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2015年2月24日火曜日

Fool Justice~フール・ジャスティス~自警団の正義の果て~

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


~自警団の正義の果て~

   雷と雨が非常に多く、熱帯雨林に溢れた開発途上国、クング。この国はここ何十年もの間隣国や反政府組織と衝突を繰り広げていた。クング国の政府軍と度々衝突する組織の中に、オプリィミィ・プティーという小さな村がある。村には少数部族が住み、少数であるが故、彼等は昔から周囲に虐げられてきた。そこで彼等は自ら自警団を組織し、敵対する組織に対抗した。村の部族には風習がいくつもあるが、中でも特徴的なのが「倒した敵を称える。」というものだ。村人はこれ等の風習を守り、自分達を誇りに思っていた。

   1月の午前、オプリィミィ・プティー村より数キロ離れた山道の脇の林に、村の自警団が集まっていた。山道の両脇には丘があり、丘の林の中に自警団は身を隠し、山道を見下ろす。遠くで政府軍の車列を確認した団員は団長に報告すると、団長が団員に指示する。

「よし、隠れながら敵の詳細を探れ。見つかるなよ。」

こう話すのは自警団団長、フィアティ・ヴィラージュ。26歳の男性。オプリィミィ・プティー村出身。自警団の団長としては若いが頭が切れ、村人から慕われている。


彼は自警団を率いて周囲の偵察中、敵の気配を感じ、自警団全員に丘の林に隠れるよう命令した。フィアティがしばらく待っていると、部下が戻り報告する。

「敵車両5。手前から装甲車1、四駆1、トラック2、装甲車1両が周囲を警戒しながらゆっくり前進してきます。」

「うむ、政府軍の補給部隊だな。近くの前線部隊に届けるのだろう・・・」

フィアティがそう話すと、別の部下が武器を構える。

「団長、奴らをここで皆殺しにしましょう。このままじゃ敵に補給されてしまいます。」

フィアティは考え込み、辺りを見渡した。彼は展開していた自警団を集め、作戦を伝える。無線を使わないのは敵に電波を拾われないためであった。

「敵に強襲し物資を奪う。物資を奪った後は速やかに撤退する。敵の殲滅は無しだ。そうすれば敵は増援を出す羽目になり敵の負担が増える。」

団員は皆団長の作戦に賛同した。

「まず車列前後の装甲車を叩き車列の動きを封じる。次にスモーク弾で敵の視界を奪うんだ。スモークを確認後、近接武器を持った班がトラックを襲撃、残りは丘から班を援護してくれ。トラックを確保したら物資を運ぶ班が突入。撤収の合図を確認したら残りは爆破しろ・・・逃げる敵は放っておけ。いいな?」

団員の顔にやる気が満ちる。

「了解!」

   人気の無い山道を、政府軍補給部隊の車列が進む。辺りは野生動物の声が聞こえたが、それは次第に消えていった。異変に気付いた政府軍は車列を止め、辺りを警戒する。

(ちっ、気付かれたか!)

フィアティは部下に作戦開始の合図を送る。

ロケットランチャーを背負った団員数名が茂みから上半身を出し、車列の前後にいる装甲車に向けてロケット弾を放つ。ロケット弾を食らった装甲車は大破しなかったものの、身動き取れずにいた。車列から兵士が次々に降車し、陣形を形成しようとしていた頃、自警団は政府軍の車列目掛けてスモーク弾を放つ。車列は煙に包まれ、自警団と政府軍の銃撃戦が始まった。身を潜め待機していた自警団の強襲班は時を見計らい、車列中央のトラック目掛けて突撃する。トラックの護衛に回っていた兵は倒され、強襲班はトラックの周囲を確保した。強襲班の一人が合図を送り、潜んでいた輸送班がトラックに積んであった物資を次々に運び出す。体制を整えた政府軍は自警団に反撃し、強襲班に死傷者が出た。

(潮時だな・・・)

そう感じたフィアティは撤退の合図である閃光弾を放った。車列は一瞬眩い光に包まれ、トラックにいた輸送班が撤退を始める。輸送班の最後の一人がトラックに爆弾を仕掛け、強襲班と共にトラックから離れる。強襲班の撤退を確認した各班は戦闘から撤退を開始、政府軍の車列から離れていく。逃げる自警団を攻撃する政府軍を確認しながら、団員の一人が爆破スイッチを押し、トラックは近くにいた兵士を巻き込んで爆発した。自警団に死傷者が出たものの、作戦は成功に終わり、自警団は村に帰っていく。

   自警団がオプリィミィ・プティー村に戻ると、村人が彼等を出迎え、自警団は自らの勝利を報告した。勝利を耳にし、政府軍から強奪した物資を見た村人は自警団を褒め称え、訪れた祝福を賛美した。村が賑わいを見せる中、フィアティは偵察に出ていた団員と話していた。

「何か変わった事はあったか?」

「特にありません。」

「そうか。」

「ただ・・・」

「ただなんだ?」

「周囲の武装組織内でテロリスト『ウチヤミ』の噂が再び広まっています。皆怯えているようで・・・政府軍も警戒するような動きを見せています。」

フィアティはため息を漏らす。

「またその噂か・・・俺は各国のニュースを調べたんだ。ウチヤミは間違いなく射殺された。」

「しかし・・・ウチヤミは殺しても何度でも蘇るという噂が・・・」

「根拠のない情報を鵜呑みにするな・・・だが何かが起きる前兆かもしれんな・・・必要なら警戒を強めてくれ。」

「了解しました。」

   日が落ち村に明かりがついた頃、村人が一箇所に集まり始めた。宴を行うのか、食事を運ぶ者や民族衣装に身を包む者もいた。しばらくするとそこには警備係以外の村人全員が集まっていた。大きな焚き火の前に村の長老が立ち、歌い踊り、儀式を始める。

「今日死んだ戦士達の魂よ、我々を栄光に導きたまえ。」

村人は黙祷し、長老の言葉に耳を傾けた。

オプリィミィ・プティー村には風習があり、このような儀式を度々行っていた。儀式の内容はというと、戦闘で亡くなった者達を称え、戦闘による祝福に関して感謝するというものだった。戦闘で亡くなった者というのは敵も含まれており、村は敵の死者に対しても同様に感謝を捧げていた。死者に対する儀式が終わると宴会を開き、村人は祝福を噛み締めていた。

   数日経ったある晩、フィアティは毎日見慣れている森に異変を感じ、その原因を突き止めようと村の周囲を歩き回った。すると彼のもとに一人の団員が走ってきた。

「どうした?何かあったのか?」

困った顔をした団員が答える。

「偵察に行った者が一人も戻っていないんです。」

「何?一人もか?」

「はい・・・」

フィアティが抱いていた不安は焦りに変わり、彼は対策を練る。

「・・・分かった。今すぐ団員を集めろ。捜索隊を編成する。」

2人はその場を後にし、フィアティは自警団本部へ急いだ。

フィアティが自警団本部に着くと、中は何やら騒がしかった。フィアティに気付いた団員が彼に報告する。

「いくつかの見張り台と連絡取れません。今原因を調査中で・・・」

団員が話し終える前に、見張り台の一つがサイレンを鳴らした。村人はサイレンに気付くと直ぐ様屋内に避難を始める。しかしサイレンは途切れ、村人は何事かと不安に包まれた。フィアティは外に出て、目を凝らして周囲を見渡すが、何も分からなかった。彼は室内に戻り、部下がサイレンを鳴らした見張り小屋に連絡を入れるが、応答がない。フィアティは危機を悟り、部下に叫ぶ。

「敵だ!今すぐサイレンを鳴らせ!」

自警団本部はサイレンを流し、村人は家の中に逃げ全ての窓や戸を閉めた。村の一部で銃声が聞こえ、戦闘が始まっていた。自警団本部は村にいる他の団員と連絡を取ろうとしたが、通信できずにいた。通信係がフィアティに伝える。

「仲間と通信できません。敵の電波妨害です!」

「くそ!」

フィアティは頭を抱えながら必死に考え、村内放送用のマイクに向かい、村全体に指示する。

「村は敵の襲撃を受けている。無線は妨害電波で使えない。団員は仲間が見える距離を保ち防衛体制を取れ。それ以外の者は屋内退避だ。」

スピーカーによってフィアティの指示が村に行き渡ると、団員の一人が自警団本部に走ってきた。息切れし、怯えた表情の団員は報告する。

「敵は黒いサイボーグです!刀も所持していました・・・ウチヤミですよ!ウチヤミが村を襲ってきたんです!」

彼の報告を聞いた団員達はあまりの衝撃に言葉を失った。沈黙していたフィアティも我に返り、手を止めていた部下達に活を入れる。

「それがどうした!そいつに自警団の強さを見せてやれ!何度でも蘇るなら何度でも倒すまでだ!」

団長の言葉に心打たれ、部下達はやる気を取り戻した。

自警団の団員達が指示通り防衛体制を取った途端、敵の攻撃が止んだ。自警団はサーチライトで照らし敵を探すが、敵は姿を現さない。村は静かになり、じっとしていた団員達は息を呑む。敵の不可解な行動を怪しんだフィアティは何か裏があるのではと疑う。

(何故妨害電波を出したまま沈黙する・・・我々が防衛体制を取ったからか?・・・なら何故撤退しない・・・何を待っているんだ・・・)

考えを巡らせるフィアティは気付く。

(まさか、動かない我々の位置を調べているのか!)

フィアティが気付くより先に、戦闘が再開した。

「全員移動しろ!その場に止まるな!!」

彼はマイクに向かって叫ぶが、既に手遅れだった。敵は村を回るように攻撃を仕掛け、自警団を撹乱した。敵の攻撃がある度、団員一人一人が戦死していく。戦闘は激しさを増し、流れ弾が民家を直撃し、村人の犠牲も増え始めた。状況が悪化した事を見たフィアティは部下に命令し、部下は放送で避難を呼び掛ける。

「村から撤退します。自警団以外の者は直ちに避難して下さい。繰り返しま・・・」

その放送は村の放棄を意味した。悔しさで体が震える部下達をフィアティが励ます。

「なぁに、また取り戻せばいいだけだろう・・・」

部下達は涙を拭い、自身の持ち場に戻った。

大半の村人が逃げ終えた頃、村は火の海と化していた。もはや自警団も何人生き残っているか分からず、自警団本部も火に包まれた。

「ここももう駄目です。早く撤退しましょう。」

部下に促され、フィアティは銃を取り本部を出た。すると彼は遠くで銃撃する団員が見えた。

次の瞬間、その団員は黒い女性型のサイボーグに頭部を切断された。サイボーグは自警団を撹乱しながら刀と鞘に取り付けられたショットガンで団員の頭部を破壊していく。時折腰に付いた小型ロケットで高速移動し、体に積んだロケット弾を撃ち、詰まれた土嚢が吹き飛んだ。サイボーグは背中に大きな刀の形をしたプラズマカッターを背負っていた。その光景は正にウチヤミの噂通りだった。


サイボーグは団員を確実に仕留めながら、フィアティのいる自警団本部に歩いてきた。フィアティの隣にいた団員がロケットランチャーを取り出し、サイボーグ目掛けてロケット弾を放つ。しかしサイボーグはロケット推進で避け、ショットガンを構える。

「御免。」

サイボーグの言葉と同時に、団員の頭が吹き飛んだ。フィアティは本部に残ったロケットランチャーを両肩に担ぎ、サイボーグに狙いを定める。他の団員がバトルライフルで援護する中、フィアティは片方のロケットランチャーを撃ち、サイボーグが避けるであろう位置にもう片方のランチャーを撃つ。

「食らえ!」

サイボーグは1発目のロケット弾を避け、2発目のロケット弾がサイボーグの手前で爆発した。サイボーグは無事だった。サイボーグの体には鎧の袖のような物を付けていたが、よく見るとそれは指向性地雷をいくつも繋げたものだった。

(指向性地雷で迎撃した・・・奴はアクティブ防御まで持っているのか・・・)

フィアティが呆気に取られていると、サイボーグが団員に急接近し、彼が持っていたバトルライフル目掛けて刀を振り下ろした。火花と閃光に溢れ、部下の手にしたライフルは真っ二つに切れた。ゲカ合金を使用しているであろうその黒い刀を団員に向け、サイボーグが話す。

「貴様を生かす意味はあるか?」

「ふざけやがってぇ!」

「御免。」

団員はハンドガンを抜こうとしたが、サイボーグの刀が彼の頭部を切り裂いた。

ついに生き残った自警団はフィアティだけとなり、サイボーグが彼に向かって歩いてきた。彼はハンドガンを握っていたが、サイボーグに向けようとはしなかった。サイボーグはフィアティの前で立ち止まる。

「貴様を生かす意味はあるか?」

死ぬ覚悟ができていたフィアティはサイボーグに話し掛ける。

「あんたがウチヤミか?」

「如何にも。私の名はウチヤミ。」

「俺の名はフィアティ・ヴィラージュ。この村の自警団の団長をしている・・・あんたこの前死んだはずだ。なんでまだ生きているんだ?」

「私は人では無い。私は人の絶望から生まれた意志そのもの。故に私を消す事はできん。」

フィアティは笑みを浮かべる。

「ふっ、何言ってやがんだ・・・」

「答えろ。貴様を生かす意味はあるか?」

「そんな権利があんたにはあるのか?」

「そうだ。」

「何故?」

「私は世の闇を消すために存在している。」

「世の闇だって?俺達の事か?」

「だから私はここにいる。」

フィアティの言葉に怒りが満ちる。

「ふざけるなよ、俺達のどこが闇だって言うんだ?」

「人の安息を奪い、人の物を奪い、人の命を奪っている。」

「そうしなければならないからだ!そうしなければ自分の親、兄弟や子を守る事ができないんだよ!」

「自分達の幸せの為なら他人の幸せを奪っても良いと言いたいのか?」

「違う!周りをよく見てみろ!ここは紛争地帯なんだぞ?戦いたくなくても戦わなきゃ死ぬんだよ!」

「対話を求めた事があるのか?」

「政府とか?ふざけるな、あんな奴らとまともな話し合いができる訳ないだろう。」

「何故そう言いきれる?」

「奴らは人間じゃない!暴行、強姦、虐殺、なんでもありの屑の集まりだ。」

「貴様等も暴力を使うではないか。」

「俺達は違う!戦いに誇りを持っている。」

「・・・殺人に誇りを持つのか。」

「俺達は無益な殺生はしない。ちゃんと殺した相手も敬う・・・散々弄んでから殺すような奴らとは違う。」

「最終的に殺すのであれば結果に違いは無いのでは?」

「あんたに俺達の何が分かるっていうんだ!この村が今までにどれだけ蔑まれてきたのか分かっているのか!?」

「なら何故外に助けを求めない?外に訴える選択肢があるこの時代で、何故今までそれをしてこなかったのか?」

「そう簡単に他人を信用できるか!」

「貴様等は他人よりも暴力を信用するというのだな?」

フィアティの声が次第に弱くなる。

「俺はなぁ、子供の頃政府に人を殺す機械として育てられた・・・奴らは俺達を友達、家族同士で殺し合いをさせたんだ!俺は親友をこの手で殺した!じゃなきゃ二人共奴らに殺されてた・・・」

「それで政府の道具になり、更に多くの命を奪ったのか?」

フィアティの目は涙で溢れる。

「そうだ!脱走するまで俺は罪の無い人間を何人も殺した・・・」

「罪の無い人間などこの世にいない。」

フィアティはウチヤミの足元で膝を突き、涙を流す。

「死ぬのが怖かった・・・俺は只生きたかった・・・駄目なのか・・・理不尽だろ・・・」

「そうだ、この世は理不尽だ。だから私が生まれたのだ・・・」

火に包まれた村の中で、ウチヤミがフィアティに問う。

「改めて問う、貴様を生かす意味はあるか?」

「またそれかよ・・・」

フィアティとウチヤミが話していると、炎の中から重装備したパワードアーマー(人型強化装甲。主にパワードスーツを着た人間が搭乗する。)が現れ、二人はそれに気付いた。


ウチヤミは刀をフィアティに向ける。

「また貴様か。いつも私の邪魔ばかりしおって・・・だがもう遅い!」

ウチヤミの知人らしきパワードアーマーはショットガンをウチヤミに向け、それと同時にウチヤミはショットガンが取り付けられた鞘に手を掛ける。

「私の制工脳(制御型人工頭脳。サイボーグ脳ともいう。)を一撃で破壊しないと私は彼を殺すぞ?・・・さぁどうする?私を破壊するか、彼を見殺しにするか・・・選べ。」

パワードアーマーが狙いを定め、ショットガンを撃つ。ウチヤミは迷い無く、鞘に付いたショットガンでフィアティを撃とうとする。しかしパワードアーマーが放った弾丸は空中で開き、フィアティの左腕に直撃し、その衝撃でフィアティは横に吹き飛んだ。ウチヤミの放った弾丸はフィアティが吹き飛んだため外れた。パワードアーマーが撃った弾丸は樹脂でできた特殊な非殺傷兵器であったため、フィアティは左腕を折る程度で済んだ。ウチヤミはフィアティを殺そうとショットガンを向けるが、パワードアーマーが汎用機関銃を撃ち、ウチヤミのショットガンを何度も弾いた。左腕の激痛に苦しむフィアティはなんとか立ち上がり、その場から逃げ去った。ウチヤミはフィアティを追おうとしたが、パワードアーマーの放つ銃弾で進路を塞がれる。ウチヤミはゆっくりとパワードアーマーを向き、刀に手を伸ばす。

「彼が、村が生き続ける事がこの世のためになると思っているのか?彼等が暴力以外の未来を掴めると本気で信じているのか!?どうせ彼等が同じ過ちを犯せば貴様はここに戻ってくるつもりなのだろう?時間の無駄だとなぜ気付かん!」

パワードアーマーは一言も発せず、ただウチヤミを見つめていた。ウチヤミが続ける。

「人に希望を持つんじゃない!人の可能性を信じても意味はないのだ!只力を無駄にしているだけだぞ?何故それが分からん!貴様の力はそんな下らんものの為にあるのではないだろう!」

それでもパワードアーマーは一言も話さなかった。ウチヤミは説得を諦め、刀をパワードアーマーに向ける。


「聞く耳持たず・・・か。結局は力で示すしかないのだな。こんな無駄な戦いをして一体何に繋がるというのだ・・・貴様のその下らん意志を今日こそへし折ってやる!」

刀を構えたウチヤミはパワードアーマーに突撃するも、パワードアーマーは弾幕を張り、ウチヤミを近付けさせなかった。パワードアーマーは民家に突っ込み、ウチヤミはロケット弾でその民家を破壊した。パワードアーマーも反撃するが、ウチヤミはロケット推進で回避し、ウチヤミの後ろにあった民家が蜂の巣になった。こうして村は彼等の戦場と化した。

   その後ウチヤミとパワードアーマーは姿を消し、彼等の行方は分かっていない。一方フィアティ・ヴィラージュ含むオプリィミィ・プティー村の生き残りは村に戻り、村の再興に着手した。この事件は「クング国オプリィミィ・プティー村テロリスト襲撃事件」と呼ばれ、ニュースに取り上げられた。村に国際同盟の視察団が入り、後日国際同盟の監視の下、村はクング国政府に編入された。フィアティは国際同盟に再編された自警団に今も従事している。

~自警団の正義の果て~ ~完~

Fool Justice~フール・ジャスティス~

-plot-あらすじ

人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

クング国に少数派の部族が住むオプリィミィ・プティーという村があった。
自警団を持ち、彼等は時折政府軍と他の武装組織と衝突していた。
村には敵味方問わず戦死した者を称える風習があり、それを誇りにしていた。

自警団の団長、フィアティ・ヴィラージュはある日ある噂を耳にする。
それは殺害されたはずのテロリスト、「ウチヤミ」の目撃談だった。
裏社会に恐れられたそのサイボーグは、何度でも蘇るという噂まであった。
数日後のある晩、村は見えない敵に襲われる。
そしてフィアティは見た、刀を持った黒いサイボーグを・・・

~自警団の正義の果て~↓
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設定資料↓
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「Fool Justice~フール・ジャスティス~」
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2015年2月16日月曜日

Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~設定資料

-plot-あらすじ
人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

チニ国の浮体都市(メガフロート)、スニーン。
雑な成長を続けるこの都市が、ある晩停電した。
その後しばらくして都市を何かが襲う。
それはゲカアウタレス(影の力を宿した生物)の群れだった。
まるで何かに陥れられるように、都市は混乱に陥った。
この事態が計画的犯行であると踏んだジェンシャン少佐は、監視カメラ映像に小さな人影を見つける。
その人影を拡大して見ると、それは人の形をしていなかった・・・

世間を震撼させた大事件の裏で、彼が目にする真の恐怖とは・・・

-introduction-序章

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-episode-各話
 -.1_ゲカアウタレス群浮体都市襲撃
 -.2_ゲカアウタレス実験体W.I.
 -.3_ゲカ研究所への切り札
 -.4_終_浮体都市の化け物

-character-登場人物
 -Jenshan Pingu
  -01/14生まれ。
ジェンシャン・ピングー。男性。33歳。トゥアン国出身。トゥアン国陸軍少佐。国際同盟陸軍に何度も参加した実績を持つ。
5年前クング国への国盟軍PKO派遣の際キョウと友好を築く。彼が精神障害に苦しんだ際キョウに寄り添い、彼の回復に一役買っている。


 -Sheetio(IJAAX)
  -シティオ。男。本来の名はイジャックス。これはコードネームであり個人情報は知られていない。初めは「不死鳥」と呼ばれていたが、本人を確認する事が非常に困難なためいつしか「死鳥」と呼ばれるようになった。国際指名手配犯。裏社会では名を馳せる凄腕のパワードアーマー乗り。そのため常に偽名を使い重装備してパワードアーマーの本来の姿を隠している。隠密能力が非常に高い。高性能のコンピュータとパワードアーマーを持つ。本人が人工知能説や女性説、国際テロリストの「ウチヤミ」の仲間である等といった噂が絶えない。
チニ国産400kg級標準重量パワードアーマーZSC96のカスタム機を使用している。過去に仕事でジェンシャンの同僚と面識がある。


*カスタム2。

 -Kyou Kakuse
  -12/11生まれ。
カクセ・キョウ。男。27歳。ジュポ国出身。元ジュポ国陸軍爆発物処理班特技兵で、今は上等兵。
5年前クング国への国盟軍PKO派遣の際ジェンシャンと友好を築く。その後敵の分隊ゲリラに襲撃され、仲間全てを残虐な方法で殺される。その酷い光景を目の当たりにし、キョウは頭が狂って敵を襲い、最終的に撤退する敵ゲリラまでも殺害した。彼は敵以上に残虐な方法で敵ゲリラ全員を殺害している。その後駆けつけたジェンシャン含む味方部隊に取り押さえられ、ジュポ国に送り帰される。この一連の出来事は公開記録には載っていない。精神障害を患った彼は初め口も聞けなかったが、ジェンシャン等の協力もありなんとか回復した。その後軍隊に復帰するも無気力に陥る事もあり、配属がよく変わる。キョウを不安視する軍は彼を退役させる事に躊躇しており、彼の扱いに困っている。


-setting-設定

-race(種族)

 -Outer
  -アウター。この世界とは別の存在。ソトの者達。人の姿をしているが、人と次元が違う。かつては人との交流が多かったが、現代では非常に少ない。元々全てのアウターが光に属していたが一部は影の者となった。人に手を下す際は主にアウタレスやアウターの力を間接的に行い、直接手を下す事は殆ど無い。何故なら人の持つ力はアウターに何の意味も持たないからである。特徴としては表情が少なく、地上の物理現象と干渉しない事が多い。
  -of Light(Hika)
   -光に属する者達。光の使者。ヒカの者達。元々光と共に人を見守っていたが虚栄心に満ち始めた人に拒まれてからは多くが人に背を向けた。極僅かだが人を陥れようとする影の者達から人を見守っている者もいる。
  -of Shadow(Geka)
   -影、ゲカの者達。元々は光の使者であったが、光より優れた存在になろうと光を嫉み、反逆した。しかし光には敵わない為、代わりに光が大切に思う「人」を陥れる行動に出る。ヒカの者達同様極僅かに人に友好的な者もいる。
  -Outer Material
   -アウターマテリアルと呼ばれるアウターの力、物質。ゲカの者達が地上に宿した「ゲカ」、ヒカの者達が地上に宿した「ヒカ」の二種類が存在する。これらアウターマテリアルはこの世の物では無く、時に物理法則を超越する現象を引き起こす。ヒカやゲカについて分かっている事は、粒子に様々な特性を有し他の物質と混合するとその物質の性質を驚異的に高める事が出来る事、人の意志や感情に反応する事、そして生き物に接触するとその生き物を侵し、何等かの突然変異を引き起こす事である。時折アウターマテリアルそのものから生物が誕生する事もある。又アウターにより突然変異した存在を「アウタレス」と呼ぶ。アウターマテリアルは基本生物にとって毒である為、接触し続けると大抵は死に至る。アウターマテリアルとの混合材は制御不能に陥る危険性があるものの、個々の性能は恐ろしく高い。例を挙げると、物質と物質の接合を強化する性質を持ったアウターマテリアルを用いると、その物質の強度は上がり、高エネルギー反応の性質を持ったアウターマテリアルと爆発物を混合すると、爆発物の威力が上がる。製造に成功すれば桁違いの性能を発揮する反面、慎重に取り扱わないと暴走し非常に危険であり、又個体差に因る性能の違いが激しい為量産には全く向かない。アウターマテリアルの性能や影響力は濃度に比例する。ヒカは何等かに反応すると白く発光し、ゲカは黒く発光する。
   -Hika
    -ヒカと呼ばれるアウターマテリアル。ゲカの驚異に歎く人を見、憐れんだヒカの者達が地に宿したと言われている。ゲカや強い思いを持った人に反応し、量が同等であればゲカを打ち負かす力を持つが、ゲカに比べ数が圧倒的に少ない。
   -Geka
    -ゲカと呼ばれるアウターマテリアル。ヒカに敵わないもののヒカを苦しめる為、「人」を陥れる事を考えたゲカの者達が地に宿したと言われている。ヒカや強い思いを持った人に反応し、量が同等であれば性能はヒカに劣るものの、数が多い為容易に集める事が出来る。但し毒性や生物に与える悪影響はヒカよりも強い。
  -Outerless
   -アウタレス。ソトの力に憑かれた存在、生物。ヒカやゲカに何らかの方法で接触、もしくは体に取り込む事でそれらを宿し、突然変異や影響を受けたもの。ありとあらゆる生物からアウタレス化するが、人型が最も高い能力を秘める。人型が特別な理由は「人」だけが自我や強い意志を持つからだと言われている。しかしアウタレス化した殆どの者達はその力に呑まれ自我を失う為、アウタレス化しても自我を保つ事例は非常に少ない。
   -Human type
    -人型アウタレス。高い能力を持ち、人の形をしたアウタレスを指す。人の一部から派生するものと人そのものがアウタレス化するものがあるが後者の場合、自我が残る可能性があり、大きな脅威になりうる。
   -Machine type
    -機械型アウタレス。機械を取り込んだアウタレスを指す。アウタレスと機械が融合する事は殆ど無いが、稀に、もしくは故意に機械と融合したアウタレスが生まれる事がある。

   -Vital Spanner(Vinner)
    -バイタルスパナー。バイナーと呼ばれている。アウターの力を宿す者。アウタレスと同じくヒカ又はゲカの力を持つが、アウタレス特有の暴走や制御不能状態に陥るリスクは確認されていない。何故ならバイナーは本人の意志の有無に関係無くアウターと契約し、本人の寿命の分だけ力を発動出来るからである。使用出来る能力は多岐にわたり、世界に対する影響力が高い程消費する寿命が増える。

   -Small Human
    -小型人間。身長は人間の約10分の1の大きさしかない。但し身体能力は高く、それ以外の特徴は他の人間と何も変わらない。ヒか又はゲカの影響でこの様な種族が生まれたが、人間と同様アウターマテリアルは彼らにとっても毒である。体の大きさを活かし精密作業の現場で威力を発揮する。

  -Outerless Evaluation(アウタレス評価)
   -アウタレスの特徴や能力を把握する為に用いられる基準。数値で表す事でどの様に対応すべきか迅速に判断する事ができる。対象のアウタレスを評価する際は専門の調査員が行うのが一般的である。しかしこの作業は危険が付き纏い、更に迅速かつ的確にこなさなければならない為、経験豊富な調査員は特殊な訓練、装備を得ている。国によってはこの評価基準がアウタレス以外でも適用されている。
   -Danger Level(危険度)
    -アウタレスの危険度を示す指数。例え戦闘力が無くとも数値が高ければ高い程周囲に危害を加える可能性が上がる為、直ちに対処しなければならない。
    -0.Low Danger(危険度低)
    -1.General Handle(一般処理)
    -2.Government_Handle(行政処理)
    -3.Specialist_Handle(専門家処理)
    -4.Police_Handle(警察処理)
    -5.Military_Handle(軍事処理)
   -Threat Level(脅威度)
    -アウタレスの脅威度を示す指数。あくまでアウタレスの戦闘力や潜在能力を評価する為、高い数値を記録しても攻撃性が無ければ危険視される訳ではない。
    -0.Low Threat(脅威度低)
    -1.Animal Class(動物級)
    -2.Solider Class(兵士級)
    -3.Squad Class(分隊級)
     -歩兵約8~14名相当。
    -4.Platoon Class(小隊級)
     -歩兵約26~64名、分隊約2~4個、車両約3~7両、航空機約3~6機相当。
    -5.Squadron Class(中隊級)
     -歩兵約80~250名、砲約2~16門、航空機約12~24機、小隊約3~6個相当。
    -6.Battalion Class(大隊級)
     -歩兵約300~1500名、中隊約2~7個相当。
   -Density Level(濃度)
    -アウターマテリアルに侵された物体の濃度を示す指数。侵された肉体だけでなく、加工された資材に接触すると侵された肉体と似たような症状や現象が起きる可能性が高い。
    -0.~0.09%(影響無し)
    -1.0.1~5.0%(健康被害)
    -2.5.1~10.0%(身体能力向上)
    -3.10.1~20.0%(肉体的変異)
    -4.20.1~50.0%(超能力発現)
    -5.50.1~80.0%(肉体侵食)
    -6.80.1~100.0%(人格障害)
    -7.100.1%~(一体化)

-geography(地理)

 -International Union(IU)
  -国際同盟。各国の共生、発展の協力に加盟して集まった国際組織。
  -aircraft
   -NTH90
    -重量:6.4t
複数の国が開発に関わり、陸、海軍用があり、多国で多用されている高性能な国際同盟産軍事汎用ヘリ。

 -Jupo(Jup)
  -ジュポ国。東に巨大な海を臨み、多くの島からなる経済大国。
  -Chitai
   -チタイ副都心。大きく栄え、ジュポ国が誇る副都心の一つである。過去に袋状の池があった。
  -Ryuk
   -リューク島。
ジュポ国南に位置する島。豊かなサンゴ礁に恵まれている。
  -Yomi Town
   -ヨミタウン島。
ジュポ国南、リューク島東に位置する島。島全体が一つの都市になっている。有事に備え島民は任意に軍事訓練を受ける事が出来、島民の多くは予備兵となっている。小規模ながら技術力はかなり高い。
  -weapon
   -JDH97
    -高コストなジュポ国産セミオート式ヘビーアンチマテリアルライフル。
   -SKJ99
    -戦闘機や対空で用いられるジュポ国産アンチマテリアルマシンガン。
  -automobile
   -HTJ10
    -重量:44t
小型、軽量で、モジュール装甲、高度な情報処理システム、特殊なサスペンションを備えたジュポ国産主力戦車。
  -Powered Armor
   -PVJ02 PoVarJi2
    -種別:200kg Class Very Light Powered Armor(VLPA) 重量:210kg
通称ポヴァージ2。歴史があり、各国に大きな影響を与え、派生や模倣を多く生み出しているジュポ国産一般用200kg級超軽量パワードアーマー。
   -HSJ10 HiSuJi10
    -種別:400kg Class Standard Weight Powered Armor(SWPA) 重量:440kg 防護力:<30mm
通称ヒスジ10。小型で高性能、HTJ10の技術を用いたジュポ国産主力400kg級標準重量パワードアーマー。

 -Chny(Chn)
  -チニ国。人口が非常に多く、領土も広く、多種多様の地形を有する。成長力も高いが安定していない。
  -Jii Fuudon Chunshii
   -ジィ・フードン・チュンシィ浮体都市群。
チニ国東の沖合いに設置された浮体都市群。本国海岸付近にある島と浮体都市を橋やトンネルで繋ぎ、更にその浮体都市と他の浮体都市を繋いでいき、浮体都市群を形成する。外国人も多く訪れ急速な発展を遂げているが不祥事が頻繁に起こっている。
   -Jieshuu
    -浮体都市ジエシュー。浮体都市群の外側に位置し、唯一浮体都市スニーンと繋がっている浮体都市。
   -Suneen
    -浮体都市スニーン。浮体都市群の外れにある浮体都市。
  -automobile(車両)
   -ZTC96
    -重量:41~43.7t
低コストでモジュラー装甲を備え、数カ国で使用されているチニ国産第2世代主力戦車。


  -Powered Armor
   -ZSC96 ZeSC96
    -種別:400kg Class Standard Weight Powered Armor(SWPA) 重量:410~437kg 防御力:<20mm
通称ゼスク96。ZTC96の技術を流用し低コストでモジュラー装甲を備え、数カ国で使用されているチニ国産400kg級標準重量パワードアーマー。


 -Cngu(Cng)
  -クング国。雷と雨が非常に多く、国を横断する川を持つ開発途上国。紛争の問題を抱えている。
  -Oprimi Putii
   -オプリィミィ・プティー村。クング国の少数部族が住む村である。自警団を有しており、政府や他の武装組織と度々衝突している。村人は自らの部族に誇りを持っており、倒した敵を称える風習がある。

 -Twan(Twa)
  -トゥアン国。人口が非常に多い都市を持つ島国。先進国だが隣国との領土問題で国と認められていない。

-technology(技術)

 -building(建築物)
  -Very Large Floating Structure(VLFS)
   -超大型浮体式構造物。Artificial Island(人工島)、Floating City(浮体都市)、巨大人工浮島、メガフロートとも呼ばれる。

 -fuel(燃料)
  -Geka Compressed Fuel
   -ゲカ圧縮燃料。物体を圧縮する性質を持ったゲカを利用し、相性の良い燃料を圧縮し小型化する技術。燃料の設置場所を小さく事が出来るが扱いに注意しないと大変危険であり、又変換機が無いとそのままでは使えず、コストも高い。主に大きさに制限のある小型機械に使用される。
  -Geka Fuel Cell
   -ゲカ燃料電池。電気特性の高いゲカの膨大なエネルギーを電気に変える為の技術。ゲカはそのまま使用するには大変危険である為、微量のゲカと伝導体を含んだ結合剤等を化学的に結合させて燃料を生成する。専用の装置を使う事により電力を取り出す事が可能になる。ゲカは危険である為設備をしっかり整えるか燃料内のゲカ配合量を少なくする事で安全性を確保する事ができる。ゲカの代用としてヒカを使用した方が安全で高い電力を期待できるが、ヒカは量が少なく高コストである為実用的ではない。

 -engine(原動機)
  -Turbo Ion Engine
   -ターボイオンエンジン。イオン流量を増やし推力を大幅に上げた新型イオンエンジン。高コストであり大型化が難しい事から構造上小型機械に向いている。
  -Neo Ion Engine
   -ネオイオンエンジン。ターボイオンエンジンのイオン放射機の応答速度を上げたイオンエンジン。ターボに比べ最大推力は劣るが推力操作の応答が速い。その性能故にフレームや制御システムへの負担も大きい。

 -weapon(武器)
  -Hika, Geka Ammo
   -ヒカ、ゲカ弾薬。ヒカやゲカを使用した弾薬。種類は様々で、徹甲弾、焼夷弾、榴弾等があり、又火薬にもヒカやゲカが使用されているものもある。どれも絶大な効果を期待できるがそれに耐える武器が少ない、製造が難しい、性能がまばら、用意できる個数も少なく費用も掛かる為量産には向かない。
  -Close Quarter Weapon Equipped Fire Arm(QEFA)
   -近接武器搭載型銃火器(近接搭載銃)

 -automobile(車両)
  -Multi-Legged Vehicle(MLV)
   -多脚車両。装備された脚により、従来の車両が決して通れないような地形を歩行する事ができる。脚を接地安定用のアウトリガーとしての利用も可。タイヤや無限軌道を備えた車種は従来の車両の様に走行する事もできる。脚を使用しない時は折り畳む車種もある。多脚システムは重くて嵩張り、通常車両より機動力は劣る。脚の数は基本4本だが、3本等の種類もある。

*多脚装甲車起立シークエンス。上が起立、下が脚を折り畳んだ状態。

 -Active Machine(AM)
  -アクティブマシン。ロボット工学や人工知能等の最先端技術を多く用いた能動的機械。
  -Active Arms(AA)
   -アクティブアームズ。武装したアクティブマシン。

 -Powered Suit(PS)
  -パワードスーツ。人が着る事で人間本来の能力を拡張する強化服。サイボーグ化していなくてもそれに近い能力を得る事ができるが身体的負担を強いられる可能性がある。
  -Artificial Muscle Suit(Muscle Suit)
   -マッスルスーツ。人工筋肉で覆われた最も需要の高いパワードスーツ。出力は勿論、機動力が高く防御力も申し分ない。コストは高めだが性能故に広く使用されている。
   -防御力:<4.6mm。ピストル弾等は防げるが、小口径高速弾は防げない。
  -Gel Suit
   -ゲルスーツ。ゲル状の性質を持ち、耐衝撃性能の高いパワードスーツ。装着者の衝撃を和らげる事に特化している為、パイロットスーツとして使用される事が多いが防御力は低い。
   -防御力:無いに等しい。

 -Powered Armor(PA)
  -パワードアーマー。主にパワードスーツ着用を前提に搭乗する人型強化装甲。マスタースレイブ等のマンマシンインターフェースを備え、人体の骨格に連動する構造をしている。使用が絶対では無いがパワードスーツを用いる事でパイロットに伝わる外部からの衝撃を緩和しパワードアーマーとの一体化を促進する。制御系を調整する事で障害者や小型人間でも問題なく使用できる。サイボーグ、制工人体使用者も搭乗する事は可能だが制御の負担が増える為効率はあまり良くはない。
パワードアーマーは装甲が厚くなると稼動範囲が狭くなり重量も増えるが、稼動範囲を優先すると関節部のコストが膨らんでいく。理由は関節の一部で使われる蛇腹式装甲が高コストな為である。狭い稼動範囲を補う為に補助腕等を備える事がある。パワードアーマーの多くは太い脚部が干渉してしまう為足を完全に閉じる事はできない。因って歩行する際はがに股になる瞬間があり、一部のパイロットはがに股になるケースがある。こういった事情もあり、パワードアーマーのパイロットの体は以前より柔らかくなる事が多い。パイロットに要する体格はパワードアーマーによってまちまちだが、多く流通しているフリーサイズ型はパイロットの体格に合わせて関節が移動し身長180~140cmに対応している。又使用者の体の一部が欠損している場合、その部位に空洞が生まれる為、その部位の稼動範囲の制限は無くなる。本体の一部分が露出、下半身だけのモデル等パワードアーマーの種類は様々である。
パイロットの操縦技術、反応速度、身体能力、体格や体の柔軟性を数値化した適正値を調べ、パワードアーマーに設定する事で効率良くパワードアーマーを操縦する事ができる。

  -100kg Class Ultra Light Powered Armor(ULPA)
   -100kg(~199kg:総重量)級極軽量機。パワードアーマーの中でも最軽量の為露出がありフレームのみで形成されていて搭乗者の防御性能は極めて低い。軍用では潜入、落下傘部隊等で使用されている。
   -防御力:<12.7mm(frame)
  -200kg Class Very Light Powered Armor(VLPA)
   -200kg級超軽量機。全体的に細く100kg級とは違い全体が防護されており重量が軽い為飛行装置の実用性が高い。軍用では航空支援や制圧任務等に使用されている。
   -防御力:<12.7mm(frame),<7.62mm
  -300kg Class Light Powered Armor(LPA)
   -300kg級軽量機。外見は400kg級より若干小柄でスカートや肩アーマー等の追加装甲が無い。
   -防御力:<12.7mm
  -400kg Class Standard Weight Powered Armor(SWPA)
   -400kg級標準重量機。スカートや肩アーマー等の追加装甲を持ちジェネレーター出力も申し分無くバランスが取れた万能クラス。
   -防御力:<20mm
  -500kg Class Heavy Powered Armor(HPA)
   -500kg級重量機。全体的に太くジェネレーターも大型で400kg級より下半身が大型化されたクラス。
   -防御力:<20mm
  -600kg Class Very Heavy Armor(VHPA)
   -600kg級超重量機。500kg級より上半身も大型化されたクラス。防御力、ジェネレーター出力や有効積載量が高く機動力もある為軍用では主力として用いられる事が多い。
   -防御力:<30mm
  -700kg Class Ultra Heavy Powered Armor(UHPA)
   -700kg級極重量機。肩パーツが頭を覆っている。機体が大きくバランスの確保の為補助脚を備える事が多い。動きが鈍いがその分防御力、ジェネレーター出力や有効積載量が最高レベルに達する。
   -防御力:<30mm

*左上から人間(180cm、マッスルスーツ着用)、100kg級~。左下から400kg級~。最も濃い色が蛇腹式装甲。最も薄い色が共通部品。

*フリーサイズのパワードアーマーは搭乗者の体格に合わせて関節を移動する。(左右のパワードアーマーは同機種である。マッスルスーツを着た左の搭乗者は180cm。右は140cm。)

*ハッチ開閉シークエンス。(内部にマッスルスーツを着用した搭乗者)

*補助腕展開シークエンス。

  -Additional Unit
   -追加装置。パワードアーマーに機能を追加する為に用いられる。規格が合えばパワードアーマー以外でも使用可能。
   -Roller Unit
    -車輪装置。主に脚部に取り付けられ、使用する事で地上での行動範囲が広がる。駆動系の有無や車輪の数等種類は様々。

*フォークリフト装置装備型300kg級軽量パワードアーマー。

 -sensor(感知装置、センサー)
  -Outer Sensor(Hika、Geka)
   -アウターセンサー。周囲のアウターの力(ヒカ、ゲカ)を感知する装置。装置の素子にもヒカやゲカが使われ、一般には両方セットされている。アウターの力は他のアウターの力を引き寄せ合うか反発し合うので、その力を電気信号に変換する事で周囲のアウターの力の状態を知る事が出来る。
   -ヒカがある場合:ヒカ素子が正の反応を示し、ゲカは負を示す(ゲカがある場合は逆)
   -距離が近い場合:信号の更新速度が上がる。
   -量が多い場合:波形の振幅が上がる。
   -濃度が高い場合:周波数が上がる。
   -不安定な場合:波形が変化していく。

  -Active Discrimination Assault Security
   -自動識別強襲警備。自動で脅威の有無を識別し、危険と見なされるものを強襲、無力化する警備システム。測定範囲内の脅威となりえるもの全てを追跡し、危険かどうか、攻撃対象にするかを判別する。攻撃命令を人間が行うものと優秀なコンピュータに任せるタイプがある。攻撃方法を共焦点レーザーにする事で、人込みであっても他人を傷つける事なく目標を攻撃できる。武装が許された近代都市に広く取り付けられている。

  -Fire Line Analysis
   -射線解析。様々な火器の射線を解析する技術。解析方法は画像、熱源、3次元レーダー等を用いる。射線を解析する事に因って火器を持つ本体の目標や行動パターン、未来予測まで知る事が可能になる。主に防犯や戦闘で使用される。

 -Cybernetic Organism(Cyborg)
  -制御型人工有機体(制工体)。制御工学や電子工学等の最先端技術を用いて人工的に製造した有機体組織。
  -Cybernetic Human(Cyman)
   -制御型人工人体(制工人体)。サイボーグ技術を用いて製造された人体。拒絶反応等の問題がなければ人間の身体機能の一部、又は全てを取り換える事が出来る。治療、又は身体機能拡張の為に用いられる。人間にとって害のある環境でも問題なく、体中を自由に改造できる等メリットがある反面、拒絶反応、電子攻撃や部品の磨耗等人間とは違ったリスクに注意しなければならない。
  -Cybernetic Brain(Cybrain,Cyber Brain)
   -制御型人工頭脳(制工脳)。サイボーグ技術を用いて製造された頭脳。電脳ともいう。人体の頭脳を制工脳に取り換える際、本人の脳幹はそのまま残る。制工脳は電子的に構成されており、コンピューターと同じ様に通信網へのアクセスや情報の入出力を行う事が出来る。しかしその分記録領域を定期的に検査しないと機械的不具合や悪性ソフト等による欠陥を招く恐れがある。治療、又は身体機能拡張の為に用いられる。
   -External Simplified Cybernetic Brain(External Cybrain)
    -外付け簡略式制御型人工頭脳(外付け制工脳)。サイボーグ技術を用いて製造された外付け情報処理端末。制工脳とは違い脳を取り替えるのではなく、生きた脳、又は制工脳の処理能力向上の為追加の情報処理端末を後付けする技術。生きた脳はそのままに、脳又は制工脳と外付け端末を繋ぐ中継器を体に移植し異常がなければ使用可能となる。接触、あるいは非接触で外付け端末と通信し、脳からの信号だけで端末を操作できるので応答が早く、手や音声認識等の操作を必要としない。脳本体に対する影響や負担が小さい為電子攻撃の影響を受けにくく、それを逆手に外付け制工脳を脳や制工脳の身代わりとして活用する事もできる。取替えも楽で利便性は高いが処理能力は制工脳に劣る。身体、政治、宗教、金銭面等様々な理由から制工脳手術を受けられない者でも手軽に外付け制工脳手術を受ける事ができる為、人気が高い。多くの利用者は端末の中継器の端子を耳に移植している。端子が耳にある事で端末が内蔵されたヘッドホン、眼鏡、ピアス等を使う事ができ、ファッション性を考慮できる。

 -Cybernetic Space(Cyber-Space)
  -サイバースペース。電脳空間、仮想空間とも呼ばれる。コンピュータネットワーク上にある膨大な情報により構築され、人の意識を自由に行き来させる事ができる仮想的空間。

2015年2月14日土曜日

Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~最終話~浮体都市の化け物~

-最終話-

   ジェンシャン一行が第2レイヤーに入った頃、ゲカアウタレスの群れは勢いを落とし始めていたものの、辺りは未だ戦闘で溢れていた。中には略奪や犯罪も混じっており、警察は手を焼いていた。3人は立ち塞がるアウタレスを倒し、第3レイヤーに入った。雰囲気は変わり暗い通路を歩いていると、ジェンシャンが地面に何かを見つける。ライトを照らすと、そこには兵士の死体が転がっていた。それを見たジェンシャンは気分を悪くした。辺りには死体がいくつも見つかったが、既にスイッチが入ったのか、キョウは何も反応を示さなかった。そんな時だ。聞き覚えのある低い笑い声のような奇声が聞こえた。何かに気付いたのか、キョウは一点をずっと見つめていた。シティオも彼と同じ方向を向き、それを見ていたジェンシャンは彼等が向く方に化け物が潜んでいる事を悟る。

「いるのか?」

シティオは静かに答える。

「ああ。こちらの様子を伺っているようだ。今ゲカの数値を測定していたところだったが、なるほど。調査隊も測定に失敗する訳だ・・・」

「測定できないのか?」

「距離のせいもあるが、奴が動きまくって捕捉しづらいんだよ・・・よくあの速度で動き回れるな・・・だがな、その程度じゃ俺からは逃げられないんだよ・・・」

シティオはセンサーを切り替え、より高精度な測定器を使用する。

「結果が出た。推定約3m。ゲカ濃度13%。意外と低いな・・・知能が高いのか?・・・危険度は5、脅威度は4といったところかな・・・」

「どうする?先を進むか?」

「よし、ジェンシャン少佐は真ん中、キョウ上等兵は少佐の後ろでフォローを頼む。」

「了解。」

「・・・分かりました。」

2人はシティオの指示に従い、3人は縦の列に並び、前に進む。

「研究所を目標に進む。だが少しでも奴が近付いたら徹底的に叩く。それでいいか?」

シティオがジェンシャンに問うと、彼が答える。

「了解。それでいこう。前は頼んだぞ。」

敵がこまめに動いているのか、キョウの視線がキョロキョロしていた。敵の動きにイライラしていたシティオが突然、足を止めた。

「どうした?」

ジェンシャンが聞いてもシティオは無言だった。敵の動きに変化があったのか、ジェンシャンが全ての武装を一斉に構えた。

次の瞬間、爆音と共にシティオの体から一斉に火を噴いた。弾丸の雨が横に流れ、多くのマズルフラッシュで辺りが照らされていた。特に容赦ない機関銃においては、熱で弾詰まりしないよう交互に休ませ只ひたすらにぶっ放していた。たとえ敵が壁の向こう側にいても徹甲弾やグレネードを撃ち、壁は穴だらけになっていた。あまりの爆音に耳を塞いでいたジェンシャンが叫ぶ。

「もう止めろぉーーー!!」

しかし彼の叫びも束になった銃声にかき消された。キョウは耳を塞ぎながら敵がいる方を見ていた。敵が未だ射程内にいるのか、シティオの猛攻は終わらない。撃ちながら他の銃の弾倉を交換し、地面は薬莢で溢れる。ついに敵が離れたらしく、シティオは銃撃を止めた。周囲の照明や小物は破壊され、そこら中穴だらけになっていた。その光景にジェンシャンはドン引きする。

「お前はこの都市を沈める気か・・・」

「遊ばれているようで頭にきたんでな・・・これで相手も下手に近付かんだろう・・・」

「このやり方じゃあ奴を仕留めきれませんよ・・・」

シティオの言葉にキョウがツッコミを入れた。

-最終話~浮体都市の化け物~

   シティオは敵を捕捉する度に銃弾の雨を降らし、一行は第3レイヤーを進む。そしてついに、彼等は目的のゲカ研究所に辿り着く事に成功した。辺りは暗く、薄気味悪かった。誰の気配も感じなかったが、3人はクリアリングしながら施設の中に入っていった。施設の予備電源がまだ生きていて、接触不良で点滅する照明が雰囲気を作っていた。注射器やフラスコ等の器具が床に散乱し、生き物が入っていたであろう檻は破られていた。血痕も多く、ここでどのような惨劇が繰り広げられていたのかを物語っていた。奥でサーバールームを見つけたジェンシャンが2人を呼ぶ。彼等が安全を確認すると、シティオはパワードアーマーの指から延びた通信ケーブルをサーバーの一つに繋ぎ、通信を試みる。

「ガードが高くて面倒だな・・・一度システムを落とすぞ。」

サーバーのセキュリティーは強固で、不正なアクセスを拒んだ。そこでシティオはサーバーに大量の不正アクセスを繰り返し、エラーを出させながらデータを盗み、更にはサーバーにウィルスを送っていた。膨大な処理を要求されたサーバーは温度を上げ、ついにシステムが落ちた。サーバーを再起動させると、シティオが送り込んだウィルスが働き、サーバーはシティオに支配された。しかしこれはシティオの処理能力がサーバーの処理能力を凌駕した結果だった。

「よし、システムを乗っ取った。」

「この短時間でか!?」

ジェンシャンはシティオの持つ力に恐れを覚えた。

「今データの吸い出し中だ・・・あったぞ、アウタレス実験のデータだ。関連資料をそちらに送る。」

シティオは研究所が行ったゲカアウタレス生物実験に関する資料を、サーバールームにある端末へ送った。ジェンシャンは早速その端末を操作し、キョウは隣で辺りを警戒しながらそれを見ていた。端末の画面には多くの資料が写し出され、ジェンシャンが呟く。

「すごいなこりゃ・・・ゲカ薬品、人体再生技術、動物合成実験・・・」

資料を見つめていると、合成する動物のリストを見つけ、キョウが尋ねる。

「なんですか、これ?」

「研究所はどうやらゲカを用いて様々な動物を混ぜ合わせる実験をしていたみたいだな。キメラか・・・ゲカアウタレス関連の研究は規制が厳しいのに・・・」

ジェンシャンは続ける。

「沢山あるな・・・カエル、ナマケモノ、クラゲ、カニ、サル、クモ、サメ、アザラシ、オランウータン、カモノハシ・・・」

突然ジェンシャンは止まり、キョウが彼に寄る。

「どうしたんですか?」

「人だ・・・」

「え?」

「合成リストに人が入っている・・・」

ジェンシャンは動物の合成リストにある人間について調べる。

「元囚人か・・・ベタだな・・・こいつは一体何に混ぜられたんだ・・・」

資料に載っている単語を見てジェンシャンは驚愕した。「W.I.」と記されていた。

「ゲカアウタレス実験体W.I.・・・こいつか・・・」

資料にはW.I.が檻に入っている映像や、実験の記録が詰まっていた。

資料によると、W.I.は五感が非常に優れていた。そこで研究者達はW.I.の五感の限界値を探る試験、又潜在能力の向上を謳う実験を繰り返した。強い光を何時間も交互に照らす実験、防音室で爆音を流す実験、耐熱、耐寒実験や電圧を変えての電気ショック実験、太さの違う針を皮膚に刺す実験、香水や毒ガス、催涙ガスの耐久実験、海水を飲み続ける実験、薬剤検証実験、麻薬を用いたショック療法実験等多岐にわたる。これ等の実験映像もあったが、多くはW.I.の悲鳴らしき奇声で溢れていた。実験は延々と続けられ、W.I.の様子や挙動、眼球運動が度々おかしくなっていたが、ゲカによる再生能力で毎回回復していた。W.I.は実験の度に暴れていたが、ある日を境に大人しくなった。それ以来低い笑い声のような声を発するようになり、実験を続けW.I.の五感の感知能力は以前よりも格段に上昇した。

この資料を見ている間、ジェンシャンは言葉を失った。彼が横を向くと、キョウが画面を見つめながらにやけていた。

「おい、キョウ・・・どうかしたか?」

ジェンシャンを向き、にやけたままのキョウが言う。

「彼を助けてあげないと・・・」

キョウの言葉にゾッとしたジェンシャンの後ろで、シティオがサーバーからケーブルを抜く。

「よし、データは貰った。早くここを出よう。」

ジェンシャンが端末を操作する。

「こんなやばい情報を見て大丈夫なのか?」

「サーバーは可能な限り復元した。気付いた頃には俺はもう消えている・・・だがいずれ捜査が入るはずだ。何か聞かれたら俺が盗んだと言ってくれ。」

「お前はそれでいいのか?」

「俺は賞金首だぞ、いつもの事だ。それにこんな小さい犯行なんて大したは事ない。気にするな。」

3人は研究所を離れ、第2レイヤーに向かった。

3人が帰路につくと、辺り一帯に人間の死体が飾られていた。恐らくW.I.の仕業であろうその光景にジェンシャンは気分を悪くした。すると突然、対策本部から各部隊に向けて、緊急要請の連絡が来た。聞くと、第2レイヤーにゲカアウタレス実験体W.I.が出没し、被害を抑えるべく協力してほしいとの要請だった。しかしそのゲカアウタレスの詳細を聞くと、体長4m以上の大物で、ジェンシャン一行が知っているW.I.とは別物のように聞こえた。ジェンシャンとシティオが相談していると、低い笑い声のような奇声が聞こえた。W.I.がすぐ近くにいる。ジェンシャンとシティオが振り向くと、先ほどから様子がおかしいキョウが口を開く。

「先に行って下さい・・・」

ジェンシャンは困惑する。

「何言っているんだ?」

「二人は先に行って下さい・・・ここは私がやります・・・」

「一人で相手をする気か?無茶にも程がある・・・」

「その方が楽なんですよ・・・それに、そうしないといつまで経ってもあいつは出てきてくれませんよ・・・」

シティオがキョウに尋ねる。

「死ぬ気じゃないんだな?」

「大丈夫ですよー。あいつずっと怯えてますし・・・」

「・・・そうか。」

シティオは黙り、苛立っていたジェンシャンは声を荒げる。

「冗談じゃない!こんな無謀な作戦があ・・・」

一瞬ジェンシャンが見たキョウの顔は、白く人の顔をしていなかった。5年前に見た惨劇が、ジェンシャンの脳裏に蘇る。ジェンシャンはキョウに恐怖した。黙っていたシティオが言う。

「分かった・・・こちらの用事を済ませたら迎えに来る・・・少佐、行こうか・・・」

ジェンシャンはシティオに引っ張られ、二人はその場を後にし、キョウは下を向いたまま動かなかった。

「どういうつもりだ?」

戸惑うジェンシャンに、シティオが答える。

「少佐も見ただろう。あれは人をやめた奴の顔だ・・・もうW.I.を殺さないと元には戻らんぞ・・・」

   キョウは一人死体が散乱する暗い通路を歩いていた。低い笑い声のような奇声を聞く度彼は身構え、体は震えていた。キョウが振り向くと影が過ぎ去り、彼は発砲するも反応はなかった。すると突然闇から巨大な手がキョウを襲い、彼はなんとかそれを避け応戦する。再び奇声が聞こえるが、動きはない。また巨大な手がキョウを襲い、致命傷はないものの、彼の体に傷を増やした。キョウは闇との戦いを強いられ、為す術がなかった。気配がする方を向いても、化け物を捉える事ができない。心拍数が上がり、体力を消耗する。何度も聞かされた低い笑い声のような奇声が辺りに響いていた。

奇声とは別に、新たな奇声が聞こえる。キョウの笑い声だ。化け物の奇声に負けじと、彼は上を向き、口を大きく開けて笑っていた。化け物が近付くとキョウは発砲するが、化け物は回避する。化け物はキョウの姿を探し、隠れるキョウを追い詰める。横たわる死体の一つから、突然銃弾が飛んできた。シティオが死体の下に隠れていた。銃撃を避けた化け物は応戦するが、そこにはもうキョウはいなかった。人影が後ろを通り過ぎ、化け物が振り向くと、そこには誰もいない。再び死体から銃撃され、回避した怪物はまたもキョウの気配を見失う。時折何かが壊れる音が聞こえるが、そこにキョウはいなかった。キョウの笑い声の中で化け物は周りを見渡し、彼を探した。何度も闇討ちされた化け物は次第に暴れ始めた。化け物の前を人影が通り過ぎ、影を攻撃するが、化け物の腕は空を切った。今度は後ろに人影が現れ、化け物の攻撃がそれを捕らえた。攻撃を受けた人影の胴体が千切れ、地面に落ちた。よく見ると死体はキョウではなく、別人だった。死体の首が転がり、化け物の足元で止まる。その首と目と目が合った化け物は、死体の口に手榴弾が詰まれているのが見えた。目を大きく開く化け物の足元で、死体の首が爆発した。傷だらけになった化け物は痛みで悲鳴を上げるが、それをかき消すかのようにキョウの笑い声が響く。化け物が辺りをよく見ると、一帯の死体の目が開いていた。キョウの笑い声の中、化け物は震えていた。通路の奥で、笑顔のキョウが姿を現した。何もせずただ化け物を見つめながら立っていた彼に、化け物が襲い掛かる。するとキョウの目の前の床が爆発し、化け物はその穴に落ちた。地面に落ちた化け物が体を動かそうとすると、激痛が走り化け物は悲鳴を上げる。化け物の体中が何かに突き刺さっていた。よく見ると、床に尖った骨が並べられていた。その骨は折られた人間の脇腹や手足だった。化け物が落ちた穴を見上げると、そこにはキョウが立っていた。彼は化け物を見つめ、ずっとにやけていた。


痛みもあったが、何よりも溢れる恐怖で化け物はひたすら叫んだ。キョウはにやけたまま機関銃を化け物に向ける。

「おかえり・・・」

暗い通路に機関銃の音と悲鳴が響いていた。

   第3レイヤーに戻ってきたシティオとジェンシャンは、通路を歩くキョウを見つけた。するとキョウは前にいたシティオに手榴弾を投げ、機関銃を撃った。しかしシティオには追加装甲もあり、本体にダメージは通らなかった。キョウはシティオを襲い、シティオは巨体の割りに素早く動き、キョウを地面に押さえた。ジェンシャンがキョウに歩み寄る。

「キョウ、私だ!ジェンシャンだ!しっかりしろ!」

それを聞いたキョウの瞳に、みるみると光が戻り、ジェンシャンがささやく。

「もう帰ろう。」

   1月11日土曜日の午後、対策本部は事件の終息を発表した。この事件は後に実験ゲカアウタレス暴走事件と呼ばれた。再び精神障害を患ったカクセ・キョウ上等兵はジュポ国へ帰り、治療を受けた。ジェンシャン・ピングー少佐も彼に付き添い、後日キョウは無事退院する事ができた。尚、公開記録にはゲカアウタレス実験体W.I.に関する情報は一切記載されていない。



   とある暗い部屋の中で、二人の作業員が端末の画面を見ていた。科学捜査班か、作業員は映像を解析していた。彼等が解析したファイルにはW.I.の文字が並んでいた。画面には浮体都市スニーンの監視カメラに映ったゲカアウタレス実験体W.I.らしき影が映っている。画面は地下鉄に映った影を拡大し、推定3mという文が添えられていた。続いて変電所の映像をプログラムで鮮明にし、映った影を拡大すると、化け物の形をしていた。そして研究所前の映像に映る影を拡大した。初めに銅像の頭の形が変わり、後ろの影が移動すると銅像に首はなく、影は化け物の形をしていた。研究所の敷地の3次元情報、光源の強さと位置情報、化け物の肌色や質感の情報を照らし合わせると、化け物の形をした影が少し鮮明になった。画質が悪く見づらいが、そこにはヒレの付いた大きい手足、大きい頭、クチバシのような口、丸く大きな目、頭から沢山の垂れる髪の毛のようなものを伸ばした生物が映っていた。その生物はカメラに向かってにやけていた。




-最終話~浮体都市の化け物~ ~完~

2015年2月12日木曜日

Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~第3話~ゲカ研究所への切り札~

-第3話-

   第二波の調査隊が消息を絶ち、対策本部に重い空気が流れていた。第3レイヤーにはゲカアウタレスの化け物が潜んでいる。何度も被害が確認されているにも拘わらず、誰もその正体すら掴めなかった。ずっと何かを考え込んでいたジェンシャンは対策本部長に声を掛ける。

「次はどうします?」

「・・・奴ごと第3レイヤーを火の海にしてやる・・・」

対策本部長は静かに自身の決意を言葉にした。

「なら私に少し時間を下さい。あとできれば兵を貸していただきたい。」

「・・・好きにして構わない。だが兵は貸せん・・・上からの命令だ。軍は国際同盟に協力するなと。」

「そんな事言っている場合じゃ!・・・分かりました。失礼します。」

ジェンシャンは込み上げる怒りを抑え、出口に向かう。すると、対策本部長が言う。

「命令を受けたのは軍だけだ。警察や賞金稼ぎと組むなら何も文句はない。」

ジェンシャンは振り返り、退室する前に一言放つ。

「・・・感謝します。」

-第3話~ゲカ研究所への切り札~

   ジェンシャンは直ぐ様ジュポ国にいる彼の戦友に連絡を入れ、戦友が通信に出る。

「ジェンシャン少佐か?どうしたこんな遅くに。まさか今スニーンにいるのか?」

ジュポ国でも浮体都市スニーンに関して政府が動いているのか、戦友は察するのが早かった。

「そうだ。実は折り入って頼みたい事があるんだが、あのキョウ・カクセ上等兵をここに送ってくれないか?」

「あいつをか?なぜ?まともな戦力にもならんぞ?」

戦友はジェンシャンの申し出を受け混乱していた。

「それ程までに状況が悪化しているんだ。察してくれ・・・彼にはまた悪夢を見せる形になるが、今すぐにでも彼の能力が必要なんだ。」

戦友は言葉に詰まる。

「しかし・・・彼はたらい回しにされ軍でもお荷物になっているんだぞ?とても使いもんになるとは思えんが・・・」

「全ての責任は私が取る。それに私なら彼は話を聞いてくれるかもしれん。お荷物が戦果を上げられるならいいだろう?それに、このまま放っておけばお荷物どころか軍の呪いになるぞ?」

「むしろ軍は彼を追い出したがっている・・・入国手続きや審査はどうするんだ?」

「緊急案件だ。いくつか省いても構わんだろう。国際同盟が間に入るからそこまで気にするな。」

戦友はしばらく黙り込む。

「・・・分かった。一応本人にも確認を取ってみよう。後悔するなよ。」

「ありがとう。助かる。」

   ジュポ国との通信を終え、ジェンシャンのもとに警察が来た。彼等は今後の作戦行動について打ち合わせをし、協力を約束した。その後ジェンシャンが第1レイヤーを歩いていると、パワードアーマーに呼び止められた。シティオだった。

「シティオもご苦労だったな。人命救助はうまくいったのか?」

「ああ、人自体は多いからな。周りに手伝ってもらったよ・・・調査隊については残念だったな・・・」

「また被害が出る前に決着を付けんといかんな・・・先程応援を呼んでおいた。到着次第研究所に向かおうと思う。」

「急いだ方がいい・・・俺は地下鉄を調べてくる。」

立ち去ろうとしたシティオを、ジェンシャンが呼び止める。

「ならあいつ等も呼んでやれ。」

ジェンシャンが指を差した方には警察の特殊部隊がいた。シティオが問う。

「どうしたんだ?」

「先程要請があってな、警察も私に協力してくれる事になった。」

「ほう、やるじゃないか。人手が増えると助かるぜ。」

シティオはジェンシャンの肩を叩き警察特殊部隊のもとに向かい、ジェンシャンは彼を見送る。

「ちょっと痛かったな・・・」

   数十分後、シティオからジェンシャンに通信が入る。

「少佐、地下鉄付近で生存者を発見した。これより帰投する。」

「了解。何かできる事はあるか?」

「一人の賞金稼ぎから地下鉄でのレポートを得たが、これより他に有益な情報がないか聞き出してもらいたい。」

「対策本部で事情聴取できないのか?」

「一人が重傷を負っている。浮体都市ジエシューの医療施設に緊急搬送されるだろう。少佐にはその間付き添って事情聴取してもらいたい。俺はまた都市に入る。」

「了解した。どこに向かえばいい?」

「ヘリポートだ。」

通信を終えるとジェンシャンは急いでヘリポートに向かい、輸送機の中で地下鉄の生存者達に面会した。スニーンを飛び立った輸送機の中で、ジェンシャンは生存者から話を聞き、浮体都市ジエシューで彼等と別れた。スニーンに戻る輸送機の中で、ジェンシャンはシティオに連絡を入れる。

「ジェンシャンだ。生存者の搬送が終わり今はスニーンに向かっている。」

「で、どうだった?何か聞き出せたか?」

「電車の乗客の証言からW.I.と思われる目撃談があった。監視カメラ映像に映った影が奴である可能性が高くなったな。それ以上は分からん。」

「そうか。例の応援はまだなのか?」

「もう少し待ってくれ。到着次第研究所行きの準備だ。他に何かあるか?」

「装備をいくつか用意してもらいたい。」

シティオは要求する装備のリストをジェンシャンに送り、ジェンシャンはリストを確認する。

「随分多いな。分かった。可能な限り用意する。」

「頼む。」

   ジェンシャンはスニーンに戻り、装備を揃え終わると、一機の輸送機が着陸した。中から出てきたのはジェンシャンがジュポ国陸軍に応援を要請したキョウ上等兵だった。彼の名はカクセ・キョウ。27歳。男性。ジュポ国出身でジュポ国陸軍上等兵である。彼は見た目が弱弱しく、軍人のようには見えなかった。


ヘリポートに降り立つ彼をジェンシャンが迎える。

「トゥアン国陸軍のジェンシャン少佐だ。久しぶりだな。元気にしていたか?」

キョウは恐る恐る口を開く。

「どうも。ジュポ国陸軍所属のキョウ・カクセ上等兵です・・・お久しぶりです、ジェンシャン少佐・・・」

「まぁここじゃ話しづらいな。中でゆっくりしてくれ。そうだ、喉渇いてないか?何か飲むか?」

「暖かいココアとか、あると嬉しいです・・・」

まるで介護の様子を見ているような光景に、周囲にいた者達は違和感を覚えた。キョウをベンチに座らせ、ジェンシャンはまずトゥアン国にいる部下に連絡を取る。

「真夜中にご苦労。先程話したジュポ国のキョウ・カクセ上等兵がここに着いた。早速契約の手続きを頼む。」

「了解しました・・・ところでこのキョウ上等兵とは何者なのですか?資料を読んだ限りとても戦力にはならないと思いますが・・・しかも精神疾患だなんて・・・」

ジェンシャンの身を案ずる部下は資料片手に愚痴をこぼした。無理もない。キョウは配属がころころ変わり、兵としては平凡どころか完全に役立たずだった。ジェンシャンは部下に対して穏やかに話す。

「なるほど、君の世代は知らないか・・・無理もない。」

「何をですか?」

眉を寄せる部下にジェンシャンは続ける。

「5年前PKO活動中の国盟軍爆発物処理班が森でゲリラに襲撃された事件を覚えているか?」

「はい。クング国で起きた事件ですね。」

「彼はその事件の生き残りなんだよ。」

気の毒に思い、部下の声が小さくなる。

「そうだったんですか・・・しかしそれが今回の件と何が関係しているんですか?確かゲリラは追撃した国盟軍と政府軍によって敗北していますし・・・」

間を持ってジェンシャンはゆっくり話した。

「実はそれなんだが・・・ゲリラを倒したのはキョウ一人なんだ。」

部下は思わず言葉に詰まる。

「そんな馬鹿な・・・そもそも記録にはそんな事記載されていませんよ?」

「載せられないんだよ・・・載せれば問題になる。」

「大戦果じゃないですか・・・一体何があったんですか?」

「ゲリラが爆発物処理班を襲撃したところまでは事実だ・・・当時特技兵だったキョウは仲間と一緒に何日もの間必死に逃げていた。ゲリラは狩りを楽しむかのように一人一人捕まえては残虐に殺し、ついにキョウ一人だけが残った。ところが本当の悪夢はここからだ。追い詰められたキョウは頭が狂い、逃げる事をやめた。そして彼は培った技術を用いて多くの罠を仕掛け、夜な夜なゲリラを強襲した。彼が作った罠には人間の死体を解体して作ったものもある・・・それを見たゲリラは恐らく怯え、彼等は撤退した・・・」

「酷い話ですね・・・」

「話はまだ終わらないんだよ、これが・・・あろう事かキョウは逃げるゲリラ部隊を追撃したんだ・・・当時派遣されていた俺達もゲリラのSOS信号を受信している。キョウとゲリラの立場が逆転したんだよ。キョウは一人ずつ殺し、我々が現場に到着した頃には生きている人間はキョウだけだった。狂っていたキョウは我々にも牙を向けた・・・なんとか取り押さえたけどな・・・その後辺りを調べるとキョウが解体したとみられる死体がいくつも発見されたよ・・・その後軍はキョウ特技兵を公式記録から抹消した。軍の士気にも関わるからな・・・」

ずっとジェンシャンの話を聞いていた部下が口を開く。

「そんな事件があったんですか・・・世の中何があるか分かりませんね。私には想像もできません・・・しかしよく彼はここまで回復しましたね。」

「初めは口も聞けなかった・・・少し親しかった事もあり、私も彼の治療に協力した。その後彼はなんとか軍に復帰する事ができたが、無気力になる事も多く今じゃ軍のお荷物だ。周囲からも嫌な目で見られるしな・・・」

「なぜ軍は彼を退役させないんですか?」

「それは彼が辞める気がない事と、軍が彼を野放しにしたくないからだ。軍は彼から目を離す事を恐れているんだよ・・・」

「なんだか悲しいですね・・・だとするとなぜ彼を呼んだのですか?危険では?」

「私も同行すれば問題ないだろう・・・それに彼には危険を察知する能力がずば抜けている。アウターの力を持っていないのに、だ。」

「少佐も同行するんですか!?あまり危険は避けて下さいよ・・・」

「部隊を編成するから大丈夫だ。」

「・・・事情は分かりました。手続きを済ませておきます。なるべく無茶は控えて下さい。」

「努力しよう。」

部下との長話を終え、ジェンシャンはキョウと合流し、研究所へ向かう作戦について説明した。その後二人が装備を確認していると、シティオがやって来た。

「待たせて申し訳ない。それで、応援は着いたのか?」

「彼だ。」

ジェンシャンはキョウに手を向け、シティオはキョウに手を差し伸べる。

「私は賞金稼ぎのシティオだ。他に応援は?」

「彼だけだ。」

そのジェンシャンの言葉にシティオは戸惑う。

「そ、そうなのか・・・」

「はじめまして、シティオさん・・・私はジュポ国陸軍のキョウ・カクセ上等兵です・・・」

キョウの自己紹介を聞いたシティオは手を握ったまま動かない。しばらく固まったままのシティオがキョウに話す。

「キョウ上等兵はいいのか?この作戦でまたあの惨劇に遭遇するかもしれないんだぞ?」

「な、なんでそれを!?」

聞いていたジェンシャンは驚いた。手を握ったままキョウはシティオに答える。

「軍ではいつも迷惑ばかり掛けているので・・・私がお役に立てるなら嬉しいです。」

キョウとシティオが挨拶し終わると、ジェンシャンは少し距離を置きシティオを呼ぶ。

「ちょっと来てくれ。」

「どうしたんだ?内密な話なら暗号通信を送ればいいだろう・・・」

「なぜ彼の事を知っている?そもそもさっきのはなんだ?彼は精神的病を患っているんだぞ?」

「彼の記録を調べていたら軍内部の噂も出てきてな。国際同盟の機密情報と当時の通信記録を見て分かったよ・・・因みに、この程度で錯乱するならW.I.と遭遇しても役に立たんぞ。その事も彼自身理解しているようだがな・・・」

シティオの話を聞いていたジェンシャンは肩を落とし呆れる。

「まぁあんたの言うとおりだ・・・ふっ、とんでもない奴だな、あんたは・・・分かった。但し彼をあまりからかわないでくれよ。私の友人なんだ。」

「悪かったよ。ところで頼んでおいた装備はあるか?」

笑みを取り戻したジェンシャンが後ろを向く。

「ああ。そこに並べてある。準備してくれ。その間に警察特殊部隊と打ち合わせを・・・」

警察との合同作戦を予定していたジェンシャンを、シティオが遮る。

「その必要はない。俺達3人で行こう。」

ジェンシャンは驚きを隠せない。

「3人?無茶を言うな!相手が何ものか分かっているのか?」

「ああ、分かっている。だからこそだ。数を揃えれば勝てる相手ではない。俺は戦闘中何人もの仲間に構っている余裕はない。だがこの数なら大丈夫だ。更に生存能力の高いキョウ上等兵がいれば尚更心強い。少数精鋭だ。それにな・・・目立つと俺も困るんだよ・・・」

「・・・あんたがそう言うならそうなのかもしれないが・・・この戦力で奴と戦えるのか?」

「狙われやすくなって好都合だ。相手の動きが読みやすくなる。そして奴が俺達を狙ってきたらその隙を一気に叩く。逆に襲ってこなかったらそのまま研究所に辿り着ければいい。」

ジェンシャンはシティオの作戦を耳にし、深く考え決意する。

「分かった。なら今すぐ行こう。警察には別行動の旨を伝えてくる。」

「作戦を説明するのか?」

「いや、軍にも伝えずに行く。目立つと困るんだろ?」

「話が早くて助かるよ。」

「俺やキョウを危険に晒すんだ。報酬はきっちり分けるからな。」

ジェンシャンは警察のもとへ行き、シティオはキョウと一緒に装備を背負う。

「なんじゃこりゃあ・・・」

ジェンシャンはキョウとシティオのもとに戻ると目の前の光景に驚愕した。シティオのパワードアーマー中に、武器が詰まれていた。ロケット砲にグレネードランチャー、重機関銃や各種弾薬が肩や手足に装備され、正に歩く火薬庫だった。通常のパワードアーマーなら身動きすら取れないくらいの物量だ。


ジェンシャンはシティオを見て呆れる。

「大丈夫なのか。なんだか不安になってきたぞ?」

「大丈夫だ。問題ない。」

「通路の重量制限だとか、誘爆の危険性だとか・・・そもそもこれじゃあ余計に目立つんじゃ・・・」

シティオはポーズを取り、装備された全ての武器を構える。

「細かい事は気にするな。」

ジェンシャン、キョウとシティオは準備を済まし、ゲカ研究所がある第3レイヤーに向かった。

「ある意味、あんたもイカれているんだな・・・」

-第3話~ゲカ研究所への切り札~ ~完~

実験体W.I.の記録
2体の化け物
調査記録

次回-最終話~浮体都市の化け物~

2015年2月10日火曜日

Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~第2話~ゲカアウタレス実験体W.I.~

-第2話-

   日付が変わって数時間後、監視カメラ映像から不審な影を見つけたジェンシャンはその影について話を聞くために、対策本部に向かっていた。対策本部は慌ただしく、思わずジェンシャンは一人の兵士に声を掛ける。

「何かあったのか?」

兵士は立ち止まってジェンシャンに答える。

「はい、詳しくは存じませんが・・・第3レイヤーに向かった軍の調査隊が全滅したそうです。」

驚いたジェンシャンは詳しく聞こうと歩み寄る。

「どういう事だ?一体なんの調査だ?」

「す、すみません。大した話は聞いてないもので・・・」

困り果てた顔をする兵士を見て、ジェンシャンは一歩引く。

「そうか。ありがとう。」

互いに敬礼し、ジェンシャンは対策本部の中に入った。机に両肘を置き、浮かない表情の対策本部長の前にジェンシャンが立つ。

「一体何があったのですか?調査隊が全滅したと聞きましたが。」

ジェンシャンと目を合わせず、しばらく机を向いたままだった対策本部長がゆっくりと口を開く。

「兵士9名からなる調査隊が第3レイヤーで消息を絶った。うち2名が重症を負い自力で逃げ、近くの賞金稼ぎに拾われた。彼等は今治療中だ。」

「どうしてそんな事に?」

「ゲカアウタレスに襲われたらしい。我々の想定以上にアウタレスは数を増やしている・・・」

対策本部長の言葉を聞き、ジェンシャンは間を置いて話す。

「調査隊はなんの調査を?」

「・・・第3レイヤーの被害状況だ。」

しばらく黙り込んで話す対策本部長を、ジェンシャンは怪しむ。

「第3レイヤーのゲカ研究所が目標だったのでは?」

「どうしてまたそんなことを・・・」

ジェンシャンは監視カメラ映像から得た情報をまとめた資料を、対策本部長の机に置いた。対策本部長は何も言わず、その資料を眺めていた。ジェンシャンが資料に指を差す。

「こいつは一体なんなのですか?」

対策本部長が黙って資料を読んでいると、軍や警察、賞金稼ぎ等に、大量の緊急連絡が一斉に拡散された。

「なんだ?」

一斉に拡散された緊急連絡の一つにはこう記されていた。

   -第3レイヤー危険度大。罠や危険なアウタレスとの情報。戦力を持たない者はくれぐれも近付かないように。-

緊急連絡を読んだジェンシャンは対策本部長に言う。

「我々だけでなく都市の皆も何かに気付いたようですね。」

-第2話~ゲカアウタレス実験体W.I.~

   都市内にいる者は第3レイヤーについての情報を拡散し、皆は第3レイヤー付近をより警戒した。この件に関して対策本部長は何も話さなかった。対策本部長が情報を隠していると踏んだジェンシャンは彼を追及する。

「第3レイヤーに何があるのですか?この影と何か関係があるのですか?答えて下さい。」

対策本部長は硬い表情のまま席を立つ。

「すまんが今は何も言えん。こちらもまだ分からない事が多い。理解してくれ。」

そう言うと、対策本部長は部屋を後にした。納得のいかないジェンシャンは何か手掛かりはないかと悩み、今も尚拡散され続ける第3レイヤーの緊急連絡に目を通した。第3レイヤーの危険箇所が記された情報を見ていたジェンシャンは、ふと思う。

(最初にこの情報を拡散した者はどうやって情報を手に入れたのか・・・その者に協力を仰げば事件の真相が掴めるかもしれない。)

早速ジェンシャンは首に外付け制工脳(サイボーグ脳でなくても外付けで使用できる簡易サイボーグ脳)を取り付け、それから延びる通信ケーブルを中継器が移植されている耳たぶに挟んだ。彼は都市内の多くが利用する管理局サーバにアクセスし、最初に届いた緊急連絡の送り主のアドレスを手に入れた。この送り主がどういう人物なのか調べるために、ジェンシャンはトゥアン国にいる自身の部下に連絡する。

「国際同盟のデータバンクでこいつが何者か調べてくれ。」

「了解しました。判明次第連絡します。」

「頼む。」

ジェンシャンがしばらく待っていると、意外と早く部下から連絡がきた。

「どうだった?」

「申し訳ありません少佐。調べたところプロクシをいくつも挟んでいるため解析に時間を要します。この者がどこにいるのかさえ分かりません。」

「いくつも串を刺しているのか・・・万全だな・・・」

考え込んだ末ジェンシャンは部下に指示を飛ばす。

「分かった。この件はしばらく保留だ。自分の持ち場に戻ってくれ。ご苦労だった。」

「いえ、では次の命令をお待ちしています。」

部下との通信を終えたジェンシャンは考えをまとめる。

(直接この者と連絡を取ってみるか・・・)

ジェンシャンは例のアドレスにこういったメールを送る。

   -私はトゥアン国陸軍兼国際同盟陸軍所属のジェンシャン・ピングー少佐だ。第3レイヤーについていくつか聞きたい事がある。至急返信求む。-

彼がメールを送ると、返事が返ってくる。

   -私は賞金稼ぎのシティオだ。何を聞きたい?情報に因っては報酬を求める場合がある事を頭に入れておいてくれ。-

ジェンシャンがメールを読むと、彼は直ぐに国際同盟のデータバンクにアクセスし、シティオという名の賞金稼ぎについて調べる。

(重量級パワードアーマーを駆るチニ国の賞金稼ぎか・・・目立った履歴や活動は無いな。それとも隠しているのか・・・こうなったら一気に賭けてみるか・・・)

そう考えたジェンシャンは前振りなしで本題に突っ込む。

   -ゲカ研究所の防犯カメラに映った人ならざる影について知りたい。助けてくれ。-

再びメールの返事が届く。

   -どこか一人になれる場所へいき、このリンクにアクセスしてくれ。-

返事のメールにはそう記されており、何らかのリンクが張られていた。

(フルダイブのリンクか・・・)

メールに張られたリンクはネット上のサイバー・スペース(電脳空間)宛てだった。ジェンシャンはセキュリティーリスクを考え外付け制工脳の警戒レベルを上げ、リンクにダイブした。すると直ぐにジェンシャンは電脳空間内で身動き取れなくなり、彼の外付け制工脳はクラックされた。彼の意識はアドレス不明のリンクに飛ばされ、気がつけば辺り白一色の部屋にいた。ジェンシャンが振り向くと、そこには重装備したパワードアーマーが立っていた。


「今晩は、ジェンシャン少佐。俺が賞金稼ぎのシティオだ。驚かせてすまない。」

ジェンシャンは驚きを隠せないでいる。

「俺に何をした?ここはどこだ?」

「すまないが俺の足跡が残らないよう少佐の外付け制工脳をちょいと弄らせてもらった・・・因みにここは俺が所有する仮想空間だ。ここなら外部からの攻撃も外部への情報漏えいも気にする必要はない。」

黙り込んだジェンシャンは冷静に考えようと必死だった。すると彼は何かに気付く。彼はこの現象に心当たりがあった。

「・・・電子攻撃に長けた高性能なコンピュータ、重装備のパワードアーマー・・・あんたもしかして・・・死鳥か?」

「そう呼ばれている。」

その言葉を聞き、ジェンシャンの顔に笑みがこぼれる。

「そうか!そういう事か!通りでいとも簡単に制工脳がクラックされる訳だ・・・確か本来のコードネームは・・・」

「イジャックスだ。」

イジャックスはジェンシャンに手を差し伸べる。彼の名はイジャックス。これはコードネームであり個人情報は知られていない。国際指名手配犯。裏社会では名を馳せる凄腕のパワードアーマー乗り。そのため常に偽名を使い重装備してパワードアーマーの本来の姿を隠している。隠密能力が非常に高い。高性能のコンピュータとパワードアーマーを持つ。初めは「不死鳥」と呼ばれていたが、本人を確認する事が非常に困難なためいつしか「死鳥」と呼ばれるようになった。生きる人工知能や実は女である、国際テロリストの「ウチヤミ」の仲間である等といった噂が絶えない。

「ジェンシャン・ピングーだ。まさか幻のパワードアーマー乗りに会えるとは・・・もう死鳥とは呼べないな。」

ジェンシャンはとても嬉しそうだった。

「いいのか?俺はあんた等が追う指名手配犯だぞ?」

「どうせなんかのとばっちりだろ?何人もの俺の仲間があんたに命を救われた・・・皆言っていたぞ、礼を言う前にはもう姿を消していたってな。」

「よしてくれ。ちゃんと報酬は受け取っている。」

ジェンシャンのテンションは尚も高い。

「ところでどうなんだ?人工知能やら女性説、国際テロリストのウチヤミとも仲がいいと聞くが実際は・・・」

「俺はそんな話をしにきた訳じゃない。」

「すまん・・・」

ジェンシャンは反省し、ふと疑問が浮かぶ。

「なぜ俺に正体を現したんだ?」

「少佐が信用に値する人間だと判断したからだ。」

「俺が?」

「ああ。第3レイヤーには危険なゲカアウタレスがいる。何か行動を起こさなければ被害が増えてしまうが、それには対策本部の協力が必要不可欠だ。だが奴等は信用できん。そんな時だ。少佐からメールを貰ったのが。直ぐ少佐の素性を調べたよ。そしたら以前行動を共にした部隊と顔見知りだったみたいだからな。それでここに呼んだという訳さ。」

「そうか。同僚に感謝しないとな・・・それで、その危険なゲカアウタレスがあの影と何か関係あるのか?」

「少佐はどこまで知っている?」

「何も知らん。只あの影と研究所がこの事件に関係しているのではと疑っていたところだ。」

「なるほど・・・この事件の真相を知りたいか?」

「ああ、早く対策を打たなければ被害が増えるからな。」

「ここからは自己責任だぞ。」

「分かった。必要なら報酬も出そう。」

ジェンシャンは身構え、イジャックスが続ける。

「今都市を襲っているゲカアウタレスはゲカ研究所による生物実験の産物だ。」

「生物実験!?」

ジェンシャンは衝撃を受けた。

「ゲカ研究所には黒い噂が複数あったが、いくつかは本物だ。奴等は非公式に違法なゲカアウタレスの生物実験を繰り返していた。」

イジャックスは集めた資料を空中に並べて表示した。

「どこでこれを?」

「チニ国本土にある研究所の本社からだ。本社と繋がりがある大学のネットワークから進入してな・・・しかしそこから得た情報はごく僅か、より詳しい資料は直接研究所に行くか関係者を捕まえないと無理だ・・・外部との交流を制限して情報管理を徹底したからだろう。」

「どうしてこんな事がまかり通るんだ?」

「まず研究所の責任者が入れ替わっても書類上はそのままになっていた。つまり元から管理がずさんだったんだよ。浮体都市とチニ国は黙認し、更にはチニ国政府自ら資金援助していた。ゲカ等の物資は第3レイヤーの海中搬出口を使って運搬されていたらしい。」

「なるほど。対策本部の情報規制や研究所への調査隊はこのためか・・・彼等はあの不気味な影の正体を知っていたのか?」

イジャックスは資料をジェンシャンの顔の前に表示する。

「多分これだ。」

資料を読み、ジェンシャンが目を細める。

「コードW.I.?」

「そいつのプロジェクト名だろう・・・『人の形や身長に類似』等記されている事から察するに、あの影を示したものだと推測できる。しかも個体取り扱い危険度最大とある事から、研究対象の中で最も危ないヤツだ・・・調査隊を襲ったのはこいつかもしれん・・・」

「・・・いずれにせよ研究所に行かなければ何も分からないか・・・それで、イジャックスは俺に何をしてほしいんだ?」

「主に物資の調達だ。装備、補給、人員を集めてくれると助かる。あとここでの俺の名はシティオだ。」

「了解だ、シティオ。なんと礼を言えばいいのか・・・」

「それは報酬を払ってから言ってもらおうか・・・ここが一通り片付いたらそちらへ向か・・・おい、まずいぞ。」

画面を見ていたシティオが突然態度を急変させた。

「どうした?何があった?」

「対策本部が再び調査隊を送ったぞ。もうすぐ第3レイヤーだ。クソ、こそこそ動くから気付くのが遅かった・・・」

「そちらで足止めできないのか?」

「やろうと思えば追いつくが、今は人命救助中だ。悪いが手が離せん。」

「!?俺との会話中、ずっと作業中だったのか!?」

「ああ、こいつのオートパイロットは優秀なもんでな。」

シティオの能力には驚かされる事が多い。

「そ、そうか。邪魔して悪かった。ではこちらで対策本部長に掛け合ってみよう。危険であると分からせなければ。」

「頼む。」

シティオとの通信は切れ、ジェンシャンは急いで対策本部に向かう。対策本部の奥では部下と画面を見つめる対策本部長がいた。ジェンシャンは対策本部長に懇願する。

「危険です。今すぐ調査隊を引き上げて下さい。」

「作戦の邪魔だ。出ていってくれ。」

対策本部長の言葉を聞いた部下がジェンシャンを摘み出そうとすると、ジェンシャンが言う。

「コードW.I.に狙われるかもしれないんですよ?」

対策本部長は部下を止め、ジェンシャンに問う。

「どこでそれを知った?」

「・・・国際同盟の捜査能力を侮ってもらっては困る。」

ジェンシャンの言葉に黙っていた対策本部長が愚痴を吐く。

「普段は何もしないくせにこういう時は働くのだな・・・見てみろ。今回は14名動員した。」

彼が指差す画面には、調査隊が映っていた。各画面は隊員のヘッドカメラの映像だった。ジェンシャンは静かにそれを見守る。

調査隊は次々出現するゲカアウタレスを打ち倒し、ついに第3レイヤーに入っていった。彼等が通路を歩いていると、不気味な低い笑い声のような音を聞いた。猿の奇声にも似た音が辺りに響き、調査隊は身構えるが、何も起きなかった。再び進んでいくと、通路に人間の体の一部が散乱していた。見てみると軍服だった。消息を絶った第一波の調査隊のものだった。酷いショックを受けた隊員の中にはその場で吐く者もいた。目的の研究所に向かう一行は、生体反応を放つボロボロな分厚いロッカーを発見する。辺りを警戒し、隊員がロッカーを開けると、そこには科学者のような格好をした男が入っていた。まるで何かに怯えるように、目をギョロギョロさせ体を震わせながら何か呟いていた。隊員達が彼をロッカーから引きずり出す。

「分かりますか?我々はチニ国陸軍です。研究所の調査に参りました。」

しかし研究者は隊員に反応せず、焦点の合わない目を動かしながら呟く。

「W.I.がくる。W.I.がくる。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・」

隊員は研究者の肩を揺すり、彼と目を合わせて言う。

「しっかりしろ!あなたは研究所の関係者か?」

目と目が合い、研究者は顔に恐怖を浮かべるが、質問に答えるように首を縦に振った。

「一体何があった?W.I.とはなんだ?」

誰とも目を合わそうとしない研究者が答える。

「悪魔だよ?・・・」

挙動不審な研究者を連れて研究所に向かう調査隊は、またもや生命反応をキャッチする。彼等は慎重に進むが、その生命反応は見当たらない。

「本当にここで合っているのか?」

「間違いありません。目の前のはずですけど・・・」

隊員がそのような会話をしていると、別の隊員が上にライトを向け、微かに何かが見える。

「おい、多分上だ・・・」

調査隊が上に向かうと、悲惨な光景が目に映る。そこには第一波調査隊の隊員が数名、ぶら下げられていた。

「まさか、これで生命反応があるのかよ・・・」

確かにまだ息のある者もいた。その内の一人が目を覚ますと、別の隊員が彼を地面に降ろす準備に取り掛かる。

「大丈夫だぞー。よく頑張ったなー。今下ろしてやるからな・・・」

ぶら下がった隊員の目に力は無く、動きがゆっくりだったが、突如、彼の目が大きく開く。彼の目が何かを捉えたのか、目が何かに釘付けになっていた。仲間に訴えようにも声は出ず、体も動かない。すると、一人の隊員がその場から消えた。研究者も何かに気付いたのか、彼は奇声を上げながら第2レイヤーの方へ走っていった。隊員のヘッドカメラ映像を見ていたジェンシャンも異変に気付く。

「おい、こいつのおかしいぞ!」

ジェンシャンが指差す画面では、物凄い勢いで上に上っていく映像が映っていた。その映像を送る隊員から応答は無かった。更にまた一人その場から消えると、調査隊は気配がした方を撃ち、閃光弾を放つ。辺りが赤い光で満ちたが、そこには調査隊以外誰もいなかった。調査隊は行方不明になった隊員を捜索するも、見つからない。低い笑い声のような奇声を聞く度調査隊は反射的に構えるが、何も現れなかった。対策本部の皆は行方不明になった隊員のヘッドカメラ映像を見つめていた。すると突然、画面に人の足の様なものが横に歩いていき、映像が切れた。それを見たジェンシャンは静かに対策本部長に声を掛ける。

「今すぐ撤退した方がいい・・・」

対策本部長は無表情のままジェンシャンと目を合わせ、命令を出す。

「撤退させろ。」

調査隊は撤退中次々とゲカアウタレスと遭遇するが、彼等はアウタレスを倒しながら第2レイヤーを目指す。だが調査隊がアウタレスと戦闘する度、隊員達は一人ずつ姿を消していった。対策本部長が部下に声を荒げる。

「増援はまだ着かんのか!?」

「10分程で到着します!」

「もっと急がせろ!」

皆と同様、焦るジェンシャンは対策本部長に進言する。

「周囲の兵士、警察、賞金稼ぎを向かわせましょう。このままだと全滅です!」

対策本部長は部下に命令する。

「彼の言うとおりにしろ!」

近くにいた賞金稼ぎ達が依頼現場を捜索したが、そこには誰も残っていなかった。対策本部の皆は生き残ったヘッドカメラの映像を見ていた。すると一つの映像から低い笑い声のような奇声が聞こえた。その後影が映り、それは何かの口のように見える。その口はクチバシのような形をしており、その口はそっと微笑んだ。そして生き残っていた全てのヘッドカメラの映像が途絶えた。

-第2話~ゲカアウタレス実験体W.I.~ ~完~

地下鉄脱線事故の生存者
記録に残せない兵士
研究所へ

次回-第3話~ゲカ研究所への切り札~

2015年2月8日日曜日

Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~第1話~ゲカアウタレス群浮体都市襲撃~

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-第1話-

   開発途上国チニの東の沖合に、浮体都市(超大型浮体式構造物、メガフロート等と呼ばれている)が複数集まった浮体都市群がある。名をジィ・フードン・チュンシィ。個々の浮体都市は他の浮体都市と橋や海中トンネルで繋がっており、巨大なネットワークを有している。しかし他国の浮体都市に比べるとその出来は良質とは言えず、手抜き工事や関係者による汚職等の不祥事が頻発していた。それでも尚ジィ・フードン・チュンシィ浮体都市群は着々と経済効果を生み、世界中から人が集まるようになっていた。

   ジィ・フードン・チュンシィ浮体都市群の外側には浮体都市ジエシューがある。この浮体都市は他の浮体都市同様いくつかの浮体都市と繋がっている。その内の一つに、浮体都市スニーンがある。スニーンは浮体都市群の外れに位置する為、繋がっている浮体都市は一つのみ、浮体都市ジエシューだけであった。

   浮体都市スニーンは上下3層に分けられている。一番上が海面上に面した第1レイヤー(最上層、商業レイヤー)であり、他の浮体都市と繋がっている橋が架かっている。次に第2レイヤー(中間層。事業レイヤー)があり、橋の下に設けられている海中トンネルはこの層に繋がっている。そして一番下に第3レイヤー(最下層。産業、設備レイヤー)がある。

   1月10日金曜日深夜、浮体都市スニーン第3レイヤーに建っているゲカ研究所が警報を鳴り響かせていた。近くを巡回していた警備員は第1レイヤーにある都市管理局に連絡を入れると、指示が返る。

「了解。知っての通り我々は許可無く敷地内に立ち入る事は許されていない。こちらで研究所に問い合わせるので引き続き警備を続けろ。」

「了解。しかし施設の中から変な音がするのだが・・・」

研究所を怪しむ警備員に対し、管理局の通信係は彼を律する。

「いくら噂が多いからってビビるなよ。警備員だろう。」

「へい。巡回に戻りま~す。」

警備員はその場を去った。それからしばらくして、第3レイヤーの変電所から管理局に連絡が入る。

「こちら変電所。何やら周囲で異音を確認した。原因は現在調査中。なんだか気味が悪いぞ。」

管理局は複数の警備員に連絡を入れるが、研究所の近くにいた警備員と連絡が取れなくなっていた。

「ったくあいつは何やってんだ・・・」

通信係は愚痴をこぼした。しかし今度は変電所と連絡が取れなくなった事が分かり、更に変電所が機能を停止した。都市には予備の発電設備が備わっており、電力供給が自動で切り替わった。管理局は変電所に職員を向かわせ、遠隔操作による復旧作業を始めた。隣の浮体都市ジエシューから送られてくる電力が低下した事を疑った管理局は、ジエシューに問い合わせるも原因究明には至らなかった。職員の努力も虚しく、予備の発電設備も停止し、予備電源を持つ施設以外の都市全てが停電した。停電はここチニ国で珍しくなく、管理局は引き続き電力の復旧に尽力した。すると第2レイヤーの地下鉄で脱線事故の報告を受け、更に第2と第3レイヤーの境界付近で銃声を聞いたとの報告があった。停電の影響で都市内の状況が把握しづらく、又管理局は未だ一部の職員と連絡が取れず、残りの者で現状を確認しなければならなかった。戦闘らしき報告が増え、管理局は都市内放送で屋内退避を呼び掛ける。

「都市にいる全ての人に告げます。只今都市内においてテロが発生した模様です。皆さんは直ちに屋内に退去してください。これは訓練ではありません。繰り返します・・・」

テロも視野に入れ、管理局は政府と浮体都市ジエシューに応援を要請し、ジエシューから警察の応援が出動した。職員が戦闘らしき場所に到着すると、そこでは警察や賞金稼ぎが何かに向かって銃撃していた。彼等が撃つ先を覗いた職員は驚愕し、急いで管理局に連絡する。

「あ、アウタレスだ!アウタレスの群れが人を襲っている!軍を呼んでくれ!」

「何言っているんだ。落ち着いて詳しく状況を説明してくれ。」

管理局の通信係は職員が何を言っているのか分からなかった。

「自分の目で確かめろよ!」

職員がそう叫ぶと彼は端末で現場を映しながら、映像を管理室に送った。映像には哺乳類、魚介類、鳥類、昆虫型など大小様々なアウタレスが映っていた。

「嘘だろ・・・」

「・・・と、都市に避難勧告!あと、政府に緊急連絡!」

管理局は初めて事態の深刻さに気付いた。

「都市にいる全ての者にお伝えします。至急都市から避難して下さい。繰り返します。都市を退去してください。都市は現在危険な状況下に置かれています。慌てず速やかに都市から避難して下さい・・・」

-第1話~ゲカアウタレス群浮体都市襲撃~

   浮体都市スニーンから政府に緊急要請が入り、政府が対策本部を設営していた頃、浮体都市群ジィ・フードン・チュンシィから南に約500km先にある島国トゥアンにて、眠りについていたジェンシャンが電話に叩き起こされた。名をジェンシャン・ピングー。33歳の男性。トゥアン国陸軍少佐である。


「・・・はい、ジェンシャンです。どうなさいました?」

「私だ。悪いが至急チニ国の浮体都市群、ジィ・フードン・チュンシィに向かってくれ。緊急事態だ。」

電話の相手はジェンシャンの上司だった。寝床から起き、服を着替え始めたジェンシャンは問う。

「何があったのですか?」

「浮体都市がアウタレスの群れに襲われているそうだ。ゲカアウタレスとみて間違いないだろう。君には現地へ行き、本国の民間人の保護と事件解決への協力をしてほしい。詳しい事は移動中に資料を確認してくれ。」

「了解しました。」

   ジェンシャンは飛行場に着き、待っていた輸送機で浮体都市スニーンへ向かう。機内でジェンシャンは部下から資料を受け取り、浮体都市スニーンの現状を確認する。

「スニーンより我々の企業からの連絡が先だったのか。都市の危機管理は一体どうなっているんだ・・・」

「全く同感です・・・停電と回線の混雑のせいか、現在も通信が不安定の状態です。」

呆れるジェンシャンに部下は状況を説明した。

「原因は?」

「まだ調査中です。」

「しかしなぜ俺なんだ?」

ジェンシャンは疑問に思っていた事を聞くと、部下が答える。

「少佐の経歴でしょう。少佐は国際同盟軍に参加した回数が多く、チニ国での作戦にも何度か加わっています。実は我々の派遣は一度拒否されているんです。しかし国際同盟の権限を持って今回の派遣が許可されました。」

「相手は国際同盟に渋々従った感じか。」

「恐らくそうでしょう・・・そして国際同盟軍において経験豊富な少佐が抜擢されたという訳です。」

「成る程・・・じゃあ君も私と共に行くわけではないのだな?」

「申し訳ありません。少佐一人を派遣するので手一杯だったみたいで・・・私達は民間人の輸送を一部補う予定です・・・只ゲカアウタレスと接触した人間もいる可能性があるので、身体検査が必要になります。混雑は避けられないでしょう。」

「そうか。今回は後方支援ができれば良い方だな。成果を期待してなければいいのだが・・・」

   数十分後、ジェンシャン少佐を乗せた輸送機は浮体都市スニーンの第1レイヤーに着陸した。第1レイヤーは人で溢れていた。対策本部ができており、軍や警察、職員、賞金稼ぎ、民間人がいた。第1レイヤーには浮体都市ジエシューと繋がる橋が架かっており、その下の第2レイヤーには海中トンネルがある。海中トンネルを使用する地下鉄は脱線事故と瓦礫の影響で使用不可と判明し、大半の被災者は橋を使用するしかなく、橋は混雑していた。

「押さないで下さ~い!現在地下鉄は利用できませんので橋は大変混雑しています!慌てずゆっくり歩いて下さ~い!怪我を負った方はスタッフに声を掛けて下さい!」

優先的に簡単な身体検査と個人情報の確認を終えたトゥアン国籍の被災者はジェンシャンが乗ってきた輸送機に乗せられ、スニーンを旅立った。その場で待たされていたジェンシャンの許へ兵士が来て彼に尋ねる。

「国盟軍のジェンシャン少佐でありますか?」

「そうだ。」

「スニーンにようこそ。早速対策本部長の許まで案内します。」

「頼む。」

ジェンシャンは対策本部へ案内され、奥でチニ国陸軍中佐である対策本部長と会うと自己紹介され、ジェンシャンも自己紹介する。

「私はトゥアン国陸軍兼国際同盟軍所属のジェンシャン少佐であります。トゥアン国籍の民間人の保護と事態解決に向けた協力に参りました。」

「話は聞いている。人手が増えるのはありがたいがこちらもまだ対策本部を立ち上げたばかりだ。先遣隊を投入したが中の様子は未だはっきりしていない。」

「原因はなんです?」

「まだ分かっていないが、第3レイヤーにあるゲカ研究所が関係しているかもしれん。」

「ゲカ研究所が狙われたと?」

「その可能性もある。急激に増えたゲカアウタレスはゲカ研究所に貯蔵されているゲカを食らった事が原因であってもおかしくはない。だがそれはあくまで推測に過ぎん。そもそも計画的犯行なのか事故なのかも分かっていないのだ。」

「停電が起きてから群れで襲撃するなんて事故にはみえませんけどね。」

「少佐はこれが何者かによるものだと?」

「私はそう考えています。」

「そうか。しかしこれ以上話しても無駄だな。情報が少なすぎる。まずは市内に溢れたアウタレスを排除しなければ。」

「私も市内に同行を?」

「残念だが少佐はあまり目立つ事は控えてくれ。」

「というと?」

ジェンシャンは対策本部長の言葉に驚いた。

「実は上が少佐の現場入りをあまり快く思っていないのだよ。国際同盟の意向を仕方なく受け入れた感じだ・・・そもそも今はまだ部隊の編成も完了していない。申し訳ないが都市の情報収集に協力してくれないか?我々に少佐の知恵を貸してくれ。」

ジェンシャンは少し複雑な思いをしたが、対策本部長の真摯な言葉を受けて気持ちを切り替える。

「なるほど・・・承知しました。情報収集はどちらで?」

「部下が案内する。何か掴んだら連絡をくれ。」

「了解しました。」

互いに敬礼すると、対策本部長は急ぎ足でどこかへ向かった。ジェンシャンがそれを見つめていると、対策本部長の部下が彼に声を掛ける。

「では案内します。」

「ああ、頼む。」

   ジェンシャンが案内された部屋には、重ねられた資料の横で端末を操作する様々な職種の者が数名いた。ジェンシャンが挨拶を済ませると、彼はその場にいた巡査に声を掛けた。何故ならジェンシャンは軍の情報規制を恐れたからである。

「君達は具体的にどのような作業をしているんだ?」

そう尋ねるジェンシャンに巡査は答える。

「私達はここに集められた都市内の情報を分析、事態解決に役立ちそうな情報を都市内で行動中の者に提供するのが仕事、って言ってましたよ。只停電もあって都市内から得られる情報は限られていますけどね。」

「そうか・・・色々調べたい事があるんだが協力してくれるか?」

「いいですよ~。何から調べます?」

自身の作業に飽きていたのか、巡査はすんなりと了承してくれた。

「犯罪の可能性はないのか?」

「今のところないですね。あれば犯人探しも平行するはずです。」

「不審者の報告は?怪しい者の出入りとかなかったか?」

「特には・・・あくまで犯罪ありきで調べるんすね。」

「ああ。アウタレスが姿を現す前に変電所と予備発電が落ちたのが意図的に見えてな・・・」

「そのどちらにもアウタレスは現れてますよ?」

報告とは違う情報にジェンシャンは驚きを隠せない。

「停電が起こった後にアウタレスが現れたんじゃないのか?」

「通報を受けた時には確かにそうでしたよ。ですがね、防犯カメラに映ってたんですよ、アウタレス達が変電所を襲っている様子が・・・見ます?」

「ああ。頼む。」

巡査は動画ファイルを開き、端末上で再生してジェンシャンに見せる。

「ほら。」

再生された映像には何体ものアウタレスが変電所に群がる様子が映し出されていた。ジェンシャンは静かに画面を見つめ、巡査が口を開く。

「似たような映像は他の場所でも撮られてますよ。確かに早い段階で配電設備が狙われましたが、これは高電圧に反応するゲカアウタレスが複数体いたからではないかと推測されています。そもそもこんな数のアウタレスを自由に誘導できますかね?もしできるならそいつは間違いなくアウタレスですね・・・」

再生された映像は止まり、ジェンシャンが問う。

「これより先は?」

「映っていません。都市の防犯カメラの多くは現在使用不可です。」

「なぜ?」

「分かりません。停電による不具合か、レンズに反応するアウタレスに破壊されたか・・・」

ジェンシャンは頭を抱える。

「うーん・・・地下鉄の映像は?」

「ありますよ。生物兵器らしきものの使用が疑われているやつとか。」

「生物兵器?」

次々出る新しい情報にジェンシャンの頭は混乱寸前だった。

「死亡したと思われる人間が人を襲い始めているんですよ。ほら。」

巡査は動画を再生し、地下鉄の様子を映し出す。映像を見ると、巡査の言うとおり、挙動不審な人達が他の人間を襲っている姿が見て取れた。ジェンシャンは再び頭を抱える。

「人のアウタレス化にしては数が多いし、挙動が安定してないな・・・」

「皆の見解も同じです。」

「他には?」

「電車が脱線する映像もありますけど・・・特に何もありませんでしたよ?脱線の原因は掴めませんでしたけど。」

「構わない。見せてくれ。」

「了解~。」

巡査が動画を再生すると、暗いトンネルの右カーブで、電車が脱線する様子が映っていた。ジェンシャンは巡査に確認する。

「事故の原因は分かっていないんだな?」

「はい。その通りです。アウタレスの仕業だと疑われていますが、それを裏付ける根拠がありません。更には地下鉄への通路の大半が瓦礫や障害物で立ち入る事が難しくなっています。」

「それも原因不明と。」

「はい。」

ジェンシャンは考え込んでいた。

「なぜ地下鉄にアウタレスが現れなかったのか・・・」

「単純に遠かったからじゃないすかね?それで辿り着く前に通路が塞がれたと。」

「狙いがあるとすると海中トンネルという交通手段を排除したかった?」

「確かに有り得ますね。事実今橋は大渋滞ですし、時間稼ぎも考えられます。しかし都市の混乱に因って事故が度重なったという見解もあります。生物兵器らしきものについては未だ不明ですが・・・もし、少佐が考えるように全て意図的に進んでいるのだとしたら、犯人の目的はなんです?」

「正直なところ全く分からん。それも調べるのが我々の仕事だ・・・もう一度脱線の映像を見せてくれないか?事故原因を調べたい。」

「了解です。」

巡査は再び映像を流す。ジェンシャンが画面を見つめていると、異変を感じる。

「もう一度。」

電車が右カーブを曲がる直前、ジェンシャンは何かに気付く。

「なんだ?」

「どうしました?」

巡査が首を傾げた。ジェンシャンは自分が見たものを彼に説明する。

「人影が見えたぞ。今度はスローで頼む。」

「・・・はい。」

巡査は半信半疑ながら言われたとおり、映像をスロー再生した。すると電車が右カーブを曲がる直前、電車のヘッドライトに照らされたカーブの先に一瞬、人影が映った。巡査もそれに気付く。

「作業員ですかね?」

「拡大できるか?」

「はい・・・画質的にはこれくらいが・・・なんだこれ?」

二人は画面を見て驚愕した。拡大した人影は、人の形をしていなかった。頭と手足が大きく、それ以外は分からなかった。

「なんすか?これ・・・」

「直ぐに調べてくれ・・・いや、それは他の者に任せろ。それよりもう一度変電所や研究所の映像を見せてくれ。」

「分かりました!」

巡査は直ぐに同僚を呼び、動画の解析を頼んだ。同僚に事情を説明すると彼は自分の席に戻り、ジェンシャンに言われた通り変電所や研究所の映像を開き直した。変電所にアウタレスが群がる映像が流れると、ジェンシャンは巡査に指示を出す。

「もっと前まで戻してくれ。」

「はい!」

映像はアウタレスの群れが現れる前までさかのぼり、そこから倍速再生した。二人は画面を凝視すると、巡査は何かに気付く。

「あ、今!影!」

「どこだ?」

巡査が再生すると、確かに影のようなものが動いているのが分かった。この様な映像は予備発電の監視カメラにも映っていた。映像の解析作業を行っていた巡査の同僚が書類を持って戻ってきた。同僚は書類をジェンシャンと巡査に渡す。

「先ほど判明した事ですが、映像に映っている影、推定3m以上だそうです。」

「まじかよ・・・」

巡査が驚く横で、ジェンシャンは指示を飛ばす。

「ありがとう。引き続き調査を進めてくれ。」

「はい。何か掴めましたら再度報告します。」

そう言うと、同僚は自分の席に帰った。ジェンシャンは巡査に更なる映像を要求する。

「研究所の映像も出してくれ。」

巡査が研究所の監視カメラ映像を流すと、ジェンシャンは映る人影に注目する。

「この人影はなんだ?」

「ああ、これですか。これはどうやら銅像らしいです・・・」

巡査の説明を受けて、ジェンシャンは肩を落とす。

「そうか。」

その後も二人は研究所の倍速映像を見たが、アウタレスの群れ以外目新しい情報は見つからなかった。二人の目が疲れてきた頃、ジェンシャンは銅像に異変を感じる。

「おい、ここ戻してくれ。」

「はい。」

「今度は早送り。」

「はい。」

巡査は言われるまま作業をこなす。するとジェンシャンは何かに気付く。

「何かおかしくないか?」

「何がです?」

ジェンシャンは銅像に指を差し、説明を始める。

「銅像の頭に注目してくれ。まずは今の銅像。」

「はい。」

「じゃあ今度は十分後に飛ばしてくれ。」

「はい・・・あ!」

ジェンシャンが示した通り、映像に映る銅像の頭は十分前と十分後とでは形状が変わっていた。ジェンシャンは続ける。

「そのまま飛ばしてくれ。」

巡査が更に映像を飛ばすと、銅像の首はなくなっていた。それを見た巡査は怯える。

「な・・・なんすか、これ?」

「分かるか?頭が変わる瞬間を探してくれ。」

ジェンシャンが冷静に指示すると、巡査は映像を少しずつ進ませながら調べる。

「この辺りですね・・・」

「よし、今度は拡大して再生してくれ。」

「いきます。」

銅像を拡大した映像を見てみると、二人の顔が青ざめた。巡査の口は震えている。

「こ・・・こいつ・・・なんなんだよ・・・」

ジェンシャンは只黙って映像を見つめていた。

映像には、頭の形が変わった後の銅像が映っていた。すると、頭だけがゆっくりと移動し、首のない銅像の後ろを、人影が闇の中に歩いていった。その人影は頭と手足が大きく、地下鉄に映った影と類似していた。カメラが遠くて分かりづらかったが、地下鉄の映像よりは鮮明に映っていた。映る体の方向から察するに、その影はずっと監視カメラの方を向いていた・・・

-第1話~ゲカアウタレス群浮体都市襲撃~ ~完~

強力な助っ人
ゲカ研究所の脅威
調査隊の悲劇

次回-第2話~ゲカアウタレス実験体W.I.~

Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~

-plot-あらすじ

人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

チニ国の浮体都市(メガフロート)、スニーン。
雑な成長を続けるこの都市が、ある晩停電した。
その後しばらくして都市を何かが襲う。
それはゲカアウタレス(影の力を宿した生物)の群れだった。
まるで何かに陥れられるように、都市は混乱に陥った。
この事態が計画的犯行であると踏んだジェンシャン少佐は、監視カメラ映像に小さな人影を見つける。
その人影を拡大して見ると、それは人の形をしていなかった・・・

世間を震撼させた大事件の裏で、彼が目にする真の恐怖とは・・・

-第1話~ゲカアウタレス群浮体都市襲撃~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/02/artificial-creep1.html
-第2話~ゲカアウタレス実験体W.I.~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/02/artificial-creep2wi.html
-第3話~ゲカ研究所への切り札~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/02/artificial-creep3.html
-最終話~浮体都市の化け物~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/02/artificial-creep_14.html
Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~設定資料↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/02/artificial-creep_16.html

「Artificial Creep~アーティフィシャル・クリープ~」
「World Gazer~ワールド・ゲイザー~」シリーズ。

※重複投稿です。
ワールド・ゲイザー(ブログ)↓
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小説家になろう↓
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2015年2月3日火曜日

Experiment L.D.~エクスペリメント・エル・ディー~設定資料

-plot-あらすじ
人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

とある開発途上国チニの東の沖合いに、複数の浮体都市(メガフロート)があった。
不祥事等の問題を抱えつつも、浮体都市は目まぐるしい発展を遂げていった。
浮体都市群の外れに位置する浮体都市スニーンである日停電が起こり、直後都市内を走る電車が脱線した。
乗車していた就職活動中の大学3年生チウフェイ・C・リーヨンは助けを求めて歩いていると、多くの悲鳴を耳にする。

「死体が人を襲っている!」

浮体都市を恐怖のどん底に突き落とす大事件が、幕を開ける。

-introduction-序章

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-episode-各話
 -.1_浮体都市電車脱線事故
 -.2_動く変死体
 -.3_浮体都市地下鉄脱出計画
 -.4_終_浮体都市電車脱線事故の謎

-character-登場人物
 -Chiufei C. Leeyon
  -03/31生まれ。
チウフェイ・C・リーヨン。男性。20歳。チニ国出身。大学3年生。大学で僅かながら医学を学んだ為、医療について一定の知識を持つ。少し馴れ馴れしいところもあるが物事を冷静に分析する傾向がある。


 -Kaname Haji
  -11/08生まれ。
ハジ・カナメ。女性。20歳。ジュポ国出身。大学2年生。ちょっと天然なところがあるが、さらっと凄い事をこなす天才肌でもある。


 -Arkuus Vahaous
  -01/18生まれ。
アルクース・ヴァハオース。女性。25歳。フェンラ国出身。元フェンラ国陸軍歩兵の賞金稼ぎ。普段から優しく、柔軟性、戦闘技術も高い。但し怒らせると態度を一変させる。主装備は軍用マッスルスーツ(コンバットスーツ)、ソードライフル。


 -Suuri Fingot
  -09/22生まれ。
スーリ・フィンゴット。サイボーグの男性。25歳。フェンラ国出身。元フェンラ国陸軍対戦車兵の賞金稼ぎ。自身の利益を優先させ冷たいところがあるが、効率良く依頼を進める姿勢を持つ。主装備はスピアロケット、アサルトライフル。


 -Weelai Baohu
  -02/23生まれ。
ウィーライ・バオフー。女性。16歳。チニ国出身。幼い頃事故に遭い、以来足が動かなくなった。動力が付いていないシンプルな車椅子を愛用している。兄にジャアティン・バオフーがいる。


 -Jyatin Baohu
  -12/11生まれ。
ジャアティン・バオフー。男性。19歳。チニ国出身。ウィーライ・バオフーの兄。過去に2年間兵役に就いていた。


 -Jenshan Pingu
  -01/14生まれ。
ジェンシャン・ピングー。男性。33歳。トゥアン国出身。トゥアン国陸軍少佐。国際同盟軍に何度も参加した実績を持つ。


 -Sheetio
  -シティオ。男。重装備したパワードアーマーを駆る賞金稼ぎ。チニ国産400kg級標準重量パワードアーマーZSC96のカスタム機を使用する。


-setting-設定

-race(種族)

 -Outer
  -アウター。この世界とは別の存在。ソトの者達。人の姿をしているが、人と次元が違う。かつては人との交流が多かったが、現代では非常に少ない。元々全てのアウターが光に属していたが一部は影の者となった。人に手を下す際は主にアウタレスやアウターの力を間接的に行い、直接手を下す事は殆ど無い。何故なら人の持つ力はアウターに何の意味も持たないからである。特徴としては表情が少なく、地上の物理現象と干渉しない事が多い。
  -of Light(Hika)
   -光に属する者達。光の使者。ヒカの者達。元々光と共に人を見守っていたが虚栄心に満ち始めた人に拒まれてからは多くが人に背を向けた。極僅かだが人を陥れようとする影の者達から人を見守っている者もいる。
  -of Shadow(Geka)
   -影、ゲカの者達。元々は光の使者であったが、光より優れた存在になろうと光を嫉み、反逆した。しかし光には敵わない為、代わりに光が大切に思う「人」を陥れる行動に出る。ヒカの者達同様極僅かに人に友好的な者もいる。
  -Outer Material
   -アウターマテリアルと呼ばれるアウターの力、物質。ゲカの者達が地上に宿した「ゲカ」、ヒカの者達が地上に宿した「ヒカ」の二種類が存在する。これらアウターマテリアルはこの世の物では無く、時に物理法則を超越する現象を引き起こす。ヒカやゲカについて分かっている事は、粒子に様々な特性を有し他の物質と混合するとその物質の性質を驚異的に高める事が出来る事、人の意志や感情に反応する事、そして生き物に接触するとその生き物を侵し、何等かの突然変異を引き起こす事である。時折アウターマテリアルそのものから生物が誕生する事もある。又アウターにより突然変異した存在を「アウタレス」と呼ぶ。アウターマテリアルは基本生物にとって毒である為、接触し続けると大抵は死に至る。アウターマテリアルとの混合材は制御不能に陥る危険性があるものの、個々の性能は恐ろしく高い。例を挙げると、物質と物質の接合を強化する性質を持ったアウターマテリアルを用いると、その物質の強度は上がり、高エネルギー反応の性質を持ったアウターマテリアルと爆発物を混合すると、爆発物の威力が上がる。製造に成功すれば桁違いの性能を発揮する反面、慎重に取り扱わないと暴走し非常に危険であり、又個体差に因る性能の違いが激しい為量産には全く向かない。アウターマテリアルの性能や影響力は濃度に比例する。ヒカは何等かに反応すると白く発光し、ゲカは黒く発光する。
   -Hika
    -ヒカと呼ばれるアウターマテリアル。ゲカの驚異に歎く人を見、憐れんだヒカの者達が地に宿したと言われている。ゲカや強い思いを持った人に反応し、量が同等であればゲカを打ち負かす力を持つが、ゲカに比べ数が圧倒的に少ない。
   -Geka
    -ゲカと呼ばれるアウターマテリアル。ヒカに敵わないもののヒカを苦しめる為、「人」を陥れる事を考えたゲカの者達が地に宿したと言われている。ヒカや強い思いを持った人に反応し、量が同等であれば性能はヒカに劣るものの、数が多い為容易に集める事が出来る。但し毒性や生物に与える悪影響はヒカよりも強い。
  -Outerless
   -アウタレス。ソトの力に憑かれた存在、生物。ヒカやゲカに何らかの方法で接触、もしくは体に取り込む事でそれらを宿し、突然変異や影響を受けたもの。ありとあらゆる生物からアウタレス化するが、人型が最も高い能力を秘める。人型が特別な理由は「人」だけが自我や強い意志を持つからだと言われている。しかしアウタレス化した殆どの者達はその力に呑まれ自我を失う為、アウタレス化しても自我を保つ事例は非常に少ない。
   -Human type
    -人型アウタレス。高い能力を持ち、人の形をしたアウタレスを指す。人の一部から派生するものと人そのものがアウタレス化するものがあるが後者の場合、自我が残る可能性があり、大きな脅威になりうる。
   -Machine type
    -機械型アウタレス。機械を取り込んだアウタレスを指す。アウタレスと機械が融合する事は殆ど無いが、稀に、もしくは故意に機械と融合したアウタレスが生まれる事がある。

   -Vital Spanner(Vinner)
    -バイタルスパナー。バイナーと呼ばれている。アウターの力を宿す者。アウタレスと同じくヒカ又はゲカの力を持つが、アウタレス特有の暴走や制御不能状態に陥るリスクは確認されていない。何故ならバイナーは本人の意志の有無に関係無くアウターと契約し、本人の寿命の分だけ力を発動出来るからである。使用出来る能力は多岐にわたり、世界に対する影響力が高い程消費する寿命が増える。

   -Small Human
    -小型人間。身長は人間の約10分の1の大きさしかない。但し身体能力は高く、それ以外の特徴は他の人間と何も変わらない。ヒか又はゲカの影響でこの様な種族が生まれたが、人間と同様アウターマテリアルは彼らにとっても毒である。体の大きさを活かし精密作業の現場で威力を発揮する。

  -Outerless Evaluation(アウタレス評価)
   -アウタレスの特徴や能力を把握する為に用いられる基準。数値で表す事でどの様に対応すべきか迅速に判断する事ができる。対象のアウタレスを評価する際は専門の調査員が行うのが一般的である。しかしこの作業は危険が付き纏い、更に迅速かつ的確にこなさなければならない為、経験豊富な調査員は特殊な訓練、装備を得ている。国によってはこの評価基準がアウタレス以外でも適用されている。
   -Danger Level(危険度)
    -アウタレスの危険度を示す指数。例え戦闘力が無くとも数値が高ければ高い程周囲に危害を加える可能性が上がる為、直ちに対処しなければならない。
    -0.Low Danger(危険度低)
    -1.General Handle(一般処理)
    -2.Government_Handle(行政処理)
    -3.Specialist_Handle(専門家処理)
    -4.Police_Handle(警察処理)
    -5.Military_Handle(軍事処理)
   -Threat Level(脅威度)
    -アウタレスの脅威度を示す指数。あくまでアウタレスの戦闘力や潜在能力を評価する為、高い数値を記録しても攻撃性が無ければ危険視される訳ではない。
    -0.Low Threat(脅威度低)
    -1.Animal Class(動物級)
    -2.Solider Class(兵士級)
    -3.Squad Class(分隊級)
     -歩兵約8~14名相当。
    -4.Platoon Class(小隊級)
     -歩兵約26~64名、分隊約2~4個、車両約3~7両、航空機約3~6機相当。
    -5.Squadron Class(中隊級)
     -歩兵約80~250名、砲約2~16門、航空機約12~24機、小隊約3~6個相当。
    -6.Battalion Class(大隊級)
     -歩兵約300~1500名、中隊約2~7個相当。
   -Density Level(濃度)
    -アウターマテリアルに侵された物体の濃度を示す指数。侵された肉体だけでなく、加工された資材に接触すると侵された肉体と似たような症状や現象が起きる可能性が高い。
    -0.~0.09%(影響無し)
    -1.0.1~5.0%(健康被害)
    -2.5.1~10.0%(身体能力向上)
    -3.10.1~20.0%(肉体的変異)
    -4.20.1~50.0%(超能力発現)
    -5.50.1~80.0%(肉体侵食)
    -6.80.1~100.0%(人格障害)
    -7.100.1%~(一体化)

-geography(地理)

 -International Union(IU)
  -国際同盟。各国の共生、発展の協力に加盟して集まった国際組織。
  -aircraft
   -NTH90
    -重量:6.4t
複数の国が開発に関わり、陸、海軍用があり、多国で多用されている高性能な国際同盟産軍事汎用ヘリ。

 -Jupo(Jup)
  -ジュポ国。東に巨大な海を臨み、多くの島からなる経済大国。
  -Chitai
   -チタイ副都心。大きく栄え、ジュポ国が誇る副都心の一つである。過去に袋状の池があった。
  -Ryuk
   -リューク島。
ジュポ国南に位置する島。豊かなサンゴ礁に恵まれている。
  -Yomi Town
   -ヨミタウン島。
ジュポ国南、リューク島東に位置する島。島全体が一つの都市になっている。有事に備え島民は任意に軍事訓練を受ける事が出来、島民の多くは予備兵となっている。小規模ながら技術力はかなり高い。
  -weapon
   -JDH97
    -高コストなジュポ国産セミオート式ヘビーアンチマテリアルライフル。
   -SKJ99
    -戦闘機や対空で用いられるジュポ国産アンチマテリアルマシンガン。
  -automobile
   -HTJ10
    -重量:44t
小型、軽量で、モジュール装甲、高度な情報処理システム、特殊なサスペンションを備えたジュポ国産主力戦車。
  -Powered Armor
   -PVJ02 PoVarJi2
    -種別:200kg Class Very Light Powered Armor(VLPA) 重量:210kg
通称ポヴァージ2。歴史があり、各国に大きな影響を与え、派生や模倣を多く生み出しているジュポ国産一般用200kg級超軽量パワードアーマー。
   -HSJ10 HiSuJi10
    -種別:400kg Class Standard Weight Powered Armor(SWPA) 重量:440kg 防護力:<30mm
通称ヒスジ10。小型で高性能、HTJ10の技術を用いたジュポ国産主力400kg級標準重量パワードアーマー。

 -Chny(Chn)
  -チニ国。人口が非常に多く、領土も広く、多種多様の地形を有する。成長力も高いが安定していない。
  -Jii Fuudon Chunshii
   -ジィ・フードン・チュンシィ浮体都市群。
チニ国東の沖合いに設置された浮体都市群。本国海岸付近にある島と浮体都市を橋やトンネルで繋ぎ、更にその浮体都市と他の浮体都市を繋いでいき、浮体都市群を形成する。外国人も多く訪れ急速な発展を遂げているが不祥事が頻繁に起こっている。
   -Jieshuu
    -浮体都市ジエシュー。浮体都市群の外側に位置し、唯一浮体都市スニーンと繋がっている浮体都市。
   -Suneen
    -浮体都市スニーン。浮体都市群の外れにある浮体都市。
  -automobile(車両)
   -ZTC96
    -重量:41~43.7t
低コストでモジュラー装甲を備え、数カ国で使用されているチニ国産第2世代主力戦車。


  -Powered Armor
   -ZSC96 ZeSC96
    -種別:400kg Class Standard Weight Powered Armor(SWPA) 重量:410~437kg 防御力:<20mm
通称ゼスク96。ZTC96の技術を流用し低コストでモジュラー装甲を備え、数カ国で使用されているチニ国産400kg級標準重量パワードアーマー。


 -Fenla(Fen)
  -フェンラ国。北側に位置し、他国に囲まれ、寒冷な気候を国土の大半が占めている先進国。
  -Musta Pukin
   -ムスタ・プキン村。
フェンラ国の北側にある村。武装サンタの村として名が知れている。観光以外にも商売が盛んになり、訪れる人が増加した。村の近くで危険なアウタレスの出没や犯罪が度々起きる為治安は良くない。しかし村の警察以外にも武装サンタが治安維持に勤めており、住民の平穏は保たれている。
西南西約3kmに空港、南南西約4kmに観光施設。
  -Armed Santa
   -武装サンタ。ムスタ・プキン村で発祥した文字通り武装したサンタの事である。彼らは村の治安維持に務め、自警団の様な役割を持つ。村の至る所にいるサンタと同様、観光業も兼ねている武装サンタは多い。
  -military(軍)
   -army(陸軍)
    -province(行政区画:州、省、国、県)
     -southern,western,eastern,northern(北部方面防衛管区)
  -weapon
   -LAH39
    -フェンラ国産セミオート式ヘビーアンチマテリアルライフル。
  -automobile(車両)
   -XAF18
    -重量:13.5t
単純構造を持ち、多国に多用され水上移動可能なフェンラ国産6輪式装甲兵員輸送車。
  -Powered Armor
   -XLF18 eXLaF18
    -種別:300kg Class Light Powered Armor(LPA) 重量:337kg 防御力:<7.62mm
通称エクスラフ18。XAF18の技術を流用し単純構造を持ち、多国に多用され、追加装備で水上移動可能なフェンラ国産300kg級軽量パワードアーマー。

 -Twan(Twa)
  -トゥアン国。人口が非常に多い都市を持つ島国。先進国だが隣国との領土問題で国と認められていない。

-technology(技術)

 -building(建築物)
  -Very Large Floating Structure(VLFS)
   -超大型浮体式構造物。Artificial Island(人工島)、Floating City(浮体都市)、巨大人工浮島、メガフロートとも呼ばれる。

 -fuel(燃料)
  -Geka Compressed Fuel
   -ゲカ圧縮燃料。物体を圧縮する性質を持ったゲカを利用し、相性の良い燃料を圧縮し小型化する技術。燃料の設置場所を小さく事が出来るが扱いに注意しないと大変危険であり、又変換機が無いとそのままでは使えず、コストも高い。主に大きさに制限のある小型機械に使用される。
  -Geka Fuel Cell
   -ゲカ燃料電池。電気特性の高いゲカの膨大なエネルギーを電気に変える為の技術。ゲカはそのまま使用するには大変危険である為、微量のゲカと伝導体を含んだ結合剤等を化学的に結合させて燃料を生成する。専用の装置を使う事により電力を取り出す事が可能になる。ゲカは危険である為設備をしっかり整えるか燃料内のゲカ配合量を少なくする事で安全性を確保する事ができる。ゲカの代用としてヒカを使用した方が安全で高い電力を期待できるが、ヒカは量が少なく高コストである為実用的ではない。

 -engine(原動機)
  -Turbo Ion Engine
   -ターボイオンエンジン。イオン流量を増やし推力を大幅に上げた新型イオンエンジン。高コストであり大型化が難しい事から構造上小型機械に向いている。
  -Neo Ion Engine
   -ネオイオンエンジン。ターボイオンエンジンのイオン放射機の応答速度を上げたイオンエンジン。ターボに比べ最大推力は劣るが推力操作の応答が速い。その性能故にフレームや制御システムへの負担も大きい。

 -weapon(武器)
  -Hika, Geka Ammo
   -ヒカ、ゲカ弾薬。ヒカやゲカを使用した弾薬。種類は様々で、徹甲弾、焼夷弾、榴弾等があり、又火薬にもヒカやゲカが使用されているものもある。どれも絶大な効果を期待できるがそれに耐える武器が少ない、製造が難しい、性能がまばら、用意できる個数も少なく費用も掛かる為量産には向かない。
  -Close Quarter Weapon Equipped Fire Arm(QEFA)
   -近接武器搭載型銃火器(近接搭載銃)

 -automobile(車両)
  -Multi-Legged Vehicle(MLV)
   -多脚車両。装備された脚により、従来の車両が決して通れないような地形を歩行する事ができる。脚を接地安定用のアウトリガーとしての利用も可。タイヤや無限軌道を備えた車種は従来の車両の様に走行する事もできる。脚を使用しない時は折り畳む車種もある。多脚システムは重くて嵩張り、通常車両より機動力は劣る。脚の数は基本4本だが、3本等の種類もある。

*多脚装甲車起立シークエンス。上が起立、下が脚を折り畳んだ状態。

 -Active Machine(AM)
  -アクティブマシン。ロボット工学や人工知能等の最先端技術を多く用いた能動的機械。
  -Active Arms(AA)
   -アクティブアームズ。武装したアクティブマシン。

 -Powered Suit(PS)
  -パワードスーツ。人が着る事で人間本来の能力を拡張する強化服。サイボーグ化していなくてもそれに近い能力を得る事ができるが身体的負担を強いられる可能性がある。
  -Artificial Muscle Suit(Muscle Suit)
   -マッスルスーツ。人工筋肉で覆われた最も需要の高いパワードスーツ。出力は勿論、機動力が高く防御力も申し分ない。コストは高めだが性能故に広く使用されている。
   -防御力:<4.6mm。ピストル弾等は防げるが、小口径高速弾は防げない。
  -Gel Suit
   -ゲルスーツ。ゲル状の性質を持ち、耐衝撃性能の高いパワードスーツ。装着者の衝撃を和らげる事に特化している為、パイロットスーツとして使用される事が多いが防御力は低い。
   -防御力:無いに等しい。

 -Powered Armor(PA)
  -パワードアーマー。主にパワードスーツ着用を前提に搭乗する人型強化装甲。マスタースレイブ等のマンマシンインターフェースを備え、人体の骨格に連動する構造をしている。使用が絶対では無いがパワードスーツを用いる事でパイロットに伝わる外部からの衝撃を緩和しパワードアーマーとの一体化を促進する。制御系を調整する事で障害者や小型人間でも問題なく使用できる。サイボーグ、制工人体使用者も搭乗する事は可能だが制御の負担が増える為効率はあまり良くはない。
パワードアーマーは装甲が厚くなると稼動範囲が狭くなり重量も増えるが、稼動範囲を優先すると関節部のコストが膨らんでいく。理由は関節の一部で使われる蛇腹式装甲が高コストな為である。狭い稼動範囲を補う為に補助腕等を備える事がある。パワードアーマーの多くは太い脚部が干渉してしまう為足を完全に閉じる事はできない。因って歩行する際はがに股になる瞬間があり、一部のパイロットはがに股になるケースがある。こういった事情もあり、パワードアーマーのパイロットの体は以前より柔らかくなる事が多い。パイロットに要する体格はパワードアーマーによってまちまちだが、多く流通しているフリーサイズ型はパイロットの体格に合わせて関節が移動し身長180~140cmに対応している。又使用者の体の一部が欠損している場合、その部位に空洞が生まれる為、その部位の稼動範囲の制限は無くなる。本体の一部分が露出、下半身だけのモデル等パワードアーマーの種類は様々である。
パイロットの操縦技術、反応速度、身体能力、体格や体の柔軟性を数値化した適正値を調べ、パワードアーマーに設定する事で効率良くパワードアーマーを操縦する事ができる。

  -100kg Class Ultra Light Powered Armor(ULPA)
   -100kg(~199kg:総重量)級極軽量機。パワードアーマーの中でも最軽量の為露出がありフレームのみで形成されていて搭乗者の防御性能は極めて低い。軍用では潜入、落下傘部隊等で使用されている。
   -防御力:<12.7mm(frame)
  -200kg Class Very Light Powered Armor(VLPA)
   -200kg級超軽量機。全体的に細く100kg級とは違い全体が防護されており重量が軽い為飛行装置の実用性が高い。軍用では航空支援や制圧任務等に使用されている。
   -防御力:<12.7mm(frame),<7.62mm
  -300kg Class Light Powered Armor(LPA)
   -300kg級軽量機。外見は400kg級より若干小柄でスカートや肩アーマー等の追加装甲が無い。
   -防御力:<12.7mm
  -400kg Class Standard Weight Powered Armor(SWPA)
   -400kg級標準重量機。スカートや肩アーマー等の追加装甲を持ちジェネレーター出力も申し分無くバランスが取れた万能クラス。
   -防御力:<20mm
  -500kg Class Heavy Powered Armor(HPA)
   -500kg級重量機。全体的に太くジェネレーターも大型で400kg級より下半身が大型化されたクラス。
   -防御力:<20mm
  -600kg Class Very Heavy Armor(VHPA)
   -600kg級超重量機。500kg級より上半身も大型化されたクラス。防御力、ジェネレーター出力や有効積載量が高く機動力もある為軍用では主力として用いられる事が多い。
   -防御力:<30mm
  -700kg Class Ultra Heavy Powered Armor(UHPA)
   -700kg級極重量機。肩パーツが頭を覆っている。機体が大きくバランスの確保の為補助脚を備える事が多い。動きが鈍いがその分防御力、ジェネレーター出力や有効積載量が最高レベルに達する。
   -防御力:<30mm

*左上から人間(180cm、マッスルスーツ着用)、100kg級~。左下から400kg級~。最も濃い色が蛇腹式装甲。最も薄い色が共通部品。

*フリーサイズのパワードアーマーは搭乗者の体格に合わせて関節を移動する。(左右のパワードアーマーは同機種である。マッスルスーツを着た左の搭乗者は180cm。右は140cm。)

*ハッチ開閉シークエンス。(内部にマッスルスーツを着用した搭乗者)

*補助腕展開シークエンス。

  -Additional Unit
   -追加装置。パワードアーマーに機能を追加する為に用いられる。規格が合えばパワードアーマー以外でも使用可能。
   -Roller Unit
    -車輪装置。主に脚部に取り付けられ、使用する事で地上での行動範囲が広がる。駆動系の有無や車輪の数等種類は様々。

*フォークリフト装置装備型300kg級軽量パワードアーマー。

 -sensor(感知装置、センサー)
  -Outer Sensor(Hika、Geka)
   -アウターセンサー。周囲のアウターの力(ヒカ、ゲカ)を感知する装置。装置の素子にもヒカやゲカが使われ、一般には両方セットされている。アウターの力は他のアウターの力を引き寄せ合うか反発し合うので、その力を電気信号に変換する事で周囲のアウターの力の状態を知る事が出来る。
   -ヒカがある場合:ヒカ素子が正の反応を示し、ゲカは負を示す(ゲカがある場合は逆)
   -距離が近い場合:信号の更新速度が上がる。
   -量が多い場合:波形の振幅が上がる。
   -濃度が高い場合:周波数が上がる。
   -不安定な場合:波形が変化していく。

  -Active Discrimination Assault Security
   -自動識別強襲警備。自動で脅威の有無を識別し、危険と見なされるものを強襲、無力化する警備システム。測定範囲内の脅威となりえるもの全てを追跡し、危険かどうか、攻撃対象にするかを判別する。攻撃命令を人間が行うものと優秀なコンピュータに任せるタイプがある。攻撃方法を共焦点レーザーにする事で、人込みであっても他人を傷つける事なく目標を攻撃できる。武装が許された近代都市に広く取り付けられている。

  -Fire Line Analysis
   -射線解析。様々な火器の射線を解析する技術。解析方法は画像、熱源、3次元レーダー等を用いる。射線を解析する事に因って火器を持つ本体の目標や行動パターン、未来予測まで知る事が可能になる。主に防犯や戦闘で使用される。

 -Cybernetic Organism(Cyborg)
  -制御型人工有機体(制工体)。制御工学や電子工学等の最先端技術を用いて人工的に製造した有機体組織。
  -Cybernetic Human(Cyman)
   -制御型人工人体(制工人体)。サイボーグ技術を用いて製造された人体。拒絶反応等の問題がなければ人間の身体機能の一部、又は全てを取り換える事が出来る。治療、又は身体機能拡張の為に用いられる。人間にとって害のある環境でも問題なく、体中を自由に改造できる等メリットがある反面、拒絶反応、電子攻撃や部品の磨耗等人間とは違ったリスクに注意しなければならない。
  -Cybernetic Brain(Cybrain,Cyber Brain)
   -制御型人工頭脳(制工脳)。サイボーグ技術を用いて製造された頭脳。電脳ともいう。人体の頭脳を制工脳に取り換える際、本人の脳幹はそのまま残る。制工脳は電子的に構成されており、コンピューターと同じ様に通信網へのアクセスや情報の入出力を行う事が出来る。しかしその分記録領域を定期的に検査しないと機械的不具合や悪性ソフト等による欠陥を招く恐れがある。治療、又は身体機能拡張の為に用いられる。
   -External Simplified Cybernetic Brain(External Cybrain)
    -外付け簡略式制御型人工頭脳(外付け制工脳)。サイボーグ技術を用いて製造された外付け情報処理端末。制工脳とは違い脳を取り替えるのではなく、生きた脳、又は制工脳の処理能力向上の為追加の情報処理端末を後付けする技術。生きた脳はそのままに、脳又は制工脳と外付け端末を繋ぐ中継器を体に移植し異常がなければ使用可能となる。接触、あるいは非接触で外付け端末と通信し、脳からの信号だけで端末を操作できるので応答が早く、手や音声認識等の操作を必要としない。脳本体に対する影響や負担が小さい為電子攻撃の影響を受けにくく、それを逆手に外付け制工脳を脳や制工脳の身代わりとして活用する事もできる。取替えも楽で利便性は高いが処理能力は制工脳に劣る。身体、政治、宗教、金銭面等様々な理由から制工脳手術を受けられない者でも手軽に外付け制工脳手術を受ける事ができる為、人気が高い。多くの利用者は端末の中継器の端子を耳に移植している。端子が耳にある事で端末が内蔵されたヘッドホン、眼鏡、ピアス等を使う事ができ、ファッション性を考慮できる。

 -Cybernetic Space(Cyber-Space)
  -サイバースペース。電脳空間、仮想空間とも呼ばれる。コンピュータネットワーク上にある膨大な情報により構築され、人の意識を自由に行き来させる事ができる仮想的空間。