-最終話-
反乱軍の進攻阻止と重要人物であるウェスターを追うベッフィー率いるシットピット隊は谷の激戦を突破し、西アイノス市に進入する事ができた。反乱軍の一部が都市中心部に向かっていると知ったベッフィーはその中にウェスターがいると確信し、彼が向かうであろう議事堂に部隊を連れて進軍した。
現れる敵を倒し、シットピット隊は議事堂に到着した。しかし議事堂は既に反乱軍によって包囲されていた。議事堂の守備に就いていた西アイノス軍の部隊は、ウェラーが所属する特殊部隊によって壊滅されていたのだ。反乱軍と戦闘に入り、シットピット隊は進軍できなくなった。しばらくすると西アイノス軍の増援が議事堂に到着し、三つ巴の激戦に発展した。身動きが取れない事態を打開しようと、ベッフィーは考えを巡らしていた。
-最終話~人の憎しみの果て~
議事堂前ではシットピット隊、反乱軍、西アイノス軍の戦闘が続き、膠着状態になった。このままでは時間が無駄になってしまうと危惧したベッフィーはイライラしていた。そんな彼女を見ていた部下達はベッフィーに先に行くよう進言した。彼女は初め部下達の提案を断っていたが、彼等の熱意に押され、考えを改めた。ベッフィーはその場の指揮権を副隊長に譲り、数名の兵士と共に議事堂へ向かう事にした。部下の合図と同時に、ベッフィーは数名の部下を連れて議事堂に向かって全力疾走する。彼等は爆風や銃撃の中をすり抜け、なんとか無事に議事堂の側面に到達した。ベッフィーと部下達はそのまま議事堂の設備から中に潜入した。
ベッフィーと部下達が静かに議事堂に侵入すると、至る所に死体が散乱していた。皆反乱軍の特殊部隊によるものだった。ベッフィー達が廊下を進んでいると、特殊部隊の兵士達を発見した。ベッフィーは一人目を冷静に始末すると特殊部隊と銃撃戦に入る。部下達との連携で敵を倒すと、部下の一人が生存者を発見した。その生存者から話を聞くと特殊部隊は西アイノス市市長を狙っているようで、その市長は講堂まで逃げたようだ。生存者を手当てしていると、銃声を聞きつけた特殊部隊の増援が発砲してきた。ベッフィーは部下達に敵の足止めを命じ、一人講堂に向かった。一方その頃、ウェスターとウェラーは西アイノス市市長を追いながら、軍人や一般人関係なく目に入る西アイノス市住民を皆殺しにしていた。敵の足止めを任されていたベッフィーの部下は数メートル先の特殊部隊の位置を確認し、レイヴ2に攻撃を要請した。議事堂の周りを飛んでいたフライトパワードアーマーのレイヴ2は要請を受け、指示された座標を攻撃し敵数名が吹き飛んだ。
ベッフィーは一人議事堂の廊下を進み、敵を倒しながら講堂へ向かっていた。講堂に近付くと、彼女は嫌な気配を感じ取った。柱に隠れた彼女は耳を澄まし、空のマガジンを気配がした方向へ投げ、再び耳を澄ました。敵は一瞬動き、その僅かな音をベッフィーは見逃さなかった。彼女は敵が隠れている柱を撃ち、敵も撃ち返してきた。ベッフィーは一瞬敵と目が合い、敵がウェラーだと気付いた。特殊部隊は軽装で身軽であり、ウェラーも機動力を活かしベッフィーを翻弄していた。状況が不利だと判断したベッフィーはウェラーを煽り始める。
「もう反乱なんかやめて仲良くしようぜ?暴れてバカ騒ぎして大人気ないよ。」
ウェラーはベッフィーとの距離を縮め、ベッフィーは何かを準備し始め尚も煽り続ける。
「てかさ、なんで顔を整形したんだよ・・・私は前の顔の方が好きだったなぁ~・・・」
そう言うとベッフィーは走り出した。ウェラーも飛び出しベッフィーを追おうとした瞬間、彼女の足にワイヤーが引っ掛かった。ワイヤーの先は手榴弾の安全ピンに繋がっていた。これはベッフィーが先程仕掛けたものである。手榴弾を目にしたウェラーは回避しようと咄嗟に体を捻ったが、彼女の目の前にベッフィーの膝が飛び込んできた。バランスを崩していたウェラーの腹に、ベッフィーは思いっきり膝蹴りをかまし、更にライフルのストックで背中を打った。床に倒れ込み意識が薄れていく中、ウェラーは仕掛けられた手榴弾がダミーである事に気付く。
「・・・くっ・・・ダミー・・・かよ・・・」
ベッフィーは意識を失ったウェラーの親指同士を縛り、講堂へと向かった。
ベッフィーとウェラーが戦闘に入っていた頃、ウェスターは講堂で西アイノス市市長を追い詰めた。市長は必死に命乞いをするが、ウェスターは銃を向け言う。
「恨むなら自分の生まれを恨むがいい・・・」
「私を殺せば大変な事になるぞ!どうなるのか本当に分かっているのか!?この劣等民ぞ・・・」
ウェスターは引き金を引き、市長は血を流してその場に倒れ込んだ。ベッフィーは講堂に駆け込んだが、間に合わなかった。ベッフィーはウェスターに銃を捨てるよう命じた。彼が銃をゆっくりと自身の頭に向けると、ベッフィーはウェスターの手を撃ち、銃が地面に落ちた。するとウェスターは不自然な挙動を見せ、いきなり血を吐いて倒れた。ウェスターは自身の体に自決用の劇薬を仕込み、サイボーグ脳で劇薬の入った装置を作動させていた。ベッフィーは駆け寄り、血を吐き出す彼を抱き抱えた。意識が朦朧とする中、ウェスターは自身に付いた市長の返り血と自分の血を見比べて、口を開く。
「・・・ベッフィー・・・おかしいな・・・僕の血、彼等と変わらない、じゃないか・・・もっと、どす黒いかと思ってた・・・何も変わらない・・・何も変わらないのに・・・じゃなんで、こんな・・・なん・・・で・・・」
ウェスターの鼓動は止まり、ベッフィーはゆっくりと彼の瞼を下ろした。こうしてウェスターの復讐は、静かに幕を閉じた。
東アイノス軍が反乱軍に追い付くと反乱軍は東アイノス軍と西アイノス軍に挟まれる形になり、初めは勢いがあった反乱軍は劣勢になっていった。特に北西辺りの戦闘では近くにいたパワードアーマー乗り等の賞金稼ぎ達の介入により、反乱軍は進軍できなくなっていた。
孤立し身動きが取れなくなった反乱軍の大半は首元に巻いていた手榴弾のピンを抜き、次々に自決していった。反乱軍の生存者は自力で自決できなかった極僅かだった。反乱軍の全滅が確認されると東アイノス軍は一方的に休戦に持ち込み、西アイノス市より撤退した。
東と西アイノス市の関係は悪化し、一触即発の状態が続いた。今回の事件を知り、両都市に解決能力がないと判断したウキン国政府は東と西アイノス市の直接統治に踏み切った。この処置により、両都市による大きな衝突は回避された。
捕らえられた極僅かの反乱軍兵士達の死刑執行が決まり、ウェラーも地下室で薬品を注射された。彼女は苦しむ事なく意識を失った。ところが数日後、彼女は病室で目を覚ました。状況を理解できない彼女の側に、ベッフィーが立っていた。
「なぜ私はまだ生きているんだ?」
問い掛ける女にベッフィーが答える。
「君がウェラーじゃないからな。」
「何を言っている!?私はウェ・・・」
「いいや。ウェラーという女はもう死んだよ・・・信じられないなら鏡を見るといい。」
ベッフィーにそう言われ、女はゆっくりと鏡の前に立った。そこに映っていたのは、整形する前の自分の顔だった。ウェラーに改名する前、自分がまだヴィオス・ニュージュリーだった頃の顔だ。彼女は薬品で眠らされた後、整形手術されたのだ。ベッフィーは帰還後軍上層部に掛け合い、彼女の死刑を取り下げるよう求めた。反乱軍との戦闘で英雄になったベッフィーの要求は極秘裏に認められる形となった。ウェラー元少尉は書類上、死亡となっている。
「なぜだ・・・」
「ウェラーもウェスターも死んだ・・・もう全部終わったんだ、終わったんだよ、ヴィオス。」
ベッフィーがヴィオスに微笑むと、ヴィオスは床に崩れて泣いていた。
ベッフィーはその後、軍を除隊し東西境界警備隊に復帰し、彼女にまた新しい部下ができた。それはヴィオスだった。ヴィオスは決意を固め、ベッフィーと共に新たな道を歩む事に決めた。
もう二度と、同じ過ちを繰り返さないために・・・
-最終話~人の憎しみの果て~ ~完~
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