-注意-
-WARNING-

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2014年12月23日火曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~設定資料

-plot-あらすじ

人が光の力と影の力を利用し、翻弄される時代。

北国フェンラにある村、ムスタ・プキン。この村には古くから武装サンタ達が住み、村を守っていた。
村は更なる発展を願い、影の力、ゲカを燃料としたゲカ・プラント建設計画を発足する。
しかしそれと同時期に、影の力を宿した生物、ゲカ・アウタレスが村の周囲に増え、村を襲い始めた。
聖誕祭が近付くにつれ、村の平和が次第に壊されていく。
果たして村は最悪な聖誕祭を迎える事になるのか。
村に迫る危機に、武装サンタ達とその仲間達が立ち上がる。

-introduction-序章

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-episode-各話
 -.1_武装サンタの住む村
 -.2_タナと村に忍び寄る影
 -.3_子供達のヒーロー
 -.4_燃える聖誕祭
 -.5_終_武装サンタと聖誕祭

-character-登場人物

 -San Taz Claws
  -08/11生まれ。
サン・タズ・クローズ。男性。ムスタ・プキンの武装サンタ、ゲカのアウタレスである。タズと呼ばれる事が多い。アウタレス化により見た目は30代だが、実際は50歳である。アウタレス評価は危険度:0、脅威度:4、濃度:42%。タズのアウタレスとしての能力は単純な身体強化である。というのもタズ本人がゲカの暴走を恐れている為能力はあまり使用せず、装備品の火力による戦闘スタイルを得意としている。武装サンタ、サンタ・クローズを父に持つ。タズは常時戦闘用マッスルスーツを着用し、装備品はどれも一般的だが、愛用している12ゲージリボルバーとクロー付きガントレットは特殊である。前者のリボルバーは12ゲージショットシェルを6発装填出来る非常に大型のハンドガンである。更にバレルが上下2本あり、同時に撃つ事が出来るがかなりの反動がある。タズは最終兵器としてゲカやヒカの弾薬を所持しているが反動があまりにも強力な為、撃つ際本人はゲカの力を使用している。後者のガントレットの方はヒカ合金で出来たクローが付いており、非常に強靭である。このクローこそがタズと父の名前の由来である。クローは普段袖の下にある為、外からは見えない。
30代の頃、ムスタ・プキン帰省中、タズをゲカ・アウタレスから庇うおうとした父をアウタレスが貫き、そのままタズをも貫いた。この出来事により父は他界し、タズはゲカのアウタレスとなり、父の跡を継いだ。


 -San Tana Rose
  -11/14生まれ。
サン・タナ・ローズ。女性。ムスタ・プキンの武装サンタ、ヒカのアウタレスである。タナと呼ばれる事が多い。アウタレスである為見た目は20代後半だが実際は51歳である。アウタレス評価は危険度:0、脅威度:4、濃度:71%。アウタレスの母と人間の父の下に生まれ、生まれながらのアウタレスである。20代から武装サンタに務め、活躍は減ってはいるものの、今も現役である。かつては「紅き死神」とも呼ばれる事があった。今では情報屋や依頼の仲介屋を主に行動している。以前はヒカ主体の戦闘スタイルだったが、ヒカの負担が増えて以来、武器を主体にしている。タナは戦闘の際戦闘用マッスルスーツを着、銃火器を用いる。特に鎌が付いた12ゲージショットガン、サイス・ショットが彼女の主武装でトレードマークでもある。使用する弾薬はタズと共通しているので、連携が取り易い。
過去瀕死状態に陥ったティアナを蘇生中に体の負荷を無視しヒカを使用し続けた結果、体にガタが来てしまい、以来ヒカ使用の負担が増えた。タズとは長い付き合いで、二人共仲が良い。ティアナとは親友として接しているが、どちらかというと姉妹の方が近い。タナとティアナのセットで周りから「ローズ姉妹」と呼ばれる事がある。タナはよく煙草を吸っているが、健康にうるさいティアナの前では隠している。


 -San Tiana Rose
  -12/09生まれ。
サン・ティアナ・ローズ。女性。武装サンタ、ヒカのアウタレスである。ティアナと呼ばれる事が多い。年は18歳。アウタレス評価は危険度:0、脅威度:5、濃度:94%。世界で最強のアウタレスの一人に挙げられている。普段は天然であったりと気の抜けた性格なのだが、重要な事に関しては勘が鋭い面もある。人、特に子供の窮地を察知するのが得意。彼女はよく一人旅に出掛けては行く先々で困った人を助けており、平和的解決を望まない悪者を懲らしめている。ティアナの着る服はヒカ繊維で作られた特注品であり、本人が暴れてもそれに耐えるどころか元の形に戻ろうとする形状記憶まで備えている。彼女は目立たないよう普段はサンタのニット帽とポンチョを着ているが、彼女は本気になるとこれ等を毎回吹き飛ばしている。
どんな権力がある敵であろうとも自慢の武術、ヒカと勇気で相手を倒し、いつしかその名は闇組織に広まっていった。ティアナの活動のおかげで大損害を受けた複数の組織と国はある日結託し、彼女を始末する為に非合法の戦闘部隊を結成した。彼等は子供を囮にしティアナを待ち伏せ、彼女を一時追い詰めたが覚醒したティアナに返り討ちにされ敗走した。仕舞いには駆け付けたティアナの協力者達により組織は崩壊した。この出来事によりティアナの名は世界中の政府機関に知れ渡り、彼女に国際同盟の監視が付くようになった。彼女を排除したい組織は多いが、ティアナには強力な支援者もいる為迂闊に手を出そうとするものはいない。一部の国は彼女を歓迎したり、入国拒否したり、彼女を人の形をした災害として見なしている国もある。
ティアナは元々孤児院の子供であり他の子供達と一緒に武装集団にさらわれ、道中一団はゲカアウタレスに遭遇した。武装集団はアウタレスに歯が立たず、皆はその場から逃げ出した。ティアナは子供達を誘導しているところに現れたタナに助けられた。子供達は非難できたがティアナはアウタレスに襲われ、瀕死に陥った。タナはアウタレスの処理後ティアナのところに駆け付け、自身に後遺症が残る程の量のヒカの力で蘇生を試みたが、事態は変わらなかった。心身共に疲れ果てたタナに新たなアウタレスが襲い掛かってきたが、ヒカに目覚めたティアナに救われた。以降ティアナはタナの下でヒカを操る修行に励む。

*平時

*戦闘時

 -Peri Hope
  -05/16生まれ。
ペリ・ホペ。女性。5歳。ラケンナ・ホペの娘。好奇心旺盛で勉強熱心。よく父の仕事に同行し、たまに彼の手伝いをする事もある。


 -Rakenna Hope
  -11/11生まれ。
ラケンナ・ホペ。男性。48歳。ペリ・ホペの父。ゲカ燃料研究者。増え続けるアウタレスに対して多くの村人がゲカプラントが問題だと指摘する中、そうではないと考えていたラケンナは別の要因があるとみて独自に調査を進めている。


 -Huoli Lamp
  -08/21生まれ。
ヒュオリ・ランプ。男性。小型人間。43歳。ムスタ・プキン村警察署の警部。優れたパワードアーマー乗り。警察仕様のフェンラ国産300kg級軽量パワードアーマーXLF18、エクスラフ18を駆る。


 -Suffel Forke
  -07/16生まれ。
スフェル・フォルケ。男性。34歳。以前からゲカプラントを売り込んでいる営業マン。
ムスタ・プキン村のゲカプラント建設計画を支えてきた。しかし次第に増えるアウタレス目撃例によりゲカに対する悪い評判に頭を悩ませている。


 -Rokkeus Lapsi
  -05/18生まれ。
ロッケウス・ラプスィ。男性。5歳。ペリ・ホペの同級生。性格は大人しくペリと仲が良いが、よくペリの無茶に振り回されている。


 -Viha Iimiset
  -02/09生まれ。
ヴィハ・イイミセット。男性。22歳。フェンラ国陸軍北部方面防衛管区所属の少尉。小隊長を勤める。


 -Arkuus Vahaous
  -01/18生まれ。
アルクース・ヴァハオース。女性。25歳。フェンラ国出身。元フェンラ国陸軍歩兵の賞金稼ぎ。マッスルスーツを使用する。主装備は軍用マッスルスーツ(コンバットスーツ)、ソードライフル。


 -Suuri Fingot
  -09/22生まれ。
スーリ・フィンゴット。サイボーグの男性。25歳。フェンラ国出身。元フェンラ国陸軍対戦車兵の賞金稼ぎ。主装備はスピアロケット、アサルトライフル。


 -Yukusan
  -ユクサン。男。重装備したパワードアーマーを駆る賞金稼ぎ。グルマ国産500kg級重量パワードアーマーLHG02、レホガー2A4のカスタム機を使用している。


-setting-設定

-race(種族)

 -Outer
  -アウター。この世界とは別の存在。ソトの者達。人の姿をしているが、人と次元が違う。かつては人との交流が多かったが、現代では非常に少ない。元々全てのアウターが光に属していたが一部は影の者となった。人に手を下す際は主にアウタレスやアウターの力を間接的に行い、直接手を下す事は殆ど無い。何故なら人の持つ力はアウターに何の意味も持たないからである。特徴としては表情が少なく、地上の物理現象と干渉しない事が多い。
  -of Light(Hika)
   -光に属する者達。光の使者。ヒカの者達。元々光と共に人を見守っていたが虚栄心に満ち始めた人に拒まれてからは多くが人に背を向けた。極僅かだが人を陥れようとする影の者達から人を見守っている者もいる。
  -of Shadow(Geka)
   -影、ゲカの者達。元々は光の使者であったが、光より優れた存在になろうと光を嫉み、反逆した。しかし光には敵わない為、代わりに光が大切に思う「人」を陥れる行動に出る。ヒカの者達同様極僅かに人に友好的な者もいる。
  -Outer Material
   -アウターマテリアルと呼ばれるアウターの力、物質。ゲカの者達が地上に宿した「ゲカ」、ヒカの者達が地上に宿した「ヒカ」の二種類が存在する。これらアウターマテリアルはこの世の物では無く、時に物理法則を超越する現象を引き起こす。ヒカやゲカについて分かっている事は、粒子に様々な特性を有し他の物質と混合するとその物質の性質を驚異的に高める事が出来る事、人の意志や感情に反応する事、そして生き物に接触するとその生き物を侵し、何等かの突然変異を引き起こす事である。時折アウターマテリアルそのものから生物が誕生する事もある。又アウターにより突然変異した存在を「アウタレス」と呼ぶ。アウターマテリアルは基本生物にとって毒である為、接触し続けると大抵は死に至る。アウターマテリアルとの混合材は制御不能に陥る危険性があるものの、個々の性能は恐ろしく高い。例を挙げると、物質と物質の接合を強化する性質を持ったアウターマテリアルを用いると、その物質の強度は上がり、高エネルギー反応の性質を持ったアウターマテリアルと爆発物を混合すると、爆発物の威力が上がる。製造に成功すれば桁違いの性能を発揮する反面、慎重に取り扱わないと暴走し非常に危険であり、又個体差に因る性能の違いが激しい為量産には全く向かない。アウターマテリアルの性能や影響力は濃度に比例する。ヒカは何等かに反応すると白く発光し、ゲカは黒く発光する。
   -Hika
    -ヒカと呼ばれるアウターマテリアル。ゲカの驚異に歎く人を見、憐れんだヒカの者達が地に宿したと言われている。ゲカや強い思いを持った人に反応し、量が同等であればゲカを打ち負かす力を持つが、ゲカに比べ数が圧倒的に少ない。
   -Geka
    -ゲカと呼ばれるアウターマテリアル。ヒカに敵わないもののヒカを苦しめる為、「人」を陥れる事を考えたゲカの者達が地に宿したと言われている。ヒカや強い思いを持った人に反応し、量が同等であれば性能はヒカに劣るものの、数が多い為容易に集める事が出来る。但し毒性や生物に与える悪影響はヒカよりも強い。
  -Outerless
   -アウタレス。ソトの力に憑かれた存在、生物。ヒカやゲカに何らかの方法で接触、もしくは体に取り込む事でそれらを宿し、突然変異や影響を受けたもの。ありとあらゆる生物からアウタレス化するが、人型が最も高い能力を秘める。人型が特別な理由は「人」だけが自我や強い意志を持つからだと言われている。しかしアウタレス化した殆どの者達はその力に呑まれ自我を失う為、アウタレス化しても自我を保つ事例は非常に少ない。
   -Human type
    -人型アウタレス。高い能力を持ち、人の形をしたアウタレスを指す。人の一部から派生するものと人そのものがアウタレス化するものがあるが後者の場合、自我が残る可能性があり、大きな脅威になりうる。
   -Machine type
    -機械型アウタレス。機械を取り込んだアウタレスを指す。アウタレスと機械が融合する事は殆ど無いが、稀に、もしくは故意に機械と融合したアウタレスが生まれる事がある。

   -Vital Spanner(Vinner)
    -バイタルスパナー。バイナーと呼ばれている。アウターの力を宿す者。アウタレスと同じくヒカ又はゲカの力を持つが、アウタレス特有の暴走や制御不能状態に陥るリスクは確認されていない。何故ならバイナーは本人の意志の有無に関係無くアウターと契約し、本人の寿命の分だけ力を発動出来るからである。使用出来る能力は多岐にわたり、世界に対する影響力が高い程消費する寿命が増える。

   -Small Human
    -小型人間。身長は人間の約10分の1の大きさしかない。但し身体能力は高く、それ以外の特徴は他の人間と何も変わらない。ヒか又はゲカの影響でこの様な種族が生まれたが、人間と同様アウターマテリアルは彼らにとっても毒である。体の大きさを活かし精密作業の現場で威力を発揮する。

  -Outerless Evaluation(アウタレス評価)
   -アウタレスの特徴や能力を把握する為に用いられる基準。数値で表す事でどの様に対応すべきか迅速に判断する事ができる。対象のアウタレスを評価する際は専門の調査員が行うのが一般的である。しかしこの作業は危険が付き纏い、更に迅速かつ的確にこなさなければならない為、経験豊富な調査員は特殊な訓練、装備を得ている。国によってはこの評価基準がアウタレス以外でも適用されている。
   -Danger Level(危険度)
    -アウタレスの危険度を示す指数。例え戦闘力が無くとも数値が高ければ高い程周囲に危害を加える可能性が上がる為、直ちに対処しなければならない。
    -0.Low Danger(危険度低)
    -1.General Handle(一般処理)
    -2.Government_Handle(行政処理)
    -3.Specialist_Handle(専門家処理)
    -4.Police_Handle(警察処理)
    -5.Military_Handle(軍事処理)
   -Threat Level(脅威度)
    -アウタレスの脅威度を示す指数。あくまでアウタレスの戦闘力や潜在能力を評価する為、高い数値を記録しても攻撃性が無ければ危険視される訳ではない。
    -0.Low Threat(脅威度低)
    -1.Animal Class(動物級)
    -2.Solider Class(兵士級)
    -3.Squad Class(分隊級)
     -歩兵約8~14名相当。
    -4.Platoon Class(小隊級)
     -歩兵約26~64名、分隊約2~4個、車両約3~7両、航空機約3~6機相当。
    -5.Squadron Class(中隊級)
     -歩兵約80~250名、砲約2~16門、航空機約12~24機、小隊約3~6個相当。
    -6.Battalion Class(大隊級)
     -歩兵約300~1500名、中隊約2~7個相当。
   -Density Level(濃度)
    -アウターマテリアルに侵された物体の濃度を示す指数。侵された肉体だけでなく、加工された資材に接触すると侵された肉体と似たような症状や現象が起きる可能性が高い。
    -0.~0.09%(影響無し)
    -1.0.1~5.0%(健康被害)
    -2.5.1~10.0%(身体能力向上)
    -3.10.1~20.0%(肉体的変異)
    -4.20.1~50.0%(超能力発現)
    -5.50.1~80.0%(肉体侵食)
    -6.80.1~100.0%(人格障害)
    -7.100.1%~(一体化)

-geography(地理)

 -International Union(IU)
  -国際同盟。各国の共生、発展の協力に加盟して集まった国際組織。
  -aircraft
   -NTH90
    -重量:6.4t
複数の国が開発に関わり、陸、海軍用があり、多国で多用されている高性能な国際同盟産軍事汎用ヘリ。


 -Fenla(Fen)
  -フェンラ国。北側に位置し、他国に囲まれ、寒冷な気候を国土の大半が占めている先進国。
  -Musta Pukin
   -ムスタ・プキン村。
フェンラ国の北側にある村。武装サンタの村として名が知れている。観光以外にも商売が盛んになり、訪れる人が増加した。村の近くで危険なアウタレスの出没や犯罪が度々起きる為治安は良くない。しかし村の警察以外にも武装サンタが治安維持に勤めており、住民の平穏は保たれている。
西南西約3kmに空港、南南西約4kmに観光施設。
  -Armed Santa
   -武装サンタ。ムスタ・プキン村で発祥した文字通り武装したサンタの事である。彼らは村の治安維持に務め、自警団の様な役割を持つ。村の至る所にいるサンタと同様、観光業も兼ねている武装サンタは多い。
  -military(軍)
   -army(陸軍)
    -province(行政区画:州、省、国、県)
     -southern,western,eastern,northern(北部方面防衛管区)

*フェンラ国陸軍兵士。

  -weapon
   -LAH39
    -フェンラ国産セミオート式ヘビーアンチマテリアルライフル。
  -automobile(車両)
   -XAF18
    -重量:13.5t
単純構造を持ち、多国に多用され水上移動可能なフェンラ国産6輪式装甲兵員輸送車。


  -Powered Armor
   -XLF18 eXLaF18
    -種別:300kg Class Light Powered Armor(LPA) 重量:337kg 防御力:<7.62mm
通称エクスラフ18。XAF18の技術を流用し単純構造を持ち、多国に多用され、追加装備で水上移動可能なフェンラ国産300kg級軽量パワードアーマー。


*フェンラ国陸軍仕様。

*フェンラ国警察仕様。

 -Grma(Grm)
  -グルマ
  -weapon
   -AGG36
    -シンプルな構造で軽く耐久性と信頼性が有るグルマ国産アンダーバレルグレネードランチャー。
   -MMG16
    -グリップ前にマガジンを持ち、長年各国で使用されているグルマ国産ピストル。
   -LPG08
    -独特な機構を持ち、専用弾が長年各国で使用されているグルマ国産ピストル。
   -WPP29
    -高い完成度、影響力を持ちコンパクトなグルマ国産ピストル。
   -WPG38
    -ダブルアクション機構を持ち、高性能で長年各国で使用されているグルマ国産ピストル。
   -USG93
    -樹脂を使用し派生や機能が多く、各国で使用されているグルマ国産ピストル。
   -WPG99
    -樹脂を使用し機能が多いグルマ国産ピストル。
   -MPG18
    -設計の基礎を確立し各国への影響力が高いグルマ国産サブマシンガン。
   -MPG40
    -プラスチックの使用や生産性、低コストを考慮し各国への影響力が高いグルマ国産サブマシンガン。
   -UMG90
    -プラスチックを多用した高威力なグルマ国産サブマシンガン。
   -MPG07
    -小型で隠匿性が高く、PDWに分類されるグルマ国産サブマシンガン。
   -HKG33
    -複雑な機関部で反動は少なく、バトルライフルやサブマシンガンのバリエーションを持つグルマ国産アサルトライフル。
   -GRG36
    -プラスチックを多用したグルマ国産アサルトライフル。
   -WAG20
    -重く高価だが高性能なブルパップ式グルマ国産セミオート式スナイパーライフル。
   -MGG42
    -容易なバレル交換の為にバレルジャケットにハッチが有り、長年各国で使用されているグルマ国産マシンガン。
   -DSG50
    -スペアマガジンを本体に保持可能なグルマ国産ブルパップ式アンチマテリアルライフル。
  -automobile(車両)
   -LTG02 type:A4, A6, A7
    -重量:55.2~t
型:A4、A6、A7。頑丈で高い発展性を持ち、多国で多用されているグルマ国産第3世代主力戦車。


  -Powered Armor
   -LHG02 LeHoGar2 type:A4, A6, A7
    -種別:500kg Class Heavy Powered Armor(HPA) 重量:552~kg 防御力:<20mm
通称レホガー2。型:A4、A6、A7。LTG02の技術を流用し頑丈で高い発展性を持ち、多国で多用されているグルマ国産500kg級重量パワードアーマー。

*A4型。

*A6型。

*A7型。

-technology(技術)

 -building(建築物)
  -Very Large Floating Structure(VLFS)
   -超大型浮体式構造物。Artificial Island(人工島)、Floating City(浮体都市)、巨大人工浮島、メガフロートとも呼ばれる。

 -fuel(燃料)
  -Geka Compressed Fuel
   -ゲカ圧縮燃料。物体を圧縮する性質を持ったゲカを利用し、相性の良い燃料を圧縮し小型化する技術。燃料の設置場所を小さく事が出来るが扱いに注意しないと大変危険であり、又変換機が無いとそのままでは使えず、コストも高い。主に大きさに制限のある小型機械に使用される。
  -Geka Fuel Cell
   -ゲカ燃料電池。電気特性の高いゲカの膨大なエネルギーを電気に変える為の技術。ゲカはそのまま使用するには大変危険である為、微量のゲカと伝導体を含んだ結合剤等を化学的に結合させて燃料を生成する。専用の装置を使う事により電力を取り出す事が可能になる。ゲカは危険である為設備をしっかり整えるか燃料内のゲカ配合量を少なくする事で安全性を確保する事ができる。ゲカの代用としてヒカを使用した方が安全で高い電力を期待できるが、ヒカは量が少なく高コストである為実用的ではない。

 -engine(原動機)
  -Turbo Ion Engine
   -ターボイオンエンジン。イオン流量を増やし推力を大幅に上げた新型イオンエンジン。高コストであり大型化が難しい事から構造上小型機械に向いている。
  -Neo Ion Engine
   -ネオイオンエンジン。ターボイオンエンジンのイオン放射機の応答速度を上げたイオンエンジン。ターボに比べ最大推力は劣るが推力操作の応答が速い。その性能故にフレームや制御システムへの負担も大きい。

 -weapon(武器)
  -Hika, Geka Ammo
   -ヒカ、ゲカ弾薬。ヒカやゲカを使用した弾薬。種類は様々で、徹甲弾、焼夷弾、榴弾等があり、又火薬にもヒカやゲカが使用されているものもある。どれも絶大な効果を期待できるがそれに耐える武器が少ない、製造が難しい、性能がまばら、用意できる個数も少なく費用も掛かる為量産には向かない。
  -Close Quarter Weapon Equipped Fire Arm(QEFA)
   -近接武器搭載型銃火器(近接搭載銃)

 -automobile(車両)
  -Multi-Legged Vehicle(MLV)
   -多脚車両。装備された脚により、従来の車両が決して通れないような地形を歩行する事ができる。脚を接地安定用のアウトリガーとしての利用も可。タイヤや無限軌道を備えた車種は従来の車両の様に走行する事もできる。脚を使用しない時は折り畳む車種もある。多脚システムは重くて嵩張り、通常車両より機動力は劣る。脚の数は基本4本だが、3本等の種類もある。

*多脚装甲車起立シークエンス。上が起立、下が脚を折り畳んだ状態。

 -Active Machine(AM)
  -アクティブマシン。ロボット工学や人工知能等の最先端技術を多く用いた能動的機械。
  -Active Arms(AA)
   -アクティブアームズ。武装したアクティブマシン。

 -Powered Suit(PS)
  -パワードスーツ。人が着る事で人間本来の能力を拡張する強化服。サイボーグ化していなくてもそれに近い能力を得る事ができるが身体的負担を強いられる可能性がある。
  -Artificial Muscle Suit(Muscle Suit)
   -マッスルスーツ。人工筋肉で覆われた最も需要の高いパワードスーツ。出力は勿論、機動力が高く防御力も申し分ない。コストは高めだが性能故に広く使用されている。
   -防御力:<4.6mm。ピストル弾等は防げるが、小口径高速弾は防げない。
  -Gel Suit
   -ゲルスーツ。ゲル状の性質を持ち、耐衝撃性能の高いパワードスーツ。装着者の衝撃を和らげる事に特化している為、パイロットスーツとして使用される事が多いが防御力は低い。
   -防御力:無いに等しい。

 -Powered Armor(PA)
  -パワードアーマー。主にパワードスーツ着用を前提に搭乗する人型強化装甲。マスタースレイブ等のマンマシンインターフェースを備え、人体の骨格に連動する構造をしている。使用が絶対では無いがパワードスーツを用いる事でパイロットに伝わる外部からの衝撃を緩和しパワードアーマーとの一体化を促進する。制御系を調整する事で障害者や小型人間でも問題なく使用できる。サイボーグ、制工人体使用者も搭乗する事は可能だが制御の負担が増える為効率はあまり良くはない。
パワードアーマーは装甲が厚くなると稼動範囲が狭くなり重量も増えるが、稼動範囲を優先すると関節部のコストが膨らんでいく。理由は関節の一部で使われる蛇腹式装甲が高コストな為である。狭い稼動範囲を補う為に補助腕等を備える事がある。パワードアーマーの多くは太い脚部が干渉してしまう為足を完全に閉じる事はできない。因って歩行する際はがに股になる瞬間があり、一部のパイロットはがに股になるケースがある。こういった事情もあり、パワードアーマーのパイロットの体は以前より柔らかくなる事が多い。パイロットに要する体格はパワードアーマーによってまちまちだが、多く流通しているフリーサイズ型はパイロットの体格に合わせて関節が移動し身長180~140cmに対応している。又使用者の体の一部が欠損している場合、その部位に空洞が生まれる為、その部位の稼動範囲の制限は無くなる。本体の一部分が露出、下半身だけのモデル等パワードアーマーの種類は様々である。
パイロットの操縦技術、反応速度、身体能力、体格や体の柔軟性を数値化した適正値を調べ、パワードアーマーに設定する事で効率良くパワードアーマーを操縦する事ができる。

  -100kg Class Ultra Light Powered Armor(ULPA)
   -100kg(~199kg:総重量)級極軽量機。パワードアーマーの中でも最軽量の為露出がありフレームのみで形成されていて搭乗者の防御性能は極めて低い。軍用では潜入、落下傘部隊等で使用されている。
   -防御力:<12.7mm(frame)
  -200kg Class Very Light Powered Armor(VLPA)
   -200kg級超軽量機。全体的に細く100kg級とは違い全体が防護されており重量が軽い為飛行装置の実用性が高い。軍用では航空支援や制圧任務等に使用されている。
   -防御力:<12.7mm(frame),<7.62mm
  -300kg Class Light Powered Armor(LPA)
   -300kg級軽量機。外見は400kg級より若干小柄でスカートや肩アーマー等の追加装甲が無い。
   -防御力:<12.7mm
  -400kg Class Standard Weight Powered Armor(SWPA)
   -400kg級標準重量機。スカートや肩アーマー等の追加装甲を持ちジェネレーター出力も申し分無くバランスが取れた万能クラス。
   -防御力:<20mm
  -500kg Class Heavy Powered Armor(HPA)
   -500kg級重量機。全体的に太くジェネレーターも大型で400kg級より下半身が大型化されたクラス。
   -防御力:<20mm
  -600kg Class Very Heavy Armor(VHPA)
   -600kg級超重量機。500kg級より上半身も大型化されたクラス。防御力、ジェネレーター出力や有効積載量が高く機動力もある為軍用では主力として用いられる事が多い。
   -防御力:<30mm
  -700kg Class Ultra Heavy Powered Armor(UHPA)
   -700kg級極重量機。肩パーツが頭を覆っている。機体が大きくバランスの確保の為補助脚を備える事が多い。動きが鈍いがその分防御力、ジェネレーター出力や有効積載量が最高レベルに達する。
   -防御力:<30mm

*左上から人間(180cm、マッスルスーツ着用)、100kg級~。左下から400kg級~。最も濃い色が蛇腹式装甲。最も薄い色が共通部品。

*フリーサイズのパワードアーマーは搭乗者の体格に合わせて関節を移動する。(左右のパワードアーマーは同機種である。マッスルスーツを着た左の搭乗者は180cm。右は140cm。)

*ハッチ開閉シークエンス。(内部にマッスルスーツを着用した搭乗者)

*補助腕展開シークエンス。

  -Additional Unit
   -追加装置。パワードアーマーに機能を追加する為に用いられる。規格が合えばパワードアーマー以外でも使用可能。
   -Roller Unit
    -車輪装置。主に脚部に取り付けられ、使用する事で地上での行動範囲が広がる。駆動系の有無や車輪の数等種類は様々。

 -sensor(感知装置、センサー)
  -Outer Sensor(Hika、Geka)
   -アウターセンサー。周囲のアウターの力(ヒカ、ゲカ)を感知する装置。装置の素子にもヒカやゲカが使われ、一般には両方セットされている。アウターの力は他のアウターの力を引き寄せ合うか反発し合うので、その力を電気信号に変換する事で周囲のアウターの力の状態を知る事が出来る。
   -ヒカがある場合:ヒカ素子が正の反応を示し、ゲカは負を示す(ゲカがある場合は逆)
   -距離が近い場合:信号の更新速度が上がる。
   -量が多い場合:波形の振幅が上がる。
   -濃度が高い場合:周波数が上がる。
   -不安定な場合:波形が変化していく。

  -Active Discrimination Assault Security
   -自動識別強襲警備。自動で脅威の有無を識別し、危険と見なされるものを強襲、無力化する警備システム。測定範囲内の脅威となりえるもの全てを追跡し、危険かどうか、攻撃対象にするかを判別する。攻撃命令を人間が行うものと優秀なコンピュータに任せるタイプがある。攻撃方法を共焦点レーザーにする事で、人込みであっても他人を傷つける事なく目標を攻撃できる。武装が許された近代都市に広く取り付けられている。

  -Fire Line Analysis
   -射線解析。様々な火器の射線を解析する技術。解析方法は画像、熱源、3次元レーダー等を用いる。射線を解析する事に因って火器を持つ本体の目標や行動パターン、未来予測まで知る事が可能になる。主に防犯や戦闘で使用される。

 -Cybernetic Organism(Cyborg)
  -制御型人工有機体(制工体)。制御工学や電子工学等の最先端技術を用いて人工的に製造した有機体組織。
  -Cybernetic Human(Cyman)
   -制御型人工人体(制工人体)。サイボーグ技術を用いて製造された人体。拒絶反応等の問題がなければ人間の身体機能の一部、又は全てを取り換える事が出来る。治療、又は身体機能拡張の為に用いられる。人間にとって害のある環境でも問題なく、体中を自由に改造できる等メリットがある反面、拒絶反応、電子攻撃や部品の磨耗等人間とは違ったリスクに注意しなければならない。
  -Cybernetic Brain(Cybrain,Cyber Brain)
   -制御型人工頭脳(制工脳)。サイボーグ技術を用いて製造された頭脳。電脳ともいう。人体の頭脳を制工脳に取り換える際、本人の脳幹はそのまま残る。制工脳は電子的に構成されており、コンピューターと同じ様に通信網へのアクセスや情報の入出力を行う事が出来る。しかしその分記録領域を定期的に検査しないと機械的不具合や悪性ソフト等による欠陥を招く恐れがある。治療、又は身体機能拡張の為に用いられる。
   -External Simplified Cybernetic Brain(External Cybrain)
    -外付け簡略式制御型人工頭脳(外付け制工脳)。サイボーグ技術を用いて製造された外付け情報処理端末。制工脳とは違い脳を取り替えるのではなく、生きた脳、又は制工脳の処理能力向上の為追加の情報処理端末を後付けする技術。生きた脳はそのままに、脳又は制工脳と外付け端末を繋ぐ中継器を体に移植し異常がなければ使用可能となる。接触、あるいは非接触で外付け端末と通信し、脳からの信号だけで端末を操作できるので応答が早く、手や音声認識等の操作を必要としない。脳本体に対する影響や負担が小さい為電子攻撃の影響を受けにくく、それを逆手に外付け制工脳を脳や制工脳の身代わりとして活用する事もできる。取替えも楽で利便性は高いが処理能力は制工脳に劣る。身体、政治、宗教、金銭面等様々な理由から制工脳手術を受けられない者でも手軽に外付け制工脳手術を受ける事ができる為、人気が高い。多くの利用者は端末の中継器の端子を耳に移植している。端子が耳にある事で端末が内蔵されたヘッドホン、眼鏡、ピアス等を使う事ができ、ファッション性を考慮できる。

 -Cybernetic Space(Cyber-Space)
  -サイバースペース。電脳空間、仮想空間とも呼ばれる。コンピュータネットワーク上にある膨大な情報により構築され、人の意識を自由に行き来させる事ができる仮想的空間。

2014年11月9日日曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~最終話~武装サンタと聖誕祭~

-最終話-

   聖誕祭の日を迎えて数分。深夜のムスタ・プキン村の通りには人が多く集まっていたものの、皆恐れと不安でざわめいていた。例年通りなら中央通りが人で溢れお祭り騒ぎになっているところだが、多くは村の東で起こっている戦闘の行く末を見守っていた。村中の華やかなイルミネーションが、地響きで小さく煌いていた。

-最終話~武装サンタと聖誕祭~

   本性を現したクマ型ゲカアウタレスは強靭な肉体で駆け回って討伐隊を翻弄し、巨大な爪で軍用車両をぶっ飛ばし、口から放たれるゲカの波は榴弾並みの破壊力を持っていた。

討伐隊と軍は同士討ちに気を使いながら高い火力と機動力を併せ持つクマ型と戦闘を強いられた為、思うように戦えなかった。タズは前線でアックスバズーカの打撃と砲撃を駆使し、クマ型と戦闘を繰り広げる。ゲカの波を真っ先に危険視したヴィハ少尉は周囲に指示を送る。

「軽火器を持つ者は奴の口を狙え!あの黒い光線を封じろ!重火器は足を狙え!」

皆ヴィハ少尉の指示に従い、軽火器持ちはクマ型の顔を撃ち、重火器持ちは足腰を撃った。少尉の思惑通り顔面を狙われたクマ型はゲカの波をうまく放つ事ができず、又足腰も狙われ機動力も押さえ込まれた。自分の思うように戦えないクマ型は苛立ちを覚える。

「危機的状況でしか団結せず…共通の敵を作らなければ友好を築けない醜く弱い人類よ…この程度でゲカを倒せると思うなよ…」

クマ型は全身に黒いオーラを纏い、自身の肉体を強化し暴れまわった。それでも討伐隊と軍はなんとか攻撃を続けた。犠牲が増える前に決着をつけたいタズはタナに話し掛ける。

「ゲカを使う。少し時間を稼いでくれないか?」

タナは心配そうに彼を見つめた。

「力に呑まれないように気をつけて。」

「ああ。分かっている。」

タナはサイスショットを展開させ、力を込めると身に白いオーラが纏った。彼女はクマ型へ向かっていき、ショットサイスを巧みに操りながらクマ型に波状攻撃を仕掛けた。クマ型はタナの攻撃に耐えながらも、身動き一つ取れなかった。彼は何かに反応し、自身の腕と腕の隙間を覗くと、遠くでタズが黒いオーラに包まれているのが見えた。タズは体中のゲカを制御する事に集中し、彼を纏う黒いオーラが左腕に集まる。重い攻撃を続けるタナを無理やり押し退け、クマ型はタズに狙いを絞った。

「しまった!」

タナは体を反転させ、クマ型を追う。迫るクマ型を見据え、タズはショットリボルバーを構え、それを見たタナは足を止めた。

「ゲカで私に挑もうというのか。ゲカであるこの私に!」

クマ型はタズとの距離を縮め、タズは銃の撃鉄を起こす。

「ゲカもヒカも唯の力だ。使用するものの可能性によって成果が決まる。恐慌しか生まないお前は所詮その程度だ。」

「ゲカを愚弄した罪、ここで裁いてやる!」

クマ型は右の腕を振り下ろし、タズはショットリボルバーで地面を撃ち、雪煙を作る。タズの姿は消え、クマ型の振り下ろした腕に手応えはなかった。タズは宙にいたが煙で見えない。しかしクマ型は気配でタズの位置を掴み、左の爪で彼を突く。空中でタズは右腕のクローでクマ型の爪を受け流し、そのままクマ型の顔面に突っ込む。タズは左腕のクローに溜め込んでいたゲカを一気に解放し、上から振り下ろした。

「う゛おぉおおおおおーーー!!」

衝撃と共に黒い閃光が走り、タズは空中で回転し、クマ型の額からゲカが吹き出た。

「う゛う゛う゛・・・」

損傷に耐えるクマ型の目の前に、空中でショットリボルバーを構えたタズがいた。

「そんなに力が恋しいならくれてやる。」

クマ型の額の傷口を狙った二つの銃口から白い閃光が放たれた。2発のヒカ特殊弾だった。

「ぐぅお゛お゛お゛お゛お゛…」

勝負がついた。乱れる黒いオーラを放ち、クマ型はもがきながら小さく人の姿に戻っていく。タズの黒いオーラは消え、彼は一息ついた。

「終わったの?」

オオカミ型の応急処置を終えたティアナがタナのところに戻ってきた。随分な量のヒカを消費したにも拘わらず、ティアナは元気そうだ。

「うん。お疲れ様。ティアナの暴れる機会なかったわね。オオカミ型はどう?」

「自分で立てるようになったよ!元気そうでほんとに良かった良かった。」

クマ型はスフェルの姿に戻ったが、黒いオーラは彼の周りを揺らいでいた。痛む頭をお抱え、彼はゆっくりと歩き出す。

「これで勝ったと思うなよ…人がいる限り、我々は何度でも現れる…人はゲカの脅威に震え続けるのだ…ッハハハハハ…」

スフェルは小さく笑い、討伐隊が彼を包囲した。タズはショットリボルバーの弾倉を確認しながらスフェルを向く。

「自分がいかに無力かを理解した時、人は始めて真の力を知る事ができる…お前は一からやり直すんだな…ティアナ!とどめを刺せ。」

ティアナは前に出て、構えた。

「分かった…スゥ…ハァ~…」

ティアナは呼吸を整え、広げた左手を突き出し、丸いヒカの壁を作った。そして力を込め、右の拳を腰から一気にヒカの壁にぶつける。

「っはぁあああああーーー!!」

ヒカの壁は衝撃によりヒカの波となり、一直線に空気を切り裂いた。ヒカはものすごい勢いでスフィルに向かっていき、彼を直撃した。

「ぐぅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」

スフィルはヒカに包まれ、弱弱しい悲鳴を上げながら彼の体からみるみるとゲカが噴き出した。

「や゛ぁめ゛ぇぇ…ろ゛ぉおお…」

ゲカはヒカの中に消えていき、やがてスフィルの体からゲカが完全に消滅した。それを確認したティアナはヒカの波を消し、腕を下げる。スフィルは放心状態になり、ずっと立ったまま一点を見つめていた。スフィルからゲカの反応が消失した事を確認したヒュオリ警部は、部下と共に彼の後ろに回り、彼の腕に手錠をかけた。討伐隊は歓声を上げ、タズ、タナ、ティアナは安堵の表情を浮かべた。アウタレスの脅威がなくなったという一報は村中に広がり、やがて緊急警報は解除された。村の人間は閉めていた店やイルミネーションを点け、聖誕祭がついに始まった。通りは聖誕祭を喜ぶ人で溢れ、お祭り騒ぎになっていた。その頃村の東では、討伐隊と軍が撤収作業に取り掛かっていた。ヴィハ少尉はヒュオリ警部と事後処理の手続きについて話し合っていた。少尉は死んだ目をしたスフェルを前に、ヒュオリ警部に言う。

「報告書と事情聴取は後でよいとして…こいつの処遇についてだが、護送はどうするつもりだ?村の中で犯した罪状も多いだろ。そちらの要求を聞かせてくれ。」

「あ、ちょっと待ってくれ。」

ヒュオリ警部は村の警察署と連絡を取り、ヴィハ少尉に伝える。

「そいつはあんたらに預ける。近いうち人をそちらに寄越す。」

「いいのか?」

「ああ。今夜は聖誕祭だ。せっかくの日に余計なお荷物は村に要らないな。些細なクリスマスプレゼントだ。」

ヴィハ少尉の顔が和む。

「そうか。とんだプレゼントだな…こいつを連れて行け。」

下を向いたまま無表情のスフェルは兵士に軍用車両へ乗せられた。

「では、ご協力感謝します。」

ヴィハ少尉は敬礼し、その場を去ると、ヒュオリ警部が彼を呼び止める。

「あ、ヴィハ少尉…メリークリスマス。」

「メリークリスマス。ヒュオリ警部。」

少尉は振り向き、警部に挨拶すると軽く敬礼し、二人は別れた。討伐隊と軍は急ぎ足で撤収作業を終え、帰っていった。皆も聖誕祭を祝いたかったからである。こうしてムスタ・プキン村多発的ゲカアウタレス襲撃事件は幕を閉じた。

   村の外れではタズ、タナ、ティアナの三人がオオカミ型ヒカアウタレスの見送りに来ていた。ティアナはオオカミ型の前に出て、オオカミ型は顔をティアナの位置まで下ろした。

「ありがとう…またね。」

オオカミ型は目を瞑り、ティアナはオオカミ型の顔を優しく撫でた。オオカミ型は林の中に消えていき、ティアナはその後姿に手を振り続けた。彼女はタズとタナに振り返り、親指を上げ言った。

「よし、お祭りの時間だぜぇ!」

三人も聖誕祭で盛り上がる村に帰っていった。

   夜明けが近付いても尚、村の中心の活気は衰えを知らない。武装サンタも多く参加し、祭りを盛り上げる。武装サンタは観光に携わる事が多く、タズもその一人だった。彼に与えられた仕事は誘導灯を持ち、駐車場を出入りする車両の誘導だった。戦闘の疲れは残っていたものの、彼はのんびりと仕事をこなす。タズは休憩に入り、建物の屋上で通りを眺めながら煙草を吸っていた。

「その仕事似合わないわね。」

声の主はタナだった。彼女は笑みを浮かべ、タズの隣に来て柵にもたれ掛かった。

「お前が任命したんだろうが…」

タナは懐から煙草を取り出し、タズがライターの火をそっと彼女に向ける。

「そうだったかしら…ありがとう。」

「煙草の臭いでまたティアナに怒られるぞ。」

「大丈夫よ。あの子今頃子供達と一緒にぐっすりしているはずだから。」

ティアナの元に大勢の子供達が集まり、みんなで遊んだ後、そのまま一緒に眠りに就いた。

「相変わらず子供に人気だな…子供達が起きたら目の前にはクリスマスプレゼントじゃなくてサンタガールか…笑えるな。」

タズはその光景を思い浮かべて笑い、タナも笑い始める。

「まぁあの子そういうところは鋭いから、問題ないわ…あなたもサンタなんだからそろそろプレゼントの準備。」

「お前もな…」

しばらく間を置いて、タナは夜空を見上げ、タズに話しかける。

「私そろそろ結婚を考えているのだけど…」

「…おう。」

タズはぼそっと返事をした。

「あなたも考えてくれた?」

逃げ場が見つからないタズは観念し、タナに答える。

「そうだな…」

「私は真剣なんだけどなぁ…何か不満?」

タナの言葉にタズは少し動揺する。

「いや、そうじゃないんだ。ただ…」

「ただ?」

「…俺はゲカのアウタレスだぞ?」

「私はヒカのアウタレスよ。」

タナは一歩も引かなかった。

「ヒカは分かるが、ゲカはリスクが高くないか?」

「ゲカアウタレスでも子供は産めるわ。それに私ヒカアウタレスだし、逆に中和するかも。」

「あのなぁ~…」

タナがタズの言葉を遮る。

「一つ聞くけど、あなたがゲカアウタレスになった事って悲劇?」

「いや。唯なっただけだ。」

「つまりそういう事よ…私の母もヒカアウタレスになっただけ。父は関係なく母を愛し続けたわ。」

「そういうものか?」

「そんなもんよ。」

「…」

タズはしばらく沈黙し、彼なりの考えをタナに示す。

「分かった。時間をくれ。俺も避けてばかりじゃ駄目だ。ゲカと向き合わなければ…答えはその後でいいか?」

タズはタナと向き合い、タナはそっと微笑んだ。

「はい。」

ムスタ・プキン村に夜明けがやってきた。

~半年後~

   ムスタ・プキン村多発的ゲカアウタレス襲撃事件終結から約半年後、村はすっかり元の調子を取り戻していた。以来ゲカアウタレスの出没件数も例年通りまで落ち着いていた。混乱の渦中にあったゲカプラント開発計画は会議で見直され、稼働中の試作ゲカプラントは小型だが発電量が十分な事もあり、このまま運用を継続する形で合意した。ゲカアウタレスが急増するといった事態もなくなったため、住民のゲカプラントに対する注目も薄れていった。そんな中、父の跡を継ぎ、アウターマテリアルの研究者を夢見るペリは猛勉強し、学力試験を受けた。結果、元々勉強熱心だった彼女は新学期から小学4年生に飛び級する事になった。彼女はまだ6歳である。同じく6歳になった友人のロッケウスは彼女の後を追い、試験を受けたが彼女には及ばず、それでも小学2年まで飛び級が決まった。試験会場の外では様子を見にタズとタナがペリを待っていた。

「そういえばティアナは今どの辺にいるんだ?」

タズがタナにティアナの近況を聞いた。

「知らないわ。彼女は唯彼女を必要とする所へ行くだけよ。」

既にティアナは村を離れ、どこかへ旅立っていた。タナは懐から煙草を出そうとしていると、タズの肩が彼女の肩に触れた。タナが前を向くと、入り口からペリが出てくるのが見え、タナは煙草を戻す。先に試験結果を受け取ったペリがタズとタナの前で立ち止まる。二人はペリの顔を見て優しく微笑んだ。ペリの顔は満面の笑みで溢れ、彼女の笑顔は光り輝いていた。

-最終話~武装サンタと聖誕祭~ ~完~

2014年11月3日月曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第4話~燃える聖誕祭~

-第4話-

   12月後半、ムスタ・プキン村は迫る聖誕祭に向けて賑わっていた。観光客も増え、まるでゲカアウタレスの脅威が嘘のようだった。しかし実際は未だにゲカアウタレスの出没は増えているのだが、武装サンタ、警察や賞金稼ぎなどがアウタレスを未然に防ぎ、討伐していた為、住民はアウタレスの脅威に対する実感がなくなっていった。アウタレス討伐隊の増援もあったが、何よりサン・ティアナ・ローズの参戦が戦況を大きくひっくり返した。彼女は助けたペリとロッケウスを叱った後、村のあちらこちらで暴れ回り、ゲカアウタレスを次々に浄化していった。負傷者は出していないものの、彼女が暴れたせいで討伐隊の数多くの機材も被害を受けた。彼女はまさに嵐だった。そして今も尚、彼女は仲間と一緒に村の外れでバッタ型ゲカアウタレス数体と戦闘に入っていた。

「てぃやぁあああ!」

ヒカのアウタレスであるティアナの跳び蹴りは、地面を抉る破壊兵器と化す。しかしバッタ型アウタレスは事前に跳び、ティアナの蹴りを避けた。彼女が近付く度、アウタレスは彼女から距離を取る。タナはグレネードを投げティアナを援護した。それを見たティアナはある事を閃く。

「ねぇ、それ貸して!」

「いいけど使い方分かるの?あんた機械音痴だからねぇ…いい?まず安全ピンを…」

ティアナはタナの話を全く聞いておらず、グレネード片手に構えていた。

「こら!ピンをぬ…」

「せぇい!」

ティアナは安全ピンが刺さったままのグレネードを思いっきり投げた。

「あ…」

ティアナの投げたグレネードは音速を超え、衝撃波を作った。グレネードはアウタレスに命中し、あまりの衝撃でグレネードが暴発した。直撃したアウタレスは吹き飛んで気絶していた。

「よし!」

この光景を見ていたタナ、タズ、ヒュオリ警部は絶句した。タナはティアナを呼ぶ。

「あんたそんなの使わなくてもヒカが使えるでしょ。」

「あ、それもそうか。タナありがとう。」

ティアナは拳に力を入れ、白いオーラが腕に纏った。

「ふんっ!」

ティアナは拳を突き出し、ヒカの波を連射した。
アウタレスは必死に逃げ、地面に次々と穴が開いた。タナは頭を抱え、自身の言った事を後悔する。

「言わなきゃよかった…」

ティアナはバッタ型アウタレスを一体ずつ浄化し、健康なものはそのまま普通のバッタの姿に戻っていた。彼女は引き続き残りのアウタレスとの戦闘を継続した。

「またあの『ローズ姉妹』の活躍が見られるとはな…」

ヒュオリ警部はタナとティアナのコンビを見て懐かしみ、タナが照れくさそうに言う。

「よしてよ、恥ずかしい。てか殆どあの子の独擅場じゃない。私が手を出す頃には終わってるわ。」

「まぁ確かに彼女の勢いはとんでもないな。あれだけヒカを使用しても疲れ一つ見せない。アウタレス討伐隊の増援も助かったが、やはりティアナは別格だな…」

ヒュオリ警部はただただ感心していた。

「周辺やゲカの素材ごとぶっ飛ばさなけりゃありがたいんだが…これじゃ稼ぎがパーだ…」

タズはため息をついていた。

「ところで以前聞いたのだが、ティアナには国際同盟軍特殊部隊の監視が付いているのは本当なのか?」

ヒュオリ警部の問いにタズが答える。

「ああ、そうだ。今も村の外にいるだろう。彼女はよく旅に出るからしつこくつけられて迷惑らしい。」

「そこまで彼女は脅威になるのか?」

「ティアナは過去に数カ国の闇組織や軍で結成された非合法部隊に狙われた事があってな。支援者達の助けもあったが彼女はこの部隊を返り討ちにした。おかげでティアナは世界中の政府機関の目に留まったという訳さ。」

「凄いな…ティアナの監視だけで彼等は他に何もしないのか?」

「彼女は多くの闇組織を廃業に追い込み、助けた人の数は計り知れない。ティアナの行動で得する国は黙認し、彼女を恨む国は入国拒否。まぁ彼女にちょっかい出すと彼女の支援者達からも睨まれるからな。彼女とあまり関わりたくない国が大半だろう…」

「複雑だな…そういえば言い忘れていたのだが…」

「?」

「次またティアナを誘導するために子供達を囮にしてみろ。お前を牢にぶち込むからな。」

「…」

ヒュオリ警部は恍けるタズと共にローズ姉妹と合流し、残りのアウタレスを討伐した。

-第4話~燃える聖誕祭~

   依然ゲカプラントに反対する声は多いものの、村は平穏を取り戻しつつあった。そんなある日、突如村中に警報が鳴り響く。放送は住民に屋内退避を命じ、村中の人間はパニックの中皆建物の中へ逃げていった。

「何があった?」

タズは通信でタナに事態の説明を求めた。

「今入った。ゲートガードが東に約5km、未確認のヒカアウタレスを捕捉したらしいわ。こちらに向かってる。全長約20m、濃度110%。軍が追跡中みたいだけど、タズも直ぐに向かって。私も向かうわ。」

「了解。」

タズはスノーモービルに乗り、東に向かう。

「もしかしてゲカ採掘場を襲ったやつか?て事は狙いはゲカプラントか?」

「ええ、そうみたい。経路的に真っ直ぐゲカプラントに向かっているわね。姿はオオカミ型よ。」

「何でヒカアウタレスまでプラントを狙うんだ…」

「聞いてみれば?」

「会いたくねぇよ。」

   緊急警報が流れて数分後、多くの武装サンタ、警察や賞金稼ぎが村の東に集まってきた。辺りは静まり返り、そこにいた人は皆唯じっと時が来るのを待った。やがて遠方から砲撃や銃声が聞こえ、それは次第に近付いてきた。

「来るぞー!」

タズの掛け声と共に全員攻撃態勢を整える。

「まもなく射程内だ。隊を南から回りこませろ。我々の流れ弾に当たっても知らんぞ。」

ヒュオリ警部は軍と連絡を取り、軍は進路を変えた。アウタレスは未だ見えないものの、砲を装備した者は砲撃を始める。遠くで煙が昇り、その中から巨大で白く、オオカミの様な姿をしたヒカアウタレスが現れた。


「どうしてヒカのアウタレスが…」

困惑するティアナを余所に、村のアウタレス討伐隊は一斉に攻撃を開始した。

「倒す必要はない。とにかく奴を村から遠ざけましょう。」

「うん…」

落ち込むティアナをタナは説得した。無理もない。余程の事がない限りヒカのアウタレスが人を襲う事はそうそう稀だからである。アウタレスは吼え、討伐隊に向かっていった。傷付きながらも、アウタレスは討伐隊を薙ぎ払いながら前に進んでいく。その光景を目の当たりにし、討伐隊の多くはやるせない気分になっていた。




軍のヘリに続いて戦闘車両も合流したがアウタレスは討伐隊を分断し、ゲカプラント目掛けて加速する。そこへティアナが腕を左右に広げ、アウタレスの前に立ち塞がった。アウタレスは彼女の目の前で立ち止まる。

「撃つなー!皆銃を下げろ!」

ティアナに気付いたタズは攻撃中止を叫び、タナやヒュオリ警部も周りを止めた。軍は攻撃を続けようとしたが、討伐隊が前にたちはだかった。ティアナは真っ直ぐアウタレスと向き合い、語り掛ける。

「もうやめて!どうしてこんな事するの?この発電所は村のみんなの生活に役立っているんだよ?ゲカを悪い事に使おうとしているんじゃないんだよ?あなたが傷付くのを見ていられない…ねぇ、どうして?教えてよ…」

ティアナの悲痛な叫びにそこにいた全員が静かに見守る。ティアナと向き合っていたアウタレスはゲカプラントを睨み付け、再びティアナの方を向いた。そしてアウタレスは後ろを向き、来た道をゆっくり帰っていった。討伐隊は武器を下げ、軍はアウタレスの後を追おうとしたが、討伐隊に再び阻まれた。

「何故追撃しない!弱っている今がチャンスなんだぞ!」

こう話すのはフェンラ国陸軍北部方面防衛管区所属の小隊長、ヴィハ・イイミセット少尉。男性。22歳。


「あんたも見ただろう。奴に攻撃の意思はない。ゲカアウタレスとは違うんだぞ?」

タズはヴィハ少尉の前に出て、彼を落ち着かせようと説得した。

「あのアウタレスはゲカ採掘場を襲撃した。犠牲も出ている!」

「怒るのも無理はない。だが一度踏みとどまってくれ。ヒカアウタレスがむやみに人を襲うのは滅多にない事だってあんたも知っているだろう?一応俺達もアウタレスだ。あのヒカアウタレスが襲ってきた時、何か変わった事はなかったか?頼む、教えてくれ。」

ヴィハ少尉は深呼吸した後、口を開く。

「私の名はヴィハ・イイミセット少尉。もしやあなたはゲカの武装サンタ、クローズか。」

「ああ。名をサン・タズ・クローズ。タズでいい。」

「本当にゲカを体に宿しているのだな…私の無礼を許してほしい。」

「気にするな。人が襲われたんだ。で、先程の話だが、何か変わった事はなかったか?」

ヴィハ少尉は考え込む。

「変わった事か…我々があのオオカミ型と戦闘に入った時、別のヒカアウタレスが助けてくれたのだ。全長約20m前後。濃度18%の白いクマ型アウタレスだ。」

「ゲカ採掘場に何か特別な事は?」

「いや。我々も調べたが採掘されたゲカの質も採掘量も安全基準上特に問題はなかった。普通のゲカプラント開発直営のゲカ採掘場だ。」

「ゲカプラント開発直営なのか。」

「そうだ。資源調達から製品販売まで一括でやっているらしい。何か?」

タズは頭の中で何かが引っかかっていたが、それが何かは分からなかった。

「いや、なんでもない。少尉はこれからどうする?」

「とりあえずあのオオカミ型を尾行する。しばらく様子を見るつもりだ。敵対してくるなら問答無用で対抗する。」

「そうか。奴は一度ここを狙ってきたからな。また来るかもしれん。その時は少尉に連絡する。」

「感謝する。では我々もそうしよう。」

ヴィハ少尉はタズと別れ、ヒュオリ警部と防衛体制などについて語り合った。タズが仲間のところへ戻ると、ゲカプラントからスフェルが不安そうな顔つきで来ていた。

「怖かったです…助けていただきありがとうございます。」

タナはスフェルの肩をそっと叩く。

「無事で何よりね。」

「アウタレスはどうしたのですか?」

「去っていったわ。」

スフェルの顔が硬くなる。

「えぇ~…もしまた襲ってきたらどうするんですか~…」

「大丈夫よ。さ、みんな帰った帰った。」

村のアウタレス討伐隊や軍は解散し、ティアナはオオカミ型アウタレスが去っていった方角を見つめていた。

   時は経ち今は聖誕祭前夜、村にいる人間は再び起こるかもしれないアウタレスの襲撃を警戒しながら恐る恐る聖誕祭の準備を進めていた。そんな中、村の北西、タズの住処の近くで普段より多いゲカアウタレスの群れが捕捉された。タズ、タナ、ティアナを含めた村のアウタレス討伐隊がそこへ向かい、アウタレスと対峙した。時同じくしてオオカミ型のアウタレスが再びゲカプラント東に現れ、村に警報が鳴り響く。

「何だと?」

タズはヴィハ少尉から通信を受けた。

「やむをえん。これよりオオカミ型を攻撃する。」


別の討伐隊と軍が東に集結し、オオカミ型と戦闘を始めた。しばらくしてそこへ巨大なクマ型ヒカアウタレスが姿を現した。


白い巨体で大きな爪を持ったアウタレスは以前軍をオオカミ型から助けたものだった。クマ型も戦闘に参加しオオカミ型と対決した。

「これが例のクマ型か。」

クマ型を見上げながらヒュオリ警部は呟いた。その頃タズ達は未だ北西にいた。

「クソ…どうしてこんな時に…」

東の戦闘が気になって仕方がないタズ、タナ、ティアナはさっさとゲカアウタレスを処理し、急いで東に向かった。特にオオカミ型を気にかけていたティアナは不安の色を隠せなかった。三人が東の現場に着いた頃、ぼろぼろになったオオカミ型が袋叩きにあっていた。傷だらけになっていたオオカミ型は全てを無視し、唯クマ型だけを狙い攻撃していた。オオカミ型の素早い牙に対し、クマ型は腕の大きな爪の一撃で応戦する。ヒカアウタレス同士が傷つけあう。そんな光景を目の当たりにし、ティアナは膝を突いて言葉を失う。

「こういう事もあるわ…見てて辛いけど…」

タナはティアナをそっと抱き寄せた。タズはヴィハ少尉の元へ行き、状況の詳細を求める。

「状況は?」

「見ての通りだ。オオカミ型が再び村に向かっていった。やむなく我々は奴を追撃、その後クマ型が現れた。以前と同様クマ型はオオカミ型を攻撃、我々に加勢した。またクマ型に助けられる形になった。オオカミ型については残念だが諦めてくれ。人に危害を加えるなら我々の敵だ。」

「そうか…」

クマ型との戦闘の末、オオカミ型は倒れ、横たわった。クマ型はオオカミ型に近付き、腕を振り上げた。

「やめてぇえええええ!!!」

ティアナは反射的にクマ型に突っ込み、クマ型の腕を殴った。一瞬ヒカの閃きの後、ティアナはオオカミ型の横に着地する。

「あれ?」

ティアナは自身の拳に違和感を覚えた。それを見ていたタズは何かを悟る。ティアナは我に返り、人の味方になるヒカアウタレスを攻撃した事に重責を感じた。周囲にいた人間も同様、ティアナの過ちに騒然としていた。クマ型はティアナを睨みつけ、彼女の方へ歩いていく。そこへタズが駆け寄り、いきなりヒカを褒め称え始めた。

「おお、全知全能なるヒカのしもべよ。そなたに天の祝福を。今こそヒカの大いなる御業を褒め称えよう…」

その場にいた人間は唖然とし、タズが狂ったと見て取った。タナは黙ってそれを見守る。タズの声を聞いたクマ型は一度タズに振り返り、再びティアナを向いた。

「悪しきゲカを撃ち滅ぼし、汚れたものを打ち砕く。ヒカの栄光は何ものにも代えがたい…」

ヒカを賛美するタズをクマ型は無視した。そこでタズはクマ型の前で向き合い、大声を上げる。

「忌まわしきゲカはヒカには打ち勝てず、ヒカの前では敗北を得るのみである…」

タズの中に眠るゲカが疼くように黒いオーラを放った。苦しみながらも、タズは続ける。

「ゲカはヒカの許しなくては何もできず、滅びの時まで抗い、最後には膝を突いて朽ちていく…」

クマ型は身震いし、痺れを切らしタズを向き腕を振り上げた。タズは笑みをこぼし、懐からショットリボルバーを抜き、クマ型目掛けてぶっ放した。放たれた一発の弾丸は白い閃光を放ちクマ型の顔面を直撃する。

「どうだ?大好きなヒカをたっぷり味わいな。」

タズが放ったのはヒカの複合材で作られた弾丸だった。周囲は何が起きているのかを理解できず、次の瞬間、更なる衝撃が彼らを襲う。クマ型の体が一気に黒く染まったのである。

「それがお前の能力か。ヒカやゲカの濃度を自在に操れるとは…確かにゲカは元々ヒカだったらしいからな…珍しい…完全に騙されたよ。」

タズの口調が変わる。

「それとお前、ゲカプラント開発のスフェル・フォルケだろ?」

みんなが見守る中、クマ型は後ろへ下がり、黒いオーラを身に纏い人の姿になった。

「これは驚いた。どうして俺だと分かった?」

今までのか弱いスフェルとは打って変わって冷酷な表情の彼を見た周囲の人間は驚愕し、ざわめいていた。

「ラケンナ・ホペの最後の言葉。それとそのオオカミ型がヒントをくれた。」

「ちっ、もっと早く始末するべきだったな…それで?」

「ゲカプラント開発計画が発足してからアウタレスが増えたんじゃない。お前がこの村に来てからだ。ゲカアウタレスを誘き寄せていたのはお前だろう?そしてヒカアウタレスであるオオカミ型を襲った。奴の恨みを買うように…オオカミ型はゲカを狙っていたんじゃない。お前を狙っていたんだ…」

全てを見抜かれたスフェルは笑いだす。

「ハハハハハ…」

「ゲカプラント開発側に立ちゲカに対する不安を煽り、プラント襲撃で被害者ヅラか。随分と村を混乱に貶めてくれたな。」

「社会の流れに翻弄されるのが人の常だろう。フッ、何を今更。俺は道を示したに過ぎない。それにゲカを求めたのはお前達の方じゃないか。都合が悪くなると自身の過ちに目を瞑る。人とは愚かなる生き物よ…」

「お前も人だろう。」

「俺は人を超えた。人がそんなに力が欲しいのなら、力と一つになればいい。人は弱くて退屈だ。お前なら分かるだろう?」

「人をやめたお前に人を語る資格はない。」

「そうか。ゲカを持ちながらゲカの意志に背く。なんと愚かな!」
スフェルは再び黒いオーラを放ちながらクマ型に変貌する。


「いいだろう、愚かなる人類よ。この村の歴史に最高の聖誕祭を刻んでやる!」

クマ型は顎にゲカを溜め、軍用ヘリを狙いゲカの波を放つ。ヘリは緊急回避するもののゲカがテールローターをかすめ、ヘリは地面に不時着した。

「奴を打ち倒せぇー!!」

ヴィハ少尉の号令の下、軍や討伐隊はクマ型に一斉攻撃した。ヒカの力でオオカミ型の治療に当たっていたティアナは、どうすべきか迷っていたところにタナが来た。

「ティアナは治療を続けて。そいつを守るのよ。」

「うん。分かった。」

ティアナはシャキッとし、オオカミ型の治療を続けた。爆風が吹き荒れる中、タズはスノーモービルに駆け寄り、後ろのコンテナから斧が装着された無反動砲、66mmアックス・バズーカを取り出し両肩に担いだ。彼が時刻を確認すると、日付はもう変わっていた。12月25日水曜日、クリスマスは波乱の始まりを迎える。

「さぁ、楽しい聖誕祭の幕開けだ!」

-第4話~燃える聖誕祭~ ~完~

決戦の行方
聖誕祭
武装サンタの住む村

次回-最終話~武装サンタと聖誕祭~

2014年10月31日金曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第3話~子供達のヒーロー~

-第3話-

   ムスタ・プキン村より北西約15km、そこは吹雪の中だった。視界が悪く、何もない雪上を、ポンチョを着た女が寒そうに歩いていた。


名をサン・ティアナ・ローズ。18歳。

しばらく歩いていると、彼女は雪に覆われた岩の上で身動きが取れないトナカイを見つけた。足場が狭く、トナカイは今にも落ちそうだった。

「今行くから動かないでね。」

トナカイを驚かせないようにティアナはそっと語り掛け、彼女は岩を登り始めた。しかしトナカイは足を踏み外し、そのまま滑り落ちた。ティアナは咄嗟に跳び空中でトナカイを捕まえ、そのまま地面に落ちた。仰向けに大の字になったティアナがクッションとなり、彼女の上にいたトナカイは無傷だった。

「いたたた…」

びっくりしたトナカイはそのまま走り出し、別のトナカイに出くわした。トナカイの家族だろうか、それを見たティアナは横になったまま安堵の表情を浮かべる。

「良かったぁ。元気そうで。」

彼女はゆっくりと身を起こし、トナカイ達に尋ねる。

「ねぇ、君達。ここどこだか分かる?」

-第3話~子供達のヒーロー~

   コウモリ型アウタレス襲撃事件から数日、村の周囲で出没したゲカアウタレスの件数は更に増えていった。聖誕祭が迫る中、住民のゲカアウタレスに対する不安はゲカプラントに向けられていた。プラント内にあるゲカを使用した燃料に、ゲカアウタレスが引き寄せられているという推測が最も有力だったからだ。ゲカプラントに反対する意見も増え、今回も村役場で議論が交わされていた。役場の外では会議が終わるのを待つタズとタナの姿があった。やや疲れ気味のタズが言った。

「そっちはどうだ?」

「使える奴から仕事を振り分けているけど手が足りないわ…私も出撃した方がいいかしら。」

タナも疲れが溜まっている様子だ。

「お前は俺達に指示を送るのが仕事だ。」

「過保護ね…しかし参ったわ。ゲカアウタレスの出没件数がどんどん増えている。」

「住民の不満もな。聖誕祭に向けて忙しい時期に面倒なこった。」

タナは煙草に火を付ける。

「みんなが思うように、ゲカプラントで使用されるゲカを使用した燃料が原因なのかしら…」

タズもタナから煙草を貰う。

「悪い。しかしこのままだとプラントの停止どころじゃないな…どうやら終わったようだな。」

役場からぞくぞくと人が出てきた。その中にスフェルとパワードアーマーに乗ったヒュオリ警部がいた。二人はタズとタナに気付き、こちらにやってきた。タズが先に口を開く。

「どうだった?」

ヒュオリ警部がパワードアーマーから顔を出す。

「どうもこうもない。聖誕祭だの、村の安全だの、ゲカプラントの撤去だの、みんな言いたい放題だ。役員の多くはゲカプラントの即停止を訴えている。村長は判断を先送りにしたがな。住民にとってゲカを使用した燃料には悪い印象しかないようだ。」

半泣き状態のスフェルが必死に訴えかける。

「でも燃料に使用されるゲカは1%未満ですよ?燃料の大半は伝導体を含んだ結合剤なんです。ちゃんと管理すれば危険じゃないんです。こんなに優れた技術なのに止めるなんて勿体無いですよ!」

苦笑したヒュオリ警部がスフェルの肩を叩く。

「わかった、わかった。その事はみんな知っている。唯理由が分からなくてみんな不安になっているんだ…タズ、そっちはどうだ?」

「昨日は2体やった。今はなんとかなってはいるがこのペースだと手が足りなくなるかもしれん。」

タズに加えてタナも近況を報告する。

「村を訪れている賞金稼ぎや傭兵にも依頼しているけれど、危険も多いし難しいわね。」

悪い話ばかりを聞かされているヒュオリ警部は溜め息を漏らす。

「役員は軍の派遣も検討している。それに加えて近くのゲカ採掘現場をヒカアウタレスが襲撃したようだ。軍と別のヒカアウタレスがそいつを撃退したらしいが。」

「ああ。話だけならこちらも聞いている。」

そう話すタズにヒュオリ警部は忠告する。

「お前の話も上がっていたぞ。」

「俺がか?」

タズは驚いた様子だった。

「ああ。お前も一応はゲカアウタレスだからな…とにかくこの問題についてみんなピリピリしている…俺はこの後警察署でまた会議だ。何か掴んだら連絡をくれ。」

頷くタズとタナを後に、ヒュオリ警部は去っていった。スフェルも去り際、涙ながらに口を開く。

「どうかこの問題を早く解決させて下さい…」

タズとタナは再び二人きりになった。

「じゃあ何かあったら連絡してくれ。」

去ろうとするタズにタナが話し掛けた。

「この前ティアナから連絡があったわ。」

「ほう。そういえばそろそろ戻ってくる予定だったな。今どこに?」

タズは立ち止まりタナに振り返った。

「最後に連絡があったのは空港からよ。」

「空港?あいつ東から来るんじゃなかったのか?何故西の方にいるんだ?」

「…」

タナは目を背け黙り込んだ。

「まさか…また迷ったのか…」

「…後もう一つ。」

「ん?」

「そろそろ結婚を考えろだと。」

「そうか。」

「だからあんたも考えておいて。」

「…おう。」

ややぎこちない様子でタズはその場を後にした。

   ムスタ・プキン村の中央付近には観光施設があり、その東に試作ゲカプラント、北に湖と林が広がっていた。その林の中に、二人の子供が忍び込んでいた。村では少人数で深い林に入る事は危険だと林への立ち入りを制限していたが、この二人はその網をかいくぐっていた。一人はペリ・ホペ。もう一人はペリの同級生、ロッケウス・ラプスィ。5歳の少年だ。


「ペリちゃん。早く帰ろうよ。」

ロッケウスは不安そうにペリを説得するが、ペリは林の中へどんどん進んでいった。

「この辺にゲカがきっと埋まっているの!それが怪獣たちを呼んでいるの!」

ペリはアウターマテリアルの研究者になるべく、資料を読み漁り勉学に励んでいた。結果アウタレスが増加する原因が村の地中に眠るゲカだと根拠もなく確信し、それを探しに来ていた。

「危ないからやめようよ。」

「地面の中のゲカを見つければ、きっと村も助かる。パパも安心する。」

ロッケウスの忠告を無視し、ペリは村や自身の父親の為に奮闘していた。二人は林を進むが、お互い地中を這う存在に気付かなかった。

   一方村の外ではアウタレスと対峙していた警察、武装サンタや傭兵達は増え続けるアウタレスに対し手を焼いていた。彼らの尽力によって住民への被害は免れているが、予断を許さない状況が続く。アウタレス討伐の任に就いていたヒュオリ警部は通信を開き、別の現場にいたタズと連絡を取る。

「アウタレスは今日だけで32体確認されたぞ。まだ来そうか?」

「分からん。こっちはまだクモ型のやつと交戦中だ。」

タズはグレネードランチャーを撃ってクモ型ゲカアウタレスの足場を吹き飛ばし、アウタレスは体制を崩した。隙を見た警察官がアウタレスを狙撃し、見事直撃した。警察隊の連携でアウタレスはどんどん追い込まれていく。それを見たタズはヒュオリ警部に報告する。

「こっちはもうすぐ終わりそうだ。」

「分かった…おい、たった今情報が入ったぞ。子供二人が行方不明になったらしい。」

急な話に、ヒュオリ警部は焦りの色を隠せなかった。

「なんだと?詳細掴めるか?」

「一人はペリ・ホペ、女、5歳。もう一人はロッケウス・ラプスィ、男、5歳。二人は湖の林に入った可能性が高い。」

「ラケンナの娘か!なんでこんな時に…」

「ああ、あの子か…俺は部下を連れて直ぐに向かう。お前も行けるか?」

タズは振り向くと、警察隊に討伐されたアウタレスが引っ繰り返っているのが見えた。

「…ああ。ちょうどクモ型も終わったらしい。処理が終わり次第俺も…あ…」

「どうした?」

タズは何かを思い出し、ヒュオリ警部に言う。

「行く必要はないぞ。」

「は?」

突然の発言に対して、ヒュオリ警部は戸惑いを覚えた。

「子供達の捜索に行く必要はないと言っているんだ。心配ない。彼らは大丈夫だ…まだ未処理のアウタレスも多いんだろ?早く残りを片付け…」

「ふざけるな!」

ヒュオリ警部が怒りのあまり叫んだ。

「あの林では体長10m級のヘビ型が地中をうろうろしているのだぞ。負傷者まで出ているというのに…気でも狂ったか!」

「…まぁ、いずれ分かる。ともかく子供達なら心配ない。俺は別の現場に向かうぞ。」

タズは逃げるように通信を切った。頭に血が上ったヒュオリ警部はタズの言葉に困惑していた。彼はタズの事を信頼していたが、さすがに今回は不信感を抱いていた。

「一体どうゆう意味だ…」

ヒュオリ警部は頭を切り替え部下と共に子供達の捜索に向かった。

   自分達が危機的状況にいる事を知らないペリとロッケウスは、林の奥で迷子になっていた。

「どうするんだよー。やっぱ迷ったんじゃないかー…」

何度も似たような場所を歩き続け、ロッケウスは常に不安でいっぱいだった。そんな彼を余所に、ペリは比較的冷静だった。

「大丈夫。今探すから。」

そう言ってペリはコンパスと地図を取り出し、現在地を割り出す。勉強熱心な彼女は地図の読み方も慣れている様子だ。ロッケウスが彼女を待っていると、何かに見られた感覚に襲われ、彼は辺りを見渡す。

「どしたの?」

辺りをキョロキョロするロッケウスが気になりペリが声を掛けた。

「いや、誰かに見られた気がした。」

ロッケウスの不安は高まる一方だが、ペリは再び地図を覗いた。結局ロッケウスが感じた嫌な感覚の正体を彼は見つける事ができなかった。地面の雪が少し動いていたが、二人はそれに気付かなかった。ロッケウスが不意に横を見ると、先にある地面がめくれながら大きな怪物の顔がひょっこりと現れた。ヘビ型アウタレスだった。アウタレスと目が合いそうになった瞬間、ロッケウスはペリの手を引いて走り出す。

「逃げて!」

「え、何!?」

何事かと思ったペリは後ろを見、状況を理解した。

「きゃあああああ!!」

アウタレスは地面を這いながら、二人を追いかけ始めた。

「やっぱりゲカがここにあるんだ!」

この期に及んでペリはまだ自分が思い付いた予想を信じていた。一方でロッケウスの方は必死にペリの手を握り、木の間をジグザグに走っていた。そのおかげで二人はなんとかアウタレスの攻撃を避ける事ができた。しかしアウタレスは木々を避ける事を止め、力任せに木々を押し倒しながら二人を追いかけた。それを見た二人は恐怖を覚え、尚も走り続ける。ペリが躓きこけても、ロッケウスは直ぐ様彼女を引っ張り上げ、走り続けた。しばらくすると二人は周りが静かになった事に気が付き、足を止めた。後ろを振り返ると、アウタレスは消えていた。周りに何もない事が分かると、息が上がっていた二人は地面に座り込み、休んだ。息を整え、ロッケウスは真っ直ぐな眼差しでペリを見つめる。

「僕がペリちゃんを守るから。これからもずっと。約束するよ。」

小さくとも心強いその言葉を受け、ペリはそっと笑みをこぼす。

「うん。ありがとう。」

次第に緊張もほぐれ、ロッケウスとペリは互いに笑いあっていた。するとロッケウスは地面が動いている事に気付き、咄嗟にペリに突っ込んだ。次の瞬間二人が座っていた地面が割れ、アウタレスの顔が飛び出してきた。間一髪でアウタレスの奇襲を免れた二人はそのまま丘を転げ落ちた。丘は緩やかな斜面になっており、雪の上を転がりながらもロッケウスはしっかりとペリを抱き締めていた。平坦な場所で二人は止まり、お互い擦り傷はあったものの二人は無事だった。

「大丈夫か?怪我してないか?」

「うん。大丈夫。」

「よかったぁ。」

ロッケウスは起き上がりペリに怪我がない事が分かると、そっと胸を撫で下ろした。するといきなり地面が揺れ、二人が立っている雪に切れ目が走った。ロッケウスは反射的にペリを突き放す。ぼんやりしていたペリは後ろにゆっくりと倒れながらロッケウスも倒れ掛かっている事に気付き、前に向けられた彼の両手に手を伸ばす。ペリの手がロッケウスの手に触れようとした瞬間、ロッケウスの足元から大きな顎が現れた。ぽかんとした表情の彼は何が起きているのかを理解する前に、その巨大な口は閉じた。ロッケウスはアウタレスに一呑みにされた。尻餅をついたペリはアウタレスと目が合い、状況を理解した彼女の顔は一気に強張った。

「うわぁあああああああ!」

ペリの叫び声が別の声に掻き消される。

「とぅおおおりぃやぁあああああああああああああああ!!!」

女の声だった。次の瞬間、アウタレスを中心に、辺り一帯が光の柱に包まれた。余りの眩しさにペリは目を瞑る。彼女が再び目を開けると、アウタレスは光の粒子となっていた。その光の粒子の中央に、右の拳を天に掲げ、左腕にロッケウスを抱えた女が立っていた。


彼女が着ていたはずのポンチョはバラバラになりこれもまた光の粒子になっていた。サンタ風のジャケットやズボンを着用したクワトロテールの髪型の女はロッケウスと向き合う。

「最後までよくあの子を守ったね。君は偉いぞ。」

ロッケウスとペリは不思議な光景を前に、ただただ呆然としていた。女の放つ光の柱は雲を貫き、見ていた全員を照らす。

「子供を泣かせる奴は、私の拳が黙っちゃいない!

サン・ティアナ・ローズ、参上!今!ここに!!」

-第3話~子供達のヒーロー~ ~完~

最強のバカ
ヒカのアウタレス
真実の敵

次回-第4話~燃える聖誕祭~

2014年10月27日月曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第2話~タナと村に忍び寄る影~

-第2話-

   ゲカ燃料研究者、ラケンナ・ホペの死から翌日、聖誕祭が近付いているムスタ・プキン村は相変わらず賑わっていた。無事に村に着いたアルクース・ヴァハオースとスーリ・フィンゴットはユクサンと別れ、サン・タナ・ローズの住処に来ていた。

「まさかあんたが依頼品の提供者だったとは…」

落ち着いた様子のスーリがタナに話し掛けた。

「君達の依頼主とは面識があってね。情報屋と仕事の仲介を始めた頃から知っているよ。これがその依頼品だ。」

タナは裏からアタッシュケースを運び、テーブルの上に置いた。

「このケースを依頼人に持ち帰れば依頼は完了だ。」

「中身は聞かない方がいいのかしら?」

アルクースの問いに、タナは答える。

「この地方で採れたゲカの標本だ。」

「濃度は?」

スーリがケースを見つめ、尋ねた。

「濃度は3%、専用の容器付きだ。問題ない。」

「そうか。標本となると、材料試験か?」

「いや違う。検査だ。近年世界中でゲカを使用した危険な研究が流行っていてな。この辺でもそういう傾向がないか早めに知りたいのだろう。」

「生物実験か。」

「嫌な話ね。」

アルクースが吐き捨てるように言うと、タナは少し明るめに話す。

「まぁここは問題ないだろうけど。一応確認が必要だろうし、これを宜しく頼むわ。」

スーリは立ち上がり、ケースを受け取る。

「色々と世話になった。村の力になりたいが俺達にもやる事がたんまりでな。」

「構わないよ。今度また来るといい。なんなら武装サンタになってみるかい?特に女性は少なくてね。」

そう言いながらタナはアルクースに目を向け、アルクースは苦笑いを浮かべる。

「なろうと思ってなれるものなの?」

「みんな自分でそう名乗っているだけだよ。それは今も昔も変わらない。」

少し古めの写真を見ながらアルクースは口を開く。

「ふーん。ところでそこにある写真を見て気になっていたのだけど、アウタレスって寿命が短いものもいれば長くなる場合もあるわよね。タナさんは見た感じ20代後半、そしてタズさんは30代って感じだけれど、実際の年齢って教えてもらえるかしら?」

「俺も気になる…」

スーリの発言の後、しばらく気まずい沈黙が流れた。

「いいわ。隠す事でもない訳だし…私もタズも50代よ。」



「っえぇ~~~!!!」

-第2話~タナと村に忍び寄る影~

   タナとの雑談の後、アルクースとスーリはタナに礼を言い、彼らは帰途に着いた。二人の背中を見送るタナは遠くから歩いてくる人物を見つけた。

「また面倒な…」

タナに嫌な顔をさせる人物とはゲカプラントの建設、販売を手掛ける営業マンだった。名をスフェル・フォルケ。34歳。


彼はやつれた顔でタナの前に来た。

「ラケンナさんの事は聞きました。非常に残念です。この村のゲカプラント建設計画以前から助けてくれた優しい友人でした…研究者としても優秀だった…唯でさえアウタレスの目撃例が増えているというのに、これではゲカプラントのイメージが地に落ちてしっ、まっ…うぅ…」

スフェルは泣き出した。

「またか…男がそう泣くなよ…増えたアウタレスについてはちゃんと調べているって。」

タナがスフェルの肩に手を置き、彼を宥める。

「今度は近隣住民になんと説明すれば…あぁ胃が痛い…ラケンナさんは何か言い残してはいませんか?」

「ああ。タズが何か聞いたと言っていたな。」

スフェルの表情は少し良くなった。

「ほう。彼はなんと?」

「アウタレスはゲカプラントではなく、別の要因で増えているのだと。」

「その要因とは?」

「分からないわ。現段階では確証もない。いずれにせよ更なる調査は必要だな。」

タナの話を聞いたスフェルは笑顔を取り戻し、口調も元に戻る。

「そうですか。早くこの問題を解決しないといけないですね。私も頑張って、彼に恩返ししないと。」

「そうだそうだ。その調子だ、ぞ!」

タナがスフェルの肩を叩いた。

「い、痛いです…」

   スフェルは帰っていき、タナは自室で仕事の続きをしていた。彼女は端末に繋がったコードを取り出し、先端の端子を手術された彼女の耳たぶに挟んだ。すると自分の意思だけで端末を操作できた。制御型人工頭脳(制工脳ともいう。サイボーグの脳、いわば電脳)を持たない人間にとって擬似的に制工脳の操作ができる通信技術、外付け制工脳だ。電子攻撃を受けても接続を簡単に切り離せるので使用者本人を危機的状況から脱しやすい。メカ・アウタレス等の脅威により、アウタレスの制工脳手術は一般的に認められていないので、この技術のアウタレス利用者数は多い。タナは近隣の情報収集をしている際、近くの空港が提供する記録に目を通し、気になる情報を見つけた。彼女は端末を切り天井を見上げ、しばらく考え込んでいた。

   ムスタ・プキンの昼、タズは愛用のスノーモービルに乗り林を駆ける。ここは村の北の丘にある深い林の中だ。この辺にタズの住処がある。彼は家に近付くにつれ自身の家の異変に気付く。サブマシンガンを抜き、家の周りを警戒後、タズは家の中に踏み込んだ。

部屋の奥でシャワーの音がした。

「はぁ…」

大きなため息の後、タズは普段家に帰ってくる時と同じように装備を外し、手入れをした。やる事がなくなった彼は椅子に座り、貧乏ゆすりしながら何かを待っていた。しばらくしてシャワー室からバスタオル姿の女が出てきた。タナだった。

「遅い。」

「また何やってるんだ。」

タナの言葉を無視し、タズは不機嫌そうな顔をしていた。

「あんたを待っていたのに、遅いからシャワー借りたのよ。話があるって連絡入れたじゃない。」

タナも不機嫌そうだった。

「時間が掛かると返しただろう。家に上がるどころか、風呂まで入りやがって。前にもあったな…」

頭を抱えるタズに、タナは真剣な顔つきで話しかけた。

「話がある。」

「服を着ろ。」

「真面目に聞け。」

「まずは真面目な格好をしてくれ。」

互いに譲らず、イライラしたタズは強気にでた。

「そんなセクシーな体を見せ付けられると、こちらも目のやり場に困る。」

不意の発言に、タナは顔を赤らめた。

「何顔を赤くしてるんだ?51歳。」

「てめぇも50だろ。」

タナの顔は一瞬で戻り、彼女は自身の銃を左手で構えた。彼女は左利きだった。タズも同時に銃を抜き二人は互いに向け合った。
当初の目的を忘れ、二人は時間を無駄にした。

   タナはちゃんと着替え、話を再開した。

「周辺の情報を探っていたのだが、今日近くの空港の南西2キロ先でゲカアウタレスが確認されたらしい。それがすぐ行方を晦ませた。」

「ここから6キロ先か。近くには空港や街があるんだぞ。それがどう関係…あ。」

タズの口は止まり、タナが話を続ける。

「気付いたようだな。私もラケンナの話が引っ掛かっていてな。例の、アウタレスが何かに誘き寄せられているっていう話。もしそれが事実なら…」

「そのゲカアウタレスが向かった先がここになる。」

「そういう事。」

事態を把握したタズは自分の装備を確認し始める。

「ゲカ燃料にアウタレスが反応しているのなら、わざわざ遠方のアウタレスがここに来る必要はない。確かめる価値はありそうだな。アウタレスの情報は?」

タナは端末の画面を読み上げる。

「姿はコウモリに類似、体長2m前後、飛行可能、危険度3、要専門家処理、脅威度2、兵士級、濃度21、超能力発現の可能性、数は5体。また人型じゃなくて良かったわね。」

「だな。念の為他の連中にも声を掛けておこう。」

タズは他の武装サンタ、ゲートガードや消防、そして警察の知り合いに連絡し、注意を促した。

「でもそれはあくまで推測なのだろう?それでは部下は出せんぞ?」

そう話すのは村の警察署の警部、名をヒュオリ・ランプ。43歳。彼は小型人間(一般の人間の約10分の1の大きさを持つ人間)であり、優れたパワードアーマー乗りである。



「村は今聖誕祭の季節でどこも手が足りん。一応皆に注意するよう連絡は入れておく。」

「ああ。ありがとう。」

タズは通信を切り、タナに話し掛ける。

「俺の家に来たのもこの為か。」

「そういう事。奴等が村に来るならここを必ず通るはず。網を張って待機しましょ。後今夜はここに泊まっていくわ。」

「お、おう…ところで、お前も戦うのか?」

タズは少し心配そうにタナを見つめた。

「ええ。そのつもり。」

「今は力を使うと体に負荷が掛かるんだろ?ここは俺に任せてくれ。」

タナはタズに寄り、優しい声で話す。

「あなただってそうじゃない。それに私はまだまだ現役よ。でも、心配してくれてありがとう。」

   タズとタナは林の中に感知器を設置し、タズの家の中で待機した。辺りは暗くなり、二人は静かに時が過ぎるのを待った。

   22時過ぎ、タズは違和感を覚え、家の外に出た。感知器に反応はなく、タナはタズをそっと見守る。タズはスナイパーライフルを手に近くの電波塔を登り、タナも彼の後を追った。タナも違和感を覚え、その後感知器が作動した。タズとタナはライフルを構え、敵を探す。しかし敵の姿は見えない。タズはサーモスコープを覗き、林を注視した。すると低空を飛ぶ熱源を捉えた。コウモリ型のゲカアウタレスだ。

「いたぞ!奴等光学迷彩で姿を晦ませてやがる。」

タナもアウタレスを捉え、合図と共に二人は引き金を引いた。時間差で2体のアウタレスは地に落ち、残りの3体は狙撃に気付き散開した。タズが狙撃を続ける間にタナは警察署に連絡を入れた。何とか3体目を落とし、残りは2体。2体のアウタレスは不規則な軌道を取りながら電波塔に接近し、タズとタナはひたすらライフルを撃った。弾丸は2体に命中したが仕留めきれず、傷を負った2体はそのまま電波塔の後ろにある納屋に突っ込んだ。タズとタナは電波塔から飛び降り、2体を追いかけた。タズはサブマシンガンを取り出し、タナはショットガンを出した。互いにサインを送り、二人は納屋の中に突入した。納屋の中には誰もいず、辺りは真っ暗だった。タズとタナが銃のライトを点灯した頃、通報を受けたヒュオリ警部が部下を連れてやってきた。タズは小声で警部に事情を説明した。

「了解した。ではこちらは納屋の周囲を固める。」

そう言ってヒュオリ警部は部下に指示を出し、応援に来た警察官と共に納屋を囲んだ。

   納屋の中の部屋を一つずつクリアリングしていくタズとタナであったが、アウタレスを見つけ、銃撃してもアウタレスは自らぶち破った穴に身を隠し、別の部屋に逃げていった。毒針を放ち奇襲を仕掛けてくるアウタレスに注意しながら、タズは追加の弾をタナに渡す。タズが使用するショットリボルバーの弾薬とタナのショットガンの弾薬は共通である為、二人は連携が取りやすかった。2体のアウタレスに振り回され、タズとタナはなかなか目標を仕留めきれずにいた。

「我々も突入しようか?」

進展のない状況にヒュオリ警部は二人にそう進言した。負傷者を出したくないタズが応答する。

「もう少し待ってくれ。」

   アウタレスとの戦闘が長引き、次第にタナは苛立ちを覚え始めた。相変わらずアウタレスの奇襲は続き、とうとうタナは痺れを切らし、それを見ていたタズも次の展開を悟った。

「タズ…ちょっと表出ていて。」

静かに語り出すタナに対して、タズはそっと話し掛ける。

「しかしお前、それだと体に負荷が…」

「大丈夫。ただちょっと頭にきただけ…少し暴れるだけだから…ね、お願い。」

「何かあったらすぐ駆けつけるからな。」

「ありがとう。」

タズはその場を後にし、タナは姿勢を正した。彼女は深呼吸し、全身にヒカの力を漲らせ、次第に体から白いオーラが身に纏った。

「やばい…」

タナの様子に気付いたタズは納屋を走り出して、外にいた警察に叫んだ。

「みんな伏せろー!!」

タナは体から光の波を放ち、納屋の中のアウタレスの居場所を突き止めた。

「一体何なんだ?タナはどうした?」

姿勢を低くし、困惑するヒュオリ警部にタズは答える。

「タナがキレた。」

タナはショットガンを構え、内蔵された大きな鎌が展開した。彼女が持っていたのはサイス・ショットガンだった。タナはそっと笑みを浮かべ、壁の向こう側にいたアウタレス目掛けて突っ込んだ。目の前にあるものを撃ち、切り刻み、破壊しながらタナは笑っていた。

「アッハハハハハ…」

警察の持っていたアウター探知機が大きく反応した。納屋の中から聞こえる爆音と笑い声と時折飛んでくる流れ弾を前に、車両の後ろに隠れていた警察は皆引いていた。

ヒュオリ警部がそっと呟く。

「やはり人型のアウタレスは皆化け物だな…」

「これで遊んでいるだけだからな…彼女が本気を出すと生きて帰れない…」

「えっ…」

タズの衝撃発言に警部の顔は青ざめた。

   タナが進んだ道には瓦礫しか残らなかった。アウタレスは逃げるも追いつかれ、バラバラにされた。アウタレスの返り血を浴びたタナは、もう1体のアウタレスに狙いを定める。後ろから破壊が迫るアウタレスは必死に逃げ、屋根を突き破り飛び立った。外にいた警察が銃を構える。しかし止まる事を知らないタナは一気に上空のアウタレスに追いついた。アウタレスの目に映ったのは白いオーラを身に纏い、全身を紅く染め、鎌を背負った笑顔のサンタだった。次の瞬間、アウタレスはバラバラにされ、アウタレスの破片や体液がそこらじゅうに降り注ぐ。納屋の周囲にいた人間が見上げると、月を背に全身を紅く染めた女のサンタがそこに立っていた。

   タナに見蕩れていたタズは気持ちを切り替え、ヒュオリ警部に進言する。

「村中に伝えてくれ。この村は狙われている。」

-第2話~タナと村に忍び寄る影~ ~完~

群がる敵
子供達の悲劇
ヒーローの帰還

次回-第3話~子供達のヒーロー~

2014年10月22日水曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第1話~武装サンタの住む村~

初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。

光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。

アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。


-第1話-

   12月、北国の白い林の中を、月明かりに照らされた三人の賞金稼ぎが歩いていた。一人目は女性、名をアルクース・ヴァハオース。25歳。


装備は軍用マッスルスーツ(パワードスーツ、強化服の一種)、ソードライフル、グレネード、ハンドガン。二人目は男型のサイボーグ、名をスーリ・フィンゴット。25歳。


装備はスピアロケット、アサルトライフル。そして三人目は巨大な三輪バイクを連れ重装備したパワードアーマー(人型強化装甲。強化服を着た人間が乗る強化服といったもの)、名をユクサン。


三人はアウター探知機や機材を手に、アウターの反応がないか確かめながら近くの村へ北上していった。

「ねぇ、本当にここらのアウター反応を確認するだけで報酬が入るの?」

「ああ、顔見知りの情報屋からの依頼だ、間違いない。」

ユクサンが低い声で念押ししても尚、アルクースは不信がっていた。

「まぁ俺達はあんたと出会って間もないからな。あんたの売る武器はいいもんだが、知らない相手の依頼となると気にもなるもんさ。ともかく俺達はこの先にあるムスタ・プキン村にお使いしなきゃならん。村に着ければそれでいい。」

スーリは相方のアルクース程依頼に関して気にはしていない様子だ。

「その村には武装したサンタが大勢いるんだって?」

アルクースの問いにユクサンが答える。

「そうだ。村の名前も『黒いサンタ』という意味があるように古くから武装サンタが村や村の周辺を守ってきた。先程通り過ぎた村とは違い、ムスタ・プキンは観光だけじゃなくビジネスで訪れる者も多い。そして近年その村にゲカ・プラントを建設する予定だったが、試作ゲカプラント建設後に村近くでゲカ・アウタレスの出没件数が増えているそうだ。ゲカ燃料に引き寄せられていると推測されるが、はっきりした事は分かっていない。」

ユクサンは足を止め、辺りを見渡した。それを見たアルクースは気になり声を掛けようとしたが、持っていた探知機が反応を示した。彼女は身に着けていたヘッドホン型の外付け制工脳(外付け簡略式制御型人工頭脳。外付け型のサイボーグ脳。簡単な手術で扱えるため利便性が高い)に手を当て、目を瞑り情報処理速度を上げた。

「何かいるのか?」

スーリは何も捉える事ができなかった。

「距離約300に生体反応…人…?」

アルクースは首を傾げながら残りの二人と共に反応があった位置へと接近した。そこにはコートを着た少女がいた。名をペリ・ホペ。5歳。


彼女は三人に気付くとユクサンを指差した。

「あ、ロボットのおっちゃんだ。」

ペリを見て三人の賞金稼ぎは口を揃えた。

「幼女だ…」

-第1話~武装サンタの住む村~

   賞金稼ぎの三人は周囲を警戒、アルクースはペリが無害であると判断した。

「君はここで何をしているの?他に誰もいないの?」

「パパと怪獣から逃げてきたんだけど、パパとはぐれちゃった。」

「お父さん今どこにいるか分かる?」

「わかんない。」

「そっか…さっきロボットのおっちゃんって言ってたけど、君この人知ってるの?」

「うううん。でもさっきサンタのおばさんにここにいればロボットのおっちゃんに会えるからって。すぐ戻るから待っててって言ってた。」

「サンタのおばさん?」

ペリと話していたアルクースにユクサンが答える。

「先程話した知り合いの情報屋の事だろう。彼女も武装サンタの一人だ。すぐ戻るなら、しばらくここで待機するか?」

アルクースは答えずスーリの方を向いた。

「俺は構わないぜ。」

   アルクースとペリが何気ない会話をしていると、アウター探知機が大きく反応し、賞金稼ぎ達は武器を構えた後、12ゲージショットガンを背負った女性武装サンタが跳んできた。彼女は着地するや否や自己紹介を始める。


「私はサン・タナ・ローズ。ムスタ・プキンの武装サンタだ。待たせて悪かった。早速で悪いのだが、ペリを安全な所まで連れて行く。ここは危険だ。」

スーリがタナに声を掛ける。

「危険?アウタレスか?」

「そうだ。詳しい事はまだ分からないが近くにいるのは間違いない。」

ペリは不安そうにタナをずっと見つめている。

「パパは?」

「私の友達が探しているよ。ペリを送ったら、私も探しにいくから。」

「うん。」

タナはペリを抱え、三人に忠告する。

「安全に村に行きたいのなら東の国道まで迂回しろ。報酬は村で渡す。手を貸してくれて感謝する。」

タナに抱えられたペリは小さく手を振り、タナは闇の中に跳んでいった。アルクースも小さく手を振り返す。

「二人は大丈夫なの?」

「タナはヒカのアウタレスだ。彼女は強い。」

答えたユクサンの横でスーリはアウター探知機を見つめる。

「成る程。それで。しかしアウター反応がもう一つあるぞ。距離約200、濃度約10、ゲカだ。この安もんじゃあ、これ以上は分からん。とりあえずここらでいっちょ稼いでくか。」

スーリを先頭に、賞金稼ぎ三人はアウター反応がある場所へと向かった。

   スーリは正面に何かを捉え、彼は足を止めた。人が横たわっている。近づいてみると、中年の男性が雪の上で苦しみもがいている。


スーリは男にゆっくりと近づき、残りの二人は周囲を警戒した。

「おい。大丈夫か?…はっ!」

スーリは男の左半身がアウタレス化している事に気が付いた。男の半身は黒く蠢き、男に苦痛を与えながら全身を呑み込もうとしている。

「はや…くっ…にぃ…げろ…」

酷い光景を前に、スーリは一度自身を落ち着かせ、手にしたスピアロケットの刃でアウタレス化した半身の一部を切り離そうとした。が、武器を上に構えたその時、スーリの目の前に巨大な爪が飛んできた。スーリは爪を防ぐも、後ろに吹き飛ばされた。彼の目の前には完全体となった人型ゲカアウタレスが立っていた。


不気味で全身が黒く、長い腕に大きな爪を持っていた。

「おい…俺の言葉が…」

アウタレスに意識があるか確認しようとスーリは声を掛けるが、アウタレスが彼に襲い掛かってきた。

ソードライフルを構えていたアルクースが銃を放ち、アウタレスは後ろへ距離を取った。スーリもすかさずアサルトライフルを撃ち、スピアロケットのロケット弾を放った。

   爆音と共に辺り一帯が雪煙で覆われた。賞金稼ぎ三人がじっと警戒する中、横から傷を負ったアウタレスがアルクース目掛けて襲い掛かった。気付いたアルクースは力を込め、着ていたマッスルスーツが伸縮し、アウタレスの振り下ろされた右腕をソードライフルで受け流し、そのまま斬撃を繰り出す。アウタレスは回った拍子にその斬撃を左腕で打ち止め、再び右腕をアルクース目掛けて振り下ろした。

アルクースはソードライフルの引き金を引き、アウタレスの右腕を弾き、後退するアウタレスを撃ち続けた。ユクサンも銃撃したが、アウタレスは林の中に消え、少しの沈黙が流れた。

   傷の癒えたアウタレスは雪煙を作りながら賞金稼ぎの周囲を縦横無尽に走り、三人を撹乱した。アウタレスは素早い動きですれ違いざまに一人一人を攻撃し、三人は防戦一方となった。嵐の様な攻撃でアルクースは体制を崩し、アウタレスは狙いを定めた。ところがそこへユクサンが突っ込み左肩をアウタレスにぶつけ、ユクサンは右肩に背負ったウェポンコンテナに手を伸ばした、その時。

   ジングルベルが辺りに響いている。アウタレスは動きを止め、三人も動きを止めた。導かれるように、アウタレスはジングルベルの鳴る方角へと姿を消した。安全を確認したアルクースとスーリは地に座り一息ついた。ユクサンは武器をしまい、アウタレスの向かった方角を見つめていた。

   アウタレスが辿り着いた先には、一人のサンタがいた。


サンタに向かってアウタレスが走り出すと、サンタは40mmリボルビンググレネードランチャーを取り出し、アウタレスが近付けないように連射した。更に9mmサブマシンガンを取り出し、アウタレスの動きを牽制した。隙を見てアウタレスはサンタに近付き、サンタはグレネードを投げた。アウタレスは小さく跳び、グレネードを避け、更にグレネードの爆風を利用し加速した。空中からサンタに急接近したアウタレスは右腕を振り下ろし、間に合わないサンタは咄嗟に左腕を前にかざす。

   アウタレスの爪をもろに食らったサンタの左腕が千切れた布を撒き散らす。するとアウタレスの爪にひびが入り、根元から折れた。驚いたアウタレスの目線の先にはサンタの左腕に装着されたクローがあった。サンタの左腕には黒いローラが身に纏っていた。彼もまた、ゲカのアウタレスだったのである。ゲカの力と着ていたマッスルスーツの力でアウタレスを殴り飛ばし、サンタは腰から巨大な12ゲージリボルバーを抜いた。このリボルバーはショットガン用の弾を用い、更に銃口が上下に二つある為2発同時撃ちが可能だった。

飛び掛るアウタレスにサンタはリボルバーを向け、横に倒し、銃をぶっ放した。弾丸はアウタレスの両足を吹き飛ばし、銃の反動でサンタは横に回転した。勢いが残っていたアウタレスは左腕でサンタに突っ込んできたが、サンタは回転力を用いアウタレスを地面に叩き付けた。暴れるアウタレスにサンタはすぐさま注射器を取り出し、アウタレスの首元の傷口に挿した。アウタレスは更に暴れたが、次第に大人しくなっていた。注射器の中には白く光る液体が入っていた。ヒカだ。ヒカが体中に回ったのか、アウタレスの体はみるみる人の姿へ戻っていった。ゲカにより回復中だった両足は不完全な状態で止まった。膝より下は欠損していたものの、アウタレスは中年男性の姿に戻っていた。かなり衰弱している男は目を覚ました。

「すまんな、タズ…貴重なヒカまで使わせてしまって…」

「気にするな。」

小声で話す男にサンタが答えた。名をサン・タズ・クローズ。年は30代。タズと呼ばれる事が多い。

「娘は?」

「無事だ。」

男は優しく微笑んだ。

~半日後~

   アウタレス化していた男は村の病院で7時間に及ぶ緊急手術を受けた。名をラケンナ・ホペ。48歳。ペリ・ホペの父親だ。

ラケンナのいる病室の外では疲れ果てたペリがタナの膝の上で眠っていた。ラケンナは衰弱していたがタズと話をしていた。

「私達を襲ったゲカアウタレスは?」

「すまんがまだ見つかっていない…しかし驚いたよ。アウタレス化から人に戻って意識まで戻るとは。これもあんたがゲカ燃料の研究者だからか?」

「だが見ての通りぼろぼろだ。それにあなた達もアウタレスなのだろう?よければどうやってアウタレスになったのか聞かせてくれないか?」

ラケンナの問いに、タズは語り始めた。

「俺達の事か?そうだな…俺がまだ軍にいた頃、親父は武装サンタだった。俺は休暇でここに帰郷した際、俺と親父はゲカアウタレスと対峙した。親父は俺を庇ってアウタレスに刺されたが、そのまま俺も刺されてゲカに取り憑かれた。親父は死に、何とかゲカを封じ込めた俺はアウタレスになった。」

タズは話を続ける。

「タナは父親がヒカのアウタレスだったからな。彼女は非常に珍しい生まれた時からのアウタレスだ。因みに今この地を離れているティアナもヒカのアウタレスだ。彼女は以前アウタレスに襲われた時瀕死に陥った。その時タナは身を削る程ヒカを彼女の体に送ったが結局駄目だった。それが原因で衰弱していたタナに別のアウタレスが襲い掛かってきたんだが、その時タナを守ろうとティアナはアウタレスに覚醒したらしい…」

「この村だけでアウターの力を制御できる人間がこんなにいるとはな…」

「だが強力なアウターの力にはいつだってリスクが付き纏う。」

「そうだな…ああ、思い出した事がある。」

ラケンナは顔色を変え、タズが彼の方を向いた。

「何をだ?」

「アウタレスになって感じ取ったのだが、アウタレス増加の原因はゲカ燃料ではない。」

「何?」

「何か…何かがアウタレスを誘き寄せて…いる…」

ラケンナの呂律が悪くなった。

「分かった。今はゆっくり休め。」

タズを無視し、ラケンナは話を続けた。

「娘に…これからも元気で…と伝えてくれ…」

急な台詞にタズが駆け寄った。

「おい、しっかりしろ。あんたはゲカに打ち勝ったじゃないか。」

病室の外にいたタナは状況を察し、ペリの額をそっと撫で、ラケンナは目を閉じる。

「そうだな…リスクは付き物だ…」

雪止まぬ冬の夜、ラケンナ・ホペは命を引き取った。

   「やはりゲカが脳にまで達していると、どうにもならんな…」

ラケンナ・ホペの遺体が病院から運び出される光景を前に、タズが呟いた。

「医療が発達しても尚、アウターの脅威は相変わらずね。」

タズの隣でタナが煙草を取り出したが、彼女はペリに気付き煙草をそっと仕舞った。ペリも二人に気付き、二人の方へ歩いてきた。

「あたし、決めたよ!あたしもお父さんみたいな立派な研究者になる!」

朝日を背に、少女の真っ直ぐな瞳は輝いていた。

-第1話~武装サンタの住む村~ ~完~

ラケンナの残した言葉
狙われた村
紅き死神

次回-第2話~タナと村に忍び寄る影~