-第3話-
凶暴な進化を遂げたトビウオ型ゲカアウタレスが複数潜んでいる可能性がある保護海域の実態は、まだ誰も掴めていなかった。そこで若手議員は度重なる政府への説得の末、海域調査の許可を得た。アドバイザーとしてトビウオ型との戦闘経験を持つカイとサオや、国立研究所の研究員が若手議員と同行し、海軍の護衛艦に乗艦した。準備を整えた護衛艦は出航し、保護海域へと向かった。
-第3話~海中のトビウオ型ゲカアウタレス~
海軍の護衛艦が保護海域に向かう道中、カイ達は打ち合わせ以外やる事が無かった。上層部との口論の末海軍を除隊したカイにとって、護衛艦内は非常に居心地が悪かった。アウタレス調査員の資格を持つカイは海軍内でそこそこの有名人であり、サオ同様艦内で注目を集めていた。当のカイは他人の目線に耐えられなくなり、サオに割り振られた部屋に逃げ込んだ。部屋にいたサオはちょうど着替えをしている最中だった。
「あ、悪ぃ・・・」
カイが静かに部屋を出ようとすると、サオ呆れながら口を開く。
「別にいいよ。ここにいても・・・どうせみんなから逃げてきたんでしょ。」
乗艦前からそわそわしていたカイの心境は、サオには筒抜けだった。カイは席に座り、黙ってサオが着替え終わるのを待っていた。
「除隊しなければこんな面倒もなかったのにな~・・・」
「・・・」
サオが嫌味を言うと、反論できないカイは相変わらず静かだった。弱いところを突かれたカイを見て、サオは小さく微笑みしばらくこの状況を楽しんでいた。
軍港を出て数時間後、保護海域に接近していた護衛艦のゲカセンサーが、何らかの動体を捉えた。護衛艦は臨戦態勢に入り、艦は速度を緩めた。センサーが示す動体の数が次第に増え、表示が重なり数の特定が困難になった。センサー要員によると、この反応がトビウオ型なら100頭近い数がいるという事だった。保護海域までまだ距離があったが、トビウオ型と思しき動体の群れは保護海域の外で確認された。これまでこの様な事例はなく、艦に同乗していた研究員は困惑していた。
護衛艦は準備を終え、周囲の情報収集のため潜水ドローン(無人機)を放った。潜水ドローンは海中を潜航し、反応があった方向に進むと海水の汚染濃度が次第に高くなっていった。海水の汚染物質を調べてみると、トビウオ型の体内で生成されるものと一致した。潜水ドローンが先へ進むと、センサーに魚類の影が映った。トビウオ型ゲカアウタレスだった。案の定護衛艦のゲカセンサーが捉えたのはトビウオ型の群れだったのだ。トビウオ型の群れは保護海域を離れ、イツツシマ市沿岸に向かっていた。このままでは市に害が及ぶ可能性があった。しかし移動速度が速いはずのトビウオ型はゆっくりと移動していた。何か理由があって移動速度が遅いのか、研究員はこの事に疑問を抱いていた。
護衛艦が潜水ドローンを使用しトビウオ型の群れ周辺を調査して数時間後、前方のトビウオ型に動きが見られた。前方のトビウオ型数頭がその場を前後に往復し始めたのだ。異変に気付いた護衛艦艦長はここが引き時と議員一行を説得し、艦に退却を命じた。護衛艦は反転し、トビウオ型の群れから離れていった。しかし前後に往復していた複数のトビウオ型の動きが止まり、その後護衛艦に向かって加速し始めた。護衛艦内に緊急警報が鳴り響き、護衛艦も速度を上げた。艦より二機の戦闘潜水ドローンが発艦し、艦後方の護衛に就いた。護衛艦を追い掛けるトビウオ型が次第に増え、先頭がドローンに攻撃を仕掛けた。潜水ドローンは応戦するものの、トビウオ型の数に圧倒された。護衛艦は追加の潜水ドローン二機を発艦させ、トビウオ型の迎撃に向かわせた。
護衛艦が魚雷の発射準備中、カイは艦長にダイブパワードアーマー(潜水装置装備型パワードアーマー)の使用許可を求めた。艦長はカイにパイロットは間に合っていると伝えると、カイは艦内に自分とサオより優れたパイロットはいないと反論した。カイとサオはトビウオ型との戦闘経験があり、更にアウタレス調査員の資格を持っているとサオは艦長を説得した。沈黙の後、艦長は二人に潜水パワードアーマー搭乗を許可した。カイ、サオ、二人の海軍PAパイロットがダイブPAに搭乗し、四機のPAは護衛艦より発艦した。二人の海軍PAパイロットは心強いカイ、サオと共に出撃できる事を光栄に感じており、心に余裕ができていた。
護衛艦はトビウオ型への攻撃を開始し、水中のダイブPA四機も急速接近するトビウオ型を迎え撃った。久々の水中戦でカイとサオは初め動きがぎこちなかったが、次第に本来の調子を取り戻した。水中戦に慣れたカイとサオは前に出てトビウオ型の注意を引き付け、海軍PAパイロット二人を艦の護衛に回した。
護衛艦に向かうトビウオ型の数は更に増え、迎撃していた前衛のカイとサオの状況は苦しくなり、二人は少しずつ後退せざるを得なかった。護衛艦は全速力で撤退を続けるが、トビウオ型の追撃は尚も続いた。両脇にいたトビウオ型は護衛艦に回り込もうとし、艦は包囲されつつあった。ダイブPAより前に出ていた潜水ドローンの大半は破壊され、護衛艦の守りが薄くなっていった。海軍PAパイロットも奮闘するも、対応に限界が来ていた。
トビウオ型の猛威が護衛艦に迫る中、横からなんらかの攻撃を受け、トビウオ型の動きが一時的に停止した。攻撃は更に続き、護衛艦を狙うトビウオ型の速度は大きく低下した。護衛艦がセンサーで状況を探ると、複数の人、PA、船舶がこちらに向かってきているのが確認できた。現れたのは複数の賞金稼ぎだった。彼等はトビウオ型への攻撃を続け、護衛官の撤退を援護した。賞金稼ぎの中には先日司法取引に応じた者も含まれていた。借りを返すつもりなのか、彼等のおかげで護衛艦はトビウオ型を引き離す事に成功した。トビウオ型が少しずつ追撃をやめた後、護衛艦艦長は賞金稼ぎ達に感謝を述べ、直ちにこの場を離れた方がよいと伝えた。賞金稼ぎ達は手際よく撤退し、危機を脱した護衛艦は無事岐路に就いた。
海域調査後、海軍と若手議員は情報をまとめ、政府に報告した。政府は現状を把握すると会見を開き、大まかな情報をメディアに公開した。政府はイツツシマ市に接近しているトビウオ型ゲカアウタレスの群れになんらかの処置を検討しなければならないと公表した。しかしメディアは政府を非難し、この事態は強引な海域調査がトビウオ型を刺激した所為なのではとの疑いを立てた。おかげで政府はトビウオ型の対応を検討するも、決定までには至らなかった。結局は従来通り、湾岸警備隊の巡視船でトビウオ型が確認された海域を見張る事が継続された。
「放っておくとまずい事ぐらい分からねぇのか・・・」
危機感のない政府の対応に苛立ったカイは、サオの前で愚痴をこぼした。これから訪れるかもしれない危機を感じ、カイはサオに頼み込む。
「ちょっと付き合ってくれねぇか?」
サオはカイの言葉に一瞬動揺したが、彼女は冷静に事情を聞いた。
「パワードアーマーの装備を強化したいんだが、手伝ってくれないか?」
「業者なんていくらでもいるじゃない。私じゃなきゃだめなの?」
「あまり他人に俺の機体を触らせたくないんだよ。」
カイの言葉に呆れつつも、特別扱いされたサオは内心喜んでいた。
「・・・しょうがないわね。」
-第3話~海中のトビウオ型ゲカアウタレス~ ~完~
巡視船襲撃
決戦
事件終結後
次回-最終話~トビウオ型ゲカアウタレスとの決戦~
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