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2015年3月26日木曜日

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~「愛をいつまでも止めないで」(歌詞)

love won't stop forever never
その手を離さないで
いつまでも心にあるから

君が出会った時
幸せがまた一つ咲いた
胸が高鳴り歌う

君は世界を知って
見える喜びだけに触れて
一つの幸せが枯れる

大切なんだよって
そんな事も伝えずに
忘れて心離れて
傷付けてしまっても

love won't stop forever never
涙を隠さないで
笑顔で強がっていても
心はずっと泣いてるよ

love won't stop forever never
温もりを思い出して
当たり前の幸せだなんて
幸せ忘れてたのかな

君が心乱し
過ち元に戻そうとして
無駄な努力を重ねる

君は自分を呪って
それでも必死に足掻いて
心を削っていく

wooh・・・

(間奏)

泣き叫ぶにも疲れ果てて
吐きたい程苦しくて
忘れるために眠りに着き
目覚めては思い出して

砕けた心は直せず
集めた欠片も捨てて
壊れたはずの君はなぜ
また涙を流してるの

まだ思いが残っているよ
心を覗いてごらん
奥に光が見えるだろう
初めから君といたんだよ

love won't stop forever never
その目を輝かせて
大事なもの見つめる時
嬉し涙が溢れるよ

love won't stop forever never
その手で握り締めて
言葉を交わせなくても
温もりは伝わるよ

love won't stop forever never
love won't stop forever never
love won't stop forever never yeah yeah

love won't stop forever never
(oh yeah)
love won't stop forever never
(just be on your side)
love won't stop forever never yeah yeah
(never gonna let you go)

love won't stop forever never
(oh yeah)
love won't stop forever never
(never gonna let you alone)
love won't stop forever never yeah yeah
(forever never, forever never never yeah)

love won't stop forever never
(when your heart is down)
love won't stop forever never
(when your heart is drown)
love won't stop forever never yeah yeah
(when your heart is torn)

love won't stop forever never
(when your heart was born)
love won't stop forever never
(when your heart was grown)
love won't stop forever never yeah yeah
(when your heart was gone)

love won't stop forever never・・・

2015年3月23日月曜日

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~最終話~ユウとジュウの歌~

-最終話-

   モコ率いる賞金稼ぎの三人と警察の活躍により、ユウとジュウの殺害を狙った傭兵部隊シノソの計画は阻止された。警察は捜査を続け、病院内部の情報を不正に入手していた職員を逮捕した。残りの傭兵部隊とその傭兵部隊に依頼した製薬会社は、所属不明のパワードアーマーによって壊滅に追い込まれた。


こうしてユウとジュウの命を狙う者はいなくなり、病院は二人の治療に専念する事ができた。

-最終話~ユウとジュウの歌~

   イヨ先生はユウとジュウに臨床試験を行い、試験は無事成功した。回復の兆しが見えた二人はより本格的な治療を受ける事となった。頻繁に襲ってくる痛みに耐え、二人はいくつもの治療を重ねる。ユウとジュウはみるみる回復していき、ついには退院できる程元気になっていた。初めてヒカ硬化症の治療に成功したイヨ先生は注目され、その後医学界で評価された。まだ後遺症が残っているため、ユウとジュウは定期的に治療を受けた。二人はリハビリも兼ねて、久々に音楽に励んだ。再び音楽に触れる事ができる喜びに、二人は感動した。

   ユウとジュウの治療が始まって数ヵ月後、バンド練習を十分に積み重ねてきた二人は、ついに公の場でカインド・ソフト・ソングとしての活動を再開する事になった。復帰後初のライブは、他のインディーズバンドも複数参加する合同屋外ライブである。そのため入場者数は多く、二人が今まで経験した事がない規模のライブだ。二人を心配し、この日を待ちわびたファンは大いに喜んだ。そして迎えたライブ当日、会場は期待に胸膨らませる客で溢れていた。ライブ開始時刻が近付き、日が沈む中、一組目のバンドがステージに飛び出してきた。観客は騒ぎ出し、一曲目の歌が始まった。歌が会場に響き、バンドと観客が一体となって音楽を楽しんでいた。その光景を目の当たりにし、ユウとジュウは圧倒されていた。

「ユウさん緊張してる?」

ステージ裏から会場を覗くユウにジュウがそっと囁き、ユウは会場を見つめたまま言う。

「うん、だから私の手を握っていてほしいな・・・」

ジュウはユウの手をそっと握り、ユウはその手を握り返した。ジュウはユウの方を向く。

「モコさん達も聞いてくれるかな、僕達の歌・・・」

「きっと聞いてくれるよ・・・褒めてくれたしね、いい曲だって。」

「確かに、それは間違いないね。」

二人は互いの顔を見て笑い合った。

   カインド・ソフト・ソングの出番が近付き、スタッフがユウとジュウをステージ横に呼ぶ。二人は暗いステージ横に着くと見つめ合い、そしてそっと抱き合った。それを見ていたスタッフ達は顔を真っ赤にして思わず見蕩れてしまう。

「色々あったね・・・」

ユウが囁き、ジュウも返す。

「うん、色々あった・・・」

「みんなのおかげで、ジュウ君のおかげでここまで来られた。」

「今度はみんなに感謝を伝えよう。僕も、ユウさんに精一杯のありがとうを伝えるよ。」

「私もだよ。」

ステージでカインド・ソフト・ソングの名前が呼ばれ、ユウとジュウはステージに駆け出した。二人を知っている観客は一気に盛り上がり、歓声が響いた。ユウとジュウは歌い始め、それを聞いたファンは感動で涙を流した。二人を知らない観客も二人の演奏を楽しんでいた。そして一曲目が終わり、ユウが観客に向かって挨拶を始める。

「皆さんこんばんは~・・・カインド・ソフト・ソングです・・・しばらく活動を休んでいましたが、こうやって再び皆様の前で歌えるようになりました~。私達を支えてくれた皆様のおかげです・・・なので今夜は、そんな皆様に、そして恩人に、この歌を送ります。二人で作った出来立てほやほやの歌です。聴いて下さい。『愛をいつまでも止めないで』」

ユウが話し終わると、ステージが静かになった。ユウとジュウは互いを見て息を合わせ、アカペラで歌い始めた。二人の澄んだ歌声は、多くの観客の心を掴んだ。アカペラが終わると、伴奏が始まり、ユウとジュウはギターを弾きながら歌いだした。

会場が盛り上がっていると、観客席の後ろにイヨ先生と三人の男女が立っていた。

「いいのか?こんなに離れていたらあまり二人が見えないぞ?」

イヨ先生がそう言うと、腕に包帯を巻いた女性がステージに背を向ける。

「傷に響くからいいんだよ、ここで。どうせこれからはいつでも会えるしな・・・」

女性がそっと振り返ると、ユウと目が合った。遠くからでも、ユウはその女性に気付いた。ユウはジュウに目で訴え掛けると、ジュウもその女性と彼女の仲間達に気付く。観客席の後ろに立つ四人を見て、ユウとジュウの顔は笑顔で溢れた。高鳴る喜びを胸に、ユウとジュウは歌のサビを熱唱する。

「いい歌だな。」

女性が微笑み、彼女の連れ三人、そしてユウとジュウも、皆笑顔が絶えなかった。

-最終話~ユウとジュウの歌~ ~完~

2015年3月22日日曜日

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~第4話~ヒカ硬化症との戦い~

-第4話-

   路上ライブで声が出なくなったユウは回復し、声も戻った。しかし彼女の容態は日に日に悪化し、検査の結果、ユウは入院する事となった。これはバンド活動の中止を意味し、カインド・ソフト・ソングは無期限休止を発表した。ユウとジュウのファンは悲しんだが、彼らはユウの回復を祈った。賞金稼ぎの三人は交代で大学病院に寝泊りし、ユウの警護に当たった。ジュウは暇を見つけては毎日ユウのお見舞いに来ていた。優しい彼が会いに来てくれる事を喜んではいたが、ユウは少し罪悪感を抱いていた。

「ジュウ君まで音楽をやめなくていいんだよ?」

ベッドの上で弱々しい声を放つユウに、ジュウは近付いてそっと呟く。

「僕は今ユウさんとバンドを組んでいるから、ユウさんと一緒にいるよ。」

ユウは嬉し涙を浮かべ、ジュウの手を握った。ジュウは一日の大半を、ユウの病室で過ごしていた。その後ジュウの願いが叶ったのか、容態が悪化したジュウも入院する事となった。賞金稼ぎの三人からするとユウとジュウが一箇所にいてくれて負担は減るのだが、彼等は全く喜べなかった。ユウとジュウは毎日一緒に過ごし、二人の距離が縮まっていくが、二人の寿命も縮んでいく。ヒカ硬化症は二人を蝕み、治療法の確立は急務だった。

-第4話~ヒカ硬化症との戦い~

   警察はイヨ先生やモコといった一部の関係者を呼び、捜査結果を報告した。警察の捜査により、ヒカ硬化症に関する資料を狙った犯人が特定された。犯人は国外で営業する外資系の製薬会社だった。会社の規模は大きくないが、調べると大企業の傘下にいる事が分かった。犯人は親会社の指示で動いているものと推測されるが、まだ証拠は挙がっていない。更にこの製薬会社は傭兵部隊、「シノソ」と契約した事も分かった。

「シノソだと?」

モコが衝撃を受けていると、イヨ先生が問う。

「彼等を知っているのか?」

「ああ、名前くらいならな・・・しかし傭兵となると、雲行きが怪しくなってきたな・・・」

ユウとジュウが入院した頃から、シノソ傭兵部隊の行方は分からなくなっていた。警察は傭兵部隊がユウとジュウを狙うため動き出したと推測し、二人を警護するため病院に私服警官を配置した。以来病院の周辺付近では不審者の報告が増え、警察や病院は危機感を募らせていた。

   ジュウが体中の痛みに悩まされていた頃、イヨ先生がモコの元へ走ってきた。

「おいおい、どうしたんだよ。」

驚くモコを前に、イヨ先生は息を整える。

「臨床試験の許可が下りたぞ。これでユウとジュウを治療できるかもしれない。」

「本当か。じゃあ治療法ができたんだな?」

喜ぶモコとは裏腹に、イヨ先生は浮かない顔をしている。

「ああ。後は二人と二人の家族の承諾を得れば大丈夫だ・・・只手術は別の病院で行うだろう・・・」

「なんでだ?ここじゃ駄目なのか?」

「警察からユウとジュウを別の病院に移してくれと頼まれてな。秘密裏に、もっと警備がし易い病院へと・・・この病院は内にも外にも敵がいる。特に面倒な傭兵部隊も行方不明のままだ。手術の件について敵もその内知るだろう。」

「この病院で適切な治療を受けた方がいいと思うが・・・他の病院でもその治療法が使えるのか?」

「まぁいくつか機材を運べば大丈夫だ。確かにここで治療できれば一番良いのだが・・・」

モコは何も言わず窓に向かい、考えた。自分に何ができるか、ユウとジュウに何をしてやれるのか。考えた末、モコはイヨ先生に振り返る。

「とりあえず傭兵部隊をなんとかすればいいんだよな?ユウとジュウの護送の件、私に任せてくれないか?」

「あ、ああ。警察に掛け合ってみよう。」

   モコは病院、警察と話し合い、ユウとジュウの護送の日程が決まった。ユウとジュウはチタイ副都心の外にある病院に送られる事になる。そして迎えた当日、モコはヒノホとカジカと話し合っていた。モコは二人に最終確認をする。

「本当にいいのか?降りるなら今の内だぞ?」

そう聞いたヒノホが余裕を見せる。

「最後まで守ってやるさ。それが仕事だからな・・・それにモコは一人でもやるつもりなんだろ?」

「俺はその分報酬が入るなら文句はねぇな。」

カジカも緊張している様子はなく、普段通りに振舞っていた。そんな二人を見たモコは安心する。

「やっぱお前等は最高だな。」

続いてモコは医療ベッドに横たわるユウの元にやってきた。

「人が多くて慌ただしいですね。」

医療スタッフ以外に私服警官も多く、ユウは不審がっていた。そんな弱々しいユウの笑顔を、モコが覗き込む。

「ユウの病気は難しい病気だからね。それに皆、ユウちゃんを守ろうと頑張っているんだよ。」

「嘘は駄目ですよ、モコさん。」

ユウは何かを察しているようだった。

「嘘なんかじゃないよ。ユウは私達が絶対守るから、ユウは病気に勝たなきゃ駄目だぞ。」

「はい、ありがとうございます。じゃあこれからもモコさんが私達を守って下さいね?」

「・・・ああ。」

モコが微笑むと、ユウは少し涙ぐんでいた。

昼頃、賞金稼ぎ三人と警察はユウとジュウの護送作戦を決行した。ユウとジュウの医療ベッドの周りを人で囲み、病室から病院の地下駐車場に向かった。イヨ先生も、彼等と同行していた。一行は地下駐車場に着き、賞金稼ぎ達と警察が前を進む。安全を確認し、一行が進むと、先頭にいたモコが突然立ち止まり、皆に振り返り言う。

「ここから作戦変更だ。」

病院の出口から、一台の黒い車が出てきた。しばらく間を置き、別の車がその車の後を追った。数分後、病院からもう一台の黒い車が出てきた。先程と同じように、また別の車がその車を追った。それぞれ違う方向に進む二台の黒い車を、二台の車が追ってきた。黒い車を追ってきたのは、傭兵部隊、シノソだった。傭兵は黒い車の中を確認するため、車に近付いてくる。それに気付いた黒い車は加速し、傭兵の車も加速する。黒い車は追っ手を振り切ろうと運転が荒くなるが、傭兵は気にせず突っ込んできた。都市の中でカーチェイスが始まり、警察が動き出した。焦りだした傭兵は銃を出し、それぞれの黒い車を撃ち始めた。一台目の黒い車の窓ガラスは割れ、車内の様子が見えた。運転していたのはモコで、それ以外の者は見当たらなかった。モコが駆る車両が囮であると確信した傭兵はモコを追う事をやめ、もう一台の黒い車を追うため道を引き返した。

「行かせるかぁあああ!!!」

モコはドリフトしながら傭兵を追った。今度はモコが傭兵を追う側になった。一方別の黒い車も、傭兵から銃撃を受けていた。車内からカジカが銃を構え、傭兵に応戦した。車を運転していたヒノホはモコから連絡を受け、叫ぶ。

「おい、モコがばれた!あとちゃんと狙えよ!流れ弾が一般人に当たるぞ!」

「くそ・・・しょうがねぇな・・・」

カジカはアサルトライフルを背負い、窓を全開した。

「おい、どうする気だ?」

「奴らを直接叩く。後は任せるぜ。」

「おい!」

カジカは窓から車の屋根に上り、脚を踏ん張り一気に跳んだ。乗っていた車の屋根は凹み、彼は全体重を掛けて敵車両のボンネットに着地した。反動で敵車両の尻が浮き、車のフロントタイヤがバーストした。

「サイボーグを舐めるなよ。」

撃たれながらも体制を整えたカジカは敵車両のフロントガラス目掛けてアサルトライフルを乱射した。敵車両はコントロールを失い、火花を散らしながら横転した。カジカはその反動でボンネットから吹っ飛ばされた。

「くそっ!」

ヒノホは車を止め、アサルトライフルを取り出し車から降りた。辺りを警戒しながら、ヒノホは少しずつ敵車両に近付いていく。地面には動かない傭兵が横たわっていた。ヒノホは蹴りを入れ、その傭兵の意識を確認する。すると一人の傭兵が車内から飛び出し、ヒノホを銃撃する。ヒノホは撃たれ、彼は地面に崩れ落ちた。傭兵は直ぐ様走り、ヒノホが運転していた車の車内を覗き込んだ。車内には誰もいなかった。唖然とする傭兵は横から撃たれ、そのまま倒れた。撃ったのは地を這ってきたヒノホだった。

モコは尚もカーチェイスを繰り広げていたが、敵車両を止められずにいた。モコが焦っていると、何かを思いつく。彼女は運転席からロケットランチャーを構える。

「死ねぇえええええ!!!」

ところが彼女のランチャーを見てみると、弾薬が装填されていなかった。モコは空のランチャーを構えていたのである。ランチャー片手に、とんでもない笑顔のモコが車を飛ばす。それを見た敵は避けようと咄嗟にハンドルを切り、モコはそれを見逃さなかった。アクセルを思いきり踏み込み、モコは車を敵車両の尻にぶつける。敵車両はスリップし、道の電柱にぶつかり停車した。しかしモコはアクセルを緩めず加速を続け、傭兵達が降車する前に、敵車両に衝突した。衝撃で傭兵達が乗る車両とモコが乗る車両はそれぞれ大破した。どちらの車両からも、降車する者はいなかった。

結局のところ病院から出てきた二台の車両のどちらにも、賞金稼ぎの三人以外は誰も乗っていなかった。つまりどちらも囮だったのである。病院内にも敵がいる事を知らされていたモコはユウとジュウの護送中、襲撃にあう事を警戒し、ぎりぎりまで当初の作戦を遂行していた。そしてユウとジュウを車に乗せる前に作戦を変え、二台ともを囮にし、その他を病院に残した。傭兵部隊は作戦変更を知らないまま、囮を追った。僅かに残っていた傭兵部隊は病院に潜入したが、私服警官が病院に残り警護を続けていたため、多くは直ぐに取り押さえられた。こうしてユウとジュウを狙った傭兵部隊の計画は失敗に終わった。

モコと傭兵部隊の車両が衝突した現場には、警察や消防が集まり始めていた。血まみれでハンドルに寄りかかるモコの目は動く事なく、彼女の顔はそっと微笑んでいた。

-第4話~ヒカ硬化症との戦い~ ~完~

治療の行方
ファンとのライブ
馴染みのある客

次回-最終話~ユウとジュウの歌~

2015年3月17日火曜日

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~第3話~ユウとジュウの希望~

-第3話-

   ユウとジュウはバンド、カインド・ソフト・ソングを結成し、二人は早速バンド練習や曲作りに励んでいた。そんな二人を見守るモコは護衛の助っ人として、二人の賞金稼ぎ仲間を呼んだ。一人目はクナウ・ヒノホ。25歳の男性。ジュポ国出身。仕事でよくパワードアーマー(人型強化装甲。パワードスーツを着て搭乗する人間サイズの人型ロボット)に乗っている。



二人目はムヒ・カジカ。24歳の男性。サイボーグである。ジュポ国出身。


二人はモコと親しく、信頼できる友だった。モコから依頼内容を聞いたヒノホとカジカは、どこか浮かない顔をしていた。

「なぁ、護衛なんてよく分からないぜ?しかもばれずにやるのかよ・・・パワードアーマーは目立つと思うぞ?」

弱音を吐くヒノホに続いて、カジカも愚痴をこぼす。

「俺も護衛なんてきついぜ・・・一体何すりゃいいんだ?」

テンションの低いヒノホとカジカはお構いなしのモコが、二人に指示する。

「まずヒノホは送迎用のバンの運転手をやってもらう。そしてカジカはサイボーグだから自由に顔を変えられるだろ?お前は変装を繰り返し通行人の振りしてユウとジュウを護衛しろ。不審者の注意も忘れずにな。」

「パワードアーマーじゃなくて車の運転なのか・・・」

落ち込むヒノホの肩をカジカが叩いていると、ユウとジュウがやってきた。

「こんにちは、モコさん。」

ユウが挨拶し、モコがユウとジュウに、ヒノホとカジカを紹介する。

「紹介するね。こちらがクナウ・ヒノホ。それとこちらがムヒ・カジカ。二人共私の賞金稼ぎ仲間よ。二人はミュージシャンになる夢があったんだけど才能なくてねぇ~・・・だからユウちゃんとジュウ君に協力してくれるんだって。」

「え?」

初めて聞いた設定にヒノホとカジカは心の中で困惑した。ユウとジュウもヒノホとカジカが何を協力してくれるのかよく分からないでいた。ユウが質問する。

「ヒノホさんとカジカさんはバンドに加わるのではないのですか?」

「二人にはバンドの裏方をしてもらう。」

自信満々に説明するモコに、皆は只頷く事しかできなかった。結成間もなくバンドメンバーより裏方の方が多いという謎を、誰も口にはしなかった。相変わらず笑顔なジュウを見て、ユウは色々と吹っ切れる。

「はぁ・・・」

-第3話~ユウとジュウの希望~

   準備が整ったカインド・ソフト・ソングは活動を始め、色々なところでライブをした。元々ユウとジュウは地元で少し知られており、二人のファンは増えていった。二人は共同で曲作りをし、「君に逢うために」という歌を完成させた。この歌は聞いた人々の心を掴み、カインド・ソフト・ソングの知名度は上がっていった。ユウとジュウは症状で苦しむ事もあったが、その時は互いに励まし合っていた。

その一方で、裏方を務めるはずだった賞金稼ぎの三人は、毎回トラブルを起こしては周りに迷惑ばかり掛けていた。機器の準備や手入れだけは上手くなったのだが、客の誘導、スケジュールの管理、ライブハウスのスタッフとの打ち合わせ等、どれもめちゃくちゃだった。挙句の果てにはギャラを払わないライブハウスの店長に対して、怒ったモコが店長に掴みかかった。

「モコさん落ち着いてください!今回はギャラ無しの出演なんですよ!」

ユウや周囲の人間が、暴れるモコを抑えようとしていた。

「入場料取ってるくせに、こっちが演奏してやったらギャラ無しっておかしいだろ!」

「よくある事なんですよ!最初にそういう話したじゃないですか!」

モコは止まり、少し冷静になる。

「・・・そうなのか?」

「・・・話はしっかり聞きましょうね・・・」

その後ユウを筆頭に五人全員はライブハウスの店長に頭を何度も下げ、なんとか許しを得る事ができた。

「少し話をしてもよろしいでしょうか?」

顔色を変えず、微笑みかけるユウに恐れを覚えた賞金稼ぎの三人は、そっと息を呑んだ。

「誰だって怒る事はあると思いますが、人を傷付けては駄目です。誰かを傷付けると、自分も傷付いてしまうから・・・バンドの役に立ちたいという思いは素敵だと思います。でも私にはモコさん達が無理しているように見えます・・・何か事情があるのですか?」

(これはまずいぞ・・・)

賞金稼ぎ三人はユウの笑顔に身動き取れず、何も言えないでいた。

「・・・正直に話そう。実は私達、イヨ先生から依頼を受けたんだ。」

モコのぶっちゃけに、ヒノホとカジカは心の中で叫ぶ。

(あああああ~~~!!!)

「どういう事ですか?」

ユウの質問に、モコが答える。

「ユウとジュウの容態を見ていて欲しい。そうイヨ先生に頼まれたんだ・・・ヒカ硬化症は症例が少なく対処法もよく分かっていない。しかもヒカに因る病だ。何が起こるか分からない。だから私達が常に側にいる事で、二人の異変にすぐ駆けつける事ができる。言ったでしょ?二人は私が守るって。」

「そうだったんですか・・・もう嘘は駄目ですよ?」

ユウはモコの嘘を信じた。

「分かった。ユウちゃんとジュウ君にはもう嘘は付かないよ・・・二人を騙してごめんなさいね。」

ヒノホとカジカは黙ったまま、目をキョロキョロさせていた。只会話を聞いていたジュウは言う。

「私は気にしてませんよ。皆といると楽しいし。」

 ユウとジュウは二人でバンド活動を再開し、賞金稼ぎ達は簡単な作業のみを手伝っていた。モコはこの事をイヨ先生に報告した。

「相変わらず冷や冷やさせるなー・・・しかし医療目的とは考えたな。ならそれを上手く利用しよう。」

イヨ先生は呆れながらも、ヒカ硬化症に関する簡単なマニュアルを作成し、ヒノホが運転を勤めるバンの改装も手伝った。バンの中には医療品が備えられ、簡単な応急処置に対応できるようになった。賞金稼ぎの三人は戦地に出向く事もあり、簡単な応急処置程度の知識なら既に持ち合わせていた。

「準備できたか~?」

運転席で暇そうにしていたヒノホが呟いた。バンの後ろ座席では、カジカが変装のため着替えている。

「もう少し待ってくれ。」

カジカは顔のパーツを換え、別人の姿になっていた。

「しっかし窮屈な仕事だな~・・・このままじゃエコノミー症候群になっちまうぜ・・・」

「まぁ動きがないのはこの仕事が上手くいっている証拠さ。何もなけりゃあ経費も増えず金も入る。悪くねぇ話だ。」

「冗談言うなよ・・・一回のミスで最悪な状況にもなりかねん・・・俺達がいくら傷付こうが大した事はない。だがあの子達に傷一つ付ける事はあってはならない・・・絶対に・・・心臓がいくつあっても足りねぇや。」

変装を終えたカジカがバンのドアを開ける。

「お前さんはいい親父になれるかもな。」

カジカは通行人に紛れ姿が見えなくなり、ヒノホはバンに残った。

「うるせぇ。」

   音楽活動を続けた結果、ユウとジュウの知名度は上がり、インディーズで名が広く知られるようになっていた。ある日イヨ先生は大事な話があると、モコ達五人を大学病院へ呼んだ。彼はスクリーンの前に五人を集め、映像を映し説明を始める。

「まずはこれを見てくれ。」

映像には電子顕微鏡で拡大された細胞のようなものが映っていた。

「これは人間の細胞かなんかか?」

カジカがそう言うと、イヨ先生が答える。

「そうだ。これはユウさんの細胞を拡大したものだ。」

「きゃあ!」

「なんで恥ずかしがるんだよ・・・」

赤面するユウにモコがツッコミを入れた。

「だって、ジュウ君にも見せた事ないし・・・」

「何言ってんだお前は・・・」

モコはすっかり呆れていたが、ジュウはいつもながらのジュウスマイルを振りまいていた。苦笑していたイヨ先生が続ける。

「そろそろいいかな?・・・ごほん、このユウさんの細胞はヒカの影響を強く受けていて、弱り、硬化も進んでいる。本来の姿ならこうだ・・・ところがこの弱った細胞にある細胞を加えると、こうなる。」

映像は変わり、先程の細胞より本来の形に近い細胞が映し出された。それを見た皆が驚く。

「おおお。」

「もしかして治療法が見つかったのか?」

カジカが問うと、イヨ先生が言う。

「このユウさんの細胞を蘇らせたのは、ジュウ君の細胞なんだ。」

「え?」

衝撃を受けたユウはジュウと見つめ合った。モコが問う。

「どういう事だ?ジュウは病を治す力があるのか?じゃあジュウの病は?」

「ジュウ君に特殊な力がある訳じゃない。ジュウ君の健康な細胞を使ったんだ。」

「なら逆もできるのか?」

「その通り。ユウさんの健康な細胞を使用した結果、弱ったジュウ君の細胞も蘇ったよ。何故この現象がみられたか。有力なのは健康な細胞が持つヒカ硬化症に対する抵抗力だ。ユウさんとジュウ君が持つ抵抗力の強い細胞を互いに共有し合えば、病を弱らせる事ができるかもしれない。」

「すげぇ・・・やったな。」

カジカはジュウの肩を叩き、ユウは目に涙を浮かべていた。ヒノホは先生に質問する。

「この治療法はいつ使えるんだ?」

「今はまだ無理だ。治療する部位、量、時間、拒絶反応・・・まだまだ調べなければならない事が多い。他の患者への適応も難しいだろう・・・只言えるのは、希望が残っているという事だ。だから君達も諦めないでくれ。私も力を尽くす。」

一行が帰る支度をしていると、モコはイヨ先生に別の部屋に呼ばれ、彼の忠告を耳にする。

「病院内部からも不正アクセスの痕跡が見つかった。敵は内側にもいるぞ。」

「私達の事は?」

「ヒカ硬化症は極めて稀な病だからな。賞金稼ぎを使った看視に異議を唱える者はまだ出ていない。只今後はより注意を払ってくれ。」

「分かった。早く犯人を見つけてくれ。」

「それは俺の仕事じゃない・・・」

   イヨ先生がヒカ硬化症の解析を続ける一方、ユウとジュウの症状は少しずつ悪化していた。ジュウよりも闘病生活が長いユウには、運動障害の兆候が見え始めた。それでもユウは悲しい顔をせず、ジュウは彼女に寄り添い、二人を賞金稼ぎの三人は見守っていた。そんなある日、夜の商店街の一角で、カインド・ソフト・ソングの路上ライブが決まった。ユウとジュウは路上ライブでスピーカーやアンプを使用しないため、商店街でのライブが許可された。そして迎えたライブ当日の夜、いくつかの店のシャッターが閉まる頃、ユウとジュウを見に来たファンが集まっていた。人数はそれほど多くはなかったが、彼等は皆二人の歌を心待ちにしていた。三人の賞金稼ぎが見守る中、ライブが始まった。時折来る病の痛みに耐え、ユウは熱心にギターを弾き、歌い続けた。二人が重病を患っている事を既に知っているファンも多く、彼等は静かに精一杯の声援を送っていた。ユウは一生懸命演奏し、ジュウとファンのテンションが高まった頃、それは起きた。

ユウは声が出なくなっていた。

歌はユウのソロパートに差し掛かったが、ユウの歌声は聞こえない。ユウは必死に声を絞り出そうとするが、音が上手く出てこなかった。ジュウは異変に直ぐ気付き、ファンもユウの悲しそうな顔を見て気付いた。ユウはギターを弾きながらジュウを見つめた。すると彼女の目には、いつものように微笑みかけるジュウの姿が映った。

大丈夫だよ。

彼の目はそう伝えていた。そしてジュウはユウのパートを歌い始めた。彼はユウのパートもしっかり覚えていた。涙をこらえ、ユウはギターを引き続けた。歌も後半に入り、再びユウのパートに差し掛かっていた。ユウはジュウに向けて小さく首を振り、歌えない事を伝える。そしてジュウがユウのソロパートを歌おうとした、その時だった。

一人のファンがユウのパートを歌い始めたのだ。続けて一人、また一人と歌い始め、ジュウは歌う事をやめ、ファンに任せた。歌えないファンは手拍子をし、それを目の当たりにしたユウは嬉し涙を溢れさせていた。歌は最後のコーラスに入り、ジュウはファンと一緒に歌い、ファンをリードする。彼はギターを弾く事をやめ、ラストのギターをユウに任せた。ユウは溢れる涙を堪え、必死にギターを引き続けた。歌が終わると歓声が上がり、ファンがはしゃぐ。あまりの感謝で耐え切れなくなったユウはジュウの胸の中で泣いた。するとファンは二人を茶化し、祝福した。ファンにとっても、ユウとジュウにとっても、そのライブは忘れられない思い出になった。

そのライブをしんみりと見守っていた三人の賞金稼ぎ達は、優しくそっと微笑んだ。

-第3話~ユウとジュウの希望~ ~完~

活動休止
治療作戦
賞金稼ぎの覚悟

次回-第4話~ヒカ硬化症との戦い~

2015年3月16日月曜日

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~第2話~ユウとジュウの道~

-第2話-

   ヒカ硬化症という奇病に侵された女子学生のユウは、彼女が通院しているチタイ副都心大学病院に来ていた。彼女は彼女以外の患者が訪れる事がなかった診察室の入り口で、彼女の同級生の男子、ジュウと再開した。ジュウに気付いたユウは動揺を隠し切れないでいる。

「どうしてジュウ君がここにいるの?」

ユウの口は少し振るえ、ジュウは普段通り彼女に微笑みかける。

「ちょっと調べる事があってね・・・ユウさんの病って、ヒカ硬化症っていうんだね。」

「・・・うん・・・でもどうしてそれを?」

「僕も、同じ病気に掛かったみたいなんだ。」

ジュウの言葉を聞いたユウの目と口が大きく開き、彼女はゆっくりと手で口を塞いだ。瞳は大きく揺らぎ、彼女は立ったまま動けずにいた。ジュウは相変わらず微笑んでいたが、いつもより凛々しく見えた。

-第2話~ユウとジュウの道~

   ジュウはとりあえず動揺していたユウを廊下にあるソファに座らせ、彼も彼女の隣に腰掛けた。ユウは下を向いたまま、口を開く。

「・・・いつから病気に掛かっていたの?」

「今週体中が痛くなって、病院で検査してもらったんだ。その時自分の体から、ヒカが見つかった。より詳しく体を調べるためにこの病院で検査を受けた。そして今日はその検査結果を聞きに来たんだ。ヒカ硬化症・・・この病について説明を聞いていたら、ユウさんの病気の事を思い出してね・・・同じ病気だって気付いたよ・・・医者は何も言ってくれなかったけど・・・」

「ごめんなさい・・・」

「え?」

以前下を向いたまま、弱弱しい言葉を吐くユウにジュウは驚いた。

「・・・もしかしたら、私のせいかもしれない・・・」

「どうして?」

「私が病気を持っているから、ジュウ君に悪さしたかもしれない。」

「でも、ヒカ硬化症はとても稀で、発症する原因もまだ分かっていないんだよ?」

「だから・・・私が原因になっている可能性だってあるんだよ?滅多にない病気なのに、それに掛かって・・・しかも私に近い人が、同じ病気で苦しむ事になるなんて・・・偶然じゃないんじゃないかな・・・」

二人はしばらく黙り、ジュウが上を向く。

「確かに体は苦しむかもしれないけど、僕はユウさんに感謝しているんだ。」

ジュウの突然の言葉に、ユウは戸惑う。

「・・・なんで?」

「ユウさんという前例があったから、早い段階で僕の病気が特定できたんだ。どんな病気も早期発見は大事なんだよ。」

「でも治療法はまだ見つかってないよ?それじゃあ意味が・・・」

否定的な言葉を放つユウを、ジュウが遮る。

「それにね、僕はこの病気に掛かって少し嬉しいんだ。」

「嬉しい?どうして?」

「僕の体が治れば、ユウさんの体を治す手掛かりになるかもしれない。」

「・・・そっか・・・」

「ね?」

「・・・そうだね。私の体が治れば、ジュウ君の体を治す事に繋がるんだね。」

「僕はそう信じているよ。」

ジュウはユウの肩に腕を回し、彼女をそっと抱き寄せた。二人はしばらく静かになった。その二人を診察室から見守る男がいた。名をヒミタ・イヨ。ジュポ国出身の40歳。ユウとジュウの担当医だ。


二人を蝕むヒカ硬化症の治療法を模索しているが、有効な方法を未だ見付けられずにいた。

「くそっ・・・」

イヨ先生は自身の無力さに苛立っていた。本来はユウの診察時間だったが、イヨ先生はしばらく二人をそっとしておいた。

   後日、賞金稼ぎのモコはチタイ副都心大学病院を訪れていた。ユウからモコの話を聞いたイヨ先生がモコに連絡を入れ、彼女を病院に呼んだのである。モコはイヨ先生がいる部屋の前に立ち、ノックし扉を開く。

「久しぶり~、イヨ先生。」

モコはイヨ先生に向け軽く手を上げ、机で作業をしていた彼はモコに振り向く。

「おう、来たか。元気だったか?とりあえず座ってくれ。」

「どうも~。」

モコはソファに座り、イヨ先生は彼女にお茶を出す。

「仕事はどうだ?」

「ついこの前はクング国で仕事していたんだけどね~。国際同盟が邪魔で思った程は稼げなかったよ。しばらくはここでゆったりと稼ぐつもりさ。」

「そうか。モコは今引き受けている仕事はあるか?実は依頼があるのだが。」

「いいだろう、聞かせてくれ。」

「女子学生のオトシキ・ユウを覚えているか?」

「ああ、あのギター持った女の子か。先生の患者なんだろ?確か、ヒカの病気だっけか?」

「ヒカ硬化症だ。」

「どんな病気なんだ?」

「早い話が体の何もかもが固まって死ぬ病だ。症例が少なく治療法もまだ確立されていない。細胞は動かなくなり、体中の水分も消える。まぁその頃には神経もやられて既に亡くなった後だがな・・・」

「酷いな・・・」

「初めは運動障害や体の痛み等を訴えた事から、多発性硬化症、強直性脊椎炎、筋ジストロフィーが疑われた。ユウの体からヒカが検出された後、私に彼女の話がきた。私が彼女の細胞を調べたら細胞は硬化を始めていた。恐らく物体の分子構造の強度を高める性質を持ったヒカが原因だろう。ゲカで強度を増した合金や強化樹脂をたまに見るだろ?きっとそれと同じたぐいだ。」

「ゲカで中和できないのか?貴重なヒカと違ってゲカなら集めるのはそう難しくはないだろう。それに、いくらヒカがゲカより強力でも、ゲカの量が多ければ打ち消せるはずだ。」

「それができるならやっているよ・・・そもそも人類はヒカやゲカが何で出来ているのかさえ分かっていない。只分かっているのは、アウターマテリアルは人に強く反応する様々な力だという事だけだ。これ等に頼るのは危険すぎる。」

ヒカとゲカというアウターマテリアルは様々な能力を秘めているが、個体差が激しく、濃度が高いと取り扱いに細心の注意を払わなければならなかった。アウターマテリアルは未だ解明されておらず、なぜこれ等に力が宿っているのか分かっていない。強力で高い能力を持つヒカは取れる量が非常に少なく、それに反発する性質を持つゲカは見つけやすく量も多いが、力はヒカには及ばず周囲に悪影響を与えやすい。病について考える事をやめたモコはイヨ先生を見つめる。

「・・・それで?ユウが依頼になんの関係があるんだ?」

「彼女を守ってほしい。」

「守る?彼女は誰かに狙われているのか?」

「それはまだ分からない。」

「どういう事だ?」

「彼女のデータを狙っている者がいる。恐らく欲しいのはヒカ硬化症に関する情報だろう。この前も病院のサーバーのクラックを狙ったサイバー攻撃があった。その際ユウの医療情報の一部が抜き取られた。ヒカ硬化症に関する資料に不正アクセスが度々確認されている。」

「犯人は誰なんだ?」

「まだ分からない。今警察が調べている。」

「しかしヒカ硬化症にそこまでの価値があるのか?治療法を盗むなら話は分かるが・・・」

「分からないが病そのものではなく、その性質が狙いなのかもしれん。過去に外国で兵士の皮膚を硬化させる実験もあったらしいからな。ヒカ硬化症が解明されれば色んな分野に転用できるかもしれない・・・」

「もしユウを保護したいのなら、警備会社に頼んだ方がいいんじゃないか?」

「敵がユウ本人を狙っているか分からないが、可能性があるなら守らなければならない。但し、なるべく本人に気付かれないようにしたい。」

「彼女に気付かれないように護衛しろと言うのか?」

「敵にもばれないようにな。これ以上のストレスは病にどのような影響を及ぼすか分からん。既に病による疲労で彼女の症状は悪化している・・・それに君は彼女の友人になったのだろう?なら彼女の精神的な支えにもなるはずだ。」

「ん~・・・つまりヒカ硬化症の情報を狙う犯人が見つかるまで、ユウや敵に気付かれずに彼女を護衛しろ、と。」

モコは悩んでいた。ユウの事を気に入っていた彼女は何が最善かを考えていた。しかし、イヨ先生の要求はこれだけではない。

「実はまだあるんだ。」

「なんだ?」

「もう一人守って欲しい。彼女の同級生、カフミ・ジュウという男もヒカ硬化症に掛かってしまった・・・」

「あの男子か!?なんで!?いつ?」

モコの表情が変わった。ジュウとは少しだけ言葉を交わしたが、モコは彼の事を覚えていた。

「彼を知っているのか・・・病気は今週発覚したよ・・・」

「そう、なのか・・・てか待て、二人の護衛なんて無理だ。しかもばれずにだろ?一人でも厳しいのに・・・」

「信頼できる仲間はいないのか?」

「一人の護衛でも数人は欲しい。ましては二人となると更に難しくなるぞ・・・」

「なんとかできないか?」

「うーん・・・同棲しているならともかくなぁ~・・・あっ。」

何かを閃いたモコの目つきが変わる。

「私にいい考えがある。」

「その台詞を聞いてろくな事がないのだが・・・」

イヨ先生はすごく不安そうだった。

「カオリさん、僕達に話ってなんだろう。ユウさんは何か聞いている?」

「いや、聞いてないよ。」

ユウとジュウはユウの家でモコが来るのを待っていた。話があるとモコが二人を呼んでいた。ユウとジュウの家族は何事かとソワソワしていると、モコが到着した。テーブルを前に、席に着くユウとジュウを見るとモコは微笑み、二人に向き合うように席に着いた。モコは両手をテーブルの上に乗せ、ニヤリと微笑む。

「ユウとジュウはバンドを組め。」

「え?」

モコの言葉に場が困惑した。ジュウが質問を投げかける。

「どういう事ですか、カオリさん?」

「いやぁ、実は私、バンドのプロデューサーになる夢があったのよ~。一度は諦めてたけど、二人に出会って決心した・・・という訳で私がプロデュースするから二人はバンドを組みなさい。あ、因みにジュウ君、私の本名はソウヤ・モコ。カオリは偽名よ。」

(???)

戸惑うジュウを余所に、今度はユウがモコに問い掛ける。

「でも私には病が・・・それに・・・」

「ジュウ君も同じ病なんでしょ?イヨ先生から聞いたわ。」

「だったら尚更・・・」

「だからこそよ・・・二人は同じ病を持っている。互いの痛みを理解できるから無理に気遣う必要もない。音楽活動も、日常生活も、二人は互いに重要な理解者なんだ。」

「二人共危なくなったらどうすれば・・・」

「だから私がいるのよ。大丈夫。二人は私が守るから。それにね、二人共音楽で誰かを幸せにしたいと願っているんでしょ?だからユウちゃんはジュウ君のために、ジュウ君はユウちゃんのために音楽を続ければいいんじゃないかな?二人で支えあえば夢の力は大きくなって、いつかは病気の力が小さくなるかもしれない・・・どう?私の夢にも協力してくれないかな?」

それからしばらく、沈黙が流れた。ユウとジュウは見つめ合い、無言の会話を始めた。ユウはどうしたいのか、ジュウは何がしたいのか。二人の心の中で、葛藤が渦巻く。ユウとジュウの家族が息を呑み影から彼等を見守る中、ユウが沈黙を破る。

「私は今でもジュウ君とバンドを組んでみたいと思っているよ。」

ユウのキラキラした瞳を見つめ、ジュウの意志がより一層強くなる。

「僕もユウさんの力になるよ。」

「よっしゃぁあああああ!!!」

ユウとジュウの会話を聞いていたモコのテンションが一気に高まった。

「早速だが二人共、最初の仕事だ。まずはやっぱりバンド名だろう。」

「はい。」

その後ユウとジュウはノートを前に、どのようなバンド名にするかを話し合っていた。楽しそうな二人を見たユウとジュウの家族は、安堵の表情を浮かべていた。モコが何者なのかいまいち分からなかったが、ユウとジュウが掴んだ新たな希望を、彼等は応援していた。そしてバンド名を考えた二人が皆の前でそれを発表する。

ユウとジュウのバンド名は、「カインド・ソフト・ソング」に決まった。

-第2話~ユウとジュウの道~ ~完~

モコの嘘
治療の可能性
ライブの失態

次回-第3話~ユウとジュウの希望~

2015年3月13日金曜日

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~第1話~歌う二人と賞金稼ぎ~

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-第1話-

   島国の経済大国ジュポの中心近くに、副都心チタイがある。繁華街や商店街が多く並び、昼夜を問わず人で溢れていた。ミュージシャンも多く、毎日ライブハウスや路上でライブが行われていた。路上ライブを行う者は様々で、人通りの多い場所で爆音を鳴らす者もいれば、人気の無い所でひっそりと演奏する者もいた。人の行き来が激しい駅前には、特別多くのミュージシャンが路上ライブを繰り広げていた。12月の夜、駅前で一人荷物を下げ、ベンチでくつろいでいる女性がいた。名をソウヤ・モコ。26歳。ジュポ国出身の賞金稼ぎだ。


モコは手術された耳にヘッドホン型の外付け制工脳(外付け簡略式制御型人工頭脳。サイボーグ脳手術をしなくともサイボーグ脳に近い機能を使えるようにする携帯端末。)を掛け、ネットワークに繋がった。彼女は周囲を通り過ぎる人から自動的に依頼や求人を集めた。駅の利用者は多く、集まる依頼件数がどんどん増えていく。情報屋や紹介所を利用すれば簡単に依頼や求人を引き受ける事ができるのだが、モコの目的はそれではなく、チタイ副都心にはどのような依頼が集まるのか、どのような傾向があるのかといった市場調査だった。彼女はその集めた情報を基にこの地で稼げるかどうかを見るつもりだ。しばらく依頼を観覧していると、モコはため息を漏らす。

「ふぅ・・・件数は多いけどどれも似たり寄ったりだなぁ~・・・」

モコがだらだらしていると、彼女は誰かの目線に気付いた。そこにはギターケースを持った若い女性が、モコを見ていた。モコはヘッドホン型の外付け制工脳を外し、モコと目が合ったその女性は歩いてきて、モコの前で立ち止まる。

「すみませんあの、バンドメンバーが足りなくて困っていたりしませんか?」

「へ?」


-第1話~歌う二人と賞金稼ぎ~

   モコに話しかけてきた女性はモコの足元にあるケースを見つめていた。それを電子ピアノのケースと勘違いしたのであろう、気付いたモコは笑顔で説明する。

「ああ、これは楽器じゃないぞ。私は賞金稼ぎなんだ。」

「そうですか。困らせてしまい申し訳ありません。」

慌てて女性が頭を下げると、モコは手を振る。

「いやいや、何も困ってないから気にするなよ・・・それより、こんな可愛い女子が夜一人でナンパとはあまり感心しないなぁ・・・相手が危ない奴だったらどうするんだ?」

女性はにっこりと微笑む。

「私はちゃんと人を選んでいますよ。」

「ほう~・・・どうやって?」

「見れば分かります。」

興味が出たモコはベンチから立ち上がる。

「ふ~ん・・・じゃああれはどう?」

モコが指差す方には駅前で演奏するバンドがいた。学生だろうか、アンプや照明等の機材がしっかりしていた。それを見た女性は自身の意見を述べる。

「ああいったバンドには声を掛けません・・・」

「どうして?演奏はいまいちだけど機材も人数も豊富じゃない?」

「まず音量が大きすぎると思います。これだと演奏に興味がない人に不快感を与えて、近くのバンドにも迷惑を掛けてしまいます。音楽は聞かせるのではなく、聞いてもらうものだと思います。次に演奏する場所も良くないと思います。混雑しているところで演奏すると、そこを通る人の邪魔になってしまいます。芸術は人に押し付けるのではなく、人を引き付けるものだと思います。あのような演奏はちゃんとしたステージかライブハウスでやるべきです・・・只それだと実力だけじゃ厳しくなりますが・・・」

真面目に、少し悲しそうに答える女性に対し、モコは興味を持つ。

「因みに聞くけどさ、なんで私に声掛けようと思ったの?」

女性は笑顔で即答する。

「勘です。」

「え?」

女性はニコニコしていた。彼女の笑顔につられてモコが笑う。

「君は面白い事を言うな~。君の演奏を聞いてみたくなった。せっかくだしここ座りなよ。」

モコはベンチに座り、空いている席へ女性を手招きした。女性はモコの隣に座り、思い出したかのように言う。

「あ、申し遅れました。私はオトシキ・ユウと申します。趣味で音楽をやっています。今はバンドに入っていないので外で演奏はしていません。」

オトシキ・ユウ、17歳の学生。ジュポ国出身である。


「私はカオリ。賞金稼ぎだ。ユウちゃんは一人で演奏はしないの?」

モコは普段使う偽名を名乗った。賞金稼ぎはよく偽名を使用する。

「はい、ソロ活動は止めました・・・時間も限られているので・・・」

ユウはどこか寂しそうな顔をしていた。

「ふ~ん。じゃあさ、練習がてら何か弾いてみてよ。」

「え、でも単独ではもう・・・」

「練習だよ。あくまで練習。ね?」

ユウは困った表情を浮かべ悩む。

「じゃあ、今練習中の曲でもいいですか?」

「お、聞かせて聞かせて。」

はしゃぐモコを見て、ユウも笑みをこぼす。ユウはアコースティックギターをケースから取り出し、音を確認した。彼女はモコと顔を合わせ頷き、開始の合図をした。ユウはギターを弾き始め、弾かれた弦は優しい音色を放ち、モコは心地よい演奏に耳を傾けた。やがて何人かの歩行者は立ち止まり、演奏を聞き入っていた。演奏が終わる頃には十数名集まり、静かな拍手をした。中にはユウの名を呼び、ユウに握手を求める者もいた。どうやら彼女のファンらしい。

「ユウさん今夜ライブするんですか?」

「いえいえ、今のは只音を確認していただけなんです。ライブはありませんよ。」

「残念だな~。応援してるんで頑張って下さい!」

ユウは礼を言い、ファンは笑顔で帰り、立ち止まっていた観客もいなくなっていた。しばらく静かだったモコはユウの実力に感心していた。モコは端末でユウの名を調べ、ネットでそこそこの知名度がある事を知る。

「すごいじゃない。ネットでも少し話題になってんじゃん。ファンもいるのか~。」

ユウの肩を叩くモコに対し、ユウは照れ笑いを浮かべた。ふと疑問が浮かんだモコがユウに問い掛ける。

「そういえばさっきのってなんて曲?聞いた事ないけどいい音色だったな~。」

ユウが照れながら答える。

「曲名はまだありません。私が作ったので・・・」

「ええ~!?すごいすごい。自分で作った曲なのか~。いい曲だったよ~。」

「えへへ。ありがとうござぁ・・・」

モコが一人で盛り上がっていると、突然ユウの意識がぼやけ、彼女は座ったままふらついた。ユウの異変に直ぐ気付いたモコはユウを抱え、彼女に呼び掛ける。

「おい、大丈夫か、しっかりしろ。」

「あ、驚かせてしまってすみません。もう大丈夫です。たまにこうなるもんで・・・」

ユウは元に戻りモコに謝罪するが、ユウの瞳に映った微かな白い影を、モコは見逃さなかった。モコは自分の荷物から端末を取り出し、それをユウの首に当てる。

「ごめんね、ちょっと確認するよ・・・」

ユウの首に当てた端末は数秒後、何らかの数値を示した。

「ヒカ1.4%・・・」

そう呟くモコにユウが問い掛ける。

「それはなんですか?」

「・・・これはアウターマテリアルを感知する装置だ・・・今君を調べたらヒカの反応が出た・・・ユウちゃんはもしかしてヒカの病気に掛かっていたりするのかな?」

少し黙ったユウは微笑む。

「あ、ばれちゃいましたか・・・ヒカ硬化症という病気です。伝染する危険性はないのでご安心下さい・・・」

「ヒカ硬化症?初めて聞くな・・・」

「物凄く珍しい病気みたいです。症状は体が固まっていって、いつか体が動かなくなって、心臓も止まっちゃうんです・・・治療法もありません。」

「この事は皆知っているの?」

「家族も友人も、多くのファンも理解してくれています。」

「そうか・・・なんだか申し訳ないね。」

「いえ、謝らないで下さい。カオリさんは何も悪くありません。只・・・」

ユウは言葉に詰まった。

「只?」

「いつか死ぬのは仕様がないと思うんですけど、それより先に音楽活動ができなくなるのが・・・ちょっと残念です・・・」

しばらく黙り、気持ちを切り替えたユウは続ける。

「だからこそ、一人でも多くの夢のお手伝いがしたいと思っています。今はそれが私の夢です。」

その言葉を聞いたモコは、何かを悟る。

「もしかして、そのために困っているバンドの助っ人をしているの?そのためにソロ活動を諦めたの?残された時間のために・・・」

「まぁそんなところです。」

優しい笑顔を見せるユウの肩を、モコはそっと抱く。

「ごめん、実は偽名使ってた。私の本当の名前はソウヤ・モコっていうの。」

ユウの閉じた瞳から、小さな涙が流れる。

「ありがとうございます。モコさん。」

   時間は流れモコとユウが世間話をしていると、ギターケースを背負った一人の男性が歩いてくる。

「ユウさん今晩は。」

男性が挨拶すると、ユウも挨拶を返す。

「今晩は、ジュウ君。」

男性の名はカフミ・ジュウ。ユウと同い年の17歳。ジュポ国出身である。


ユウはジュウに手を向け、彼をモコに紹介する。

「同級生のカフミ・ジュウ君です。彼も音楽活動をしています。」

「どうも、カフミ・ジュウです。」

ジュウがふわふわした笑顔でお辞儀すると、ユウはモコも紹介しようとする。

「えっと、この方は・・・」

「今晩は。私は賞金稼ぎのカオリ。さっきユウちゃんと知り合ったばかりよ。」

偽名の件もあり、ユウは言葉に詰まるが、モコが彼女を遮った。モコはやはり偽名を用いた。ユウはジュウについて付け加える。

「因みに彼はソロで活動しているんですよ。歌詞を作るのが得意なんです。」

モコが食い付く。

「へぇ、バンドは組まないの?今ならユウちゃんと組めるチャンスだぞ。作曲もできるし。」

「ジュウ君を前から何度も誘っているんですけど、いつも断られています。」

残念そうに語るユウを前に、ジュウが口を開く。

「それはありがたいですけど、ユウさんの手を借りたいバンドは一杯いますから・・・」

「そんな事言ってると~、ユウちゃん別の男に取られちゃうぞ~?」

にやけるモコを前に、ユウとジュウは苦笑する。

「あははは・・・」

   ジュウが二人と別れた後、ユウは時計を残念そうに見つめる。

「そろそろ帰らないといけないですね・・・」

「夜遅く女子一人で出歩くのはあまり良くないからね。いい判断だ。」

「ありがとうございます。明日は病院で検査もあるのでしっかり寝ないとですね。」

モコは何気に尋ねる。

「そっか、どこの病院?」

「チタイ副都心大学病院です。」

「大学病院・・・?」

「はい・・・どうかしました?」

何か引っかかると感じたモコは考え込み、突然彼女はハッとなる。

「あ!医者のイヨ先生って知ってる?」

「はい、私を担当している医師です。」

困惑気味のユウを余所に、モコのテンションが上がる。

「そうなのか~。いや~、その医者とは前に仕事で知り合ってね~・・・彼に宜しく言っといてよ。」

「分かりました。伝えておきます。」

「あ、ごめんね、引き止めちゃって。早く帰らなきゃね。」

モコは慌ててベンチから腰を上げ、ユウに手を差し伸べた。ユウはモコの手を取り、彼女に引き上げられる。

「いえいえ、楽しくてあっという間でした。ありがとうございます。モコさんはしばらくこの街に止まるんですか?」

「そうだね、しばらくいるつもりだよ。だからユウちゃんとはまた会えるかもね。」

「そうですか、それは嬉しいです。また会える事を楽しみにしています。」

「ユウちゃんの夢を応援してるよ。」

「ありがとうございます。モコさんもお元気で。」

モコは手を振るユウを見送り、二人は別れた。

   モコとユウが出会って数日後の昼、ユウは定期検査のためチタイ副都心大学病院を訪れていた。彼女は特殊な機材がある部屋に向かうため、人が少ない通路を進む。彼女は一人で部屋の外にあるソファに座り、名前が呼ばれるのを待っていた。ほぼ普段通りの光景だが、今日はいつもと様子が違っていた。いつもならこの部屋で検査を受けるのはユウ一人だけなのだが、今日はどうやら先客がいるらしい。自分と同じ病を持つ人間が他にもいるのだろうか?その人は一体どんな人なのだろうか?そもそも同じ病なのだろうか?ユウが思考を巡らしていると、部屋の扉が開いた。彼女が顔を上げると、そこには馴染みのある人物が立っていた。ジュウだった。突然の再開に、ユウは開いた口が塞がらなかった。

「ジュウ君?」

「お久しぶり、ユウさん。」

この二人の再開が、新たな歌を生む。

-第1話~歌う二人と賞金稼ぎ~ ~完~

二人の病
モコへの依頼
二人の夢

次回-第2話~ユウとジュウの道~

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~

-plot-あらすじ

人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

繁華街や商店街で賑わいを見せるジュポ国チタイ副都心。
路上ライブが多いこの地に、賞金稼ぎの女、ソウヤ・モコが降り立った。
モコは駅前で音楽活動をする女子学生、オトシキ・ユウと出会う。
難病を患いながらも、ユウの優しい演奏は周囲を魅了する。
ユウと同じく音楽活動をし、彼女の同級生である男子、カフミ・ジュウ。
彼等の出会いが、新たな歌を生む。

-第1話~歌う二人と賞金稼ぎ~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/03/kind-soft-song1.html
-第2話~ユウとジュウの道~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/03/kind-soft-song2.html
-第3話~ユウとジュウの希望~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/03/kind-soft-song3.html
-第4話~ヒカ硬化症との戦い~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/03/kind-soft-song4.html
-最終話~ユウとジュウの歌~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/03/kind-soft-song_23.html
「愛をいつまでも止めないで」(歌詞)↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/03/kind-soft-song_26.html
設定資料↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/06/kind-soft-song.html

「Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~」
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