裂けそうになる。
「あいつ等を見殺しにするつもりか!?上は何やってんだ!」
その頃増援が出撃できていない事を知った若手議員は、数人の仲間を連れて防衛大臣に詰め寄った。若手議員は大臣に増援の出撃許可をしつこく求めた。トビウオ型の迎撃作戦が失敗すれば少なくとも巡視船1隻が沈み、混合部隊に被害が出て、そして最悪イツツシマ市が危険に晒される事になる。そうなった場合の責任は誰が取るのか、若手議員は大臣に圧力を掛けた。すると大臣は他の議員達に連絡を取って意見を交換した。しばらくすると、防衛大臣はついに増援の出撃を許可した。若手議員の顔は希望で満ち溢れた。
増援部隊の出撃許可が下り、今か今かと待ち続けていた増援部隊は即座に最大速度で現場に向かった。彼等が積んだ対トビウオ型ゲカアウタレス爆発抑制剤内蔵ミサイルは既に発射体制に入っており、後は有効射程圏内に入るのを待つだけであった。増援部隊出撃の連絡を受けた現場の混合部隊は歓喜し、部隊の士気は一気に激変した。カイとサオは時間を稼ぐため陽動に徹し、部隊は奮闘した。
ついに増援部隊がミサイルの射程圏内に辿り着き、護衛艦が発射体制に入った。艦長の命令により、対トビウオ型ゲカアウタレス爆発抑制剤内蔵ミサイルが発射された。ミサイルは高度を上げ、トビウオ型の群れ上空で起爆した。起爆後、爆発抑制剤が辺り一面に降り注いだ。サオは大気中の濃度を量り、データを護衛艦に送った。護衛艦に乗艦していた研究員がデータを基に薬剤濃度を確認し、数値が期待値に達している事を伝えた。薬剤の効果を確かめるため、1隻の護衛艦がトビウオ型に対空ミサイルを発射した。ミサイルは1頭のトビウオ型に着弾し、爆発と共にトビウオ型の体はバラバラになった。爆発の際、トビウオ型特有の大爆発は起きなかった。爆発抑制剤の効果が効いている証拠だった。
効果を確認した混合部隊指揮官はトビウオ型の群れに対する一斉攻撃を部隊に命じた。混合部隊は一斉に攻撃体勢に入り、トビウオ型の群れと交戦状態に入った。カイとサオは巡視船を狙うトビウオ型を一掃し、巡視船は撤退に専念する事ができた。増援部隊も合流し、一部は巡視船の保護に回った。
形勢が逆転した戦闘の中、カイを後ろから援護していたサオは、カイのPAのフライトユニットから煙が出ている事に気が付いた。戦闘で何度か被弾しているせいだった。
「ここまでか・・・いっそあのデカイ奴にぶつけてやる。」
「・・・えっ?」
カイがこのまま機体もろとも自爆すると勘違いしたサオは、感情を思い切り吐き出す。
「・・・ふざけないでよ!何勝手に死のうとしているの・・・あなたがいない人生なんて・・・私はごめんだわ!」
珍しいサオの叫びを聞いたカイはしばらく黙り込み、そして彼は恐る恐るサオに説明する。
「・・・俺が自爆すると勘違いしているようだが・・・限界にきているフライトユニットだけを自爆させて、落下する俺をお前に引き上げてもらう予定だったんだがな・・・一応パラシュートは装備しているが、戦闘のど真ん中だし・・・」
自身が勘違いしている事に気付いたサオの顔は恥ずかしさで真っ赤になり、彼女は怒りと共に口を開く。
「・・・勝手に自爆しろ。」
「・・・はいよ。それじゃあこれよりあのデカイのに総攻撃を仕掛ける。後は任せたぜ、相棒。」
「・・・」
サオが黙っていても彼女を信頼しているカイはトビウオ型の群れを掻い潜り、巨大トビウオ型に一斉攻撃を仕掛け、近付いたところでPAのフライトユニットを機体から切り離した。カイはそのまま落下し、フライトユニットは巨大トビウオ型に直撃した。混合部隊の攻撃も続き、巨大トビウオ型は袋叩きに遭った。
「・・・あれ?助けてくれないの?・・・うそぉお!?」
落ちるカイを静観していたサオは、間を置いて彼に向かって急加速した。彼女がやや不機嫌だったからである。向かってくるサオに気付いたカイは手を伸ばし、サオは彼の手を空中で掴んだ。
「ありがとな、お前がいて助かったぜ。」
「・・・」
無口のサオはそのまま上昇し、その場を離れた。カイはPMCの船に戻るべきなのだが、サオはわざと彼を海軍の護衛艦に降ろした。彼への嫌がらせだった。
混合部隊の一斉攻撃により巨大トビウオ型は倒され、海に落下した。多くのトビウオ型も倒され、生き残った個体は少しずつその場から逃げていった。やがてトビウオ型は部隊の前から消え、部隊はトビウオ型に勝利し、イツツシマ市への脅威は去った。
トビウオ型との大規模な戦闘後、この事件はニュースで大々的に取り上げられ、イツツシマ市沖トビウオ型ゲカアウタレス巡視船襲撃事件と呼ばれた。ニュースを知った民衆は政府の対応に疑問を持った。しかし3月10日月曜日、政府は戦闘中の記録映像の一部をメディアに公開し、民衆はアウタレスの危険性を改めて実感した。これを機に民衆のアウタレス保護の感情は薄れていき、逆にアウタレスに対する恐怖心が徐々に芽生えていた。メディアも世間の感情に乗じ、アウタレスに対する不安を揺さぶった。やがて保護団体の影響力は消え、民衆はトビウオ型に対し何かしらの処置を政府に求めた。トビウオ型の管理は難しいと判断した政府はトビウオ型の全面駆除を打ち出し、国民の多くはこれに反対しなかった。
3月21日金曜日、トビウオ型ゲカアウタレス全面駆除法案が可決された。カイとサオは残トビウオ型討伐部隊への参加要請を受け、二人は嫌々討伐任務に参加した。
カイとサオが港で涼んでいると、カイは静かに愚痴をこぼす。
「なんで人はこうも極端なのかねぇ・・・全面保護の次は全面駆除かよ・・・」
「嫌なら無理して参加しなくてもいいんだぞ?」
「お前だけに後始末を押し付けるつもりはねぇよ。」
しばらく波音だけが響き、不意にサオが自身の胸中を明かす。
「実はね、私まだ怒ってるのよ。あなたが黙って軍を抜けた事」
「・・・すま・・・」
カイの謝罪の言葉を、サオが遮る。
「でも立場が違うと二人の視野が広がって、結果的に悪くなかったのかもしれない・・・今はそう思う。」
「なら良かった。俺の選択が、お前のためにもなるのなら・・・今後もよろしく。」
「ああ。こちらこそ。」
二人が握手を交わすと、カイは片方の腕でサオを一瞬抱き寄せた。サオは一度驚いた後、優しい笑みを浮かべた。やや照れ気味のサオは、ふと新しく入った仕事の依頼にカイを誘う。
「そういえば国立研究所から試作戦闘機のパイロットの依頼がきているのだが、どうだ?新しいフライトユニットの資金も必要でしょ?」
「そうだな~・・・まぁ、お前も同行するなら考えてやってもいい。」
サオは笑顔を見せ、二人は静けさを取り戻した水平線を、しばらく眺めていた。
-最終話~トビウオ型ゲカアウタレスとの決戦~ ~完~