-第3話-
2月16日日曜日深夜、ウキン国東アイノス市駐留軍内の反乱分子が一斉にクーデターを起こした。クーデターの可能性を知っていながら、この事態を回避する事ができなかったベッフィーは歯を食いしばり煙が上がる陸軍基地に向かって走っていた。彼女は基地に連絡を取ろうとしたがどこも繋がらず、恐らく反乱軍の通信妨害だろう。基地の方から明かりが点滅し、爆音や銃声が聞こえてくる。どうやら基地で戦闘が始まっているようだ。基地の近くまで来たベッフィーは一度自宅に戻った。彼女は急いで部屋に入り隠してあるライフルや装備を取り出し、戦いに備えた。
-第3話~東アイノス市の反乱軍~
装備を身に纏ったベッフィーは再び基地に向かい、その惨状を目の当たりにした。数箇所から火が燃え広がり、同じ部隊の兵士同士で撃ち合っていた。ベッフィーが小走りしていると、後ろから彼女の部下が車に乗ってやってきた。部下は状況を把握しておらず、様子がおかしい基地を見に来ていた。ベッフィーは部下の車に飛び乗り指示する。
「よし、いいところに来た。このまま基地に突っ込め!」
「車買ったばかりなのに・・・」
部下は涙目でアクセルを踏み込んだ。
ベッフィーと部下は車で基地内を走っていたが、反乱軍の姿は減り始めていた。武器弾薬を奪った反乱軍は基地から徐々に撤退し、北に向かっていた。それを知ったベッフィーは反乱軍の目的を悟る。
「そういう事・・・奴らの目標は東アイノス市なんかじゃない、西アイノス市よ。」
「この基地を乗っ取る訳ではないという事ですか?」
部下の問い掛けにベッフィーが答える。
「そうね。奴らの狙いは西アイノス市の殲滅だわ。」
「そんな事をしたら大問題ですよ!」
「問題なんていくらでもあったからね、今に始まった事じゃない・・・滑走路に向かって。まだ間に合うかもしれない。」
怯えながらも部下は車を走らせ、滑走路に向かう。滑走路付近では反乱軍と正規軍が銃撃戦を続けていた。ベッフィー達も到着し、戦闘に加わった。戦闘中、ベッフィーの部下は反乱軍兵士が皆首に手榴弾を巻き付けている事に気がついた。
「曹長、なぜ奴等は皆首に手榴弾を巻いているのですか?」
「目がいいね。あれは各国の特殊部隊がごく稀に使用する自爆装備よ。」
「自決用ですか?」
「そう、痛みを感じる事なく頭が吹き飛ぶわ。捕虜になる事や敵に情報が漏れる心配もなくなる。サイボーグ脳でも破壊できるように高威力型を使用しているはず。」
「正気とは思えませんね・・・」
「心を捨てないとできない事もあるのよ・・・」
ベッフィーがそう囁くと、飛び立とうとする1機のティルトローターが見えた。ティルトローターの横には数人の兵士が待機しており、その中にウェスターとウェラーがいた。
(・・・いた!!)
ベッフィーはすぐ様ティルトローターを攻撃し、ウェスターの出発を阻止しようとした。ウェスターの周囲を固める兵士が応戦し、ベッフィーは思うように動けなかった。ウェスター達はティルトローターに乗り、機体が進み始めた。反乱軍の重要人物であるウェスターをなんとしてでも止めたいベッフィーは部下を無理やり車に乗せる。
「あの機体に突っ込め!」
死を覚悟した部下は思い切りアクセルを踏み、敵に向かっていく。敵の猛攻を受け、部下は頭を下げながらハンドルを握り続けた。
「いいぞ!そのままいけ!」
ベッフィーは敵に応戦しながら狙撃のチャンスを窺っていた。ウェスター達が乗るティルトローターが宙に浮き、基地から離れようとしていた。それを見たベッフィーは車の窓から身を乗り出し、ライフルを構える。彼女はティルトローターに乗ったウェスターと目が合い、ベッフィーは躊躇無く引き金を引いた。ベッフィーの放った銃弾はティルトローターの窓を直撃したが、防弾ガラスのためひびが入る程度だった。防弾でなければウェスターの頭に命中していただろう。これは彼に対するベッフィーの意思表示だった。彼女はライフルを下げ、飛び去るウェスターを見つめていた。
武器弾薬を奪った反乱軍は手際よく基地から引き上げたため、彼等との戦闘における負傷者は少なかった。ベッフィーの予想通り反乱軍は北から西アイノス市に進軍しようとしていた。一部の東アイノス軍の兵士達は反乱軍を追おうとしたが、軍は現状を把握するため全兵士を基地に緊急招集した。これは反乱に加わった者と残った者の確認と反乱軍掃討作戦のためであった。東アイノス市は反乱軍が向かっている事を西アイノス市に連絡し、突然の事に西アイノス市はパニックに陥った。
緊急招集を受けた東アイノス軍兵士が続々と基地に集まり、反乱軍を掃討するための即席部隊が編成された。部隊仲間が反乱に加わった事を知って落胆する兵士や裏切られた怒りを露にする者もいた。作戦が指示される中、このままではウェスターに追い付けないと確信したベッフィーは上官に作戦の一部変更を求めた。案の定上官の怒りを買ったが、現状のままでは後手に回ると、ベッフィーは一歩も引かなかった。上官は仕方なくベッフィーの作戦を聞いてみる事にした。
東アイノス軍は反乱軍と同じように北に回って西アイノス市に向かう予定だが、ベッフィーは一個小隊を直接西に攻め込ませる作戦を提案した。こうすれば先回りして進攻する反乱軍を足止めできると踏んだのである。しかし西から直接西アイノス市に向かうには西に続く谷を突破しなければならない。この谷は西アイノス軍の防御が厚く、突破は非常に困難である。そこでベッフィーは進路上の敵を爆撃しながら航空機で進軍するという非常に危険な作戦を立案した。確かに上手くいけば最短距離で西アイノス市に入る事ができるが、味方の爆撃の中を飛行するのはリスクが高い。ベッフィーは仮に失敗しても陽動になると言い張り、上官は判断に困っていた。するとベッフィーを信頼する部下達が作戦への参加を希望し、上官はそれを了承した。
軍の了承を得たベッフィーの部隊には輸送機、攻撃機、榴弾砲、無人機やフライトパワードアーマー(パワードスーツ用のパワードスーツ。人型強化装甲。)が加わった。東アイノス軍は準備を終えた反乱軍掃討部隊に出撃命令を出した。ベッフィーが率いる部隊も出撃を開始する。彼等には反乱軍を指揮している可能性があるウェスター・ノーブロー元大尉の確保という任務が与えられた。ベッフィーの立てた作戦では敵味方関係なく数多くの爆弾が落とされると予想されるため、「オペレーション・シットピット(糞溜め)」と命名された。
夜明け前、ベッフィーの旧友、ウェスターとウェラーが加わる反乱軍を阻止するための作戦、オペレーション・シットピットが開始された。
-第3話~東アイノス市の反乱軍~ ~完~
爆撃の谷
落ちる戦友
強行突破
次回-第4話~オペレーション・シットピット~
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