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2015年3月17日火曜日

Kind Soft Song~カインド・ソフト・ソング~第3話~ユウとジュウの希望~

-第3話-

   ユウとジュウはバンド、カインド・ソフト・ソングを結成し、二人は早速バンド練習や曲作りに励んでいた。そんな二人を見守るモコは護衛の助っ人として、二人の賞金稼ぎ仲間を呼んだ。一人目はクナウ・ヒノホ。25歳の男性。ジュポ国出身。仕事でよくパワードアーマー(人型強化装甲。パワードスーツを着て搭乗する人間サイズの人型ロボット)に乗っている。



二人目はムヒ・カジカ。24歳の男性。サイボーグである。ジュポ国出身。


二人はモコと親しく、信頼できる友だった。モコから依頼内容を聞いたヒノホとカジカは、どこか浮かない顔をしていた。

「なぁ、護衛なんてよく分からないぜ?しかもばれずにやるのかよ・・・パワードアーマーは目立つと思うぞ?」

弱音を吐くヒノホに続いて、カジカも愚痴をこぼす。

「俺も護衛なんてきついぜ・・・一体何すりゃいいんだ?」

テンションの低いヒノホとカジカはお構いなしのモコが、二人に指示する。

「まずヒノホは送迎用のバンの運転手をやってもらう。そしてカジカはサイボーグだから自由に顔を変えられるだろ?お前は変装を繰り返し通行人の振りしてユウとジュウを護衛しろ。不審者の注意も忘れずにな。」

「パワードアーマーじゃなくて車の運転なのか・・・」

落ち込むヒノホの肩をカジカが叩いていると、ユウとジュウがやってきた。

「こんにちは、モコさん。」

ユウが挨拶し、モコがユウとジュウに、ヒノホとカジカを紹介する。

「紹介するね。こちらがクナウ・ヒノホ。それとこちらがムヒ・カジカ。二人共私の賞金稼ぎ仲間よ。二人はミュージシャンになる夢があったんだけど才能なくてねぇ~・・・だからユウちゃんとジュウ君に協力してくれるんだって。」

「え?」

初めて聞いた設定にヒノホとカジカは心の中で困惑した。ユウとジュウもヒノホとカジカが何を協力してくれるのかよく分からないでいた。ユウが質問する。

「ヒノホさんとカジカさんはバンドに加わるのではないのですか?」

「二人にはバンドの裏方をしてもらう。」

自信満々に説明するモコに、皆は只頷く事しかできなかった。結成間もなくバンドメンバーより裏方の方が多いという謎を、誰も口にはしなかった。相変わらず笑顔なジュウを見て、ユウは色々と吹っ切れる。

「はぁ・・・」

-第3話~ユウとジュウの希望~

   準備が整ったカインド・ソフト・ソングは活動を始め、色々なところでライブをした。元々ユウとジュウは地元で少し知られており、二人のファンは増えていった。二人は共同で曲作りをし、「君に逢うために」という歌を完成させた。この歌は聞いた人々の心を掴み、カインド・ソフト・ソングの知名度は上がっていった。ユウとジュウは症状で苦しむ事もあったが、その時は互いに励まし合っていた。

その一方で、裏方を務めるはずだった賞金稼ぎの三人は、毎回トラブルを起こしては周りに迷惑ばかり掛けていた。機器の準備や手入れだけは上手くなったのだが、客の誘導、スケジュールの管理、ライブハウスのスタッフとの打ち合わせ等、どれもめちゃくちゃだった。挙句の果てにはギャラを払わないライブハウスの店長に対して、怒ったモコが店長に掴みかかった。

「モコさん落ち着いてください!今回はギャラ無しの出演なんですよ!」

ユウや周囲の人間が、暴れるモコを抑えようとしていた。

「入場料取ってるくせに、こっちが演奏してやったらギャラ無しっておかしいだろ!」

「よくある事なんですよ!最初にそういう話したじゃないですか!」

モコは止まり、少し冷静になる。

「・・・そうなのか?」

「・・・話はしっかり聞きましょうね・・・」

その後ユウを筆頭に五人全員はライブハウスの店長に頭を何度も下げ、なんとか許しを得る事ができた。

「少し話をしてもよろしいでしょうか?」

顔色を変えず、微笑みかけるユウに恐れを覚えた賞金稼ぎの三人は、そっと息を呑んだ。

「誰だって怒る事はあると思いますが、人を傷付けては駄目です。誰かを傷付けると、自分も傷付いてしまうから・・・バンドの役に立ちたいという思いは素敵だと思います。でも私にはモコさん達が無理しているように見えます・・・何か事情があるのですか?」

(これはまずいぞ・・・)

賞金稼ぎ三人はユウの笑顔に身動き取れず、何も言えないでいた。

「・・・正直に話そう。実は私達、イヨ先生から依頼を受けたんだ。」

モコのぶっちゃけに、ヒノホとカジカは心の中で叫ぶ。

(あああああ~~~!!!)

「どういう事ですか?」

ユウの質問に、モコが答える。

「ユウとジュウの容態を見ていて欲しい。そうイヨ先生に頼まれたんだ・・・ヒカ硬化症は症例が少なく対処法もよく分かっていない。しかもヒカに因る病だ。何が起こるか分からない。だから私達が常に側にいる事で、二人の異変にすぐ駆けつける事ができる。言ったでしょ?二人は私が守るって。」

「そうだったんですか・・・もう嘘は駄目ですよ?」

ユウはモコの嘘を信じた。

「分かった。ユウちゃんとジュウ君にはもう嘘は付かないよ・・・二人を騙してごめんなさいね。」

ヒノホとカジカは黙ったまま、目をキョロキョロさせていた。只会話を聞いていたジュウは言う。

「私は気にしてませんよ。皆といると楽しいし。」

 ユウとジュウは二人でバンド活動を再開し、賞金稼ぎ達は簡単な作業のみを手伝っていた。モコはこの事をイヨ先生に報告した。

「相変わらず冷や冷やさせるなー・・・しかし医療目的とは考えたな。ならそれを上手く利用しよう。」

イヨ先生は呆れながらも、ヒカ硬化症に関する簡単なマニュアルを作成し、ヒノホが運転を勤めるバンの改装も手伝った。バンの中には医療品が備えられ、簡単な応急処置に対応できるようになった。賞金稼ぎの三人は戦地に出向く事もあり、簡単な応急処置程度の知識なら既に持ち合わせていた。

「準備できたか~?」

運転席で暇そうにしていたヒノホが呟いた。バンの後ろ座席では、カジカが変装のため着替えている。

「もう少し待ってくれ。」

カジカは顔のパーツを換え、別人の姿になっていた。

「しっかし窮屈な仕事だな~・・・このままじゃエコノミー症候群になっちまうぜ・・・」

「まぁ動きがないのはこの仕事が上手くいっている証拠さ。何もなけりゃあ経費も増えず金も入る。悪くねぇ話だ。」

「冗談言うなよ・・・一回のミスで最悪な状況にもなりかねん・・・俺達がいくら傷付こうが大した事はない。だがあの子達に傷一つ付ける事はあってはならない・・・絶対に・・・心臓がいくつあっても足りねぇや。」

変装を終えたカジカがバンのドアを開ける。

「お前さんはいい親父になれるかもな。」

カジカは通行人に紛れ姿が見えなくなり、ヒノホはバンに残った。

「うるせぇ。」

   音楽活動を続けた結果、ユウとジュウの知名度は上がり、インディーズで名が広く知られるようになっていた。ある日イヨ先生は大事な話があると、モコ達五人を大学病院へ呼んだ。彼はスクリーンの前に五人を集め、映像を映し説明を始める。

「まずはこれを見てくれ。」

映像には電子顕微鏡で拡大された細胞のようなものが映っていた。

「これは人間の細胞かなんかか?」

カジカがそう言うと、イヨ先生が答える。

「そうだ。これはユウさんの細胞を拡大したものだ。」

「きゃあ!」

「なんで恥ずかしがるんだよ・・・」

赤面するユウにモコがツッコミを入れた。

「だって、ジュウ君にも見せた事ないし・・・」

「何言ってんだお前は・・・」

モコはすっかり呆れていたが、ジュウはいつもながらのジュウスマイルを振りまいていた。苦笑していたイヨ先生が続ける。

「そろそろいいかな?・・・ごほん、このユウさんの細胞はヒカの影響を強く受けていて、弱り、硬化も進んでいる。本来の姿ならこうだ・・・ところがこの弱った細胞にある細胞を加えると、こうなる。」

映像は変わり、先程の細胞より本来の形に近い細胞が映し出された。それを見た皆が驚く。

「おおお。」

「もしかして治療法が見つかったのか?」

カジカが問うと、イヨ先生が言う。

「このユウさんの細胞を蘇らせたのは、ジュウ君の細胞なんだ。」

「え?」

衝撃を受けたユウはジュウと見つめ合った。モコが問う。

「どういう事だ?ジュウは病を治す力があるのか?じゃあジュウの病は?」

「ジュウ君に特殊な力がある訳じゃない。ジュウ君の健康な細胞を使ったんだ。」

「なら逆もできるのか?」

「その通り。ユウさんの健康な細胞を使用した結果、弱ったジュウ君の細胞も蘇ったよ。何故この現象がみられたか。有力なのは健康な細胞が持つヒカ硬化症に対する抵抗力だ。ユウさんとジュウ君が持つ抵抗力の強い細胞を互いに共有し合えば、病を弱らせる事ができるかもしれない。」

「すげぇ・・・やったな。」

カジカはジュウの肩を叩き、ユウは目に涙を浮かべていた。ヒノホは先生に質問する。

「この治療法はいつ使えるんだ?」

「今はまだ無理だ。治療する部位、量、時間、拒絶反応・・・まだまだ調べなければならない事が多い。他の患者への適応も難しいだろう・・・只言えるのは、希望が残っているという事だ。だから君達も諦めないでくれ。私も力を尽くす。」

一行が帰る支度をしていると、モコはイヨ先生に別の部屋に呼ばれ、彼の忠告を耳にする。

「病院内部からも不正アクセスの痕跡が見つかった。敵は内側にもいるぞ。」

「私達の事は?」

「ヒカ硬化症は極めて稀な病だからな。賞金稼ぎを使った看視に異議を唱える者はまだ出ていない。只今後はより注意を払ってくれ。」

「分かった。早く犯人を見つけてくれ。」

「それは俺の仕事じゃない・・・」

   イヨ先生がヒカ硬化症の解析を続ける一方、ユウとジュウの症状は少しずつ悪化していた。ジュウよりも闘病生活が長いユウには、運動障害の兆候が見え始めた。それでもユウは悲しい顔をせず、ジュウは彼女に寄り添い、二人を賞金稼ぎの三人は見守っていた。そんなある日、夜の商店街の一角で、カインド・ソフト・ソングの路上ライブが決まった。ユウとジュウは路上ライブでスピーカーやアンプを使用しないため、商店街でのライブが許可された。そして迎えたライブ当日の夜、いくつかの店のシャッターが閉まる頃、ユウとジュウを見に来たファンが集まっていた。人数はそれほど多くはなかったが、彼等は皆二人の歌を心待ちにしていた。三人の賞金稼ぎが見守る中、ライブが始まった。時折来る病の痛みに耐え、ユウは熱心にギターを弾き、歌い続けた。二人が重病を患っている事を既に知っているファンも多く、彼等は静かに精一杯の声援を送っていた。ユウは一生懸命演奏し、ジュウとファンのテンションが高まった頃、それは起きた。

ユウは声が出なくなっていた。

歌はユウのソロパートに差し掛かったが、ユウの歌声は聞こえない。ユウは必死に声を絞り出そうとするが、音が上手く出てこなかった。ジュウは異変に直ぐ気付き、ファンもユウの悲しそうな顔を見て気付いた。ユウはギターを弾きながらジュウを見つめた。すると彼女の目には、いつものように微笑みかけるジュウの姿が映った。

大丈夫だよ。

彼の目はそう伝えていた。そしてジュウはユウのパートを歌い始めた。彼はユウのパートもしっかり覚えていた。涙をこらえ、ユウはギターを引き続けた。歌も後半に入り、再びユウのパートに差し掛かっていた。ユウはジュウに向けて小さく首を振り、歌えない事を伝える。そしてジュウがユウのソロパートを歌おうとした、その時だった。

一人のファンがユウのパートを歌い始めたのだ。続けて一人、また一人と歌い始め、ジュウは歌う事をやめ、ファンに任せた。歌えないファンは手拍子をし、それを目の当たりにしたユウは嬉し涙を溢れさせていた。歌は最後のコーラスに入り、ジュウはファンと一緒に歌い、ファンをリードする。彼はギターを弾く事をやめ、ラストのギターをユウに任せた。ユウは溢れる涙を堪え、必死にギターを引き続けた。歌が終わると歓声が上がり、ファンがはしゃぐ。あまりの感謝で耐え切れなくなったユウはジュウの胸の中で泣いた。するとファンは二人を茶化し、祝福した。ファンにとっても、ユウとジュウにとっても、そのライブは忘れられない思い出になった。

そのライブをしんみりと見守っていた三人の賞金稼ぎ達は、優しくそっと微笑んだ。

-第3話~ユウとジュウの希望~ ~完~

活動休止
治療作戦
賞金稼ぎの覚悟

次回-第4話~ヒカ硬化症との戦い~

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