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2014年10月31日金曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第3話~子供達のヒーロー~

-第3話-

   ムスタ・プキン村より北西約15km、そこは吹雪の中だった。視界が悪く、何もない雪上を、ポンチョを着た女が寒そうに歩いていた。


名をサン・ティアナ・ローズ。18歳。

しばらく歩いていると、彼女は雪に覆われた岩の上で身動きが取れないトナカイを見つけた。足場が狭く、トナカイは今にも落ちそうだった。

「今行くから動かないでね。」

トナカイを驚かせないようにティアナはそっと語り掛け、彼女は岩を登り始めた。しかしトナカイは足を踏み外し、そのまま滑り落ちた。ティアナは咄嗟に跳び空中でトナカイを捕まえ、そのまま地面に落ちた。仰向けに大の字になったティアナがクッションとなり、彼女の上にいたトナカイは無傷だった。

「いたたた…」

びっくりしたトナカイはそのまま走り出し、別のトナカイに出くわした。トナカイの家族だろうか、それを見たティアナは横になったまま安堵の表情を浮かべる。

「良かったぁ。元気そうで。」

彼女はゆっくりと身を起こし、トナカイ達に尋ねる。

「ねぇ、君達。ここどこだか分かる?」

-第3話~子供達のヒーロー~

   コウモリ型アウタレス襲撃事件から数日、村の周囲で出没したゲカアウタレスの件数は更に増えていった。聖誕祭が迫る中、住民のゲカアウタレスに対する不安はゲカプラントに向けられていた。プラント内にあるゲカを使用した燃料に、ゲカアウタレスが引き寄せられているという推測が最も有力だったからだ。ゲカプラントに反対する意見も増え、今回も村役場で議論が交わされていた。役場の外では会議が終わるのを待つタズとタナの姿があった。やや疲れ気味のタズが言った。

「そっちはどうだ?」

「使える奴から仕事を振り分けているけど手が足りないわ…私も出撃した方がいいかしら。」

タナも疲れが溜まっている様子だ。

「お前は俺達に指示を送るのが仕事だ。」

「過保護ね…しかし参ったわ。ゲカアウタレスの出没件数がどんどん増えている。」

「住民の不満もな。聖誕祭に向けて忙しい時期に面倒なこった。」

タナは煙草に火を付ける。

「みんなが思うように、ゲカプラントで使用されるゲカを使用した燃料が原因なのかしら…」

タズもタナから煙草を貰う。

「悪い。しかしこのままだとプラントの停止どころじゃないな…どうやら終わったようだな。」

役場からぞくぞくと人が出てきた。その中にスフェルとパワードアーマーに乗ったヒュオリ警部がいた。二人はタズとタナに気付き、こちらにやってきた。タズが先に口を開く。

「どうだった?」

ヒュオリ警部がパワードアーマーから顔を出す。

「どうもこうもない。聖誕祭だの、村の安全だの、ゲカプラントの撤去だの、みんな言いたい放題だ。役員の多くはゲカプラントの即停止を訴えている。村長は判断を先送りにしたがな。住民にとってゲカを使用した燃料には悪い印象しかないようだ。」

半泣き状態のスフェルが必死に訴えかける。

「でも燃料に使用されるゲカは1%未満ですよ?燃料の大半は伝導体を含んだ結合剤なんです。ちゃんと管理すれば危険じゃないんです。こんなに優れた技術なのに止めるなんて勿体無いですよ!」

苦笑したヒュオリ警部がスフェルの肩を叩く。

「わかった、わかった。その事はみんな知っている。唯理由が分からなくてみんな不安になっているんだ…タズ、そっちはどうだ?」

「昨日は2体やった。今はなんとかなってはいるがこのペースだと手が足りなくなるかもしれん。」

タズに加えてタナも近況を報告する。

「村を訪れている賞金稼ぎや傭兵にも依頼しているけれど、危険も多いし難しいわね。」

悪い話ばかりを聞かされているヒュオリ警部は溜め息を漏らす。

「役員は軍の派遣も検討している。それに加えて近くのゲカ採掘現場をヒカアウタレスが襲撃したようだ。軍と別のヒカアウタレスがそいつを撃退したらしいが。」

「ああ。話だけならこちらも聞いている。」

そう話すタズにヒュオリ警部は忠告する。

「お前の話も上がっていたぞ。」

「俺がか?」

タズは驚いた様子だった。

「ああ。お前も一応はゲカアウタレスだからな…とにかくこの問題についてみんなピリピリしている…俺はこの後警察署でまた会議だ。何か掴んだら連絡をくれ。」

頷くタズとタナを後に、ヒュオリ警部は去っていった。スフェルも去り際、涙ながらに口を開く。

「どうかこの問題を早く解決させて下さい…」

タズとタナは再び二人きりになった。

「じゃあ何かあったら連絡してくれ。」

去ろうとするタズにタナが話し掛けた。

「この前ティアナから連絡があったわ。」

「ほう。そういえばそろそろ戻ってくる予定だったな。今どこに?」

タズは立ち止まりタナに振り返った。

「最後に連絡があったのは空港からよ。」

「空港?あいつ東から来るんじゃなかったのか?何故西の方にいるんだ?」

「…」

タナは目を背け黙り込んだ。

「まさか…また迷ったのか…」

「…後もう一つ。」

「ん?」

「そろそろ結婚を考えろだと。」

「そうか。」

「だからあんたも考えておいて。」

「…おう。」

ややぎこちない様子でタズはその場を後にした。

   ムスタ・プキン村の中央付近には観光施設があり、その東に試作ゲカプラント、北に湖と林が広がっていた。その林の中に、二人の子供が忍び込んでいた。村では少人数で深い林に入る事は危険だと林への立ち入りを制限していたが、この二人はその網をかいくぐっていた。一人はペリ・ホペ。もう一人はペリの同級生、ロッケウス・ラプスィ。5歳の少年だ。


「ペリちゃん。早く帰ろうよ。」

ロッケウスは不安そうにペリを説得するが、ペリは林の中へどんどん進んでいった。

「この辺にゲカがきっと埋まっているの!それが怪獣たちを呼んでいるの!」

ペリはアウターマテリアルの研究者になるべく、資料を読み漁り勉学に励んでいた。結果アウタレスが増加する原因が村の地中に眠るゲカだと根拠もなく確信し、それを探しに来ていた。

「危ないからやめようよ。」

「地面の中のゲカを見つければ、きっと村も助かる。パパも安心する。」

ロッケウスの忠告を無視し、ペリは村や自身の父親の為に奮闘していた。二人は林を進むが、お互い地中を這う存在に気付かなかった。

   一方村の外ではアウタレスと対峙していた警察、武装サンタや傭兵達は増え続けるアウタレスに対し手を焼いていた。彼らの尽力によって住民への被害は免れているが、予断を許さない状況が続く。アウタレス討伐の任に就いていたヒュオリ警部は通信を開き、別の現場にいたタズと連絡を取る。

「アウタレスは今日だけで32体確認されたぞ。まだ来そうか?」

「分からん。こっちはまだクモ型のやつと交戦中だ。」

タズはグレネードランチャーを撃ってクモ型ゲカアウタレスの足場を吹き飛ばし、アウタレスは体制を崩した。隙を見た警察官がアウタレスを狙撃し、見事直撃した。警察隊の連携でアウタレスはどんどん追い込まれていく。それを見たタズはヒュオリ警部に報告する。

「こっちはもうすぐ終わりそうだ。」

「分かった…おい、たった今情報が入ったぞ。子供二人が行方不明になったらしい。」

急な話に、ヒュオリ警部は焦りの色を隠せなかった。

「なんだと?詳細掴めるか?」

「一人はペリ・ホペ、女、5歳。もう一人はロッケウス・ラプスィ、男、5歳。二人は湖の林に入った可能性が高い。」

「ラケンナの娘か!なんでこんな時に…」

「ああ、あの子か…俺は部下を連れて直ぐに向かう。お前も行けるか?」

タズは振り向くと、警察隊に討伐されたアウタレスが引っ繰り返っているのが見えた。

「…ああ。ちょうどクモ型も終わったらしい。処理が終わり次第俺も…あ…」

「どうした?」

タズは何かを思い出し、ヒュオリ警部に言う。

「行く必要はないぞ。」

「は?」

突然の発言に対して、ヒュオリ警部は戸惑いを覚えた。

「子供達の捜索に行く必要はないと言っているんだ。心配ない。彼らは大丈夫だ…まだ未処理のアウタレスも多いんだろ?早く残りを片付け…」

「ふざけるな!」

ヒュオリ警部が怒りのあまり叫んだ。

「あの林では体長10m級のヘビ型が地中をうろうろしているのだぞ。負傷者まで出ているというのに…気でも狂ったか!」

「…まぁ、いずれ分かる。ともかく子供達なら心配ない。俺は別の現場に向かうぞ。」

タズは逃げるように通信を切った。頭に血が上ったヒュオリ警部はタズの言葉に困惑していた。彼はタズの事を信頼していたが、さすがに今回は不信感を抱いていた。

「一体どうゆう意味だ…」

ヒュオリ警部は頭を切り替え部下と共に子供達の捜索に向かった。

   自分達が危機的状況にいる事を知らないペリとロッケウスは、林の奥で迷子になっていた。

「どうするんだよー。やっぱ迷ったんじゃないかー…」

何度も似たような場所を歩き続け、ロッケウスは常に不安でいっぱいだった。そんな彼を余所に、ペリは比較的冷静だった。

「大丈夫。今探すから。」

そう言ってペリはコンパスと地図を取り出し、現在地を割り出す。勉強熱心な彼女は地図の読み方も慣れている様子だ。ロッケウスが彼女を待っていると、何かに見られた感覚に襲われ、彼は辺りを見渡す。

「どしたの?」

辺りをキョロキョロするロッケウスが気になりペリが声を掛けた。

「いや、誰かに見られた気がした。」

ロッケウスの不安は高まる一方だが、ペリは再び地図を覗いた。結局ロッケウスが感じた嫌な感覚の正体を彼は見つける事ができなかった。地面の雪が少し動いていたが、二人はそれに気付かなかった。ロッケウスが不意に横を見ると、先にある地面がめくれながら大きな怪物の顔がひょっこりと現れた。ヘビ型アウタレスだった。アウタレスと目が合いそうになった瞬間、ロッケウスはペリの手を引いて走り出す。

「逃げて!」

「え、何!?」

何事かと思ったペリは後ろを見、状況を理解した。

「きゃあああああ!!」

アウタレスは地面を這いながら、二人を追いかけ始めた。

「やっぱりゲカがここにあるんだ!」

この期に及んでペリはまだ自分が思い付いた予想を信じていた。一方でロッケウスの方は必死にペリの手を握り、木の間をジグザグに走っていた。そのおかげで二人はなんとかアウタレスの攻撃を避ける事ができた。しかしアウタレスは木々を避ける事を止め、力任せに木々を押し倒しながら二人を追いかけた。それを見た二人は恐怖を覚え、尚も走り続ける。ペリが躓きこけても、ロッケウスは直ぐ様彼女を引っ張り上げ、走り続けた。しばらくすると二人は周りが静かになった事に気が付き、足を止めた。後ろを振り返ると、アウタレスは消えていた。周りに何もない事が分かると、息が上がっていた二人は地面に座り込み、休んだ。息を整え、ロッケウスは真っ直ぐな眼差しでペリを見つめる。

「僕がペリちゃんを守るから。これからもずっと。約束するよ。」

小さくとも心強いその言葉を受け、ペリはそっと笑みをこぼす。

「うん。ありがとう。」

次第に緊張もほぐれ、ロッケウスとペリは互いに笑いあっていた。するとロッケウスは地面が動いている事に気付き、咄嗟にペリに突っ込んだ。次の瞬間二人が座っていた地面が割れ、アウタレスの顔が飛び出してきた。間一髪でアウタレスの奇襲を免れた二人はそのまま丘を転げ落ちた。丘は緩やかな斜面になっており、雪の上を転がりながらもロッケウスはしっかりとペリを抱き締めていた。平坦な場所で二人は止まり、お互い擦り傷はあったものの二人は無事だった。

「大丈夫か?怪我してないか?」

「うん。大丈夫。」

「よかったぁ。」

ロッケウスは起き上がりペリに怪我がない事が分かると、そっと胸を撫で下ろした。するといきなり地面が揺れ、二人が立っている雪に切れ目が走った。ロッケウスは反射的にペリを突き放す。ぼんやりしていたペリは後ろにゆっくりと倒れながらロッケウスも倒れ掛かっている事に気付き、前に向けられた彼の両手に手を伸ばす。ペリの手がロッケウスの手に触れようとした瞬間、ロッケウスの足元から大きな顎が現れた。ぽかんとした表情の彼は何が起きているのかを理解する前に、その巨大な口は閉じた。ロッケウスはアウタレスに一呑みにされた。尻餅をついたペリはアウタレスと目が合い、状況を理解した彼女の顔は一気に強張った。

「うわぁあああああああ!」

ペリの叫び声が別の声に掻き消される。

「とぅおおおりぃやぁあああああああああああああああ!!!」

女の声だった。次の瞬間、アウタレスを中心に、辺り一帯が光の柱に包まれた。余りの眩しさにペリは目を瞑る。彼女が再び目を開けると、アウタレスは光の粒子となっていた。その光の粒子の中央に、右の拳を天に掲げ、左腕にロッケウスを抱えた女が立っていた。


彼女が着ていたはずのポンチョはバラバラになりこれもまた光の粒子になっていた。サンタ風のジャケットやズボンを着用したクワトロテールの髪型の女はロッケウスと向き合う。

「最後までよくあの子を守ったね。君は偉いぞ。」

ロッケウスとペリは不思議な光景を前に、ただただ呆然としていた。女の放つ光の柱は雲を貫き、見ていた全員を照らす。

「子供を泣かせる奴は、私の拳が黙っちゃいない!

サン・ティアナ・ローズ、参上!今!ここに!!」

-第3話~子供達のヒーロー~ ~完~

最強のバカ
ヒカのアウタレス
真実の敵

次回-第4話~燃える聖誕祭~

2014年10月27日月曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第2話~タナと村に忍び寄る影~

-第2話-

   ゲカ燃料研究者、ラケンナ・ホペの死から翌日、聖誕祭が近付いているムスタ・プキン村は相変わらず賑わっていた。無事に村に着いたアルクース・ヴァハオースとスーリ・フィンゴットはユクサンと別れ、サン・タナ・ローズの住処に来ていた。

「まさかあんたが依頼品の提供者だったとは…」

落ち着いた様子のスーリがタナに話し掛けた。

「君達の依頼主とは面識があってね。情報屋と仕事の仲介を始めた頃から知っているよ。これがその依頼品だ。」

タナは裏からアタッシュケースを運び、テーブルの上に置いた。

「このケースを依頼人に持ち帰れば依頼は完了だ。」

「中身は聞かない方がいいのかしら?」

アルクースの問いに、タナは答える。

「この地方で採れたゲカの標本だ。」

「濃度は?」

スーリがケースを見つめ、尋ねた。

「濃度は3%、専用の容器付きだ。問題ない。」

「そうか。標本となると、材料試験か?」

「いや違う。検査だ。近年世界中でゲカを使用した危険な研究が流行っていてな。この辺でもそういう傾向がないか早めに知りたいのだろう。」

「生物実験か。」

「嫌な話ね。」

アルクースが吐き捨てるように言うと、タナは少し明るめに話す。

「まぁここは問題ないだろうけど。一応確認が必要だろうし、これを宜しく頼むわ。」

スーリは立ち上がり、ケースを受け取る。

「色々と世話になった。村の力になりたいが俺達にもやる事がたんまりでな。」

「構わないよ。今度また来るといい。なんなら武装サンタになってみるかい?特に女性は少なくてね。」

そう言いながらタナはアルクースに目を向け、アルクースは苦笑いを浮かべる。

「なろうと思ってなれるものなの?」

「みんな自分でそう名乗っているだけだよ。それは今も昔も変わらない。」

少し古めの写真を見ながらアルクースは口を開く。

「ふーん。ところでそこにある写真を見て気になっていたのだけど、アウタレスって寿命が短いものもいれば長くなる場合もあるわよね。タナさんは見た感じ20代後半、そしてタズさんは30代って感じだけれど、実際の年齢って教えてもらえるかしら?」

「俺も気になる…」

スーリの発言の後、しばらく気まずい沈黙が流れた。

「いいわ。隠す事でもない訳だし…私もタズも50代よ。」



「っえぇ~~~!!!」

-第2話~タナと村に忍び寄る影~

   タナとの雑談の後、アルクースとスーリはタナに礼を言い、彼らは帰途に着いた。二人の背中を見送るタナは遠くから歩いてくる人物を見つけた。

「また面倒な…」

タナに嫌な顔をさせる人物とはゲカプラントの建設、販売を手掛ける営業マンだった。名をスフェル・フォルケ。34歳。


彼はやつれた顔でタナの前に来た。

「ラケンナさんの事は聞きました。非常に残念です。この村のゲカプラント建設計画以前から助けてくれた優しい友人でした…研究者としても優秀だった…唯でさえアウタレスの目撃例が増えているというのに、これではゲカプラントのイメージが地に落ちてしっ、まっ…うぅ…」

スフェルは泣き出した。

「またか…男がそう泣くなよ…増えたアウタレスについてはちゃんと調べているって。」

タナがスフェルの肩に手を置き、彼を宥める。

「今度は近隣住民になんと説明すれば…あぁ胃が痛い…ラケンナさんは何か言い残してはいませんか?」

「ああ。タズが何か聞いたと言っていたな。」

スフェルの表情は少し良くなった。

「ほう。彼はなんと?」

「アウタレスはゲカプラントではなく、別の要因で増えているのだと。」

「その要因とは?」

「分からないわ。現段階では確証もない。いずれにせよ更なる調査は必要だな。」

タナの話を聞いたスフェルは笑顔を取り戻し、口調も元に戻る。

「そうですか。早くこの問題を解決しないといけないですね。私も頑張って、彼に恩返ししないと。」

「そうだそうだ。その調子だ、ぞ!」

タナがスフェルの肩を叩いた。

「い、痛いです…」

   スフェルは帰っていき、タナは自室で仕事の続きをしていた。彼女は端末に繋がったコードを取り出し、先端の端子を手術された彼女の耳たぶに挟んだ。すると自分の意思だけで端末を操作できた。制御型人工頭脳(制工脳ともいう。サイボーグの脳、いわば電脳)を持たない人間にとって擬似的に制工脳の操作ができる通信技術、外付け制工脳だ。電子攻撃を受けても接続を簡単に切り離せるので使用者本人を危機的状況から脱しやすい。メカ・アウタレス等の脅威により、アウタレスの制工脳手術は一般的に認められていないので、この技術のアウタレス利用者数は多い。タナは近隣の情報収集をしている際、近くの空港が提供する記録に目を通し、気になる情報を見つけた。彼女は端末を切り天井を見上げ、しばらく考え込んでいた。

   ムスタ・プキンの昼、タズは愛用のスノーモービルに乗り林を駆ける。ここは村の北の丘にある深い林の中だ。この辺にタズの住処がある。彼は家に近付くにつれ自身の家の異変に気付く。サブマシンガンを抜き、家の周りを警戒後、タズは家の中に踏み込んだ。

部屋の奥でシャワーの音がした。

「はぁ…」

大きなため息の後、タズは普段家に帰ってくる時と同じように装備を外し、手入れをした。やる事がなくなった彼は椅子に座り、貧乏ゆすりしながら何かを待っていた。しばらくしてシャワー室からバスタオル姿の女が出てきた。タナだった。

「遅い。」

「また何やってるんだ。」

タナの言葉を無視し、タズは不機嫌そうな顔をしていた。

「あんたを待っていたのに、遅いからシャワー借りたのよ。話があるって連絡入れたじゃない。」

タナも不機嫌そうだった。

「時間が掛かると返しただろう。家に上がるどころか、風呂まで入りやがって。前にもあったな…」

頭を抱えるタズに、タナは真剣な顔つきで話しかけた。

「話がある。」

「服を着ろ。」

「真面目に聞け。」

「まずは真面目な格好をしてくれ。」

互いに譲らず、イライラしたタズは強気にでた。

「そんなセクシーな体を見せ付けられると、こちらも目のやり場に困る。」

不意の発言に、タナは顔を赤らめた。

「何顔を赤くしてるんだ?51歳。」

「てめぇも50だろ。」

タナの顔は一瞬で戻り、彼女は自身の銃を左手で構えた。彼女は左利きだった。タズも同時に銃を抜き二人は互いに向け合った。
当初の目的を忘れ、二人は時間を無駄にした。

   タナはちゃんと着替え、話を再開した。

「周辺の情報を探っていたのだが、今日近くの空港の南西2キロ先でゲカアウタレスが確認されたらしい。それがすぐ行方を晦ませた。」

「ここから6キロ先か。近くには空港や街があるんだぞ。それがどう関係…あ。」

タズの口は止まり、タナが話を続ける。

「気付いたようだな。私もラケンナの話が引っ掛かっていてな。例の、アウタレスが何かに誘き寄せられているっていう話。もしそれが事実なら…」

「そのゲカアウタレスが向かった先がここになる。」

「そういう事。」

事態を把握したタズは自分の装備を確認し始める。

「ゲカ燃料にアウタレスが反応しているのなら、わざわざ遠方のアウタレスがここに来る必要はない。確かめる価値はありそうだな。アウタレスの情報は?」

タナは端末の画面を読み上げる。

「姿はコウモリに類似、体長2m前後、飛行可能、危険度3、要専門家処理、脅威度2、兵士級、濃度21、超能力発現の可能性、数は5体。また人型じゃなくて良かったわね。」

「だな。念の為他の連中にも声を掛けておこう。」

タズは他の武装サンタ、ゲートガードや消防、そして警察の知り合いに連絡し、注意を促した。

「でもそれはあくまで推測なのだろう?それでは部下は出せんぞ?」

そう話すのは村の警察署の警部、名をヒュオリ・ランプ。43歳。彼は小型人間(一般の人間の約10分の1の大きさを持つ人間)であり、優れたパワードアーマー乗りである。



「村は今聖誕祭の季節でどこも手が足りん。一応皆に注意するよう連絡は入れておく。」

「ああ。ありがとう。」

タズは通信を切り、タナに話し掛ける。

「俺の家に来たのもこの為か。」

「そういう事。奴等が村に来るならここを必ず通るはず。網を張って待機しましょ。後今夜はここに泊まっていくわ。」

「お、おう…ところで、お前も戦うのか?」

タズは少し心配そうにタナを見つめた。

「ええ。そのつもり。」

「今は力を使うと体に負荷が掛かるんだろ?ここは俺に任せてくれ。」

タナはタズに寄り、優しい声で話す。

「あなただってそうじゃない。それに私はまだまだ現役よ。でも、心配してくれてありがとう。」

   タズとタナは林の中に感知器を設置し、タズの家の中で待機した。辺りは暗くなり、二人は静かに時が過ぎるのを待った。

   22時過ぎ、タズは違和感を覚え、家の外に出た。感知器に反応はなく、タナはタズをそっと見守る。タズはスナイパーライフルを手に近くの電波塔を登り、タナも彼の後を追った。タナも違和感を覚え、その後感知器が作動した。タズとタナはライフルを構え、敵を探す。しかし敵の姿は見えない。タズはサーモスコープを覗き、林を注視した。すると低空を飛ぶ熱源を捉えた。コウモリ型のゲカアウタレスだ。

「いたぞ!奴等光学迷彩で姿を晦ませてやがる。」

タナもアウタレスを捉え、合図と共に二人は引き金を引いた。時間差で2体のアウタレスは地に落ち、残りの3体は狙撃に気付き散開した。タズが狙撃を続ける間にタナは警察署に連絡を入れた。何とか3体目を落とし、残りは2体。2体のアウタレスは不規則な軌道を取りながら電波塔に接近し、タズとタナはひたすらライフルを撃った。弾丸は2体に命中したが仕留めきれず、傷を負った2体はそのまま電波塔の後ろにある納屋に突っ込んだ。タズとタナは電波塔から飛び降り、2体を追いかけた。タズはサブマシンガンを取り出し、タナはショットガンを出した。互いにサインを送り、二人は納屋の中に突入した。納屋の中には誰もいず、辺りは真っ暗だった。タズとタナが銃のライトを点灯した頃、通報を受けたヒュオリ警部が部下を連れてやってきた。タズは小声で警部に事情を説明した。

「了解した。ではこちらは納屋の周囲を固める。」

そう言ってヒュオリ警部は部下に指示を出し、応援に来た警察官と共に納屋を囲んだ。

   納屋の中の部屋を一つずつクリアリングしていくタズとタナであったが、アウタレスを見つけ、銃撃してもアウタレスは自らぶち破った穴に身を隠し、別の部屋に逃げていった。毒針を放ち奇襲を仕掛けてくるアウタレスに注意しながら、タズは追加の弾をタナに渡す。タズが使用するショットリボルバーの弾薬とタナのショットガンの弾薬は共通である為、二人は連携が取りやすかった。2体のアウタレスに振り回され、タズとタナはなかなか目標を仕留めきれずにいた。

「我々も突入しようか?」

進展のない状況にヒュオリ警部は二人にそう進言した。負傷者を出したくないタズが応答する。

「もう少し待ってくれ。」

   アウタレスとの戦闘が長引き、次第にタナは苛立ちを覚え始めた。相変わらずアウタレスの奇襲は続き、とうとうタナは痺れを切らし、それを見ていたタズも次の展開を悟った。

「タズ…ちょっと表出ていて。」

静かに語り出すタナに対して、タズはそっと話し掛ける。

「しかしお前、それだと体に負荷が…」

「大丈夫。ただちょっと頭にきただけ…少し暴れるだけだから…ね、お願い。」

「何かあったらすぐ駆けつけるからな。」

「ありがとう。」

タズはその場を後にし、タナは姿勢を正した。彼女は深呼吸し、全身にヒカの力を漲らせ、次第に体から白いオーラが身に纏った。

「やばい…」

タナの様子に気付いたタズは納屋を走り出して、外にいた警察に叫んだ。

「みんな伏せろー!!」

タナは体から光の波を放ち、納屋の中のアウタレスの居場所を突き止めた。

「一体何なんだ?タナはどうした?」

姿勢を低くし、困惑するヒュオリ警部にタズは答える。

「タナがキレた。」

タナはショットガンを構え、内蔵された大きな鎌が展開した。彼女が持っていたのはサイス・ショットガンだった。タナはそっと笑みを浮かべ、壁の向こう側にいたアウタレス目掛けて突っ込んだ。目の前にあるものを撃ち、切り刻み、破壊しながらタナは笑っていた。

「アッハハハハハ…」

警察の持っていたアウター探知機が大きく反応した。納屋の中から聞こえる爆音と笑い声と時折飛んでくる流れ弾を前に、車両の後ろに隠れていた警察は皆引いていた。

ヒュオリ警部がそっと呟く。

「やはり人型のアウタレスは皆化け物だな…」

「これで遊んでいるだけだからな…彼女が本気を出すと生きて帰れない…」

「えっ…」

タズの衝撃発言に警部の顔は青ざめた。

   タナが進んだ道には瓦礫しか残らなかった。アウタレスは逃げるも追いつかれ、バラバラにされた。アウタレスの返り血を浴びたタナは、もう1体のアウタレスに狙いを定める。後ろから破壊が迫るアウタレスは必死に逃げ、屋根を突き破り飛び立った。外にいた警察が銃を構える。しかし止まる事を知らないタナは一気に上空のアウタレスに追いついた。アウタレスの目に映ったのは白いオーラを身に纏い、全身を紅く染め、鎌を背負った笑顔のサンタだった。次の瞬間、アウタレスはバラバラにされ、アウタレスの破片や体液がそこらじゅうに降り注ぐ。納屋の周囲にいた人間が見上げると、月を背に全身を紅く染めた女のサンタがそこに立っていた。

   タナに見蕩れていたタズは気持ちを切り替え、ヒュオリ警部に進言する。

「村中に伝えてくれ。この村は狙われている。」

-第2話~タナと村に忍び寄る影~ ~完~

群がる敵
子供達の悲劇
ヒーローの帰還

次回-第3話~子供達のヒーロー~

2014年10月22日水曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第1話~武装サンタの住む村~

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-第1話-

   12月、北国の白い林の中を、月明かりに照らされた三人の賞金稼ぎが歩いていた。一人目は女性、名をアルクース・ヴァハオース。25歳。


装備は軍用マッスルスーツ(パワードスーツ、強化服の一種)、ソードライフル、グレネード、ハンドガン。二人目は男型のサイボーグ、名をスーリ・フィンゴット。25歳。


装備はスピアロケット、アサルトライフル。そして三人目は巨大な三輪バイクを連れ重装備したパワードアーマー(人型強化装甲。強化服を着た人間が乗る強化服といったもの)、名をユクサン。


三人はアウター探知機や機材を手に、アウターの反応がないか確かめながら近くの村へ北上していった。

「ねぇ、本当にここらのアウター反応を確認するだけで報酬が入るの?」

「ああ、顔見知りの情報屋からの依頼だ、間違いない。」

ユクサンが低い声で念押ししても尚、アルクースは不信がっていた。

「まぁ俺達はあんたと出会って間もないからな。あんたの売る武器はいいもんだが、知らない相手の依頼となると気にもなるもんさ。ともかく俺達はこの先にあるムスタ・プキン村にお使いしなきゃならん。村に着ければそれでいい。」

スーリは相方のアルクース程依頼に関して気にはしていない様子だ。

「その村には武装したサンタが大勢いるんだって?」

アルクースの問いにユクサンが答える。

「そうだ。村の名前も『黒いサンタ』という意味があるように古くから武装サンタが村や村の周辺を守ってきた。先程通り過ぎた村とは違い、ムスタ・プキンは観光だけじゃなくビジネスで訪れる者も多い。そして近年その村にゲカ・プラントを建設する予定だったが、試作ゲカプラント建設後に村近くでゲカ・アウタレスの出没件数が増えているそうだ。ゲカ燃料に引き寄せられていると推測されるが、はっきりした事は分かっていない。」

ユクサンは足を止め、辺りを見渡した。それを見たアルクースは気になり声を掛けようとしたが、持っていた探知機が反応を示した。彼女は身に着けていたヘッドホン型の外付け制工脳(外付け簡略式制御型人工頭脳。外付け型のサイボーグ脳。簡単な手術で扱えるため利便性が高い)に手を当て、目を瞑り情報処理速度を上げた。

「何かいるのか?」

スーリは何も捉える事ができなかった。

「距離約300に生体反応…人…?」

アルクースは首を傾げながら残りの二人と共に反応があった位置へと接近した。そこにはコートを着た少女がいた。名をペリ・ホペ。5歳。


彼女は三人に気付くとユクサンを指差した。

「あ、ロボットのおっちゃんだ。」

ペリを見て三人の賞金稼ぎは口を揃えた。

「幼女だ…」

-第1話~武装サンタの住む村~

   賞金稼ぎの三人は周囲を警戒、アルクースはペリが無害であると判断した。

「君はここで何をしているの?他に誰もいないの?」

「パパと怪獣から逃げてきたんだけど、パパとはぐれちゃった。」

「お父さん今どこにいるか分かる?」

「わかんない。」

「そっか…さっきロボットのおっちゃんって言ってたけど、君この人知ってるの?」

「うううん。でもさっきサンタのおばさんにここにいればロボットのおっちゃんに会えるからって。すぐ戻るから待っててって言ってた。」

「サンタのおばさん?」

ペリと話していたアルクースにユクサンが答える。

「先程話した知り合いの情報屋の事だろう。彼女も武装サンタの一人だ。すぐ戻るなら、しばらくここで待機するか?」

アルクースは答えずスーリの方を向いた。

「俺は構わないぜ。」

   アルクースとペリが何気ない会話をしていると、アウター探知機が大きく反応し、賞金稼ぎ達は武器を構えた後、12ゲージショットガンを背負った女性武装サンタが跳んできた。彼女は着地するや否や自己紹介を始める。


「私はサン・タナ・ローズ。ムスタ・プキンの武装サンタだ。待たせて悪かった。早速で悪いのだが、ペリを安全な所まで連れて行く。ここは危険だ。」

スーリがタナに声を掛ける。

「危険?アウタレスか?」

「そうだ。詳しい事はまだ分からないが近くにいるのは間違いない。」

ペリは不安そうにタナをずっと見つめている。

「パパは?」

「私の友達が探しているよ。ペリを送ったら、私も探しにいくから。」

「うん。」

タナはペリを抱え、三人に忠告する。

「安全に村に行きたいのなら東の国道まで迂回しろ。報酬は村で渡す。手を貸してくれて感謝する。」

タナに抱えられたペリは小さく手を振り、タナは闇の中に跳んでいった。アルクースも小さく手を振り返す。

「二人は大丈夫なの?」

「タナはヒカのアウタレスだ。彼女は強い。」

答えたユクサンの横でスーリはアウター探知機を見つめる。

「成る程。それで。しかしアウター反応がもう一つあるぞ。距離約200、濃度約10、ゲカだ。この安もんじゃあ、これ以上は分からん。とりあえずここらでいっちょ稼いでくか。」

スーリを先頭に、賞金稼ぎ三人はアウター反応がある場所へと向かった。

   スーリは正面に何かを捉え、彼は足を止めた。人が横たわっている。近づいてみると、中年の男性が雪の上で苦しみもがいている。


スーリは男にゆっくりと近づき、残りの二人は周囲を警戒した。

「おい。大丈夫か?…はっ!」

スーリは男の左半身がアウタレス化している事に気が付いた。男の半身は黒く蠢き、男に苦痛を与えながら全身を呑み込もうとしている。

「はや…くっ…にぃ…げろ…」

酷い光景を前に、スーリは一度自身を落ち着かせ、手にしたスピアロケットの刃でアウタレス化した半身の一部を切り離そうとした。が、武器を上に構えたその時、スーリの目の前に巨大な爪が飛んできた。スーリは爪を防ぐも、後ろに吹き飛ばされた。彼の目の前には完全体となった人型ゲカアウタレスが立っていた。


不気味で全身が黒く、長い腕に大きな爪を持っていた。

「おい…俺の言葉が…」

アウタレスに意識があるか確認しようとスーリは声を掛けるが、アウタレスが彼に襲い掛かってきた。

ソードライフルを構えていたアルクースが銃を放ち、アウタレスは後ろへ距離を取った。スーリもすかさずアサルトライフルを撃ち、スピアロケットのロケット弾を放った。

   爆音と共に辺り一帯が雪煙で覆われた。賞金稼ぎ三人がじっと警戒する中、横から傷を負ったアウタレスがアルクース目掛けて襲い掛かった。気付いたアルクースは力を込め、着ていたマッスルスーツが伸縮し、アウタレスの振り下ろされた右腕をソードライフルで受け流し、そのまま斬撃を繰り出す。アウタレスは回った拍子にその斬撃を左腕で打ち止め、再び右腕をアルクース目掛けて振り下ろした。

アルクースはソードライフルの引き金を引き、アウタレスの右腕を弾き、後退するアウタレスを撃ち続けた。ユクサンも銃撃したが、アウタレスは林の中に消え、少しの沈黙が流れた。

   傷の癒えたアウタレスは雪煙を作りながら賞金稼ぎの周囲を縦横無尽に走り、三人を撹乱した。アウタレスは素早い動きですれ違いざまに一人一人を攻撃し、三人は防戦一方となった。嵐の様な攻撃でアルクースは体制を崩し、アウタレスは狙いを定めた。ところがそこへユクサンが突っ込み左肩をアウタレスにぶつけ、ユクサンは右肩に背負ったウェポンコンテナに手を伸ばした、その時。

   ジングルベルが辺りに響いている。アウタレスは動きを止め、三人も動きを止めた。導かれるように、アウタレスはジングルベルの鳴る方角へと姿を消した。安全を確認したアルクースとスーリは地に座り一息ついた。ユクサンは武器をしまい、アウタレスの向かった方角を見つめていた。

   アウタレスが辿り着いた先には、一人のサンタがいた。


サンタに向かってアウタレスが走り出すと、サンタは40mmリボルビンググレネードランチャーを取り出し、アウタレスが近付けないように連射した。更に9mmサブマシンガンを取り出し、アウタレスの動きを牽制した。隙を見てアウタレスはサンタに近付き、サンタはグレネードを投げた。アウタレスは小さく跳び、グレネードを避け、更にグレネードの爆風を利用し加速した。空中からサンタに急接近したアウタレスは右腕を振り下ろし、間に合わないサンタは咄嗟に左腕を前にかざす。

   アウタレスの爪をもろに食らったサンタの左腕が千切れた布を撒き散らす。するとアウタレスの爪にひびが入り、根元から折れた。驚いたアウタレスの目線の先にはサンタの左腕に装着されたクローがあった。サンタの左腕には黒いローラが身に纏っていた。彼もまた、ゲカのアウタレスだったのである。ゲカの力と着ていたマッスルスーツの力でアウタレスを殴り飛ばし、サンタは腰から巨大な12ゲージリボルバーを抜いた。このリボルバーはショットガン用の弾を用い、更に銃口が上下に二つある為2発同時撃ちが可能だった。

飛び掛るアウタレスにサンタはリボルバーを向け、横に倒し、銃をぶっ放した。弾丸はアウタレスの両足を吹き飛ばし、銃の反動でサンタは横に回転した。勢いが残っていたアウタレスは左腕でサンタに突っ込んできたが、サンタは回転力を用いアウタレスを地面に叩き付けた。暴れるアウタレスにサンタはすぐさま注射器を取り出し、アウタレスの首元の傷口に挿した。アウタレスは更に暴れたが、次第に大人しくなっていた。注射器の中には白く光る液体が入っていた。ヒカだ。ヒカが体中に回ったのか、アウタレスの体はみるみる人の姿へ戻っていった。ゲカにより回復中だった両足は不完全な状態で止まった。膝より下は欠損していたものの、アウタレスは中年男性の姿に戻っていた。かなり衰弱している男は目を覚ました。

「すまんな、タズ…貴重なヒカまで使わせてしまって…」

「気にするな。」

小声で話す男にサンタが答えた。名をサン・タズ・クローズ。年は30代。タズと呼ばれる事が多い。

「娘は?」

「無事だ。」

男は優しく微笑んだ。

~半日後~

   アウタレス化していた男は村の病院で7時間に及ぶ緊急手術を受けた。名をラケンナ・ホペ。48歳。ペリ・ホペの父親だ。

ラケンナのいる病室の外では疲れ果てたペリがタナの膝の上で眠っていた。ラケンナは衰弱していたがタズと話をしていた。

「私達を襲ったゲカアウタレスは?」

「すまんがまだ見つかっていない…しかし驚いたよ。アウタレス化から人に戻って意識まで戻るとは。これもあんたがゲカ燃料の研究者だからか?」

「だが見ての通りぼろぼろだ。それにあなた達もアウタレスなのだろう?よければどうやってアウタレスになったのか聞かせてくれないか?」

ラケンナの問いに、タズは語り始めた。

「俺達の事か?そうだな…俺がまだ軍にいた頃、親父は武装サンタだった。俺は休暇でここに帰郷した際、俺と親父はゲカアウタレスと対峙した。親父は俺を庇ってアウタレスに刺されたが、そのまま俺も刺されてゲカに取り憑かれた。親父は死に、何とかゲカを封じ込めた俺はアウタレスになった。」

タズは話を続ける。

「タナは父親がヒカのアウタレスだったからな。彼女は非常に珍しい生まれた時からのアウタレスだ。因みに今この地を離れているティアナもヒカのアウタレスだ。彼女は以前アウタレスに襲われた時瀕死に陥った。その時タナは身を削る程ヒカを彼女の体に送ったが結局駄目だった。それが原因で衰弱していたタナに別のアウタレスが襲い掛かってきたんだが、その時タナを守ろうとティアナはアウタレスに覚醒したらしい…」

「この村だけでアウターの力を制御できる人間がこんなにいるとはな…」

「だが強力なアウターの力にはいつだってリスクが付き纏う。」

「そうだな…ああ、思い出した事がある。」

ラケンナは顔色を変え、タズが彼の方を向いた。

「何をだ?」

「アウタレスになって感じ取ったのだが、アウタレス増加の原因はゲカ燃料ではない。」

「何?」

「何か…何かがアウタレスを誘き寄せて…いる…」

ラケンナの呂律が悪くなった。

「分かった。今はゆっくり休め。」

タズを無視し、ラケンナは話を続けた。

「娘に…これからも元気で…と伝えてくれ…」

急な台詞にタズが駆け寄った。

「おい、しっかりしろ。あんたはゲカに打ち勝ったじゃないか。」

病室の外にいたタナは状況を察し、ペリの額をそっと撫で、ラケンナは目を閉じる。

「そうだな…リスクは付き物だ…」

雪止まぬ冬の夜、ラケンナ・ホペは命を引き取った。

   「やはりゲカが脳にまで達していると、どうにもならんな…」

ラケンナ・ホペの遺体が病院から運び出される光景を前に、タズが呟いた。

「医療が発達しても尚、アウターの脅威は相変わらずね。」

タズの隣でタナが煙草を取り出したが、彼女はペリに気付き煙草をそっと仕舞った。ペリも二人に気付き、二人の方へ歩いてきた。

「あたし、決めたよ!あたしもお父さんみたいな立派な研究者になる!」

朝日を背に、少女の真っ直ぐな瞳は輝いていた。

-第1話~武装サンタの住む村~ ~完~

ラケンナの残した言葉
狙われた村
紅き死神

次回-第2話~タナと村に忍び寄る影~

2014年10月21日火曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~

-plot-あらすじ

人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

北国フェンラにある村、ムスタ・プキン。この村には古くから武装サンタ達が住み、村を守っていた。
村は更なる発展を願い、影の力、ゲカを燃料としたゲカ・プラント建設計画を発足する。
しかしそれと同時期に、影の力を宿した生物、ゲカ・アウタレスが村の周囲に増え、村を襲い始めた。
聖誕祭が近付くにつれ、村の平和が次第に壊されていく。
果たして村は最悪な聖誕祭を迎える事になるのか。
村に迫る危機に、武装サンタ達とその仲間達が立ち上がる。

-第1話~武装サンタの住む村~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2014/10/santas-claws1.html
-第2話~タナと村に忍び寄る影~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2014/10/santas-claws2.html
-第3話~子供達のヒーロー~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2014/10/santas-claws3.html
-第4話~燃える聖誕祭~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2014/11/santas-claws4.html
-最終話~武装サンタと聖誕祭~↓
http://worldgazerweb.blogspot.com/2014/11/santas-claws.html
-Santa's Claws~サンタズ・クローズ~設定資料↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2014/12/santas-claws.html

「Santa's Claws~サンタズ・クローズ~」
「World Gazer~ワールド・ゲイザー~」シリーズ。

※重複投稿です。
ワールド・ゲイザー(ブログ)↓
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Story(物語)

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~↓
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Santa's Claws (English version)↓
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Experiment L.D.~エクスペリメント・エル・ディー~↓
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