-第4話-
路上ライブで声が出なくなったユウは回復し、声も戻った。しかし彼女の容態は日に日に悪化し、検査の結果、ユウは入院する事となった。これはバンド活動の中止を意味し、カインド・ソフト・ソングは無期限休止を発表した。ユウとジュウのファンは悲しんだが、彼らはユウの回復を祈った。賞金稼ぎの三人は交代で大学病院に寝泊りし、ユウの警護に当たった。ジュウは暇を見つけては毎日ユウのお見舞いに来ていた。優しい彼が会いに来てくれる事を喜んではいたが、ユウは少し罪悪感を抱いていた。
「ジュウ君まで音楽をやめなくていいんだよ?」
ベッドの上で弱々しい声を放つユウに、ジュウは近付いてそっと呟く。
「僕は今ユウさんとバンドを組んでいるから、ユウさんと一緒にいるよ。」
ユウは嬉し涙を浮かべ、ジュウの手を握った。ジュウは一日の大半を、ユウの病室で過ごしていた。その後ジュウの願いが叶ったのか、容態が悪化したジュウも入院する事となった。賞金稼ぎの三人からするとユウとジュウが一箇所にいてくれて負担は減るのだが、彼等は全く喜べなかった。ユウとジュウは毎日一緒に過ごし、二人の距離が縮まっていくが、二人の寿命も縮んでいく。ヒカ硬化症は二人を蝕み、治療法の確立は急務だった。
-第4話~ヒカ硬化症との戦い~
警察はイヨ先生やモコといった一部の関係者を呼び、捜査結果を報告した。警察の捜査により、ヒカ硬化症に関する資料を狙った犯人が特定された。犯人は国外で営業する外資系の製薬会社だった。会社の規模は大きくないが、調べると大企業の傘下にいる事が分かった。犯人は親会社の指示で動いているものと推測されるが、まだ証拠は挙がっていない。更にこの製薬会社は傭兵部隊、「シノソ」と契約した事も分かった。
「シノソだと?」
モコが衝撃を受けていると、イヨ先生が問う。
「彼等を知っているのか?」
「ああ、名前くらいならな・・・しかし傭兵となると、雲行きが怪しくなってきたな・・・」
ユウとジュウが入院した頃から、シノソ傭兵部隊の行方は分からなくなっていた。警察は傭兵部隊がユウとジュウを狙うため動き出したと推測し、二人を警護するため病院に私服警官を配置した。以来病院の周辺付近では不審者の報告が増え、警察や病院は危機感を募らせていた。
ジュウが体中の痛みに悩まされていた頃、イヨ先生がモコの元へ走ってきた。
「おいおい、どうしたんだよ。」
驚くモコを前に、イヨ先生は息を整える。
「臨床試験の許可が下りたぞ。これでユウとジュウを治療できるかもしれない。」
「本当か。じゃあ治療法ができたんだな?」
喜ぶモコとは裏腹に、イヨ先生は浮かない顔をしている。
「ああ。後は二人と二人の家族の承諾を得れば大丈夫だ・・・只手術は別の病院で行うだろう・・・」
「なんでだ?ここじゃ駄目なのか?」
「警察からユウとジュウを別の病院に移してくれと頼まれてな。秘密裏に、もっと警備がし易い病院へと・・・この病院は内にも外にも敵がいる。特に面倒な傭兵部隊も行方不明のままだ。手術の件について敵もその内知るだろう。」
「この病院で適切な治療を受けた方がいいと思うが・・・他の病院でもその治療法が使えるのか?」
「まぁいくつか機材を運べば大丈夫だ。確かにここで治療できれば一番良いのだが・・・」
モコは何も言わず窓に向かい、考えた。自分に何ができるか、ユウとジュウに何をしてやれるのか。考えた末、モコはイヨ先生に振り返る。
「とりあえず傭兵部隊をなんとかすればいいんだよな?ユウとジュウの護送の件、私に任せてくれないか?」
「あ、ああ。警察に掛け合ってみよう。」
モコは病院、警察と話し合い、ユウとジュウの護送の日程が決まった。ユウとジュウはチタイ副都心の外にある病院に送られる事になる。そして迎えた当日、モコはヒノホとカジカと話し合っていた。モコは二人に最終確認をする。
「本当にいいのか?降りるなら今の内だぞ?」
そう聞いたヒノホが余裕を見せる。
「最後まで守ってやるさ。それが仕事だからな・・・それにモコは一人でもやるつもりなんだろ?」
「俺はその分報酬が入るなら文句はねぇな。」
カジカも緊張している様子はなく、普段通りに振舞っていた。そんな二人を見たモコは安心する。
「やっぱお前等は最高だな。」
続いてモコは医療ベッドに横たわるユウの元にやってきた。
「人が多くて慌ただしいですね。」
医療スタッフ以外に私服警官も多く、ユウは不審がっていた。そんな弱々しいユウの笑顔を、モコが覗き込む。
「ユウの病気は難しい病気だからね。それに皆、ユウちゃんを守ろうと頑張っているんだよ。」
「嘘は駄目ですよ、モコさん。」
ユウは何かを察しているようだった。
「嘘なんかじゃないよ。ユウは私達が絶対守るから、ユウは病気に勝たなきゃ駄目だぞ。」
「はい、ありがとうございます。じゃあこれからもモコさんが私達を守って下さいね?」
「・・・ああ。」
モコが微笑むと、ユウは少し涙ぐんでいた。
昼頃、賞金稼ぎ三人と警察はユウとジュウの護送作戦を決行した。ユウとジュウの医療ベッドの周りを人で囲み、病室から病院の地下駐車場に向かった。イヨ先生も、彼等と同行していた。一行は地下駐車場に着き、賞金稼ぎ達と警察が前を進む。安全を確認し、一行が進むと、先頭にいたモコが突然立ち止まり、皆に振り返り言う。
「ここから作戦変更だ。」
病院の出口から、一台の黒い車が出てきた。しばらく間を置き、別の車がその車の後を追った。数分後、病院からもう一台の黒い車が出てきた。先程と同じように、また別の車がその車を追った。それぞれ違う方向に進む二台の黒い車を、二台の車が追ってきた。黒い車を追ってきたのは、傭兵部隊、シノソだった。傭兵は黒い車の中を確認するため、車に近付いてくる。それに気付いた黒い車は加速し、傭兵の車も加速する。黒い車は追っ手を振り切ろうと運転が荒くなるが、傭兵は気にせず突っ込んできた。都市の中でカーチェイスが始まり、警察が動き出した。焦りだした傭兵は銃を出し、それぞれの黒い車を撃ち始めた。一台目の黒い車の窓ガラスは割れ、車内の様子が見えた。運転していたのはモコで、それ以外の者は見当たらなかった。モコが駆る車両が囮であると確信した傭兵はモコを追う事をやめ、もう一台の黒い車を追うため道を引き返した。
「行かせるかぁあああ!!!」
モコはドリフトしながら傭兵を追った。今度はモコが傭兵を追う側になった。一方別の黒い車も、傭兵から銃撃を受けていた。車内からカジカが銃を構え、傭兵に応戦した。車を運転していたヒノホはモコから連絡を受け、叫ぶ。
「おい、モコがばれた!あとちゃんと狙えよ!流れ弾が一般人に当たるぞ!」
「くそ・・・しょうがねぇな・・・」
カジカはアサルトライフルを背負い、窓を全開した。
「おい、どうする気だ?」
「奴らを直接叩く。後は任せるぜ。」
「おい!」
カジカは窓から車の屋根に上り、脚を踏ん張り一気に跳んだ。乗っていた車の屋根は凹み、彼は全体重を掛けて敵車両のボンネットに着地した。反動で敵車両の尻が浮き、車のフロントタイヤがバーストした。
「サイボーグを舐めるなよ。」
撃たれながらも体制を整えたカジカは敵車両のフロントガラス目掛けてアサルトライフルを乱射した。敵車両はコントロールを失い、火花を散らしながら横転した。カジカはその反動でボンネットから吹っ飛ばされた。
「くそっ!」
ヒノホは車を止め、アサルトライフルを取り出し車から降りた。辺りを警戒しながら、ヒノホは少しずつ敵車両に近付いていく。地面には動かない傭兵が横たわっていた。ヒノホは蹴りを入れ、その傭兵の意識を確認する。すると一人の傭兵が車内から飛び出し、ヒノホを銃撃する。ヒノホは撃たれ、彼は地面に崩れ落ちた。傭兵は直ぐ様走り、ヒノホが運転していた車の車内を覗き込んだ。車内には誰もいなかった。唖然とする傭兵は横から撃たれ、そのまま倒れた。撃ったのは地を這ってきたヒノホだった。
モコは尚もカーチェイスを繰り広げていたが、敵車両を止められずにいた。モコが焦っていると、何かを思いつく。彼女は運転席からロケットランチャーを構える。
「死ねぇえええええ!!!」
ところが彼女のランチャーを見てみると、弾薬が装填されていなかった。モコは空のランチャーを構えていたのである。ランチャー片手に、とんでもない笑顔のモコが車を飛ばす。それを見た敵は避けようと咄嗟にハンドルを切り、モコはそれを見逃さなかった。アクセルを思いきり踏み込み、モコは車を敵車両の尻にぶつける。敵車両はスリップし、道の電柱にぶつかり停車した。しかしモコはアクセルを緩めず加速を続け、傭兵達が降車する前に、敵車両に衝突した。衝撃で傭兵達が乗る車両とモコが乗る車両はそれぞれ大破した。どちらの車両からも、降車する者はいなかった。
結局のところ病院から出てきた二台の車両のどちらにも、賞金稼ぎの三人以外は誰も乗っていなかった。つまりどちらも囮だったのである。病院内にも敵がいる事を知らされていたモコはユウとジュウの護送中、襲撃にあう事を警戒し、ぎりぎりまで当初の作戦を遂行していた。そしてユウとジュウを車に乗せる前に作戦を変え、二台ともを囮にし、その他を病院に残した。傭兵部隊は作戦変更を知らないまま、囮を追った。僅かに残っていた傭兵部隊は病院に潜入したが、私服警官が病院に残り警護を続けていたため、多くは直ぐに取り押さえられた。こうしてユウとジュウを狙った傭兵部隊の計画は失敗に終わった。
モコと傭兵部隊の車両が衝突した現場には、警察や消防が集まり始めていた。血まみれでハンドルに寄りかかるモコの目は動く事なく、彼女の顔はそっと微笑んでいた。
-第4話~ヒカ硬化症との戦い~ ~完~
治療の行方
ファンとのライブ
馴染みのある客
次回-最終話~ユウとジュウの歌~
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