初めに光があった。
光は人と共にあった。
光は人と交わした絆を尊んだ。
しかし人はそれを拒んだ。
一部の光の使者は光の上に立とうとし、
後に影となったが、
それは光に打ち勝てなかった。
そこで影は別のものに目を向けた。
それは光がもっとも尊ぶものであった。
光の使者と影は「アウター」と呼ばれ、彼らは自らの力を地に宿した。
光の力は「ヒカ」、影の力は「ゲカ」と呼ばれ、アウターに遠く及ばないものの、
人にとっては驚異的な力だった。
この二つのアウターの力はあらゆるものを侵し、憑かれたものを、「アウタレス」と呼んだ。
ヒカは人の心の中にある聖を照らし、ゲカは闇を照らす。
アウターは殆ど干渉する事なく、ただ人の経緯を見てきた。
そして人はアウターの力を利用し、翻弄され、各々の生を歩んでいた。
-第1話-
開発途上国チニの東の沖合に、浮体都市(超大型浮体式構造物、メガフロート等と呼ばれている)が複数集まった浮体都市群がある。名をジィ・フードン・チュンシィ。個々の浮体都市は他の浮体都市と橋や海中トンネルで繋がっており、巨大なネットワークを有している。しかし他国の浮体都市に比べるとその出来は良質とは言えず、手抜き工事や関係者による汚職等の不祥事が頻発していた。それでも尚ジィ・フードン・チュンシィ浮体都市群は着々と経済効果を生み、世界中から人が集まるようになっていた。
ジィ・フードン・チュンシィ浮体都市群の外側には浮体都市ジエシューがある。この浮体都市は他の浮体都市同様いくつかの浮体都市と繋がっている。その内の一つに、浮体都市スニーンがある。スニーンは浮体都市群の外れに位置する為、繋がっている浮体都市は一つのみ、浮体都市ジエシューだけであった。
浮体都市スニーンは上下3層に分けられている。一番上が海面上に面した第1レイヤー(最上層、商業レイヤー)であり、他の浮体都市と繋がっている橋が架かっている。次に第2レイヤー(中間層。事業レイヤー)があり、橋の下に設けられている海中トンネルはこの層に繋がっている。そして一番下に第3レイヤー(最下層。産業、設備レイヤー)がある。
1月10日金曜日深夜、浮体都市スニーン第3レイヤーに建っているゲカ研究所が警報を鳴り響かせていた。近くを巡回していた警備員は第1レイヤーにある都市管理局に連絡を入れると、指示が返る。
「了解。知っての通り我々は許可無く敷地内に立ち入る事は許されていない。こちらで研究所に問い合わせるので引き続き警備を続けろ。」
「了解。しかし施設の中から変な音がするのだが・・・」
研究所を怪しむ警備員に対し、管理局の通信係は彼を律する。
「いくら噂が多いからってビビるなよ。警備員だろう。」
「へい。巡回に戻りま~す。」
警備員はその場を去った。それからしばらくして、第3レイヤーの変電所から管理局に連絡が入る。
「こちら変電所。何やら周囲で異音を確認した。原因は現在調査中。なんだか気味が悪いぞ。」
管理局は複数の警備員に連絡を入れるが、研究所の近くにいた警備員と連絡が取れなくなっていた。
「ったくあいつは何やってんだ・・・」
通信係は愚痴をこぼした。しかし今度は変電所と連絡が取れなくなった事が分かり、更に変電所が機能を停止した。都市には予備の発電設備が備わっており、電力供給が自動で切り替わった。管理局は変電所に職員を向かわせ、遠隔操作による復旧作業を始めた。隣の浮体都市ジエシューから送られてくる電力が低下した事を疑った管理局は、ジエシューに問い合わせるも原因究明には至らなかった。職員の努力も虚しく、予備の発電設備も停止し、予備電源を持つ施設以外の都市全てが停電した。停電はここチニ国で珍しくなく、管理局は引き続き電力の復旧に尽力した。すると第2レイヤーの地下鉄で脱線事故の報告を受け、更に第2と第3レイヤーの境界付近で銃声を聞いたとの報告があった。停電の影響で都市内の状況が把握しづらく、又管理局は未だ一部の職員と連絡が取れず、残りの者で現状を確認しなければならなかった。戦闘らしき報告が増え、管理局は都市内放送で屋内退避を呼び掛ける。
「都市にいる全ての人に告げます。只今都市内においてテロが発生した模様です。皆さんは直ちに屋内に退去してください。これは訓練ではありません。繰り返します・・・」
テロも視野に入れ、管理局は政府と浮体都市ジエシューに応援を要請し、ジエシューから警察の応援が出動した。職員が戦闘らしき場所に到着すると、そこでは警察や賞金稼ぎが何かに向かって銃撃していた。彼等が撃つ先を覗いた職員は驚愕し、急いで管理局に連絡する。
「あ、アウタレスだ!アウタレスの群れが人を襲っている!軍を呼んでくれ!」
「何言っているんだ。落ち着いて詳しく状況を説明してくれ。」
管理局の通信係は職員が何を言っているのか分からなかった。
「自分の目で確かめろよ!」
職員がそう叫ぶと彼は端末で現場を映しながら、映像を管理室に送った。映像には哺乳類、魚介類、鳥類、昆虫型など大小様々なアウタレスが映っていた。
「嘘だろ・・・」
「・・・と、都市に避難勧告!あと、政府に緊急連絡!」
管理局は初めて事態の深刻さに気付いた。
「都市にいる全ての者にお伝えします。至急都市から避難して下さい。繰り返します。都市を退去してください。都市は現在危険な状況下に置かれています。慌てず速やかに都市から避難して下さい・・・」
-第1話~ゲカアウタレス群浮体都市襲撃~
浮体都市スニーンから政府に緊急要請が入り、政府が対策本部を設営していた頃、浮体都市群ジィ・フードン・チュンシィから南に約500km先にある島国トゥアンにて、眠りについていたジェンシャンが電話に叩き起こされた。名をジェンシャン・ピングー。33歳の男性。トゥアン国陸軍少佐である。
「・・・はい、ジェンシャンです。どうなさいました?」
「私だ。悪いが至急チニ国の浮体都市群、ジィ・フードン・チュンシィに向かってくれ。緊急事態だ。」
電話の相手はジェンシャンの上司だった。寝床から起き、服を着替え始めたジェンシャンは問う。
「何があったのですか?」
「浮体都市がアウタレスの群れに襲われているそうだ。ゲカアウタレスとみて間違いないだろう。君には現地へ行き、本国の民間人の保護と事件解決への協力をしてほしい。詳しい事は移動中に資料を確認してくれ。」
「了解しました。」
ジェンシャンは飛行場に着き、待っていた輸送機で浮体都市スニーンへ向かう。機内でジェンシャンは部下から資料を受け取り、浮体都市スニーンの現状を確認する。
「スニーンより我々の企業からの連絡が先だったのか。都市の危機管理は一体どうなっているんだ・・・」
「全く同感です・・・停電と回線の混雑のせいか、現在も通信が不安定の状態です。」
呆れるジェンシャンに部下は状況を説明した。
「原因は?」
「まだ調査中です。」
「しかしなぜ俺なんだ?」
ジェンシャンは疑問に思っていた事を聞くと、部下が答える。
「少佐の経歴でしょう。少佐は国際同盟軍に参加した回数が多く、チニ国での作戦にも何度か加わっています。実は我々の派遣は一度拒否されているんです。しかし国際同盟の権限を持って今回の派遣が許可されました。」
「相手は国際同盟に渋々従った感じか。」
「恐らくそうでしょう・・・そして国際同盟軍において経験豊富な少佐が抜擢されたという訳です。」
「成る程・・・じゃあ君も私と共に行くわけではないのだな?」
「申し訳ありません。少佐一人を派遣するので手一杯だったみたいで・・・私達は民間人の輸送を一部補う予定です・・・只ゲカアウタレスと接触した人間もいる可能性があるので、身体検査が必要になります。混雑は避けられないでしょう。」
「そうか。今回は後方支援ができれば良い方だな。成果を期待してなければいいのだが・・・」
数十分後、ジェンシャン少佐を乗せた輸送機は浮体都市スニーンの第1レイヤーに着陸した。第1レイヤーは人で溢れていた。対策本部ができており、軍や警察、職員、賞金稼ぎ、民間人がいた。第1レイヤーには浮体都市ジエシューと繋がる橋が架かっており、その下の第2レイヤーには海中トンネルがある。海中トンネルを使用する地下鉄は脱線事故と瓦礫の影響で使用不可と判明し、大半の被災者は橋を使用するしかなく、橋は混雑していた。
「押さないで下さ~い!現在地下鉄は利用できませんので橋は大変混雑しています!慌てずゆっくり歩いて下さ~い!怪我を負った方はスタッフに声を掛けて下さい!」
優先的に簡単な身体検査と個人情報の確認を終えたトゥアン国籍の被災者はジェンシャンが乗ってきた輸送機に乗せられ、スニーンを旅立った。その場で待たされていたジェンシャンの許へ兵士が来て彼に尋ねる。
「国盟軍のジェンシャン少佐でありますか?」
「そうだ。」
「スニーンにようこそ。早速対策本部長の許まで案内します。」
「頼む。」
ジェンシャンは対策本部へ案内され、奥でチニ国陸軍中佐である対策本部長と会うと自己紹介され、ジェンシャンも自己紹介する。
「私はトゥアン国陸軍兼国際同盟軍所属のジェンシャン少佐であります。トゥアン国籍の民間人の保護と事態解決に向けた協力に参りました。」
「話は聞いている。人手が増えるのはありがたいがこちらもまだ対策本部を立ち上げたばかりだ。先遣隊を投入したが中の様子は未だはっきりしていない。」
「原因はなんです?」
「まだ分かっていないが、第3レイヤーにあるゲカ研究所が関係しているかもしれん。」
「ゲカ研究所が狙われたと?」
「その可能性もある。急激に増えたゲカアウタレスはゲカ研究所に貯蔵されているゲカを食らった事が原因であってもおかしくはない。だがそれはあくまで推測に過ぎん。そもそも計画的犯行なのか事故なのかも分かっていないのだ。」
「停電が起きてから群れで襲撃するなんて事故にはみえませんけどね。」
「少佐はこれが何者かによるものだと?」
「私はそう考えています。」
「そうか。しかしこれ以上話しても無駄だな。情報が少なすぎる。まずは市内に溢れたアウタレスを排除しなければ。」
「私も市内に同行を?」
「残念だが少佐はあまり目立つ事は控えてくれ。」
「というと?」
ジェンシャンは対策本部長の言葉に驚いた。
「実は上が少佐の現場入りをあまり快く思っていないのだよ。国際同盟の意向を仕方なく受け入れた感じだ・・・そもそも今はまだ部隊の編成も完了していない。申し訳ないが都市の情報収集に協力してくれないか?我々に少佐の知恵を貸してくれ。」
ジェンシャンは少し複雑な思いをしたが、対策本部長の真摯な言葉を受けて気持ちを切り替える。
「なるほど・・・承知しました。情報収集はどちらで?」
「部下が案内する。何か掴んだら連絡をくれ。」
「了解しました。」
互いに敬礼すると、対策本部長は急ぎ足でどこかへ向かった。ジェンシャンがそれを見つめていると、対策本部長の部下が彼に声を掛ける。
「では案内します。」
「ああ、頼む。」
ジェンシャンが案内された部屋には、重ねられた資料の横で端末を操作する様々な職種の者が数名いた。ジェンシャンが挨拶を済ませると、彼はその場にいた巡査に声を掛けた。何故ならジェンシャンは軍の情報規制を恐れたからである。
「君達は具体的にどのような作業をしているんだ?」
そう尋ねるジェンシャンに巡査は答える。
「私達はここに集められた都市内の情報を分析、事態解決に役立ちそうな情報を都市内で行動中の者に提供するのが仕事、って言ってましたよ。只停電もあって都市内から得られる情報は限られていますけどね。」
「そうか・・・色々調べたい事があるんだが協力してくれるか?」
「いいですよ~。何から調べます?」
自身の作業に飽きていたのか、巡査はすんなりと了承してくれた。
「犯罪の可能性はないのか?」
「今のところないですね。あれば犯人探しも平行するはずです。」
「不審者の報告は?怪しい者の出入りとかなかったか?」
「特には・・・あくまで犯罪ありきで調べるんすね。」
「ああ。アウタレスが姿を現す前に変電所と予備発電が落ちたのが意図的に見えてな・・・」
「そのどちらにもアウタレスは現れてますよ?」
報告とは違う情報にジェンシャンは驚きを隠せない。
「停電が起こった後にアウタレスが現れたんじゃないのか?」
「通報を受けた時には確かにそうでしたよ。ですがね、防犯カメラに映ってたんですよ、アウタレス達が変電所を襲っている様子が・・・見ます?」
「ああ。頼む。」
巡査は動画ファイルを開き、端末上で再生してジェンシャンに見せる。
「ほら。」
再生された映像には何体ものアウタレスが変電所に群がる様子が映し出されていた。ジェンシャンは静かに画面を見つめ、巡査が口を開く。
「似たような映像は他の場所でも撮られてますよ。確かに早い段階で配電設備が狙われましたが、これは高電圧に反応するゲカアウタレスが複数体いたからではないかと推測されています。そもそもこんな数のアウタレスを自由に誘導できますかね?もしできるならそいつは間違いなくアウタレスですね・・・」
再生された映像は止まり、ジェンシャンが問う。
「これより先は?」
「映っていません。都市の防犯カメラの多くは現在使用不可です。」
「なぜ?」
「分かりません。停電による不具合か、レンズに反応するアウタレスに破壊されたか・・・」
ジェンシャンは頭を抱える。
「うーん・・・地下鉄の映像は?」
「ありますよ。生物兵器らしきものの使用が疑われているやつとか。」
「生物兵器?」
次々出る新しい情報にジェンシャンの頭は混乱寸前だった。
「死亡したと思われる人間が人を襲い始めているんですよ。ほら。」
巡査は動画を再生し、地下鉄の様子を映し出す。映像を見ると、巡査の言うとおり、挙動不審な人達が他の人間を襲っている姿が見て取れた。ジェンシャンは再び頭を抱える。
「人のアウタレス化にしては数が多いし、挙動が安定してないな・・・」
「皆の見解も同じです。」
「他には?」
「電車が脱線する映像もありますけど・・・特に何もありませんでしたよ?脱線の原因は掴めませんでしたけど。」
「構わない。見せてくれ。」
「了解~。」
巡査が動画を再生すると、暗いトンネルの右カーブで、電車が脱線する様子が映っていた。ジェンシャンは巡査に確認する。
「事故の原因は分かっていないんだな?」
「はい。その通りです。アウタレスの仕業だと疑われていますが、それを裏付ける根拠がありません。更には地下鉄への通路の大半が瓦礫や障害物で立ち入る事が難しくなっています。」
「それも原因不明と。」
「はい。」
ジェンシャンは考え込んでいた。
「なぜ地下鉄にアウタレスが現れなかったのか・・・」
「単純に遠かったからじゃないすかね?それで辿り着く前に通路が塞がれたと。」
「狙いがあるとすると海中トンネルという交通手段を排除したかった?」
「確かに有り得ますね。事実今橋は大渋滞ですし、時間稼ぎも考えられます。しかし都市の混乱に因って事故が度重なったという見解もあります。生物兵器らしきものについては未だ不明ですが・・・もし、少佐が考えるように全て意図的に進んでいるのだとしたら、犯人の目的はなんです?」
「正直なところ全く分からん。それも調べるのが我々の仕事だ・・・もう一度脱線の映像を見せてくれないか?事故原因を調べたい。」
「了解です。」
巡査は再び映像を流す。ジェンシャンが画面を見つめていると、異変を感じる。
「もう一度。」
電車が右カーブを曲がる直前、ジェンシャンは何かに気付く。
「なんだ?」
「どうしました?」
巡査が首を傾げた。ジェンシャンは自分が見たものを彼に説明する。
「人影が見えたぞ。今度はスローで頼む。」
「・・・はい。」
巡査は半信半疑ながら言われたとおり、映像をスロー再生した。すると電車が右カーブを曲がる直前、電車のヘッドライトに照らされたカーブの先に一瞬、人影が映った。巡査もそれに気付く。
「作業員ですかね?」
「拡大できるか?」
「はい・・・画質的にはこれくらいが・・・なんだこれ?」
二人は画面を見て驚愕した。拡大した人影は、人の形をしていなかった。頭と手足が大きく、それ以外は分からなかった。
「なんすか?これ・・・」
「直ぐに調べてくれ・・・いや、それは他の者に任せろ。それよりもう一度変電所や研究所の映像を見せてくれ。」
「分かりました!」
巡査は直ぐに同僚を呼び、動画の解析を頼んだ。同僚に事情を説明すると彼は自分の席に戻り、ジェンシャンに言われた通り変電所や研究所の映像を開き直した。変電所にアウタレスが群がる映像が流れると、ジェンシャンは巡査に指示を出す。
「もっと前まで戻してくれ。」
「はい!」
映像はアウタレスの群れが現れる前までさかのぼり、そこから倍速再生した。二人は画面を凝視すると、巡査は何かに気付く。
「あ、今!影!」
「どこだ?」
巡査が再生すると、確かに影のようなものが動いているのが分かった。この様な映像は予備発電の監視カメラにも映っていた。映像の解析作業を行っていた巡査の同僚が書類を持って戻ってきた。同僚は書類をジェンシャンと巡査に渡す。
「先ほど判明した事ですが、映像に映っている影、推定3m以上だそうです。」
「まじかよ・・・」
巡査が驚く横で、ジェンシャンは指示を飛ばす。
「ありがとう。引き続き調査を進めてくれ。」
「はい。何か掴めましたら再度報告します。」
そう言うと、同僚は自分の席に帰った。ジェンシャンは巡査に更なる映像を要求する。
「研究所の映像も出してくれ。」
巡査が研究所の監視カメラ映像を流すと、ジェンシャンは映る人影に注目する。
「この人影はなんだ?」
「ああ、これですか。これはどうやら銅像らしいです・・・」
巡査の説明を受けて、ジェンシャンは肩を落とす。
「そうか。」
その後も二人は研究所の倍速映像を見たが、アウタレスの群れ以外目新しい情報は見つからなかった。二人の目が疲れてきた頃、ジェンシャンは銅像に異変を感じる。
「おい、ここ戻してくれ。」
「はい。」
「今度は早送り。」
「はい。」
巡査は言われるまま作業をこなす。するとジェンシャンは何かに気付く。
「何かおかしくないか?」
「何がです?」
ジェンシャンは銅像に指を差し、説明を始める。
「銅像の頭に注目してくれ。まずは今の銅像。」
「はい。」
「じゃあ今度は十分後に飛ばしてくれ。」
「はい・・・あ!」
ジェンシャンが示した通り、映像に映る銅像の頭は十分前と十分後とでは形状が変わっていた。ジェンシャンは続ける。
「そのまま飛ばしてくれ。」
巡査が更に映像を飛ばすと、銅像の首はなくなっていた。それを見た巡査は怯える。
「な・・・なんすか、これ?」
「分かるか?頭が変わる瞬間を探してくれ。」
ジェンシャンが冷静に指示すると、巡査は映像を少しずつ進ませながら調べる。
「この辺りですね・・・」
「よし、今度は拡大して再生してくれ。」
「いきます。」
銅像を拡大した映像を見てみると、二人の顔が青ざめた。巡査の口は震えている。
「こ・・・こいつ・・・なんなんだよ・・・」
ジェンシャンは只黙って映像を見つめていた。
映像には、頭の形が変わった後の銅像が映っていた。すると、頭だけがゆっくりと移動し、首のない銅像の後ろを、人影が闇の中に歩いていった。その人影は頭と手足が大きく、地下鉄に映った影と類似していた。カメラが遠くて分かりづらかったが、地下鉄の映像よりは鮮明に映っていた。映る体の方向から察するに、その影はずっと監視カメラの方を向いていた・・・
-第1話~ゲカアウタレス群浮体都市襲撃~ ~完~
強力な助っ人
ゲカ研究所の脅威
調査隊の悲劇
次回-第2話~ゲカアウタレス実験体W.I.~
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