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2014年10月31日金曜日

Santa's Claws~サンタズ・クローズ~第3話~子供達のヒーロー~

-第3話-

   ムスタ・プキン村より北西約15km、そこは吹雪の中だった。視界が悪く、何もない雪上を、ポンチョを着た女が寒そうに歩いていた。


名をサン・ティアナ・ローズ。18歳。

しばらく歩いていると、彼女は雪に覆われた岩の上で身動きが取れないトナカイを見つけた。足場が狭く、トナカイは今にも落ちそうだった。

「今行くから動かないでね。」

トナカイを驚かせないようにティアナはそっと語り掛け、彼女は岩を登り始めた。しかしトナカイは足を踏み外し、そのまま滑り落ちた。ティアナは咄嗟に跳び空中でトナカイを捕まえ、そのまま地面に落ちた。仰向けに大の字になったティアナがクッションとなり、彼女の上にいたトナカイは無傷だった。

「いたたた…」

びっくりしたトナカイはそのまま走り出し、別のトナカイに出くわした。トナカイの家族だろうか、それを見たティアナは横になったまま安堵の表情を浮かべる。

「良かったぁ。元気そうで。」

彼女はゆっくりと身を起こし、トナカイ達に尋ねる。

「ねぇ、君達。ここどこだか分かる?」

-第3話~子供達のヒーロー~

   コウモリ型アウタレス襲撃事件から数日、村の周囲で出没したゲカアウタレスの件数は更に増えていった。聖誕祭が迫る中、住民のゲカアウタレスに対する不安はゲカプラントに向けられていた。プラント内にあるゲカを使用した燃料に、ゲカアウタレスが引き寄せられているという推測が最も有力だったからだ。ゲカプラントに反対する意見も増え、今回も村役場で議論が交わされていた。役場の外では会議が終わるのを待つタズとタナの姿があった。やや疲れ気味のタズが言った。

「そっちはどうだ?」

「使える奴から仕事を振り分けているけど手が足りないわ…私も出撃した方がいいかしら。」

タナも疲れが溜まっている様子だ。

「お前は俺達に指示を送るのが仕事だ。」

「過保護ね…しかし参ったわ。ゲカアウタレスの出没件数がどんどん増えている。」

「住民の不満もな。聖誕祭に向けて忙しい時期に面倒なこった。」

タナは煙草に火を付ける。

「みんなが思うように、ゲカプラントで使用されるゲカを使用した燃料が原因なのかしら…」

タズもタナから煙草を貰う。

「悪い。しかしこのままだとプラントの停止どころじゃないな…どうやら終わったようだな。」

役場からぞくぞくと人が出てきた。その中にスフェルとパワードアーマーに乗ったヒュオリ警部がいた。二人はタズとタナに気付き、こちらにやってきた。タズが先に口を開く。

「どうだった?」

ヒュオリ警部がパワードアーマーから顔を出す。

「どうもこうもない。聖誕祭だの、村の安全だの、ゲカプラントの撤去だの、みんな言いたい放題だ。役員の多くはゲカプラントの即停止を訴えている。村長は判断を先送りにしたがな。住民にとってゲカを使用した燃料には悪い印象しかないようだ。」

半泣き状態のスフェルが必死に訴えかける。

「でも燃料に使用されるゲカは1%未満ですよ?燃料の大半は伝導体を含んだ結合剤なんです。ちゃんと管理すれば危険じゃないんです。こんなに優れた技術なのに止めるなんて勿体無いですよ!」

苦笑したヒュオリ警部がスフェルの肩を叩く。

「わかった、わかった。その事はみんな知っている。唯理由が分からなくてみんな不安になっているんだ…タズ、そっちはどうだ?」

「昨日は2体やった。今はなんとかなってはいるがこのペースだと手が足りなくなるかもしれん。」

タズに加えてタナも近況を報告する。

「村を訪れている賞金稼ぎや傭兵にも依頼しているけれど、危険も多いし難しいわね。」

悪い話ばかりを聞かされているヒュオリ警部は溜め息を漏らす。

「役員は軍の派遣も検討している。それに加えて近くのゲカ採掘現場をヒカアウタレスが襲撃したようだ。軍と別のヒカアウタレスがそいつを撃退したらしいが。」

「ああ。話だけならこちらも聞いている。」

そう話すタズにヒュオリ警部は忠告する。

「お前の話も上がっていたぞ。」

「俺がか?」

タズは驚いた様子だった。

「ああ。お前も一応はゲカアウタレスだからな…とにかくこの問題についてみんなピリピリしている…俺はこの後警察署でまた会議だ。何か掴んだら連絡をくれ。」

頷くタズとタナを後に、ヒュオリ警部は去っていった。スフェルも去り際、涙ながらに口を開く。

「どうかこの問題を早く解決させて下さい…」

タズとタナは再び二人きりになった。

「じゃあ何かあったら連絡してくれ。」

去ろうとするタズにタナが話し掛けた。

「この前ティアナから連絡があったわ。」

「ほう。そういえばそろそろ戻ってくる予定だったな。今どこに?」

タズは立ち止まりタナに振り返った。

「最後に連絡があったのは空港からよ。」

「空港?あいつ東から来るんじゃなかったのか?何故西の方にいるんだ?」

「…」

タナは目を背け黙り込んだ。

「まさか…また迷ったのか…」

「…後もう一つ。」

「ん?」

「そろそろ結婚を考えろだと。」

「そうか。」

「だからあんたも考えておいて。」

「…おう。」

ややぎこちない様子でタズはその場を後にした。

   ムスタ・プキン村の中央付近には観光施設があり、その東に試作ゲカプラント、北に湖と林が広がっていた。その林の中に、二人の子供が忍び込んでいた。村では少人数で深い林に入る事は危険だと林への立ち入りを制限していたが、この二人はその網をかいくぐっていた。一人はペリ・ホペ。もう一人はペリの同級生、ロッケウス・ラプスィ。5歳の少年だ。


「ペリちゃん。早く帰ろうよ。」

ロッケウスは不安そうにペリを説得するが、ペリは林の中へどんどん進んでいった。

「この辺にゲカがきっと埋まっているの!それが怪獣たちを呼んでいるの!」

ペリはアウターマテリアルの研究者になるべく、資料を読み漁り勉学に励んでいた。結果アウタレスが増加する原因が村の地中に眠るゲカだと根拠もなく確信し、それを探しに来ていた。

「危ないからやめようよ。」

「地面の中のゲカを見つければ、きっと村も助かる。パパも安心する。」

ロッケウスの忠告を無視し、ペリは村や自身の父親の為に奮闘していた。二人は林を進むが、お互い地中を這う存在に気付かなかった。

   一方村の外ではアウタレスと対峙していた警察、武装サンタや傭兵達は増え続けるアウタレスに対し手を焼いていた。彼らの尽力によって住民への被害は免れているが、予断を許さない状況が続く。アウタレス討伐の任に就いていたヒュオリ警部は通信を開き、別の現場にいたタズと連絡を取る。

「アウタレスは今日だけで32体確認されたぞ。まだ来そうか?」

「分からん。こっちはまだクモ型のやつと交戦中だ。」

タズはグレネードランチャーを撃ってクモ型ゲカアウタレスの足場を吹き飛ばし、アウタレスは体制を崩した。隙を見た警察官がアウタレスを狙撃し、見事直撃した。警察隊の連携でアウタレスはどんどん追い込まれていく。それを見たタズはヒュオリ警部に報告する。

「こっちはもうすぐ終わりそうだ。」

「分かった…おい、たった今情報が入ったぞ。子供二人が行方不明になったらしい。」

急な話に、ヒュオリ警部は焦りの色を隠せなかった。

「なんだと?詳細掴めるか?」

「一人はペリ・ホペ、女、5歳。もう一人はロッケウス・ラプスィ、男、5歳。二人は湖の林に入った可能性が高い。」

「ラケンナの娘か!なんでこんな時に…」

「ああ、あの子か…俺は部下を連れて直ぐに向かう。お前も行けるか?」

タズは振り向くと、警察隊に討伐されたアウタレスが引っ繰り返っているのが見えた。

「…ああ。ちょうどクモ型も終わったらしい。処理が終わり次第俺も…あ…」

「どうした?」

タズは何かを思い出し、ヒュオリ警部に言う。

「行く必要はないぞ。」

「は?」

突然の発言に対して、ヒュオリ警部は戸惑いを覚えた。

「子供達の捜索に行く必要はないと言っているんだ。心配ない。彼らは大丈夫だ…まだ未処理のアウタレスも多いんだろ?早く残りを片付け…」

「ふざけるな!」

ヒュオリ警部が怒りのあまり叫んだ。

「あの林では体長10m級のヘビ型が地中をうろうろしているのだぞ。負傷者まで出ているというのに…気でも狂ったか!」

「…まぁ、いずれ分かる。ともかく子供達なら心配ない。俺は別の現場に向かうぞ。」

タズは逃げるように通信を切った。頭に血が上ったヒュオリ警部はタズの言葉に困惑していた。彼はタズの事を信頼していたが、さすがに今回は不信感を抱いていた。

「一体どうゆう意味だ…」

ヒュオリ警部は頭を切り替え部下と共に子供達の捜索に向かった。

   自分達が危機的状況にいる事を知らないペリとロッケウスは、林の奥で迷子になっていた。

「どうするんだよー。やっぱ迷ったんじゃないかー…」

何度も似たような場所を歩き続け、ロッケウスは常に不安でいっぱいだった。そんな彼を余所に、ペリは比較的冷静だった。

「大丈夫。今探すから。」

そう言ってペリはコンパスと地図を取り出し、現在地を割り出す。勉強熱心な彼女は地図の読み方も慣れている様子だ。ロッケウスが彼女を待っていると、何かに見られた感覚に襲われ、彼は辺りを見渡す。

「どしたの?」

辺りをキョロキョロするロッケウスが気になりペリが声を掛けた。

「いや、誰かに見られた気がした。」

ロッケウスの不安は高まる一方だが、ペリは再び地図を覗いた。結局ロッケウスが感じた嫌な感覚の正体を彼は見つける事ができなかった。地面の雪が少し動いていたが、二人はそれに気付かなかった。ロッケウスが不意に横を見ると、先にある地面がめくれながら大きな怪物の顔がひょっこりと現れた。ヘビ型アウタレスだった。アウタレスと目が合いそうになった瞬間、ロッケウスはペリの手を引いて走り出す。

「逃げて!」

「え、何!?」

何事かと思ったペリは後ろを見、状況を理解した。

「きゃあああああ!!」

アウタレスは地面を這いながら、二人を追いかけ始めた。

「やっぱりゲカがここにあるんだ!」

この期に及んでペリはまだ自分が思い付いた予想を信じていた。一方でロッケウスの方は必死にペリの手を握り、木の間をジグザグに走っていた。そのおかげで二人はなんとかアウタレスの攻撃を避ける事ができた。しかしアウタレスは木々を避ける事を止め、力任せに木々を押し倒しながら二人を追いかけた。それを見た二人は恐怖を覚え、尚も走り続ける。ペリが躓きこけても、ロッケウスは直ぐ様彼女を引っ張り上げ、走り続けた。しばらくすると二人は周りが静かになった事に気が付き、足を止めた。後ろを振り返ると、アウタレスは消えていた。周りに何もない事が分かると、息が上がっていた二人は地面に座り込み、休んだ。息を整え、ロッケウスは真っ直ぐな眼差しでペリを見つめる。

「僕がペリちゃんを守るから。これからもずっと。約束するよ。」

小さくとも心強いその言葉を受け、ペリはそっと笑みをこぼす。

「うん。ありがとう。」

次第に緊張もほぐれ、ロッケウスとペリは互いに笑いあっていた。するとロッケウスは地面が動いている事に気付き、咄嗟にペリに突っ込んだ。次の瞬間二人が座っていた地面が割れ、アウタレスの顔が飛び出してきた。間一髪でアウタレスの奇襲を免れた二人はそのまま丘を転げ落ちた。丘は緩やかな斜面になっており、雪の上を転がりながらもロッケウスはしっかりとペリを抱き締めていた。平坦な場所で二人は止まり、お互い擦り傷はあったものの二人は無事だった。

「大丈夫か?怪我してないか?」

「うん。大丈夫。」

「よかったぁ。」

ロッケウスは起き上がりペリに怪我がない事が分かると、そっと胸を撫で下ろした。するといきなり地面が揺れ、二人が立っている雪に切れ目が走った。ロッケウスは反射的にペリを突き放す。ぼんやりしていたペリは後ろにゆっくりと倒れながらロッケウスも倒れ掛かっている事に気付き、前に向けられた彼の両手に手を伸ばす。ペリの手がロッケウスの手に触れようとした瞬間、ロッケウスの足元から大きな顎が現れた。ぽかんとした表情の彼は何が起きているのかを理解する前に、その巨大な口は閉じた。ロッケウスはアウタレスに一呑みにされた。尻餅をついたペリはアウタレスと目が合い、状況を理解した彼女の顔は一気に強張った。

「うわぁあああああああ!」

ペリの叫び声が別の声に掻き消される。

「とぅおおおりぃやぁあああああああああああああああ!!!」

女の声だった。次の瞬間、アウタレスを中心に、辺り一帯が光の柱に包まれた。余りの眩しさにペリは目を瞑る。彼女が再び目を開けると、アウタレスは光の粒子となっていた。その光の粒子の中央に、右の拳を天に掲げ、左腕にロッケウスを抱えた女が立っていた。


彼女が着ていたはずのポンチョはバラバラになりこれもまた光の粒子になっていた。サンタ風のジャケットやズボンを着用したクワトロテールの髪型の女はロッケウスと向き合う。

「最後までよくあの子を守ったね。君は偉いぞ。」

ロッケウスとペリは不思議な光景を前に、ただただ呆然としていた。女の放つ光の柱は雲を貫き、見ていた全員を照らす。

「子供を泣かせる奴は、私の拳が黙っちゃいない!

サン・ティアナ・ローズ、参上!今!ここに!!」

-第3話~子供達のヒーロー~ ~完~

最強のバカ
ヒカのアウタレス
真実の敵

次回-第4話~燃える聖誕祭~

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