-第4話-
12月後半、ムスタ・プキン村は迫る聖誕祭に向けて賑わっていた。観光客も増え、まるでゲカアウタレスの脅威が嘘のようだった。しかし実際は未だにゲカアウタレスの出没は増えているのだが、武装サンタ、警察や賞金稼ぎなどがアウタレスを未然に防ぎ、討伐していた為、住民はアウタレスの脅威に対する実感がなくなっていった。アウタレス討伐隊の増援もあったが、何よりサン・ティアナ・ローズの参戦が戦況を大きくひっくり返した。彼女は助けたペリとロッケウスを叱った後、村のあちらこちらで暴れ回り、ゲカアウタレスを次々に浄化していった。負傷者は出していないものの、彼女が暴れたせいで討伐隊の数多くの機材も被害を受けた。彼女はまさに嵐だった。そして今も尚、彼女は仲間と一緒に村の外れでバッタ型ゲカアウタレス数体と戦闘に入っていた。
「てぃやぁあああ!」
ヒカのアウタレスであるティアナの跳び蹴りは、地面を抉る破壊兵器と化す。しかしバッタ型アウタレスは事前に跳び、ティアナの蹴りを避けた。彼女が近付く度、アウタレスは彼女から距離を取る。タナはグレネードを投げティアナを援護した。それを見たティアナはある事を閃く。
「ねぇ、それ貸して!」
「いいけど使い方分かるの?あんた機械音痴だからねぇ…いい?まず安全ピンを…」
ティアナはタナの話を全く聞いておらず、グレネード片手に構えていた。
「こら!ピンをぬ…」
「せぇい!」
ティアナは安全ピンが刺さったままのグレネードを思いっきり投げた。
「あ…」
ティアナの投げたグレネードは音速を超え、衝撃波を作った。グレネードはアウタレスに命中し、あまりの衝撃でグレネードが暴発した。直撃したアウタレスは吹き飛んで気絶していた。
「よし!」
この光景を見ていたタナ、タズ、ヒュオリ警部は絶句した。タナはティアナを呼ぶ。
「あんたそんなの使わなくてもヒカが使えるでしょ。」
「あ、それもそうか。タナありがとう。」
ティアナは拳に力を入れ、白いオーラが腕に纏った。
「ふんっ!」
ティアナは拳を突き出し、ヒカの波を連射した。
アウタレスは必死に逃げ、地面に次々と穴が開いた。タナは頭を抱え、自身の言った事を後悔する。
「言わなきゃよかった…」
ティアナはバッタ型アウタレスを一体ずつ浄化し、健康なものはそのまま普通のバッタの姿に戻っていた。彼女は引き続き残りのアウタレスとの戦闘を継続した。
「またあの『ローズ姉妹』の活躍が見られるとはな…」
ヒュオリ警部はタナとティアナのコンビを見て懐かしみ、タナが照れくさそうに言う。
「よしてよ、恥ずかしい。てか殆どあの子の独擅場じゃない。私が手を出す頃には終わってるわ。」
「まぁ確かに彼女の勢いはとんでもないな。あれだけヒカを使用しても疲れ一つ見せない。アウタレス討伐隊の増援も助かったが、やはりティアナは別格だな…」
ヒュオリ警部はただただ感心していた。
「周辺やゲカの素材ごとぶっ飛ばさなけりゃありがたいんだが…これじゃ稼ぎがパーだ…」
タズはため息をついていた。
「ところで以前聞いたのだが、ティアナには国際同盟軍特殊部隊の監視が付いているのは本当なのか?」
ヒュオリ警部の問いにタズが答える。
「ああ、そうだ。今も村の外にいるだろう。彼女はよく旅に出るからしつこくつけられて迷惑らしい。」
「そこまで彼女は脅威になるのか?」
「ティアナは過去に数カ国の闇組織や軍で結成された非合法部隊に狙われた事があってな。支援者達の助けもあったが彼女はこの部隊を返り討ちにした。おかげでティアナは世界中の政府機関の目に留まったという訳さ。」
「凄いな…ティアナの監視だけで彼等は他に何もしないのか?」
「彼女は多くの闇組織を廃業に追い込み、助けた人の数は計り知れない。ティアナの行動で得する国は黙認し、彼女を恨む国は入国拒否。まぁ彼女にちょっかい出すと彼女の支援者達からも睨まれるからな。彼女とあまり関わりたくない国が大半だろう…」
「複雑だな…そういえば言い忘れていたのだが…」
「?」
「次またティアナを誘導するために子供達を囮にしてみろ。お前を牢にぶち込むからな。」
「…」
ヒュオリ警部は恍けるタズと共にローズ姉妹と合流し、残りのアウタレスを討伐した。
-第4話~燃える聖誕祭~
依然ゲカプラントに反対する声は多いものの、村は平穏を取り戻しつつあった。そんなある日、突如村中に警報が鳴り響く。放送は住民に屋内退避を命じ、村中の人間はパニックの中皆建物の中へ逃げていった。
「何があった?」
タズは通信でタナに事態の説明を求めた。
「今入った。ゲートガードが東に約5km、未確認のヒカアウタレスを捕捉したらしいわ。こちらに向かってる。全長約20m、濃度110%。軍が追跡中みたいだけど、タズも直ぐに向かって。私も向かうわ。」
「了解。」
タズはスノーモービルに乗り、東に向かう。
「もしかしてゲカ採掘場を襲ったやつか?て事は狙いはゲカプラントか?」
「ええ、そうみたい。経路的に真っ直ぐゲカプラントに向かっているわね。姿はオオカミ型よ。」
「何でヒカアウタレスまでプラントを狙うんだ…」
「聞いてみれば?」
「会いたくねぇよ。」
緊急警報が流れて数分後、多くの武装サンタ、警察や賞金稼ぎが村の東に集まってきた。辺りは静まり返り、そこにいた人は皆唯じっと時が来るのを待った。やがて遠方から砲撃や銃声が聞こえ、それは次第に近付いてきた。
「来るぞー!」
タズの掛け声と共に全員攻撃態勢を整える。
「まもなく射程内だ。隊を南から回りこませろ。我々の流れ弾に当たっても知らんぞ。」
ヒュオリ警部は軍と連絡を取り、軍は進路を変えた。アウタレスは未だ見えないものの、砲を装備した者は砲撃を始める。遠くで煙が昇り、その中から巨大で白く、オオカミの様な姿をしたヒカアウタレスが現れた。
「どうしてヒカのアウタレスが…」
困惑するティアナを余所に、村のアウタレス討伐隊は一斉に攻撃を開始した。
「倒す必要はない。とにかく奴を村から遠ざけましょう。」
「うん…」
落ち込むティアナをタナは説得した。無理もない。余程の事がない限りヒカのアウタレスが人を襲う事はそうそう稀だからである。アウタレスは吼え、討伐隊に向かっていった。傷付きながらも、アウタレスは討伐隊を薙ぎ払いながら前に進んでいく。その光景を目の当たりにし、討伐隊の多くはやるせない気分になっていた。
軍のヘリに続いて戦闘車両も合流したがアウタレスは討伐隊を分断し、ゲカプラント目掛けて加速する。そこへティアナが腕を左右に広げ、アウタレスの前に立ち塞がった。アウタレスは彼女の目の前で立ち止まる。
「撃つなー!皆銃を下げろ!」
ティアナに気付いたタズは攻撃中止を叫び、タナやヒュオリ警部も周りを止めた。軍は攻撃を続けようとしたが、討伐隊が前にたちはだかった。ティアナは真っ直ぐアウタレスと向き合い、語り掛ける。
「もうやめて!どうしてこんな事するの?この発電所は村のみんなの生活に役立っているんだよ?ゲカを悪い事に使おうとしているんじゃないんだよ?あなたが傷付くのを見ていられない…ねぇ、どうして?教えてよ…」
ティアナの悲痛な叫びにそこにいた全員が静かに見守る。ティアナと向き合っていたアウタレスはゲカプラントを睨み付け、再びティアナの方を向いた。そしてアウタレスは後ろを向き、来た道をゆっくり帰っていった。討伐隊は武器を下げ、軍はアウタレスの後を追おうとしたが、討伐隊に再び阻まれた。
「何故追撃しない!弱っている今がチャンスなんだぞ!」
こう話すのはフェンラ国陸軍北部方面防衛管区所属の小隊長、ヴィハ・イイミセット少尉。男性。22歳。
「あんたも見ただろう。奴に攻撃の意思はない。ゲカアウタレスとは違うんだぞ?」
タズはヴィハ少尉の前に出て、彼を落ち着かせようと説得した。
「あのアウタレスはゲカ採掘場を襲撃した。犠牲も出ている!」
「怒るのも無理はない。だが一度踏みとどまってくれ。ヒカアウタレスがむやみに人を襲うのは滅多にない事だってあんたも知っているだろう?一応俺達もアウタレスだ。あのヒカアウタレスが襲ってきた時、何か変わった事はなかったか?頼む、教えてくれ。」
ヴィハ少尉は深呼吸した後、口を開く。
「私の名はヴィハ・イイミセット少尉。もしやあなたはゲカの武装サンタ、クローズか。」
「ああ。名をサン・タズ・クローズ。タズでいい。」
「本当にゲカを体に宿しているのだな…私の無礼を許してほしい。」
「気にするな。人が襲われたんだ。で、先程の話だが、何か変わった事はなかったか?」
ヴィハ少尉は考え込む。
「変わった事か…我々があのオオカミ型と戦闘に入った時、別のヒカアウタレスが助けてくれたのだ。全長約20m前後。濃度18%の白いクマ型アウタレスだ。」
「ゲカ採掘場に何か特別な事は?」
「いや。我々も調べたが採掘されたゲカの質も採掘量も安全基準上特に問題はなかった。普通のゲカプラント開発直営のゲカ採掘場だ。」
「ゲカプラント開発直営なのか。」
「そうだ。資源調達から製品販売まで一括でやっているらしい。何か?」
タズは頭の中で何かが引っかかっていたが、それが何かは分からなかった。
「いや、なんでもない。少尉はこれからどうする?」
「とりあえずあのオオカミ型を尾行する。しばらく様子を見るつもりだ。敵対してくるなら問答無用で対抗する。」
「そうか。奴は一度ここを狙ってきたからな。また来るかもしれん。その時は少尉に連絡する。」
「感謝する。では我々もそうしよう。」
ヴィハ少尉はタズと別れ、ヒュオリ警部と防衛体制などについて語り合った。タズが仲間のところへ戻ると、ゲカプラントからスフェルが不安そうな顔つきで来ていた。
「怖かったです…助けていただきありがとうございます。」
タナはスフェルの肩をそっと叩く。
「無事で何よりね。」
「アウタレスはどうしたのですか?」
「去っていったわ。」
スフェルの顔が硬くなる。
「えぇ~…もしまた襲ってきたらどうするんですか~…」
「大丈夫よ。さ、みんな帰った帰った。」
村のアウタレス討伐隊や軍は解散し、ティアナはオオカミ型アウタレスが去っていった方角を見つめていた。
時は経ち今は聖誕祭前夜、村にいる人間は再び起こるかもしれないアウタレスの襲撃を警戒しながら恐る恐る聖誕祭の準備を進めていた。そんな中、村の北西、タズの住処の近くで普段より多いゲカアウタレスの群れが捕捉された。タズ、タナ、ティアナを含めた村のアウタレス討伐隊がそこへ向かい、アウタレスと対峙した。時同じくしてオオカミ型のアウタレスが再びゲカプラント東に現れ、村に警報が鳴り響く。
「何だと?」
タズはヴィハ少尉から通信を受けた。
「やむをえん。これよりオオカミ型を攻撃する。」
別の討伐隊と軍が東に集結し、オオカミ型と戦闘を始めた。しばらくしてそこへ巨大なクマ型ヒカアウタレスが姿を現した。
白い巨体で大きな爪を持ったアウタレスは以前軍をオオカミ型から助けたものだった。クマ型も戦闘に参加しオオカミ型と対決した。
「これが例のクマ型か。」
クマ型を見上げながらヒュオリ警部は呟いた。その頃タズ達は未だ北西にいた。
「クソ…どうしてこんな時に…」
東の戦闘が気になって仕方がないタズ、タナ、ティアナはさっさとゲカアウタレスを処理し、急いで東に向かった。特にオオカミ型を気にかけていたティアナは不安の色を隠せなかった。三人が東の現場に着いた頃、ぼろぼろになったオオカミ型が袋叩きにあっていた。傷だらけになっていたオオカミ型は全てを無視し、唯クマ型だけを狙い攻撃していた。オオカミ型の素早い牙に対し、クマ型は腕の大きな爪の一撃で応戦する。ヒカアウタレス同士が傷つけあう。そんな光景を目の当たりにし、ティアナは膝を突いて言葉を失う。
「こういう事もあるわ…見てて辛いけど…」
タナはティアナをそっと抱き寄せた。タズはヴィハ少尉の元へ行き、状況の詳細を求める。
「状況は?」
「見ての通りだ。オオカミ型が再び村に向かっていった。やむなく我々は奴を追撃、その後クマ型が現れた。以前と同様クマ型はオオカミ型を攻撃、我々に加勢した。またクマ型に助けられる形になった。オオカミ型については残念だが諦めてくれ。人に危害を加えるなら我々の敵だ。」
「そうか…」
クマ型との戦闘の末、オオカミ型は倒れ、横たわった。クマ型はオオカミ型に近付き、腕を振り上げた。
「やめてぇえええええ!!!」
ティアナは反射的にクマ型に突っ込み、クマ型の腕を殴った。一瞬ヒカの閃きの後、ティアナはオオカミ型の横に着地する。
「あれ?」
ティアナは自身の拳に違和感を覚えた。それを見ていたタズは何かを悟る。ティアナは我に返り、人の味方になるヒカアウタレスを攻撃した事に重責を感じた。周囲にいた人間も同様、ティアナの過ちに騒然としていた。クマ型はティアナを睨みつけ、彼女の方へ歩いていく。そこへタズが駆け寄り、いきなりヒカを褒め称え始めた。
「おお、全知全能なるヒカのしもべよ。そなたに天の祝福を。今こそヒカの大いなる御業を褒め称えよう…」
その場にいた人間は唖然とし、タズが狂ったと見て取った。タナは黙ってそれを見守る。タズの声を聞いたクマ型は一度タズに振り返り、再びティアナを向いた。
「悪しきゲカを撃ち滅ぼし、汚れたものを打ち砕く。ヒカの栄光は何ものにも代えがたい…」
ヒカを賛美するタズをクマ型は無視した。そこでタズはクマ型の前で向き合い、大声を上げる。
「忌まわしきゲカはヒカには打ち勝てず、ヒカの前では敗北を得るのみである…」
タズの中に眠るゲカが疼くように黒いオーラを放った。苦しみながらも、タズは続ける。
「ゲカはヒカの許しなくては何もできず、滅びの時まで抗い、最後には膝を突いて朽ちていく…」
クマ型は身震いし、痺れを切らしタズを向き腕を振り上げた。タズは笑みをこぼし、懐からショットリボルバーを抜き、クマ型目掛けてぶっ放した。放たれた一発の弾丸は白い閃光を放ちクマ型の顔面を直撃する。
「どうだ?大好きなヒカをたっぷり味わいな。」
タズが放ったのはヒカの複合材で作られた弾丸だった。周囲は何が起きているのかを理解できず、次の瞬間、更なる衝撃が彼らを襲う。クマ型の体が一気に黒く染まったのである。
「それがお前の能力か。ヒカやゲカの濃度を自在に操れるとは…確かにゲカは元々ヒカだったらしいからな…珍しい…完全に騙されたよ。」
タズの口調が変わる。
「それとお前、ゲカプラント開発のスフェル・フォルケだろ?」
みんなが見守る中、クマ型は後ろへ下がり、黒いオーラを身に纏い人の姿になった。
「これは驚いた。どうして俺だと分かった?」
今までのか弱いスフェルとは打って変わって冷酷な表情の彼を見た周囲の人間は驚愕し、ざわめいていた。
「ラケンナ・ホペの最後の言葉。それとそのオオカミ型がヒントをくれた。」
「ちっ、もっと早く始末するべきだったな…それで?」
「ゲカプラント開発計画が発足してからアウタレスが増えたんじゃない。お前がこの村に来てからだ。ゲカアウタレスを誘き寄せていたのはお前だろう?そしてヒカアウタレスであるオオカミ型を襲った。奴の恨みを買うように…オオカミ型はゲカを狙っていたんじゃない。お前を狙っていたんだ…」
全てを見抜かれたスフェルは笑いだす。
「ハハハハハ…」
「ゲカプラント開発側に立ちゲカに対する不安を煽り、プラント襲撃で被害者ヅラか。随分と村を混乱に貶めてくれたな。」
「社会の流れに翻弄されるのが人の常だろう。フッ、何を今更。俺は道を示したに過ぎない。それにゲカを求めたのはお前達の方じゃないか。都合が悪くなると自身の過ちに目を瞑る。人とは愚かなる生き物よ…」
「お前も人だろう。」
「俺は人を超えた。人がそんなに力が欲しいのなら、力と一つになればいい。人は弱くて退屈だ。お前なら分かるだろう?」
「人をやめたお前に人を語る資格はない。」
「そうか。ゲカを持ちながらゲカの意志に背く。なんと愚かな!」
スフェルは再び黒いオーラを放ちながらクマ型に変貌する。
「いいだろう、愚かなる人類よ。この村の歴史に最高の聖誕祭を刻んでやる!」
クマ型は顎にゲカを溜め、軍用ヘリを狙いゲカの波を放つ。ヘリは緊急回避するもののゲカがテールローターをかすめ、ヘリは地面に不時着した。
「奴を打ち倒せぇー!!」
ヴィハ少尉の号令の下、軍や討伐隊はクマ型に一斉攻撃した。ヒカの力でオオカミ型の治療に当たっていたティアナは、どうすべきか迷っていたところにタナが来た。
「ティアナは治療を続けて。そいつを守るのよ。」
「うん。分かった。」
ティアナはシャキッとし、オオカミ型の治療を続けた。爆風が吹き荒れる中、タズはスノーモービルに駆け寄り、後ろのコンテナから斧が装着された無反動砲、66mmアックス・バズーカを取り出し両肩に担いだ。彼が時刻を確認すると、日付はもう変わっていた。12月25日水曜日、クリスマスは波乱の始まりを迎える。
「さぁ、楽しい聖誕祭の幕開けだ!」
-第4話~燃える聖誕祭~ ~完~
決戦の行方
聖誕祭
武装サンタの住む村
次回-最終話~武装サンタと聖誕祭~
0 件のコメント:
コメントを投稿