-第4話-
2月16日日曜日の夜明け前、ウキン国東アイノス軍は西アイノス市に進攻した反乱軍を追って出撃を開始した。反乱軍は既に西アイノス軍と交戦状態に陥り、西アイノス市は突然の事で初期対応が大幅に遅れていた。反乱の重要人物であり、親友であるウェスター・ノーブロー元大尉を止める事ができなかったベッフィー・アクストロン曹長は部隊を率い、ウェスターの進攻を阻止するための危険な作戦を決行する。それは西アイノス軍の防御が厚い谷を爆撃しながら強行突破し、最短距離で西アイノス市中心部へ進軍する作戦、「オペレーション・シットピット(糞溜め)」だった。
-第4話~オペレーション・シットピット~
東アイノス軍反乱軍討伐部隊の本隊が出撃していく中、ベッフィーはこれから決行する危険な任務について部下達に最終確認を行った。彼女に意見する者は誰もいなかった。それは部下が皆彼女についていけばなんとかなるだろうと考えていたからである。ベッフィーは人使いが荒かったものの周囲に人気があった。
シットピット隊に参加するのは一般兵を輸送するティルトローターのガル1、2、部隊を先導する攻撃機のホーク1、部隊を上空から援護するホーク2、3、飛行装置を装備しティルトローターを護衛するフライトパワードアーマー(人型強化装甲)のレイヴ1、2、上空から索敵する無人偵察機のオウル1、2、榴弾砲で後方から爆撃支援を担当する砲撃部隊等だ。
本作戦では速さが重要になるため、ヘリは採用されなかった。
オペレーション・シットピットが開始され、無人偵察機のオウル1、2、砲撃部隊が出撃した。しばらくして爆装した攻撃機のホーク1、2、3が出撃し、後からティルトローターのガル1、2、フライトパワードアーマーのレイヴ1、2が出撃する。尚ベッフィーはガル1に搭乗している。航空支援部隊は順にオウル1、2、ホーク2、3で上空を飛び、突入部隊は順にホーク1、レイヴ1、ガル1、2、レイヴ2で低空を飛んだ。
シットピット隊の先頭を飛行するオウル隊が谷に差し掛かった頃、オウル隊は谷に配置された西アイノス軍の対空兵器を確認した。偵察機から送られてくる情報を基に砲撃部隊が砲撃を開始し、敵の対空兵器を破壊した。西アイノス軍はシットピット隊の襲撃に反応し、応戦してきた。敵の戦闘機が数機向かってきたが、ホーク2、3でこれ等を撃墜した。西アイノス軍は反乱軍の急襲に対応しきれず、各部隊の連携がしっかり取れていなかった。
シットピット隊が谷の上空を飛行していると、谷から敵の攻撃を受けた。支援部隊はすぐに敵を爆撃し、突入部隊は作戦通り高度を落とし谷に沿って低空飛行を始めた。突入部隊が谷を飛行し、目の前の敵が味方の爆撃によって次々に破壊されていった。しかしその爆撃は時に真横をかすめ、更に敵の攻撃は激しさを増した。爆風や激しい機動により、ガル隊に搭乗していた多くの兵士達は作戦への参加を後悔した。機体のあまりの機動についていけず、ティルトローターのドアガンに就いていた兵士はまともに撃てずにいた。それを見たベッフィーは危険だと判断し、無茶な体制で自らドアガンを使用した。いくら搭乗していた兵士が全員安全帯を着用していたとはいえ、危なっかしい体制のベッフィーを見た部下達は必死に彼女の腰を掴み、皆で彼女を支えていた。
進路上の敵に対する爆撃は上手くいってはいたものの、作業が追いつかず突入部隊は敵の攻撃に晒されていた。先頭を飛ぶホーク1やレイヴ1は多く被弾していた。索敵を続けていたオウル2は撃墜され、オウル1も敵に狙われていた。残弾数が残り少ないホーク1とレイヴ1が煙を噴く中、谷の下から地対空ミサイルが飛んできた。ガル1に直撃すると計算したレイヴ1は加速し飛行装置から体をスウィングさせ、前方投影面積を増やした。フライトパワードアーマーの空戦能力はそれ程高くはないが、搭乗者の技量によってこの様な芸当を可能にする。前に出たレイヴ1はミサイルに衝突し爆散した。ベッフィーはドアガンでミサイルを撃った部隊を銃撃した。彼女は散っていくレイヴ1の残骸を見つめ、敬礼した。
ホーク1はエンジンから火を噴き始めたが、一足先に谷を抜ける事に成功した。しかしそこには敵の地上部隊が待ち構えていた。ホーク1は攻撃を浴びながら敵に向かい、機体から脱出した。火だるまになった機体は敵部隊に突っ込み炎上した。ホーク1は落下傘で下降していると敵が待ち構えているのが見えた。ホーク1が危険な状況にいると知ったベッフィーはホーク1を助けるべく、ガル1に無茶な指示を出した。指示を受けたガル1は驚きを隠せないでいた。
ホーク1は降下中銃を抜き、死を覚悟した。するとベッフィーから通信が入る。
「ホーク1、邪魔だ!そこをどけぇ!!」
ホーク1が後ろを振り向くと、片方のエンジンから火を噴きながらこちらに向かってくるガル1が見えた。ホーク1は慌てるも落下傘の軌道を急に変える事はできず、ガル1が真横を通り過ぎていった。ガル1は銃撃しながら敵の地上部隊に向かっていった。初めに応戦していた敵はガル1が進路を変えない事に気付き、慌ててその場から逃げ出した。ガル1は地面を抉りながら敵に突っ込んでいった。砂煙が大量に舞い、ガル1が停止すると同時にベッフィーが勢いよく機体から飛び出し敵の戦闘車両に飛び乗った。彼女が敵車両のハッチにライフルを構えると、中から手を上げた敵の隊長が出てきた。残りの突入部隊も到着し、ベッフィー達はその場にいた敵部隊を制圧した。一方ガル1に搭乗していたベッフィー以外の兵士は皆強行着陸の衝撃でぐったりしていた。
反乱軍の状況を知りたいベッフィーは確保した敵部隊の隊長に情報提供を求めた。しかし苛立っていた敵はそれを拒む。
「反乱軍?貴様等も同じだろ。我々の地を汚す野蛮人共め!」
「ほう・・・その様子だと反乱軍について何も知らないのだな。もしも我々が反乱軍であったなら今頃お前達は皆死んでいるぞ。彼等の目的は占領ではなく虐殺なのだからな。」
そう言いながらベッフィーは敵の隊長に銃を向けた。
「貴様等も大して変わらんだろう。こうして戦争を仕掛けてきているじゃないか。この下種共め。」
「散々問題を起こして争いを煽ったのはどこのどいつだ?・・・もういい、話すだけ無駄だな。自分の住む町が血に染まるのを黙って見ているがいい。」
ベッフィーは会話をやめ、現状の確認と物資の整理をシットピット隊に指示した。しばらくすると敵の隊長が重い口を開く。
「・・・数十分前敵の一部が都市の中心部に向かっているとの報告を受けた・・・恐らく目標は議事堂だろう・・・」
(間違いない、ウェスターだ。)
「ありがとう、協力に感謝する。」
敵の情報を聞き、ウェスターの居場所を確信したベッフィーはシットピット隊に指示を送る。
「シットピット隊はこれより市街地に入り議事堂を狙うであろうウェスター・ノーブロー元大尉の身柄を確保する。航空部隊は地上部隊の援護に回れ。以上。」
復習を果たそうとする反乱軍やウェラー、そしてウェスターを、ベッフィー達は止める事ができるのか。紛争の最終局面に向かい、ベッフィーは走り出していた。
-第4話~オペレーション・シットピット~ ~完~
血に染まる議事堂
最終決戦
後日談
次回-最終話~人の憎しみの果て~
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