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2015年8月18日火曜日

Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~最終話~人の憎しみの果て~

-最終話-

   反乱軍の進攻阻止と重要人物であるウェスターを追うベッフィー率いるシットピット隊は谷の激戦を突破し、西アイノス市に進入する事ができた。反乱軍の一部が都市中心部に向かっていると知ったベッフィーはその中にウェスターがいると確信し、彼が向かうであろう議事堂に部隊を連れて進軍した。

   現れる敵を倒し、シットピット隊は議事堂に到着した。しかし議事堂は既に反乱軍によって包囲されていた。議事堂の守備に就いていた西アイノス軍の部隊は、ウェラーが所属する特殊部隊によって壊滅されていたのだ。反乱軍と戦闘に入り、シットピット隊は進軍できなくなった。しばらくすると西アイノス軍の増援が議事堂に到着し、三つ巴の激戦に発展した。身動きが取れない事態を打開しようと、ベッフィーは考えを巡らしていた。

-最終話~人の憎しみの果て~

   議事堂前ではシットピット隊、反乱軍、西アイノス軍の戦闘が続き、膠着状態になった。このままでは時間が無駄になってしまうと危惧したベッフィーはイライラしていた。そんな彼女を見ていた部下達はベッフィーに先に行くよう進言した。彼女は初め部下達の提案を断っていたが、彼等の熱意に押され、考えを改めた。ベッフィーはその場の指揮権を副隊長に譲り、数名の兵士と共に議事堂へ向かう事にした。部下の合図と同時に、ベッフィーは数名の部下を連れて議事堂に向かって全力疾走する。彼等は爆風や銃撃の中をすり抜け、なんとか無事に議事堂の側面に到達した。ベッフィーと部下達はそのまま議事堂の設備から中に潜入した。

   ベッフィーと部下達が静かに議事堂に侵入すると、至る所に死体が散乱していた。皆反乱軍の特殊部隊によるものだった。ベッフィー達が廊下を進んでいると、特殊部隊の兵士達を発見した。ベッフィーは一人目を冷静に始末すると特殊部隊と銃撃戦に入る。部下達との連携で敵を倒すと、部下の一人が生存者を発見した。その生存者から話を聞くと特殊部隊は西アイノス市市長を狙っているようで、その市長は講堂まで逃げたようだ。生存者を手当てしていると、銃声を聞きつけた特殊部隊の増援が発砲してきた。ベッフィーは部下達に敵の足止めを命じ、一人講堂に向かった。一方その頃、ウェスターとウェラーは西アイノス市市長を追いながら、軍人や一般人関係なく目に入る西アイノス市住民を皆殺しにしていた。敵の足止めを任されていたベッフィーの部下は数メートル先の特殊部隊の位置を確認し、レイヴ2に攻撃を要請した。議事堂の周りを飛んでいたフライトパワードアーマーのレイヴ2は要請を受け、指示された座標を攻撃し敵数名が吹き飛んだ。


   ベッフィーは一人議事堂の廊下を進み、敵を倒しながら講堂へ向かっていた。講堂に近付くと、彼女は嫌な気配を感じ取った。柱に隠れた彼女は耳を澄まし、空のマガジンを気配がした方向へ投げ、再び耳を澄ました。敵は一瞬動き、その僅かな音をベッフィーは見逃さなかった。彼女は敵が隠れている柱を撃ち、敵も撃ち返してきた。ベッフィーは一瞬敵と目が合い、敵がウェラーだと気付いた。特殊部隊は軽装で身軽であり、ウェラーも機動力を活かしベッフィーを翻弄していた。状況が不利だと判断したベッフィーはウェラーを煽り始める。

「もう反乱なんかやめて仲良くしようぜ?暴れてバカ騒ぎして大人気ないよ。」

ウェラーはベッフィーとの距離を縮め、ベッフィーは何かを準備し始め尚も煽り続ける。

「てかさ、なんで顔を整形したんだよ・・・私は前の顔の方が好きだったなぁ~・・・」

そう言うとベッフィーは走り出した。ウェラーも飛び出しベッフィーを追おうとした瞬間、彼女の足にワイヤーが引っ掛かった。ワイヤーの先は手榴弾の安全ピンに繋がっていた。これはベッフィーが先程仕掛けたものである。手榴弾を目にしたウェラーは回避しようと咄嗟に体を捻ったが、彼女の目の前にベッフィーの膝が飛び込んできた。バランスを崩していたウェラーの腹に、ベッフィーは思いっきり膝蹴りをかまし、更にライフルのストックで背中を打った。床に倒れ込み意識が薄れていく中、ウェラーは仕掛けられた手榴弾がダミーである事に気付く。

「・・・くっ・・・ダミー・・・かよ・・・」

ベッフィーは意識を失ったウェラーの親指同士を縛り、講堂へと向かった。

   ベッフィーとウェラーが戦闘に入っていた頃、ウェスターは講堂で西アイノス市市長を追い詰めた。市長は必死に命乞いをするが、ウェスターは銃を向け言う。

「恨むなら自分の生まれを恨むがいい・・・」

「私を殺せば大変な事になるぞ!どうなるのか本当に分かっているのか!?この劣等民ぞ・・・」

ウェスターは引き金を引き、市長は血を流してその場に倒れ込んだ。ベッフィーは講堂に駆け込んだが、間に合わなかった。ベッフィーはウェスターに銃を捨てるよう命じた。彼が銃をゆっくりと自身の頭に向けると、ベッフィーはウェスターの手を撃ち、銃が地面に落ちた。するとウェスターは不自然な挙動を見せ、いきなり血を吐いて倒れた。ウェスターは自身の体に自決用の劇薬を仕込み、サイボーグ脳で劇薬の入った装置を作動させていた。ベッフィーは駆け寄り、血を吐き出す彼を抱き抱えた。意識が朦朧とする中、ウェスターは自身に付いた市長の返り血と自分の血を見比べて、口を開く。

「・・・ベッフィー・・・おかしいな・・・僕の血、彼等と変わらない、じゃないか・・・もっと、どす黒いかと思ってた・・・何も変わらない・・・何も変わらないのに・・・じゃなんで、こんな・・・なん・・・で・・・」

ウェスターの鼓動は止まり、ベッフィーはゆっくりと彼の瞼を下ろした。こうしてウェスターの復讐は、静かに幕を閉じた。

   東アイノス軍が反乱軍に追い付くと反乱軍は東アイノス軍と西アイノス軍に挟まれる形になり、初めは勢いがあった反乱軍は劣勢になっていった。特に北西辺りの戦闘では近くにいたパワードアーマー乗り等の賞金稼ぎ達の介入により、反乱軍は進軍できなくなっていた。


孤立し身動きが取れなくなった反乱軍の大半は首元に巻いていた手榴弾のピンを抜き、次々に自決していった。反乱軍の生存者は自力で自決できなかった極僅かだった。反乱軍の全滅が確認されると東アイノス軍は一方的に休戦に持ち込み、西アイノス市より撤退した。

東と西アイノス市の関係は悪化し、一触即発の状態が続いた。今回の事件を知り、両都市に解決能力がないと判断したウキン国政府は東と西アイノス市の直接統治に踏み切った。この処置により、両都市による大きな衝突は回避された。

捕らえられた極僅かの反乱軍兵士達の死刑執行が決まり、ウェラーも地下室で薬品を注射された。彼女は苦しむ事なく意識を失った。ところが数日後、彼女は病室で目を覚ました。状況を理解できない彼女の側に、ベッフィーが立っていた。

「なぜ私はまだ生きているんだ?」

問い掛ける女にベッフィーが答える。

「君がウェラーじゃないからな。」

「何を言っている!?私はウェ・・・」

「いいや。ウェラーという女はもう死んだよ・・・信じられないなら鏡を見るといい。」

ベッフィーにそう言われ、女はゆっくりと鏡の前に立った。そこに映っていたのは、整形する前の自分の顔だった。ウェラーに改名する前、自分がまだヴィオス・ニュージュリーだった頃の顔だ。彼女は薬品で眠らされた後、整形手術されたのだ。ベッフィーは帰還後軍上層部に掛け合い、彼女の死刑を取り下げるよう求めた。反乱軍との戦闘で英雄になったベッフィーの要求は極秘裏に認められる形となった。ウェラー元少尉は書類上、死亡となっている。

「なぜだ・・・」

「ウェラーもウェスターも死んだ・・・もう全部終わったんだ、終わったんだよ、ヴィオス。」

ベッフィーがヴィオスに微笑むと、ヴィオスは床に崩れて泣いていた。

   ベッフィーはその後、軍を除隊し東西境界警備隊に復帰し、彼女にまた新しい部下ができた。それはヴィオスだった。ヴィオスは決意を固め、ベッフィーと共に新たな道を歩む事に決めた。

もう二度と、同じ過ちを繰り返さないために・・・

-最終話~人の憎しみの果て~ ~完~

2015年8月16日日曜日

Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~第4話~オペレーション・シットピット~

-第4話-

   2月16日日曜日の夜明け前、ウキン国東アイノス軍は西アイノス市に進攻した反乱軍を追って出撃を開始した。反乱軍は既に西アイノス軍と交戦状態に陥り、西アイノス市は突然の事で初期対応が大幅に遅れていた。反乱の重要人物であり、親友であるウェスター・ノーブロー元大尉を止める事ができなかったベッフィー・アクストロン曹長は部隊を率い、ウェスターの進攻を阻止するための危険な作戦を決行する。それは西アイノス軍の防御が厚い谷を爆撃しながら強行突破し、最短距離で西アイノス市中心部へ進軍する作戦、「オペレーション・シットピット(糞溜め)」だった。

-第4話~オペレーション・シットピット~

   東アイノス軍反乱軍討伐部隊の本隊が出撃していく中、ベッフィーはこれから決行する危険な任務について部下達に最終確認を行った。彼女に意見する者は誰もいなかった。それは部下が皆彼女についていけばなんとかなるだろうと考えていたからである。ベッフィーは人使いが荒かったものの周囲に人気があった。

シットピット隊に参加するのは一般兵を輸送するティルトローターのガル1、2、部隊を先導する攻撃機のホーク1、部隊を上空から援護するホーク2、3、飛行装置を装備しティルトローターを護衛するフライトパワードアーマー(人型強化装甲)のレイヴ1、2、上空から索敵する無人偵察機のオウル1、2、榴弾砲で後方から爆撃支援を担当する砲撃部隊等だ。






本作戦では速さが重要になるため、ヘリは採用されなかった。

   オペレーション・シットピットが開始され、無人偵察機のオウル1、2、砲撃部隊が出撃した。しばらくして爆装した攻撃機のホーク1、2、3が出撃し、後からティルトローターのガル1、2、フライトパワードアーマーのレイヴ1、2が出撃する。尚ベッフィーはガル1に搭乗している。航空支援部隊は順にオウル1、2、ホーク2、3で上空を飛び、突入部隊は順にホーク1、レイヴ1、ガル1、2、レイヴ2で低空を飛んだ。

シットピット隊の先頭を飛行するオウル隊が谷に差し掛かった頃、オウル隊は谷に配置された西アイノス軍の対空兵器を確認した。偵察機から送られてくる情報を基に砲撃部隊が砲撃を開始し、敵の対空兵器を破壊した。西アイノス軍はシットピット隊の襲撃に反応し、応戦してきた。敵の戦闘機が数機向かってきたが、ホーク2、3でこれ等を撃墜した。西アイノス軍は反乱軍の急襲に対応しきれず、各部隊の連携がしっかり取れていなかった。

シットピット隊が谷の上空を飛行していると、谷から敵の攻撃を受けた。支援部隊はすぐに敵を爆撃し、突入部隊は作戦通り高度を落とし谷に沿って低空飛行を始めた。突入部隊が谷を飛行し、目の前の敵が味方の爆撃によって次々に破壊されていった。しかしその爆撃は時に真横をかすめ、更に敵の攻撃は激しさを増した。爆風や激しい機動により、ガル隊に搭乗していた多くの兵士達は作戦への参加を後悔した。機体のあまりの機動についていけず、ティルトローターのドアガンに就いていた兵士はまともに撃てずにいた。それを見たベッフィーは危険だと判断し、無茶な体制で自らドアガンを使用した。いくら搭乗していた兵士が全員安全帯を着用していたとはいえ、危なっかしい体制のベッフィーを見た部下達は必死に彼女の腰を掴み、皆で彼女を支えていた。

進路上の敵に対する爆撃は上手くいってはいたものの、作業が追いつかず突入部隊は敵の攻撃に晒されていた。先頭を飛ぶホーク1やレイヴ1は多く被弾していた。索敵を続けていたオウル2は撃墜され、オウル1も敵に狙われていた。残弾数が残り少ないホーク1とレイヴ1が煙を噴く中、谷の下から地対空ミサイルが飛んできた。ガル1に直撃すると計算したレイヴ1は加速し飛行装置から体をスウィングさせ、前方投影面積を増やした。フライトパワードアーマーの空戦能力はそれ程高くはないが、搭乗者の技量によってこの様な芸当を可能にする。前に出たレイヴ1はミサイルに衝突し爆散した。ベッフィーはドアガンでミサイルを撃った部隊を銃撃した。彼女は散っていくレイヴ1の残骸を見つめ、敬礼した。

ホーク1はエンジンから火を噴き始めたが、一足先に谷を抜ける事に成功した。しかしそこには敵の地上部隊が待ち構えていた。ホーク1は攻撃を浴びながら敵に向かい、機体から脱出した。火だるまになった機体は敵部隊に突っ込み炎上した。ホーク1は落下傘で下降していると敵が待ち構えているのが見えた。ホーク1が危険な状況にいると知ったベッフィーはホーク1を助けるべく、ガル1に無茶な指示を出した。指示を受けたガル1は驚きを隠せないでいた。

ホーク1は降下中銃を抜き、死を覚悟した。するとベッフィーから通信が入る。

「ホーク1、邪魔だ!そこをどけぇ!!」

ホーク1が後ろを振り向くと、片方のエンジンから火を噴きながらこちらに向かってくるガル1が見えた。ホーク1は慌てるも落下傘の軌道を急に変える事はできず、ガル1が真横を通り過ぎていった。ガル1は銃撃しながら敵の地上部隊に向かっていった。初めに応戦していた敵はガル1が進路を変えない事に気付き、慌ててその場から逃げ出した。ガル1は地面を抉りながら敵に突っ込んでいった。砂煙が大量に舞い、ガル1が停止すると同時にベッフィーが勢いよく機体から飛び出し敵の戦闘車両に飛び乗った。彼女が敵車両のハッチにライフルを構えると、中から手を上げた敵の隊長が出てきた。残りの突入部隊も到着し、ベッフィー達はその場にいた敵部隊を制圧した。一方ガル1に搭乗していたベッフィー以外の兵士は皆強行着陸の衝撃でぐったりしていた。

   反乱軍の状況を知りたいベッフィーは確保した敵部隊の隊長に情報提供を求めた。しかし苛立っていた敵はそれを拒む。

「反乱軍?貴様等も同じだろ。我々の地を汚す野蛮人共め!」

「ほう・・・その様子だと反乱軍について何も知らないのだな。もしも我々が反乱軍であったなら今頃お前達は皆死んでいるぞ。彼等の目的は占領ではなく虐殺なのだからな。」

そう言いながらベッフィーは敵の隊長に銃を向けた。

「貴様等も大して変わらんだろう。こうして戦争を仕掛けてきているじゃないか。この下種共め。」

「散々問題を起こして争いを煽ったのはどこのどいつだ?・・・もういい、話すだけ無駄だな。自分の住む町が血に染まるのを黙って見ているがいい。」

ベッフィーは会話をやめ、現状の確認と物資の整理をシットピット隊に指示した。しばらくすると敵の隊長が重い口を開く。

「・・・数十分前敵の一部が都市の中心部に向かっているとの報告を受けた・・・恐らく目標は議事堂だろう・・・」

(間違いない、ウェスターだ。)

「ありがとう、協力に感謝する。」

敵の情報を聞き、ウェスターの居場所を確信したベッフィーはシットピット隊に指示を送る。

「シットピット隊はこれより市街地に入り議事堂を狙うであろうウェスター・ノーブロー元大尉の身柄を確保する。航空部隊は地上部隊の援護に回れ。以上。」

   復習を果たそうとする反乱軍やウェラー、そしてウェスターを、ベッフィー達は止める事ができるのか。紛争の最終局面に向かい、ベッフィーは走り出していた。

-第4話~オペレーション・シットピット~ ~完~

血に染まる議事堂
最終決戦
後日談

次回-最終話~人の憎しみの果て~

2015年8月15日土曜日

Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~第3話~東アイノス市の反乱軍~

-第3話-

   2月16日日曜日深夜、ウキン国東アイノス市駐留軍内の反乱分子が一斉にクーデターを起こした。クーデターの可能性を知っていながら、この事態を回避する事ができなかったベッフィーは歯を食いしばり煙が上がる陸軍基地に向かって走っていた。彼女は基地に連絡を取ろうとしたがどこも繋がらず、恐らく反乱軍の通信妨害だろう。基地の方から明かりが点滅し、爆音や銃声が聞こえてくる。どうやら基地で戦闘が始まっているようだ。基地の近くまで来たベッフィーは一度自宅に戻った。彼女は急いで部屋に入り隠してあるライフルや装備を取り出し、戦いに備えた。

-第3話~東アイノス市の反乱軍~

   装備を身に纏ったベッフィーは再び基地に向かい、その惨状を目の当たりにした。数箇所から火が燃え広がり、同じ部隊の兵士同士で撃ち合っていた。ベッフィーが小走りしていると、後ろから彼女の部下が車に乗ってやってきた。部下は状況を把握しておらず、様子がおかしい基地を見に来ていた。ベッフィーは部下の車に飛び乗り指示する。

「よし、いいところに来た。このまま基地に突っ込め!」

「車買ったばかりなのに・・・」

部下は涙目でアクセルを踏み込んだ。

   ベッフィーと部下は車で基地内を走っていたが、反乱軍の姿は減り始めていた。武器弾薬を奪った反乱軍は基地から徐々に撤退し、北に向かっていた。それを知ったベッフィーは反乱軍の目的を悟る。

「そういう事・・・奴らの目標は東アイノス市なんかじゃない、西アイノス市よ。」

「この基地を乗っ取る訳ではないという事ですか?」

部下の問い掛けにベッフィーが答える。

「そうね。奴らの狙いは西アイノス市の殲滅だわ。」

「そんな事をしたら大問題ですよ!」

「問題なんていくらでもあったからね、今に始まった事じゃない・・・滑走路に向かって。まだ間に合うかもしれない。」

怯えながらも部下は車を走らせ、滑走路に向かう。滑走路付近では反乱軍と正規軍が銃撃戦を続けていた。ベッフィー達も到着し、戦闘に加わった。戦闘中、ベッフィーの部下は反乱軍兵士が皆首に手榴弾を巻き付けている事に気がついた。

「曹長、なぜ奴等は皆首に手榴弾を巻いているのですか?」

「目がいいね。あれは各国の特殊部隊がごく稀に使用する自爆装備よ。」

「自決用ですか?」

「そう、痛みを感じる事なく頭が吹き飛ぶわ。捕虜になる事や敵に情報が漏れる心配もなくなる。サイボーグ脳でも破壊できるように高威力型を使用しているはず。」

「正気とは思えませんね・・・」

「心を捨てないとできない事もあるのよ・・・」

ベッフィーがそう囁くと、飛び立とうとする1機のティルトローターが見えた。ティルトローターの横には数人の兵士が待機しており、その中にウェスターとウェラーがいた。



(・・・いた!!)

ベッフィーはすぐ様ティルトローターを攻撃し、ウェスターの出発を阻止しようとした。ウェスターの周囲を固める兵士が応戦し、ベッフィーは思うように動けなかった。ウェスター達はティルトローターに乗り、機体が進み始めた。反乱軍の重要人物であるウェスターをなんとしてでも止めたいベッフィーは部下を無理やり車に乗せる。

「あの機体に突っ込め!」

死を覚悟した部下は思い切りアクセルを踏み、敵に向かっていく。敵の猛攻を受け、部下は頭を下げながらハンドルを握り続けた。

「いいぞ!そのままいけ!」

ベッフィーは敵に応戦しながら狙撃のチャンスを窺っていた。ウェスター達が乗るティルトローターが宙に浮き、基地から離れようとしていた。それを見たベッフィーは車の窓から身を乗り出し、ライフルを構える。彼女はティルトローターに乗ったウェスターと目が合い、ベッフィーは躊躇無く引き金を引いた。ベッフィーの放った銃弾はティルトローターの窓を直撃したが、防弾ガラスのためひびが入る程度だった。防弾でなければウェスターの頭に命中していただろう。これは彼に対するベッフィーの意思表示だった。彼女はライフルを下げ、飛び去るウェスターを見つめていた。

   武器弾薬を奪った反乱軍は手際よく基地から引き上げたため、彼等との戦闘における負傷者は少なかった。ベッフィーの予想通り反乱軍は北から西アイノス市に進軍しようとしていた。一部の東アイノス軍の兵士達は反乱軍を追おうとしたが、軍は現状を把握するため全兵士を基地に緊急招集した。これは反乱に加わった者と残った者の確認と反乱軍掃討作戦のためであった。東アイノス市は反乱軍が向かっている事を西アイノス市に連絡し、突然の事に西アイノス市はパニックに陥った。

   緊急招集を受けた東アイノス軍兵士が続々と基地に集まり、反乱軍を掃討するための即席部隊が編成された。部隊仲間が反乱に加わった事を知って落胆する兵士や裏切られた怒りを露にする者もいた。作戦が指示される中、このままではウェスターに追い付けないと確信したベッフィーは上官に作戦の一部変更を求めた。案の定上官の怒りを買ったが、現状のままでは後手に回ると、ベッフィーは一歩も引かなかった。上官は仕方なくベッフィーの作戦を聞いてみる事にした。

東アイノス軍は反乱軍と同じように北に回って西アイノス市に向かう予定だが、ベッフィーは一個小隊を直接西に攻め込ませる作戦を提案した。こうすれば先回りして進攻する反乱軍を足止めできると踏んだのである。しかし西から直接西アイノス市に向かうには西に続く谷を突破しなければならない。この谷は西アイノス軍の防御が厚く、突破は非常に困難である。そこでベッフィーは進路上の敵を爆撃しながら航空機で進軍するという非常に危険な作戦を立案した。確かに上手くいけば最短距離で西アイノス市に入る事ができるが、味方の爆撃の中を飛行するのはリスクが高い。ベッフィーは仮に失敗しても陽動になると言い張り、上官は判断に困っていた。するとベッフィーを信頼する部下達が作戦への参加を希望し、上官はそれを了承した。

軍の了承を得たベッフィーの部隊には輸送機、攻撃機、榴弾砲、無人機やフライトパワードアーマー(パワードスーツ用のパワードスーツ。人型強化装甲。)が加わった。東アイノス軍は準備を終えた反乱軍掃討部隊に出撃命令を出した。ベッフィーが率いる部隊も出撃を開始する。彼等には反乱軍を指揮している可能性があるウェスター・ノーブロー元大尉の確保という任務が与えられた。ベッフィーの立てた作戦では敵味方関係なく数多くの爆弾が落とされると予想されるため、「オペレーション・シットピット(糞溜め)」と命名された。

夜明け前、ベッフィーの旧友、ウェスターとウェラーが加わる反乱軍を阻止するための作戦、オペレーション・シットピットが開始された。

-第3話~東アイノス市の反乱軍~ ~完~

爆撃の谷
落ちる戦友
強行突破

次回-第4話~オペレーション・シットピット~

2015年8月9日日曜日

Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~第2話~クーデターの疑惑~

-第2話-

   東アイノス市大学生集団暴行事件から5年、ウェスターが陸軍に幹部候補生として入隊して以来、自身が持つ能力や人脈を最大限活用し、スピード出世を続けていた。27歳になった彼は大尉に昇格したばかりだ。一方警察庁の東西境界警備隊に入隊したベッフィーは抜群の運動神経や判断力を示し評価を上げ、教官を担える程に成長していた。しかし彼女は多忙を極めるウェスターと会う機会は殆ど無かった。

   ベッフィーが普段通り部下の訓練に付き合っていると、一人の軍人が訪ねてきた。その軍人はベッフィーに頼みごとを伝えに来ていた。自己紹介を済ませると軍人は言う。

「あなたにお願いがあります。陸軍に入隊して下さい。」

-第2話~クーデターの疑惑~

   ベッフィーは彼女に会いに来た軍人を空いている会議室に案内した。すると軍人は電波探知機等を取り出し、部屋を調べた。

「ここに盗聴器なんて無いよ。あんた何もんだ?人事部じゃないね。てか、それ程やばい話なの?」

ベッフィーが聞くと軍人は作業を終え、彼女に答える。

「私は公安の者だ。君は素晴らしい才能を持っている。是非その能力を軍で活用して欲しい。それともう一つ、君に頼みたい事がある・・・ウェスター・ノーブロー大尉の内偵調査だ。」

「!?・・・どういう事?」

ベッフィーは衝撃的な発言に驚きを隠せなかったが、公安の者はその後彼女に事情を説明した。

   公安の話によると、ある時期から軍の中でクーデターを計画している反乱分子の情報が流れ始めた。それはちょうどウェスターが陸軍に入隊した頃と重なっている。公安は早速捜査を始め、人柄や普段の生活等を監視し疑惑のある者を調べ上げた。彼等の多くにはある共通点があった。それは彼等が皆「アイノス民族問題被害者の会」の常連である事だ。中には陸軍幹部も複数確認され、その幹部達はウェスターと何かしらの接点があった。ウェスターの出世の早さには彼等が大きく関わっていたのだ。公安はウェスターが反乱分子の重要人物として捉え、引き続き捜査を進めた。ウェスターはサイボーグ脳手術を受けており公安は彼の通信を傍受しようとしたが、セキュリティーが硬く情報はあまり得られなかった。尚あらゆる方法で捜査を進める公安であったが、クーデターの手掛かりは全く掴めずにいた。これは恐らく完成されたクーデターの計画を前もってメンバーに伝えておいたか、主要メンバーにだけ計画を知らせ残りは指示を待つ等といった情報漏洩を防止する処置によるものと推測された。時間が経過し、最近になってクーデターの噂が急に減り始めた。クーデターの決行が近付いている可能性が高いと見た公安は焦っていた。そこで公安が目を付けたのが、ウェスターと長い付き合いのある親友、ベッフィーだった。彼女が軍に入りウェスターと接触し続ければ彼はボロを出す可能性があると公安は踏んだのである。

公安の話を聞いたベッフィーは彼等の提案を承諾した。ベッフィー自身ウェスターの事が気になり、もし彼が反乱を計画しているなら彼を止めたいと思っていた。こうしてベッフィーは軍にスカウトされる形で東西境界警備隊を辞職し、陸軍曹長としてレンジャー部隊への入隊が決まった。


何故かベッフィーを慕っていた東西境界警備隊の部下達が数名彼女を追って軍に入隊した。

   軍に入隊したベッフィーは早速ウェスターのもとへ出向き、彼と頻繁に会った。ウェスターは初めベッフィーの入隊に驚いた様子だったが、彼女の実力を聞きウェスターは大いに喜んでいた。彼の性格は変わっていたものの、ベッフィーは彼にどこか懐かしさを感じていた。ベッフィーは怪しまれない程度にウェスターに接触し続けたがクーデターに繋がる様な情報は何も得られなかった。

   ベッフィーに新たな部下が配属され彼女が軍の生活に慣れ始めていた頃、ウェスターに会おうとした彼女の前に一人の女性兵士が現れた。名をウェラー少尉。特殊部隊に所属している彼女はベッフィーに近付いてくる。

「彼に付きまとうのはもうやめてくれないかな?ベッフィー。」

ベッフィーはウェラーと会うのは初めてだったが、ベッフィーは彼女に見覚えがあるように感じていた。

「どうして?」

「彼は忙しいの。もうこれ以上彼の仕事の邪魔はしないで。」

ウェラーの声を聞き、ベッフィーは何かに気付く。彼女の声がヴィオスにそっくりだったのだ。改めてウェラーをよく見てみると、ヴィオスの面影が残っていた。

「あんた・・・もしかしてヴィオスなの?」

ベッフィーが不意に問い掛けるとウェラーは一瞬止まり、思わず笑みをこぼす。

「さぁ・・・忘れたわ、そんな名前。」

ウェラーはそう言い残し、ベッフィーは彼女がヴィオスである事を確信した。ヴィオスの顔は変わっており、恐らく彼女は整形で別人になりウェスターの後を追って軍に入ったのだろう。

   ベッフィーがウェラーと会って以来、ベッフィーがウェスターに会おうとするとよくウェラーの邪魔が入った。ベッフィーはクーデターの手掛かりを探していたが、時間だけが無駄に過ぎていった。クーデターに関する情報を何も得られずにイライラしていたベッフィーは吹っ切れ、捜査方法を大幅に見直す事にした。彼女は自らクーデターの噂を流し、軍内部に広めた。もちろん全て彼女のでっち上げである。ベッフィーは軍内部の反乱分子がボロを出すまで捏造した噂を広め続けた。

   ベッフィーが広めたデタラメに効果があったのか、ある日彼女はウェスターに話があると呼び出された。彼が指定した場所は基地の外にある人気の無い路地裏だった。罠を警戒したベッフィーは信頼できる部下に事情を説明し、彼等を路地裏の周囲に張り込ませた。ベッフィーが一人夜の路地裏で待っていると、人気を感じた。彼女は腰のハンドガンに手を伸ばして警戒していると、向こうからウェスターがやってきた。彼の後ろにはウェラーもいた。二人はベッフィーに近付き、ベッフィーも腰から手を引いた。ウェラーはすぐに何者かが彼等を見張っている事に気付き、常に周りを見渡していた。ウェスターに付き添っていたのはウェラーのみで、彼等は二人だけで来ていた。ウェスターの警護はウェラー一人で十分であると判断したのだろう。彼女はそれ程優秀だった。

久しぶりに野生観察クラブの元メンバーがこうして揃ったのだが、そこには重々しい空気が流れていた。彼等が軽く挨拶を済ませると、ウェスターはベッフィーを呼んだ理由を話し始めた。彼はクーデターの噂は真実であると告白し、そのクーデターに自身が関わっている事を話した。しかしその目的はクーデターを起こす事ではなく、クーデターを阻止するための潜入捜査であるとウェスターは説明した。彼によるとクーデターの決行日は東アイノス市の軍事パレードが行われる3月23日の日曜日らしい。ウェスターに呼び出されたこの日は1月25日の土曜日なので残された時間は約2ヶ月という事になる。ベッフィーのデマを流すといった行動を取るとウェスターの潜入捜査に支障が、更に彼女自身に危険が及ぶ可能性が出るため彼女には行動を控えるようにとウェスターに忠告された。ベッフィーにはいずれ協力を求める事もあるだろうとウェスターは言い残し、ウェラーと共に路地裏を後にした。

ベッフィーはウェスターの話に衝撃を受けたが、捏造の可能性もあるため彼女は部下に今後も周囲の動きに注意するよう伝えた。

   世間でヒカ硬化症の治療法について騒がれていた2月14日金曜日のバレンタインデーの日、ウェスターはベッフィーに再び話があると彼女を誘い、日時を伝えた。そして約束の日の2月16日日曜日の深夜、ベッフィーはウェスターと待ち合わせたカフェで彼を待っていた。約束の時間より早めに来ていた彼女はクーデターについて考えていた。ウェスターの言っていたクーデターの決行日がもし偽りだとしたら、いつ決行するのだろう。ベッフィーは腕時計型の外付け制工脳(外付け型のサイボーグ脳。人間の脳に中継器を移植するだけで使用可能になる。)をコードで中継器が移植されている耳たぶに挟んで接続し、基地の日程を調べていた。その中で次に来る行事といえば、2月18日火曜日に行われる陸軍の軍事演習だった。しかし軍事演習では一部の兵器に練習弾が使用されるため、クーデターを起こすにはやや面倒である。練習弾は演習の前日、つまり明日に入れ替えられる事から、実弾が入れられるのは今日までだ。

軍事演習の日にクーデターを起こすのは考えにくいと判断したベッフィーは引き続き基地の日程を調べる事にした。すると突如、何らかの爆音が聞こえてきた。テラス席に座っていたベッフィーは立ち上がり、辺りを見渡した。多くの通行人が何事かと道に出ると、基地の方角から明かりと煙が見えた。その煙を見てベッフィーはこの日がクーデターの決行日である事を知った。邪魔になるベッフィーを遠ざけるためか、彼女を巻き込みたくなかったのか、ウェスターとの待ち合わせは嘘だったのだ。

ウェスターを止める事ができなかった・・・

目の前の光景に動揺していたベッフィーの顔は決意に変わり、彼女は走り出す。

2月16日日曜日深夜、ウキン国東アイノス市駐留軍内反乱分子によるクーデターが、幕を開けた。

-第2話~クーデターの疑惑~ ~完~

反乱軍の目的
ベッフィーの追撃
正規軍の追撃作戦

次回-第3話~東アイノス市の反乱軍~

2015年8月1日土曜日

Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~第1話~東アイノス市の3人~

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-第1話-

   古くから多国に強い影響力を持つ先進国ウキンの西側に、古くからいがみ合う2つの都市がある。東アイノス市と西アイノス市だ。東アイノス市にはウキン国からの移住民、西アイノス市には原住民が多く住んでいる。元々アイノスは1つの都市で、移住民と原住民は混ざって生活していた。ところが時が進むにつれ原住民は独立を訴え、少数派になる事を恐れた移住民はこれに反対した。これを機に2つの民族は衝突を始め、民族紛争に発展した。ウキン国は事態を打開するためアイノス市を東西に分けたが、互いの関係は更に悪化した。紛争が起こる度にウキン国は直接統治で介入し、この流れを何度か繰り返していた。ウキン国政府がこの問題に頭を抱え、なるべく触れないように振舞っていた。ウキン国政府があまり手を出さない事をいい事に、西アイノス市は東アイノス市に多くの差別や嫌がらせ行為を続けた。西アイノス市住民による東西の境界線上での犯罪行為等が問題視される中、衝突を避けたい東アイノス市議会の行動は消極的だった。

   東アイノス市西側の森の手前に、4人の大学3年生が集まっていた。彼らは大学の野生観察クラブに在籍し、クラブ活動の一環として時折この森を訪れていた。

「今日は参加できなくてごめんね。でもみんなの弁当作ってきたから、よかったら後で食べてね。」

女子が鞄から弁当を出し、男子に手渡した。女子の名はベッフィー・アクストロン。21歳。ベッフィーの弁当を受け取った男子の名はウェスター・ノーブロー。同じく21歳。ウェスターが口を開く。

「今日は弟の墓参りだよね、しょうがないよ。でもわざわざ弁当を作ってきてくれてありがとう。後でおいしくいただくよ。」

この日はベッフィーの弟の命日だった。彼女の弟は過去に起こった西アイノス市住民の暴動の被害者だった。弟は祖父と買い物に出掛けた際暴動に遭遇し、逃げ遅れた二人は集団暴行に遭い、絶命したのだ。

ウェスター達はベッフィーと別れ、3人は森に入っていった。森に入ったのはウェスターともう一人の男子部員、そして女子部員のヴィオス・ニュージュリー、21歳だった。

-第1話~東アイノス市の3人~

野生観察クラブの3人はしばらく活動していると、天気が悪くなった。3人は仕方なく予定を早めて移動していると、一軒の小屋を見つけた。以前はこのような場所に小屋は無かった。調べてみると、一人の老人が住んでいた。話を聞くとこの老人は西アイノス市の住人で、経済的理由からこの森に不法滞在しているらしい。更にこの老人以外にも、様々な理由でこの森に不法滞在している者達がいるという。野生観察クラブの3人が老人の話を聞いていると、老人の小屋の周りに人が集まってきた。西アイノス市の不法滞在者達だ。3人が不安になる中老人は周囲に事情を説明し、3人は無害であると説明した。ところが周囲はそれを聞き入れなかった。老人やウェスター達は敵じゃない事を訴え続けたが、不法滞在者達は無視し、ウェスター達3人に暴行した。

「彼女から離れろぉおおお!!!」

ヴィオスが暴行される様子を見ていた男子部員は憤りを感じ、周囲の者達に立ち向かったが、数に圧倒され返り討ちに遭った。激怒した周囲は男子部員により強く暴行した。成績優秀なウェスターでさえ何もできず、ただ耐えるのが精一杯だった。

3人に対する暴行は西アイノス市の警察が来るまで続いた。この事件を知った西アイノス市役員は東アイノス市内で起こった事実を隠蔽するため、3人を拘束し西アイノス市内の留置場に送った。その頃、3人と連絡が取れない事に不安を覚えたベッフィーは各家庭と警察に連絡を入れていた。

ウェスター達3人は暴行から解放されたものの、手当ては行われず留置場に放置されていた。中でも男子部員の容体は酷く、すぐにでも治療を受ける必要があった。ウェスターは男子部員の治療を要求したが無視され、男子部員は次第に静かになっていった。

しばらくすると留置場にある男が訪れた。西アイノス市市長だ。市長に気付いたウェスターは気力を取り戻し、市長に助けを求めた。ところがいくら懇願しても、市長は反応を示さずただ3人を観察していた。市長はウェスターに歩み寄る。

「残念だが君達を助ける事はできない。」

その言葉を聞いたウェスターは一瞬言葉を失い、彼は口を開く。

「・・・どうしてですか?」

「君達が我々とは違うからだよ。」

「どう違うのですか!?同じ人間じゃないですか!!」

余りにも理不尽な言葉にウェスターは声を荒げた。

「恨むなら自分の生まれを恨むがいい・・・」

市長はそう言い残し、その場を後にした。絶望に落とされたウェスターの目は光を失い、彼は考える事をやめた。

その後西アイノス市と東アイノス市の間で協議が持たれ、東アイノス市職員が3人を引き取りにやって来た。野生観察クラブの3名はすぐ様東アイノス市病院に運ばれたが、搬送先の病院で男子部員の死亡が確認された。西アイノス市はこの事件について報道したが、野生観察クラブの3名が不法侵入した等といった事実とは異なる内容だった。これに対し東アイノス市は遺憾の意を表明し、暴行犯グループの引き渡しを要求したが、それ以上は何もしなかった。西アイノス市の弱腰な姿勢に市民は反発したものの、民族問題の表面化による支持率低下を避けたいウキン国政府は事態が自然に沈静化する事を期待した。市議会や政府の動向を見たウェスターは彼等の対応に失望した。ヴィオスの体は回復していったが、事件以来彼女は引きこもる様になっていた。

   病院を退院したウェスターは東西の民族問題について調べるため、「アイノス民族問題被害者の会」の会合に出席した。会合にはウェスターと似たような酷い体験をした者が多くいた。被害が報告されている多くの案件は未解決のままで、民族問題は何も進展していない事が分かった。被害者の中にはベッフィーの弟と祖父も含まれ、彼等の事件も未解決のままだった。この理不尽で残酷な事実を目の当たりにしたウェスターの胸に、じわじわと込み上げてくるものがあった。そして彼の脳裏にある考えが生まれた。

   ある雨の日、ウェスターが男子部員の墓参りに来ると、そこにはベッフィーがいた。ベッフィーは涙を流し、ウェスターと顔を合わせると、更に涙を流した。ウェスターはそっと彼女を抱き寄せ、今まで秘めていた決意を固め、彼の目つきが変わる。

「もう大丈夫だよ・・・俺がなんとかするから・・・」

「え・・・?」

話の内容よりもウェスターの口調が変わった事に、ベッフィーは驚いていた。

   数日後、ウェスターはヴィオスのもとを訪れていた。彼女は相変わらず部屋に引きこもり自分の人生を悲観していた。

「・・・もう私生きていたくないよ・・・」

「・・・なら新しい人生を歩んでみたくないか?」

ウェスターの不意の言葉にヴィオスは戸惑った。

「俺が新しい人生を与えてやる。生きる目的を。」

「・・・何をするの?」

「俺は西アイノス市を破壊する。」

決意に満ちた彼の心には、どす黒い何かが芽生えていた。

   東アイノス市大学生集団暴行事件から1年が経ち、森林が好きなベッフィーは志望通り警察庁東西境界警備隊に入隊し、ヴィオスは音信不通になり、ウェスターは志望していた進路を大きく変え幹部候補生としてウキン国陸軍に入隊した。

-第1話~東アイノス市の3人~ ~完~

クーデターの噂
ウェスターの告白
ベッフィーとの待ち合わせ

次回-第2話~クーデターの疑惑~

Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~

-plot-あらすじ

人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

ウキンという国の西に、東と西アイノス市という2つの都市がある。
東アイノス市には昔の移住民の子孫が多く住み、西には原住民が多く住んでいた。
元々2つの民族は1つの都市で共存していたが、独立を巡って紛争が起きた。
結果的に都市は2つに分かれたが、互いの憎しみは増えていった。

ある日東アイノス市の森でクラブ活動をしていた大学生が数名、民族問題に巻き込まれてしまう。
男子部員、ウェスター・ノーブローはこの事件によって絶望し、軍への入隊を決意する。
彼を心配する女子部員、ベッフィー・アクストロンは、果たして彼の絶望を振り払う事ができるのか。

人は憎む相手が同じ人間である事に、いつ気付くのだろう・・・

-第1話~東アイノス市の3人~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/08/nations-immature13.html
-第2話~クーデターの疑惑~↓
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-第3話~東アイノス市の反乱軍~↓
http://worldgazerweb.blogspot.jp/2015/08/nations-immature3.html
-第4話~オペレーション・シットピット~↓
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-最終話~人の憎しみの果て~↓
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Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~設定資料↓
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「Nations Immature~ネイションズ・インマチュア~」
「World Gazer~ワールド・ゲイザー~」シリーズ。

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