-第4話-
ジノとミミは、脳波安定化補助装置を付け、眠りに就いた。二人はレム睡眠に入り、夢を見始めた。すると二人の脳波は装置と同期し、ジノとミミの意識は夢世界に飛ばされた。曇りの丘に立ったジノは、どこか懐かしさを感じていた。丘の下の闇は黒い穴と同じ効果があり、現実世界に繋がっていると、ミミはジノに説明した。ジノは自身が着ている服を見てみると、全体的に暗めになっていた。
無邪気に驚くジノの横で、ミミは自身の黒い右腕を見つめていた。彼女はジノの視線に気付く。
「皮肉なものでしょ?私の腕はもう無いのに・・・只見てないで何か言えば?」
「いや、俺が見ていたのはそこじゃない。」
「じゃあどこ見てたのよ・・・」
「・・・前より服が可愛くなっているなぁ~っと。」
予期せぬ言葉にミミの顔が赤くなる。
「・・・どこ見てんのよっ!」
「いやいや、裸も見たんだし今更恥ずかしがる事じゃないだろ・・・・・・ん?」
ジノは顔を伏せるミミに近付くと、巨大化した黒い腕が彼を吹き飛ばした。宙を舞うジノはそのまま闇の中に飛んでいってしまった。
「あ・・・」
-第4話~夢の世界への帰還~
ジノは夢世界に再び戻り、彼とミミは気を取り直した。ミミは早速、黒い穴の使い方をジノに説明した。ジノは目を瞑り頭に意識を集中させると、ノイズの様なものを感じた。それが分離信号だ。ジノはその信号を引き寄せる感覚を掴み、見事黒い穴を発する事に成功した。その後も練習を重ね、彼は黒い穴を自在に操る事ができるようになった。
ジノは気になる事があった。何故ジノだけが現実に目覚めた時、脳に障害が生まれなかったのか。彼には一つ心当たりがあった。ジノは自ら黒い穴に入ったのだ。この事が原因だとすると、自らの意思で黒い穴を通る者は安全に現実世界に帰れる、という事になる。ジノはこの推測をミミや医療スタッフに話し、協議した結果、まずは実験してみようという事になった。
ジノとミミは早速、曇りの丘で彷徨う被験者を探した。やがて二人は一人の患者を見つける事ができた。患者はどこへ行けばいいかも分からずずっと彷徨っていた。そこでジノとミミは元居た場所に帰れると説明し、黒い穴を発した。患者に黒い穴を通るよう促すが、患者は恐れで近付こうとしなかった。威圧するミミも原因だ。そこでジノは安全である事を証明するために自ら黒い穴に入った。ジノが戻ってくるまでミミは患者と二人きりになったが、彼女は患者と一言も話さなかった。戻ってきたジノに説得され、患者は恐る恐る黒い穴に入っていった。すると患者は夢世界から目覚め、しばらく検査を受けた。検査の結果、患者に新たな障害は見受けられなかった。ジノ達はその結果に喜んだ。夢世界から安全に目覚める方法が確立したのである。
ジノとミミは何度も曇りの丘に出向き、見つけた患者を少しずつ現実世界へ送り出していた。しかしそれを快く思わない分離信号強硬派は、ペースが遅すぎると批判した。事実ジノの手法は時間と手間が掛かるのだ。これを打開するため、いよいよジノとミミは患者が多く集まる魔法村へ向かう事にした。
ジノとミミが魔法村に着くと、二人は衝撃を受けた。村は以前と様子が違っていた。村の至る所に破壊の跡が見受けられ、物々しい雰囲気が漂っていた。ジノは住民を見つけ、何があったのかを尋ねた。ジノは住民の信頼を得ていたので、住民は重い口を開いた。
ジノが魔法村を離れた後、刃鼠の目撃数が次第に増えていった。病院の分離信号強硬派が信号の使用を増やしていたのだ。刃鼠の勢いは止まる所を知らず、村にも被害が及んだ。村の戦闘員やマホが対処していたが、刃鼠は増え続けた。村の住人が抱える不安やストレスは高まり、互いの信頼関係は崩れていった。住民同士の争いも始まり、助けてくれるマホさえ狙われるようになった。こうして、魔法村の平和は崩れていったのである。
住民がジノに助けてくれと頼んでいた頃、村の中心で戦闘が起こっていた。ジノとミミがそこに駆けつけると、住民同士で戦闘が繰り広げられていた。そこにマホもいた。彼女は戦いを止めようとしていたが、住民は束になってマホに襲い掛かる。最強の魔法使いであるマホにとって相手は大した脅威にはならないのだが、なるべく傷付けないようマホは努力していた。
「ミミ、奴らを止める!手を貸してくれ!」
ジノとミミは戦闘に加わり、無理やり戦闘を止めた。マホはジノとの再会に驚いていた。ジノが互いに引くように伝えると、集まっていた者は散っていった。
辺りが静かになると、マホは肩を落とした。彼女はジノに向かって走り、彼に抱きついた。マホは溢れる思いを堪えきれず、ジノの胸の中で泣き崩れた。彼女は尽力していたが、村の崩壊を止める事ができず、苦しんでいた。ジノは腕に抱いたマホを優しく撫でた。マホの体が火照っているのを感じたジノは、マホが患者達を夢世界に閉じ込めた犯人ではないと信じる事ができた。
暖かい空気が流れる中、一人冷めた者がいた。ミミだ。ジノが不意にミミに視線を向けると、ミミが恐ろしい形相で二人を睨んでいた。ジノは命の危険を感じた。
マホは落ち着きを取り戻し、ジノはずっと考えていた。魔法村が崩壊寸前である事、分離信号の使用類度が上がっている事、残された時間が少ない事。これ等を考慮し、ジノは魔法村に真実を話す事を考えた。だがその前に、その事をマホに話す必要があるとジノは思った。更に話した後のマホの反応を見る事によって、彼女が敵か味方かが分かるとも考えていた。マホが落ち着いたところを見計らい、ジノは夢世界の真実を彼女に打ち明けた。
自分の本当の名がマノである事、自分のせいで多くの人に迷惑を掛けた事を知ったマノは、ひどく落ち込んだ。しかし彼女は夢世界に囚われた患者を全て助けたいと思い、それをジノに伝えた。彼女の思いを聞いてほっとしたジノは、早速行動を始めた。
ジノは魔法村の中心に住民を集めた。彼は皆に夢世界の真実を語った。ミミは群集に目を光らせていたが、住民はジノの話を黙って聞いていた。ジノが話し終えると、住民の反応はまちまちだった。歓喜する者や落胆する者、話を信じない者もいた。村に混乱が起こり、それを見ていたマノは自分の責任だと、一人絶望していた。そんなマノの元に、ジノが話しかける。
「マノは何か勘違いしている。」
「・・・何をです?」
「マノがいなかったらみんなここまで元気になっていないんだ。」
「どういう意味ですか?」
「マノのおかげでみんなの脳波は安定した。みんなの脳は回復したんだ。」
「・・・そう言われても・・・」
「後はどうするか、かな・・・」
「・・・どうって、どうすれば・・・」
「マノはこの世界で最強の魔法使いだけど、マノはこの人達をどうしたい?」
ジノの言葉を受け、マノは考えた。村の住民の事を思い、マノの目に力が入る。
「みんなを、元の世界に帰したい!」
マノが思いを口にすると、魔法村の天候が急変した。雲が渦を巻き、辺りが暗くなった。雲の渦の中から、何かがゆっくりと降りてきた。空から降りてきた何かは、全身が黒かったが、マノそっくりの姿をしていた。
「感じる・・・あれは・・・私だ・・・」
「・・・・・・なるほど。奴がマノの中にいるゲカ・・・みんなをこの世界に閉じ込めた元凶だ!」
マノの言葉を聞き、ジノは黒い魔法使いがこの世界を作った真の敵であると悟った。黒い魔法使いはマノに攻撃してきた。ジノとミミが黒い魔法使いに突撃し、激しい戦闘が幕を開けた。マノはジノに問い掛ける。
「この世界の支配者・・・そんな相手に勝ち目があるのですか?」
「きっと大丈夫だ。勝ち目がないなら初めから戦いに持ち込んだりはしない・・・恐らく奴にとってマノが邪魔な存在なんだろう。だから奴はマノを狙った・・・奴はマノの力を恐れているんだよ!」
「・・・・・・分かりました、私はジノさんを信じます!」
ジノの考えに納得したマノは気合を取り戻し、一気に空を翔る。彼女は迷う事なく攻撃魔法を全力で黒い魔法使いにぶつけ、相手もより強い魔法を撃ち返した。両者一歩も譲らず、魔法の撃ち合いで空が明るくなっていた。
「ここは一人で十分です!早くみんなを元の世界に帰して下さい!」
「・・・分かった!無理するなよ!」
ジノはマノを一人で戦わせたくなかったが、やむなくミミと地上に降り、住民を黒い穴で現実世界に誘導した。しかしそんな彼等に、更なる危機が迫った。村を囲むように、刃鼠の大群が迫っていたのだ。
「クソっ・・・ミミ、現実に戻って分離信号を今すぐやめるよう伝えてくれ。後マノが味方である事もだ。」
「それはジノの役目だよ。私じゃジノみたいに上手く話せないし。」
「しかし・・・」
「・・・それに、あの子もちゃんと守るから・・・ここは任せて。」
ミミの言う事はもっともだった。自分だけ戻るのは気が引けたが、ジノは迷っている場合ではないと、決意を固めた。
「すぐ戻る。」
「うん、待ってる。」
ミミに背を向け、ジノは黒い穴に飛び込んだ。自分の大切なものを忘れないために。
-第4話~夢の世界への帰還~ ~完~
新たな可能性
覚悟の剣
懐かしい風景
次回-最終話~夢の世界の記憶~
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