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2014年11月9日日曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~最終話~武装サンタと聖誕祭~

-最終話-

   聖誕祭の日を迎えて数分。深夜のムスタ・プキン村の通りには人が多く集まっていたものの、皆恐れと不安でざわめいていた。例年通りなら中央通りが人で溢れお祭り騒ぎになっているところだが、多くは村の東で起こっている戦闘の行く末を見守っていた。村中の華やかなイルミネーションが、地響きで小さく煌いていた。

-最終話~武装サンタと聖誕祭~

   本性を現したクマ型ゲカアウタレスは強靭な肉体で駆け回って討伐隊を翻弄し、巨大な爪で軍用車両をぶっ飛ばし、口から放たれるゲカの波は榴弾並みの破壊力を持っていた。

討伐隊と軍は同士討ちに気を使いながら高い火力と機動力を併せ持つクマ型と戦闘を強いられた為、思うように戦えなかった。タズは前線でアックスバズーカの打撃と砲撃を駆使し、クマ型と戦闘を繰り広げる。ゲカの波を真っ先に危険視したヴィハ少尉は周囲に指示を送る。

「軽火器を持つ者は奴の口を狙え!あの黒い光線を封じろ!重火器は足を狙え!」

皆ヴィハ少尉の指示に従い、軽火器持ちはクマ型の顔を撃ち、重火器持ちは足腰を撃った。少尉の思惑通り顔面を狙われたクマ型はゲカの波をうまく放つ事ができず、又足腰も狙われ機動力も押さえ込まれた。自分の思うように戦えないクマ型は苛立ちを覚える。

「危機的状況でしか団結せず…共通の敵を作らなければ友好を築けない醜く弱い人類よ…この程度でゲカを倒せると思うなよ…」

クマ型は全身に黒いオーラを纏い、自身の肉体を強化し暴れまわった。それでも討伐隊と軍はなんとか攻撃を続けた。犠牲が増える前に決着をつけたいタズはタナに話し掛ける。

「ゲカを使う。少し時間を稼いでくれないか?」

タナは心配そうに彼を見つめた。

「力に呑まれないように気をつけて。」

「ああ。分かっている。」

タナはサイスショットを展開させ、力を込めると身に白いオーラが纏った。彼女はクマ型へ向かっていき、ショットサイスを巧みに操りながらクマ型に波状攻撃を仕掛けた。クマ型はタナの攻撃に耐えながらも、身動き一つ取れなかった。彼は何かに反応し、自身の腕と腕の隙間を覗くと、遠くでタズが黒いオーラに包まれているのが見えた。タズは体中のゲカを制御する事に集中し、彼を纏う黒いオーラが左腕に集まる。重い攻撃を続けるタナを無理やり押し退け、クマ型はタズに狙いを絞った。

「しまった!」

タナは体を反転させ、クマ型を追う。迫るクマ型を見据え、タズはショットリボルバーを構え、それを見たタナは足を止めた。

「ゲカで私に挑もうというのか。ゲカであるこの私に!」

クマ型はタズとの距離を縮め、タズは銃の撃鉄を起こす。

「ゲカもヒカも唯の力だ。使用するものの可能性によって成果が決まる。恐慌しか生まないお前は所詮その程度だ。」

「ゲカを愚弄した罪、ここで裁いてやる!」

クマ型は右の腕を振り下ろし、タズはショットリボルバーで地面を撃ち、雪煙を作る。タズの姿は消え、クマ型の振り下ろした腕に手応えはなかった。タズは宙にいたが煙で見えない。しかしクマ型は気配でタズの位置を掴み、左の爪で彼を突く。空中でタズは右腕のクローでクマ型の爪を受け流し、そのままクマ型の顔面に突っ込む。タズは左腕のクローに溜め込んでいたゲカを一気に解放し、上から振り下ろした。

「う゛おぉおおおおおーーー!!」

衝撃と共に黒い閃光が走り、タズは空中で回転し、クマ型の額からゲカが吹き出た。

「う゛う゛う゛・・・」

損傷に耐えるクマ型の目の前に、空中でショットリボルバーを構えたタズがいた。

「そんなに力が恋しいならくれてやる。」

クマ型の額の傷口を狙った二つの銃口から白い閃光が放たれた。2発のヒカ特殊弾だった。

「ぐぅお゛お゛お゛お゛お゛…」

勝負がついた。乱れる黒いオーラを放ち、クマ型はもがきながら小さく人の姿に戻っていく。タズの黒いオーラは消え、彼は一息ついた。

「終わったの?」

オオカミ型の応急処置を終えたティアナがタナのところに戻ってきた。随分な量のヒカを消費したにも拘わらず、ティアナは元気そうだ。

「うん。お疲れ様。ティアナの暴れる機会なかったわね。オオカミ型はどう?」

「自分で立てるようになったよ!元気そうでほんとに良かった良かった。」

クマ型はスフェルの姿に戻ったが、黒いオーラは彼の周りを揺らいでいた。痛む頭をお抱え、彼はゆっくりと歩き出す。

「これで勝ったと思うなよ…人がいる限り、我々は何度でも現れる…人はゲカの脅威に震え続けるのだ…ッハハハハハ…」

スフェルは小さく笑い、討伐隊が彼を包囲した。タズはショットリボルバーの弾倉を確認しながらスフェルを向く。

「自分がいかに無力かを理解した時、人は始めて真の力を知る事ができる…お前は一からやり直すんだな…ティアナ!とどめを刺せ。」

ティアナは前に出て、構えた。

「分かった…スゥ…ハァ~…」

ティアナは呼吸を整え、広げた左手を突き出し、丸いヒカの壁を作った。そして力を込め、右の拳を腰から一気にヒカの壁にぶつける。

「っはぁあああああーーー!!」

ヒカの壁は衝撃によりヒカの波となり、一直線に空気を切り裂いた。ヒカはものすごい勢いでスフィルに向かっていき、彼を直撃した。

「ぐぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」

スフィルはヒカに包まれ、弱弱しい悲鳴を上げながら彼の体からみるみるとゲカが噴き出した。

「や゛ぁめ゛ぇぇ…ろ゛ぉおお…」

ゲカはヒカの中に消えていき、やがてスフィルの体からゲカが完全に消滅した。それを確認したティアナはヒカの波を消し、腕を下げる。スフィルは放心状態になり、ずっと立ったまま一点を見つめていた。スフィルからゲカの反応が消失した事を確認したヒュオリ警部は、部下と共に彼の後ろに回り、彼の腕に手錠をかけた。討伐隊は歓声を上げ、タズ、タナ、ティアナは安堵の表情を浮かべた。アウタレスの脅威がなくなったという一報は村中に広がり、やがて緊急警報は解除された。村の人間は閉めていた店やイルミネーションを点け、聖誕祭がついに始まった。通りは聖誕祭を喜ぶ人で溢れ、お祭り騒ぎになっていた。その頃村の東では、討伐隊と軍が撤収作業に取り掛かっていた。ヴィハ少尉はヒュオリ警部と事後処理の手続きについて話し合っていた。少尉は死んだ目をしたスフェルを前に、ヒュオリ警部に言う。

「報告書と事情聴取は後でよいとして…こいつの処遇についてだが、護送はどうするつもりだ?村の中で犯した罪状も多いだろ。そちらの要求を聞かせてくれ。」

「あ、ちょっと待ってくれ。」

ヒュオリ警部は村の警察署と連絡を取り、ヴィハ少尉に伝える。

「そいつはあんたらに預ける。近いうち人をそちらに寄越す。」

「いいのか?」

「ああ。今夜は聖誕祭だ。せっかくの日に余計なお荷物は村に要らないな。些細なクリスマスプレゼントだ。」

ヴィハ少尉の顔が和む。

「そうか。とんだプレゼントだな…こいつを連れて行け。」

下を向いたまま無表情のスフェルは兵士に軍用車両へ乗せられた。

「では、ご協力感謝します。」

ヴィハ少尉は敬礼し、その場を去ると、ヒュオリ警部が彼を呼び止める。

「あ、ヴィハ少尉…メリークリスマス。」

「メリークリスマス。ヒュオリ警部。」

少尉は振り向き、警部に挨拶すると軽く敬礼し、二人は別れた。討伐隊と軍は急ぎ足で撤収作業を終え、帰っていった。皆も聖誕祭を祝いたかったからである。こうしてムスタ・プキン村多発的ゲカアウタレス襲撃事件は幕を閉じた。

   村の外れではタズ、タナ、ティアナの三人がオオカミ型ヒカアウタレスの見送りに来ていた。ティアナはオオカミ型の前に出て、オオカミ型は顔をティアナの位置まで下ろした。

「ありがとう…またね。」

オオカミ型は目を瞑り、ティアナはオオカミ型の顔を優しく撫でた。オオカミ型は林の中に消えていき、ティアナはその後姿に手を振り続けた。彼女はタズとタナに振り返り、親指を上げ言った。

「よし、お祭りの時間だぜぇ!」

三人も聖誕祭で盛り上がる村に帰っていった。

   夜明けが近付いても尚、村の中心の活気は衰えを知らない。武装サンタも多く参加し、祭りを盛り上げる。武装サンタは観光に携わる事が多く、タズもその一人だった。彼に与えられた仕事は誘導灯を持ち、駐車場を出入りする車両の誘導だった。戦闘の疲れは残っていたものの、彼はのんびりと仕事をこなす。タズは休憩に入り、建物の屋上で通りを眺めながら煙草を吸っていた。

「その仕事似合わないわね。」

声の主はタナだった。彼女は笑みを浮かべ、タズの隣に来て柵にもたれ掛かった。

「お前が任命したんだろうが…」

タナは懐から煙草を取り出し、タズがライターの火をそっと彼女に向ける。

「そうだったかしら…ありがとう。」

「煙草の臭いでまたティアナに怒られるぞ。」

「大丈夫よ。あの子今頃子供達と一緒にぐっすりしているはずだから。」

ティアナの元に大勢の子供達が集まり、みんなで遊んだ後、そのまま一緒に眠りに就いた。

「相変わらず子供に人気だな…子供達が起きたら目の前にはクリスマスプレゼントじゃなくてサンタガールか…笑えるな。」

タズはその光景を思い浮かべて笑い、タナも笑い始める。

「まぁあの子そういうところは鋭いから、問題ないわ…あなたもサンタなんだからそろそろプレゼントの準備。」

「お前もな…」

しばらく間を置いて、タナは夜空を見上げ、タズに話しかける。

「私そろそろ結婚を考えているのだけど…」

「…おう。」

タズはぼそっと返事をした。

「あなたも考えてくれた?」

逃げ場が見つからないタズは観念し、タナに答える。

「そうだな…」

「私は真剣なんだけどなぁ…何か不満?」

タナの言葉にタズは少し動揺する。

「いや、そうじゃないんだ。ただ…」

「ただ?」

「…俺はゲカのアウタレスだぞ?」

「私はヒカのアウタレスよ。」

タナは一歩も引かなかった。

「ヒカは分かるが、ゲカはリスクが高くないか?」

「ゲカアウタレスでも子供は産めるわ。それに私ヒカアウタレスだし、逆に中和するかも。」

「あのなぁ~…」

タナがタズの言葉を遮る。

「一つ聞くけど、あなたがゲカアウタレスになった事って悲劇?」

「いや。唯なっただけだ。」

「つまりそういう事よ…私の母もヒカアウタレスになっただけ。父は関係なく母を愛し続けたわ。」

「そういうものか?」

「そんなもんよ。」

「…」

タズはしばらく沈黙し、彼なりの考えをタナに示す。

「分かった。時間をくれ。俺も避けてばかりじゃ駄目だ。ゲカと向き合わなければ…答えはその後でいいか?」

タズはタナと向き合い、タナはそっと微笑んだ。

「はい。」

ムスタ・プキン村に夜明けがやってきた。

~半年後~

   ムスタ・プキン村多発的ゲカアウタレス襲撃事件終結から約半年後、村はすっかり元の調子を取り戻していた。以来ゲカアウタレスの出没件数も例年通りまで落ち着いていた。混乱の渦中にあったゲカプラント開発計画は会議で見直され、稼働中の試作ゲカプラントは小型だが発電量が十分な事もあり、このまま運用を継続する形で合意した。ゲカアウタレスが急増するといった事態もなくなったため、住民のゲカプラントに対する注目も薄れていった。そんな中、父の跡を継ぎ、アウターマテリアルの研究者を夢見るペリは猛勉強し、学力試験を受けた。結果、元々勉強熱心だった彼女は新学期から小学4年生に飛び級する事になった。彼女はまだ6歳である。同じく6歳になった友人のロッケウスは彼女の後を追い、試験を受けたが彼女には及ばず、それでも小学2年まで飛び級が決まった。試験会場の外では様子を見にタズとタナがペリを待っていた。

「そういえばティアナは今どの辺にいるんだ?」

タズがタナにティアナの近況を聞いた。

「知らないわ。彼女は唯彼女を必要とする所へ行くだけよ。」

既にティアナは村を離れ、どこかへ旅立っていた。タナは懐から煙草を出そうとしていると、タズの肩が彼女の肩に触れた。タナが前を向くと、入り口からペリが出てくるのが見え、タナは煙草を戻す。先に試験結果を受け取ったペリがタズとタナの前で立ち止まる。二人はペリの顔を見て優しく微笑んだ。ペリの顔は満面の笑みで溢れ、彼女の笑顔は光り輝いていた。

-最終話~武装サンタと聖誕祭~ ~完~

2014年11月3日月曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第4話~燃える聖誕祭~

-第4話-

   12月後半、ムスタ・プキン村は迫る聖誕祭に向けて賑わっていた。観光客も増え、まるでゲカアウタレスの脅威が嘘のようだった。しかし実際は未だにゲカアウタレスの出没は増えているのだが、武装サンタ、警察や賞金稼ぎなどがアウタレスを未然に防ぎ、討伐していた為、住民はアウタレスの脅威に対する実感がなくなっていった。アウタレス討伐隊の増援もあったが、何よりサン・ティアナ・ローズの参戦が戦況を大きくひっくり返した。彼女は助けたペリとロッケウスを叱った後、村のあちらこちらで暴れ回り、ゲカアウタレスを次々に浄化していった。負傷者は出していないものの、彼女が暴れたせいで討伐隊の数多くの機材も被害を受けた。彼女はまさに嵐だった。そして今も尚、彼女は仲間と一緒に村の外れでバッタ型ゲカアウタレス数体と戦闘に入っていた。

「てぃやぁあああ!」

ヒカのアウタレスであるティアナの跳び蹴りは、地面を抉る破壊兵器と化す。しかしバッタ型アウタレスは事前に跳び、ティアナの蹴りを避けた。彼女が近付く度、アウタレスは彼女から距離を取る。タナはグレネードを投げティアナを援護した。それを見たティアナはある事を閃く。

「ねぇ、それ貸して!」

「いいけど使い方分かるの?あんた機械音痴だからねぇ…いい?まず安全ピンを…」

ティアナはタナの話を全く聞いておらず、グレネード片手に構えていた。

「こら!ピンをぬ…」

「せぇい!」

ティアナは安全ピンが刺さったままのグレネードを思いっきり投げた。

「あ…」

ティアナの投げたグレネードは音速を超え、衝撃波を作った。グレネードはアウタレスに命中し、あまりの衝撃でグレネードが暴発した。直撃したアウタレスは吹き飛んで気絶していた。

「よし!」

この光景を見ていたタナ、タズ、ヒュオリ警部は絶句した。タナはティアナを呼ぶ。

「あんたそんなの使わなくてもヒカが使えるでしょ。」

「あ、それもそうか。タナありがとう。」

ティアナは拳に力を入れ、白いオーラが腕に纏った。

「ふんっ!」

ティアナは拳を突き出し、ヒカの波を連射した。
アウタレスは必死に逃げ、地面に次々と穴が開いた。タナは頭を抱え、自身の言った事を後悔する。

「言わなきゃよかった…」

ティアナはバッタ型アウタレスを一体ずつ浄化し、健康なものはそのまま普通のバッタの姿に戻っていた。彼女は引き続き残りのアウタレスとの戦闘を継続した。

「またあの『ローズ姉妹』の活躍が見られるとはな…」

ヒュオリ警部はタナとティアナのコンビを見て懐かしみ、タナが照れくさそうに言う。

「よしてよ、恥ずかしい。てか殆どあの子の独擅場じゃない。私が手を出す頃には終わってるわ。」

「まぁ確かに彼女の勢いはとんでもないな。あれだけヒカを使用しても疲れ一つ見せない。アウタレス討伐隊の増援も助かったが、やはりティアナは別格だな…」

ヒュオリ警部はただただ感心していた。

「周辺やゲカの素材ごとぶっ飛ばさなけりゃありがたいんだが…これじゃ稼ぎがパーだ…」

タズはため息をついていた。

「ところで以前聞いたのだが、ティアナには国際同盟軍特殊部隊の監視が付いているのは本当なのか?」

ヒュオリ警部の問いにタズが答える。

「ああ、そうだ。今も村の外にいるだろう。彼女はよく旅に出るからしつこくつけられて迷惑らしい。」

「そこまで彼女は脅威になるのか?」

「ティアナは過去に数カ国の闇組織や軍で結成された非合法部隊に狙われた事があってな。支援者達の助けもあったが彼女はこの部隊を返り討ちにした。おかげでティアナは世界中の政府機関の目に留まったという訳さ。」

「凄いな…ティアナの監視だけで彼等は他に何もしないのか?」

「彼女は多くの闇組織を廃業に追い込み、助けた人の数は計り知れない。ティアナの行動で得する国は黙認し、彼女を恨む国は入国拒否。まぁ彼女にちょっかい出すと彼女の支援者達からも睨まれるからな。彼女とあまり関わりたくない国が大半だろう…」

「複雑だな…そういえば言い忘れていたのだが…」

「?」

「次またティアナを誘導するために子供達を囮にしてみろ。お前を牢にぶち込むからな。」

「…」

ヒュオリ警部は恍けるタズと共にローズ姉妹と合流し、残りのアウタレスを討伐した。

-第4話~燃える聖誕祭~

   依然ゲカプラントに反対する声は多いものの、村は平穏を取り戻しつつあった。そんなある日、突如村中に警報が鳴り響く。放送は住民に屋内退避を命じ、村中の人間はパニックの中皆建物の中へ逃げていった。

「何があった?」

タズは通信でタナに事態の説明を求めた。

「今入った。ゲートガードが東に約5km、未確認のヒカアウタレスを捕捉したらしいわ。こちらに向かってる。全長約20m、濃度110%。軍が追跡中みたいだけど、タズも直ぐに向かって。私も向かうわ。」

「了解。」

タズはスノーモービルに乗り、東に向かう。

「もしかしてゲカ採掘場を襲ったやつか?て事は狙いはゲカプラントか?」

「ええ、そうみたい。経路的に真っ直ぐゲカプラントに向かっているわね。姿はオオカミ型よ。」

「何でヒカアウタレスまでプラントを狙うんだ…」

「聞いてみれば?」

「会いたくねぇよ。」

   緊急警報が流れて数分後、多くの武装サンタ、警察や賞金稼ぎが村の東に集まってきた。辺りは静まり返り、そこにいた人は皆唯じっと時が来るのを待った。やがて遠方から砲撃や銃声が聞こえ、それは次第に近付いてきた。

「来るぞー!」

タズの掛け声と共に全員攻撃態勢を整える。

「まもなく射程内だ。隊を南から回りこませろ。我々の流れ弾に当たっても知らんぞ。」

ヒュオリ警部は軍と連絡を取り、軍は進路を変えた。アウタレスは未だ見えないものの、砲を装備した者は砲撃を始める。遠くで煙が昇り、その中から巨大で白く、オオカミの様な姿をしたヒカアウタレスが現れた。


「どうしてヒカのアウタレスが…」

困惑するティアナを余所に、村のアウタレス討伐隊は一斉に攻撃を開始した。

「倒す必要はない。とにかく奴を村から遠ざけましょう。」

「うん…」

落ち込むティアナをタナは説得した。無理もない。余程の事がない限りヒカのアウタレスが人を襲う事はそうそう稀だからである。アウタレスは吼え、討伐隊に向かっていった。傷付きながらも、アウタレスは討伐隊を薙ぎ払いながら前に進んでいく。その光景を目の当たりにし、討伐隊の多くはやるせない気分になっていた。




軍のヘリに続いて戦闘車両も合流したがアウタレスは討伐隊を分断し、ゲカプラント目掛けて加速する。そこへティアナが腕を左右に広げ、アウタレスの前に立ち塞がった。アウタレスは彼女の目の前で立ち止まる。

「撃つなー!皆銃を下げろ!」

ティアナに気付いたタズは攻撃中止を叫び、タナやヒュオリ警部も周りを止めた。軍は攻撃を続けようとしたが、討伐隊が前にたちはだかった。ティアナは真っ直ぐアウタレスと向き合い、語り掛ける。

「もうやめて!どうしてこんな事するの?この発電所は村のみんなの生活に役立っているんだよ?ゲカを悪い事に使おうとしているんじゃないんだよ?あなたが傷付くのを見ていられない…ねぇ、どうして?教えてよ…」

ティアナの悲痛な叫びにそこにいた全員が静かに見守る。ティアナと向き合っていたアウタレスはゲカプラントを睨み付け、再びティアナの方を向いた。そしてアウタレスは後ろを向き、来た道をゆっくり帰っていった。討伐隊は武器を下げ、軍はアウタレスの後を追おうとしたが、討伐隊に再び阻まれた。

「何故追撃しない!弱っている今がチャンスなんだぞ!」

こう話すのはフェンラ国陸軍北部方面防衛管区所属の小隊長、ヴィハ・イイミセット少尉。男性。22歳。


「あんたも見ただろう。奴に攻撃の意思はない。ゲカアウタレスとは違うんだぞ?」

タズはヴィハ少尉の前に出て、彼を落ち着かせようと説得した。

「あのアウタレスはゲカ採掘場を襲撃した。犠牲も出ている!」

「怒るのも無理はない。だが一度踏みとどまってくれ。ヒカアウタレスがむやみに人を襲うのは滅多にない事だってあんたも知っているだろう?一応俺達もアウタレスだ。あのヒカアウタレスが襲ってきた時、何か変わった事はなかったか?頼む、教えてくれ。」

ヴィハ少尉は深呼吸した後、口を開く。

「私の名はヴィハ・イイミセット少尉。もしやあなたはゲカの武装サンタ、クローズか。」

「ああ。名をサン・タズ・クローズ。タズでいい。」

「本当にゲカを体に宿しているのだな…私の無礼を許してほしい。」

「気にするな。人が襲われたんだ。で、先程の話だが、何か変わった事はなかったか?」

ヴィハ少尉は考え込む。

「変わった事か…我々があのオオカミ型と戦闘に入った時、別のヒカアウタレスが助けてくれたのだ。全長約20m前後。濃度18%の白いクマ型アウタレスだ。」

「ゲカ採掘場に何か特別な事は?」

「いや。我々も調べたが採掘されたゲカの質も採掘量も安全基準上特に問題はなかった。普通のゲカプラント開発直営のゲカ採掘場だ。」

「ゲカプラント開発直営なのか。」

「そうだ。資源調達から製品販売まで一括でやっているらしい。何か?」

タズは頭の中で何かが引っかかっていたが、それが何かは分からなかった。

「いや、なんでもない。少尉はこれからどうする?」

「とりあえずあのオオカミ型を尾行する。しばらく様子を見るつもりだ。敵対してくるなら問答無用で対抗する。」

「そうか。奴は一度ここを狙ってきたからな。また来るかもしれん。その時は少尉に連絡する。」

「感謝する。では我々もそうしよう。」

ヴィハ少尉はタズと別れ、ヒュオリ警部と防衛体制などについて語り合った。タズが仲間のところへ戻ると、ゲカプラントからスフェルが不安そうな顔つきで来ていた。

「怖かったです…助けていただきありがとうございます。」

タナはスフェルの肩をそっと叩く。

「無事で何よりね。」

「アウタレスはどうしたのですか?」

「去っていったわ。」

スフェルの顔が硬くなる。

「えぇ~…もしまた襲ってきたらどうするんですか~…」

「大丈夫よ。さ、みんな帰った帰った。」

村のアウタレス討伐隊や軍は解散し、ティアナはオオカミ型アウタレスが去っていった方角を見つめていた。

   時は経ち今は聖誕祭前夜、村にいる人間は再び起こるかもしれないアウタレスの襲撃を警戒しながら恐る恐る聖誕祭の準備を進めていた。そんな中、村の北西、タズの住処の近くで普段より多いゲカアウタレスの群れが捕捉された。タズ、タナ、ティアナを含めた村のアウタレス討伐隊がそこへ向かい、アウタレスと対峙した。時同じくしてオオカミ型のアウタレスが再びゲカプラント東に現れ、村に警報が鳴り響く。

「何だと?」

タズはヴィハ少尉から通信を受けた。

「やむをえん。これよりオオカミ型を攻撃する。」


別の討伐隊と軍が東に集結し、オオカミ型と戦闘を始めた。しばらくしてそこへ巨大なクマ型ヒカアウタレスが姿を現した。


白い巨体で大きな爪を持ったアウタレスは以前軍をオオカミ型から助けたものだった。クマ型も戦闘に参加しオオカミ型と対決した。

「これが例のクマ型か。」

クマ型を見上げながらヒュオリ警部は呟いた。その頃タズ達は未だ北西にいた。

「クソ…どうしてこんな時に…」

東の戦闘が気になって仕方がないタズ、タナ、ティアナはさっさとゲカアウタレスを処理し、急いで東に向かった。特にオオカミ型を気にかけていたティアナは不安の色を隠せなかった。三人が東の現場に着いた頃、ぼろぼろになったオオカミ型が袋叩きにあっていた。傷だらけになっていたオオカミ型は全てを無視し、唯クマ型だけを狙い攻撃していた。オオカミ型の素早い牙に対し、クマ型は腕の大きな爪の一撃で応戦する。ヒカアウタレス同士が傷つけあう。そんな光景を目の当たりにし、ティアナは膝を突いて言葉を失う。

「こういう事もあるわ…見てて辛いけど…」

タナはティアナをそっと抱き寄せた。タズはヴィハ少尉の元へ行き、状況の詳細を求める。

「状況は?」

「見ての通りだ。オオカミ型が再び村に向かっていった。やむなく我々は奴を追撃、その後クマ型が現れた。以前と同様クマ型はオオカミ型を攻撃、我々に加勢した。またクマ型に助けられる形になった。オオカミ型については残念だが諦めてくれ。人に危害を加えるなら我々の敵だ。」

「そうか…」

クマ型との戦闘の末、オオカミ型は倒れ、横たわった。クマ型はオオカミ型に近付き、腕を振り上げた。

「やめてぇえええええ!!!」

ティアナは反射的にクマ型に突っ込み、クマ型の腕を殴った。一瞬ヒカの閃きの後、ティアナはオオカミ型の横に着地する。

「あれ?」

ティアナは自身の拳に違和感を覚えた。それを見ていたタズは何かを悟る。ティアナは我に返り、人の味方になるヒカアウタレスを攻撃した事に重責を感じた。周囲にいた人間も同様、ティアナの過ちに騒然としていた。クマ型はティアナを睨みつけ、彼女の方へ歩いていく。そこへタズが駆け寄り、いきなりヒカを褒め称え始めた。

「おお、全知全能なるヒカのしもべよ。そなたに天の祝福を。今こそヒカの大いなる御業を褒め称えよう…」

その場にいた人間は唖然とし、タズが狂ったと見て取った。タナは黙ってそれを見守る。タズの声を聞いたクマ型は一度タズに振り返り、再びティアナを向いた。

「悪しきゲカを撃ち滅ぼし、汚れたものを打ち砕く。ヒカの栄光は何ものにも代えがたい…」

ヒカを賛美するタズをクマ型は無視した。そこでタズはクマ型の前で向き合い、大声を上げる。

「忌まわしきゲカはヒカには打ち勝てず、ヒカの前では敗北を得るのみである…」

タズの中に眠るゲカが疼くように黒いオーラを放った。苦しみながらも、タズは続ける。

「ゲカはヒカの許しなくては何もできず、滅びの時まで抗い、最後には膝を突いて朽ちていく…」

クマ型は身震いし、痺れを切らしタズを向き腕を振り上げた。タズは笑みをこぼし、懐からショットリボルバーを抜き、クマ型目掛けてぶっ放した。放たれた一発の弾丸は白い閃光を放ちクマ型の顔面を直撃する。

「どうだ?大好きなヒカをたっぷり味わいな。」

タズが放ったのはヒカの複合材で作られた弾丸だった。周囲は何が起きているのかを理解できず、次の瞬間、更なる衝撃が彼らを襲う。クマ型の体が一気に黒く染まったのである。

「それがお前の能力か。ヒカやゲカの濃度を自在に操れるとは…確かにゲカは元々ヒカだったらしいからな…珍しい…完全に騙されたよ。」

タズの口調が変わる。

「それとお前、ゲカプラント開発のスフェル・フォルケだろ?」

みんなが見守る中、クマ型は後ろへ下がり、黒いオーラを身に纏い人の姿になった。

「これは驚いた。どうして俺だと分かった?」

今までのか弱いスフェルとは打って変わって冷酷な表情の彼を見た周囲の人間は驚愕し、ざわめいていた。

「ラケンナ・ホペの最後の言葉。それとそのオオカミ型がヒントをくれた。」

「ちっ、もっと早く始末するべきだったな…それで?」

「ゲカプラント開発計画が発足してからアウタレスが増えたんじゃない。お前がこの村に来てからだ。ゲカアウタレスを誘き寄せていたのはお前だろう?そしてヒカアウタレスであるオオカミ型を襲った。奴の恨みを買うように…オオカミ型はゲカを狙っていたんじゃない。お前を狙っていたんだ…」

全てを見抜かれたスフェルは笑いだす。

「ハハハハハ…」

「ゲカプラント開発側に立ちゲカに対する不安を煽り、プラント襲撃で被害者ヅラか。随分と村を混乱に貶めてくれたな。」

「社会の流れに翻弄されるのが人の常だろう。フッ、何を今更。俺は道を示したに過ぎない。それにゲカを求めたのはお前達の方じゃないか。都合が悪くなると自身の過ちに目を瞑る。人とは愚かなる生き物よ…」

「お前も人だろう。」

「俺は人を超えた。人がそんなに力が欲しいのなら、力と一つになればいい。人は弱くて退屈だ。お前なら分かるだろう?」

「人をやめたお前に人を語る資格はない。」

「そうか。ゲカを持ちながらゲカの意志に背く。なんと愚かな!」
スフェルは再び黒いオーラを放ちながらクマ型に変貌する。


「いいだろう、愚かなる人類よ。この村の歴史に最高の聖誕祭を刻んでやる!」

クマ型は顎にゲカを溜め、軍用ヘリを狙いゲカの波を放つ。ヘリは緊急回避するもののゲカがテールローターをかすめ、ヘリは地面に不時着した。

「奴を打ち倒せぇー!!」

ヴィハ少尉の号令の下、軍や討伐隊はクマ型に一斉攻撃した。ヒカの力でオオカミ型の治療に当たっていたティアナは、どうすべきか迷っていたところにタナが来た。

「ティアナは治療を続けて。そいつを守るのよ。」

「うん。分かった。」

ティアナはシャキッとし、オオカミ型の治療を続けた。爆風が吹き荒れる中、タズはスノーモービルに駆け寄り、後ろのコンテナから斧が装着された無反動砲、66mmアックス・バズーカを取り出し両肩に担いだ。彼が時刻を確認すると、日付はもう変わっていた。12月25日水曜日、クリスマスは波乱の始まりを迎える。

「さぁ、楽しい聖誕祭の幕開けだ!」

-第4話~燃える聖誕祭~ ~完~

決戦の行方
聖誕祭
武装サンタの住む村

次回-最終話~武装サンタと聖誕祭~