-最終話-
現実に戻ったジノは今すぐ分離信号を止めるよう医療スタッフに求めた。マノは無実であり、患者を夢世界に閉じ込めたのはマノの中にあるゲカが原因であると、ジノは訴えた。病院は2名のヒカ硬化症患者という別の問題も抱えており、現場は荒れていた。おかげで脳波安定化補助装置の対応にも遅れが生じ、新たな動きがあるまでジノは病室で待たされる羽目になった。
-最終話~夢の世界の記憶~
ジノの話を聞いた医療スタッフの一人は、夢世界の崩壊を危惧した。もしマノが黒い魔法使いに敗れてしまうと、マノはおろか、夢世界に残された患者も帰還が難しくなる可能性があるのだ。更にマノが夢世界の均衡を保っている以上皆を無事現実に戻すには、彼女が夢世界に最後までとどまらないといけない可能性があると指摘した。
マノを置き去りにしたくない。どうすれば彼女を安全に送り帰す事ができるのか、ジノは悩んでいた。そうしていると、ジノはパワードアーマー(パワードスーツを着て乗り込む人間サイズの人型ロボット。人型強化装甲。)を見た。どうやら彼等は医療機器を運んでいるようだった。
パワードアーマーが去ると、医療スタッフがジノの元に戻ってきた。医療スタッフによると、分離信号の使用はこのまま続行される見通しだ。もう時間がない。早く残りの患者を現実に送る必要があった。急いで準備し、ジノは夢世界へと向かった。
ジノが夢世界に着くと、彼のすぐ後ろに闇が迫っていた。ジノは直ぐ様闇から離れた。分離信号の強化により、丘の下を囲む闇が、魔法村に迫っていたのだ。
魔法村でミミと合流したジノは事情を説明し、急いで残りの患者の誘導を続けた。頭上でマノと黒い魔法使いの戦闘が繰り広げられる中、刃鼠の群れがジノとミミに迫っていた。
「私がやる!ジノはみんなをお願い!」
ミミはジノの誘導を守るため、刃鼠の群れに立ち向かった。彼女は見事刃鼠の進攻を食い止める事に成功するが、村に迫る闇が直ぐそこまで来ていた。
「ジノ!急いで!」
「ミミっーーー!!」
ミミは闇に呑まれ、現実に帰された。しかしミミのおかげで、ジノは残っていた患者を現実に帰す事ができた。残りはあとマノだけであった。ジノはマノの元に向かった。
住民の避難も終わり、村を守る必要が無くなったマノは、黒い魔法使いに近付く。
「もう終わりにしよう、この夢と共に・・・」
巻き込まれる村を気にせず、マノと黒い魔法使いは互いに最大の魔法をぶつけ合った。ジノはマノの元に辿り着く。
「マノ!あとは君だけだ!」
「・・・ありがとう。でも大丈夫です。」
「マノ?」
マノは振り向き、ジノに優しく微笑む。
「私は残ります。ジノさんはみんなのところへ帰って下さい。」
「そんな・・・」
「私が止めておかないと、この子が何をするか分かりません・・・だから最後まで私がこの子を止めてみせます。」
ジノは、マノに何も言い返す事ができなかった。
「ジノさんに会えて、私は幸せです・・・眠りから覚める事ができたら、ジノさんに会いに行きます・・・」
「ああ・・・分かったよ。マノの事ずっと覚えているから・・・」
「約束ですよ、ジノさん。」
ジノは黒い穴を発し、マノは彼に背を向け、溢れる涙を隠した。ジノは覚悟を胸に、前に進む。
「えっ?・・・」
マノは肩に置かれたジノの手に驚いた。ジノは掴んだマノの肩を引き、すぐ後ろの黒い穴に彼女を放り投げた。黒い魔法使いは魔法でマノを狙うが、ジノが魔法を剣で切り裂きながら黒い魔法使いに突っ込んだ。マノは彼に手を伸ばしたが、そのまま黒い穴に入っていった。マノが最後に見たのは、ジノの背中だった。
黒い魔法使いは魔法をジノに突き刺すが、ジノは黒い魔法使いをそっと抱き締めた。
全てが真っ白になり、夢の世界は終わりを迎えた。
ジノは長い夢から覚めると、彼は少女の膝の上に居た。少女は、サイボーグの右腕を着けていた。ミミだ。ミミはその後、右腕のサイボーグ手術を受けた。ミミはジノが寝ている間、こっそり彼の頭を自分の膝の上に乗せていた。ミミの顔を確認すると、ジノが口を開く。
「おはようございます。ミミさん。」
「ミミでいいよ。」
ジノは夢世界の崩壊と共に、記憶を失っていた。マノは新たな障害もなく意識が戻り、ゲカ硬化症の治療に励んだ。ジノは記憶を失ったが、頻繁に顔を見せるミミとマノと交流を続けていた。今回は三人でピクニックに来ていた。ミミの膝の上で横になるジノに気付き、戻ってきたマノが不機嫌になった。彼女はジノの胸に飛び込む。
「ああ~、ミミさんずるい!ジノさぁ~ん!」
「おい、ジノから離れろ!」
三人がいる丘に、優しい風が吹いた。ミミとマノのテンションに戸惑いながらも、ジノはどこか懐かしさを感じていた。
-最終話~夢の世界の記憶~ ~完~
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